【判旨】
「イ号製法」について立証責任を負わない被告が反証した「ロ号製法」について矛盾等がある場合には、「イ号製法」の立証を補強してしまうこともありえる。 
【キーワード】
製造方法、イ号方法、ロ号方法、主張立証責任、補強、信用


【事案の概要】
mizota.JPG
Xは、特許第3027578号(発明の名称「履物底部とその製造方法」)にかかる特許権者であった。
他方、Yは、Aをしてサンダル及びつっかけ(以下「Y製品」という)を製造させ、これを日本国内に輸入し、販売していた。
Xは、Yに対して、Y製品についてその製造方法は本件特許権の技術的範囲に属するからYの各行為はXの特許権を侵害するとして、差止及び損害賠償を請求した。
Yは、本件訴訟において、Aの製造する方法は、Xの主張する製造方法(イ号方法)とは異なるロ号方法であるから、本件特許権の技術的範囲に属さないと主張した。
【争点】
製法特許による侵害訴訟におけるイ号方法の主張立証について
【判旨抜粋】
物の製造方法に係る特許についての特許権侵害が主張されている本件においては、侵害していると主張される製造方法について主張立証責任を負うのは、特許権者である原告であってYではないが、Yが積極的に明らかにして立証したY製品の製造方法が矛盾に満ちていたり、不自然不合理であったりするため信用できないような場合には、そのことが翻って原告主張の製造方法の立証を補強することになる場合もあり得るところである。
・・・Y製品の直接の製造者ではないYとしては、Y製品の製造方法がイ号方法ではないことを明らかにするため、積極的にこれと異なるロ号方法である旨の主張立証は尽くしており、またその補強として、ロ号方法によってY製品同様の製品が製造されることの立証も尽くしているということができる。
・・・これに対して、原告は、再現製品とY製品とで底部外周部に現れた突条の太さに違いを生じていることから、Y製品底部はロ号方法によって製造されたものではないとして、Yの上記関係証拠の信用性を争っている。
・・・以上のとおり、Y製品の製造方法が、イ号方法であることを推認させる事実は認められないではないが、他方で、Yによって、それと異なるY製品底部の製造方法であるロ号方法が積極的に開示され立証されており、その立証の信用性を疑わせるものはないのであるから、他に、Y製品底部がイ号方法で製造されたことを認めさせるに足りる証拠がない以上、本件においては、被告製品底部が原告主張にかかるイ号方法で製造されたと認めることはできないというほかなく、むしろその製造方法はロ号方法であると認めるのが相当である。
【解説】
特許権侵害訴訟においては、原告は、
 (1)原告が特許権を有していること、
 (2)(1)の特許発明の技術的範囲、
 (3)被告が業として(2)の技術的範囲に属する方法を実施している
という事実を主張立証する必要がある。ここで、「立証」とは、裁判官に事実についての確信を抱かせることである。
これに対して、被告は、上記(1)ないし(3)の事実について、「反証」すればよく、反対事実の「立証」をする必要はない。「反証」とは、事実について真偽不明の状態をもたらすことをいう。
つまり、原告は上記(1)ないし(3)の事実について裁判官に確信を抱かせる必要があり、被告は(1)から(3)について裁判官が確信を抱かない真偽不明の状態にすれば足りる。
本件では、これとは異なり、Yは、ロ号方法について主張立証している。前述の通り、訴訟法的にはYは前記(3)について反対事実を主張立証する必要はないのだが、実務上は反対事実を積極的に主張立証するということは一般的である。
しかし、本件では「Yが積極的に明らかにして立証したY製品の製造方法が矛盾に満ちていたり、不自然不合理であったりするため信用できないような場合には、そのことが翻って原告主張の製造方法の立証を補強することになる場合もあり得るところである。」と判示しており、積極的に主張立証する場合であっても、矛盾や不自然さがないかを事前に確認しなければ逆に原告に有利になることもありえるため、諸刃の剣といえよう。製造方法は、裁判所も確かめようがない場合が多いのでかかる判示に至ったと思われるが、注意が必要である。
生産方法の特許権侵害訴訟の被告代理人となった場合には、被告とのコミュニケーションが重要である。例えば製造現場の工程の確認、設計図の確認及び実証実験等を実施するべきであると考える。ただし、製造現場という被告にとってはノウハウの凝縮された場でもあるので、本裁判例のような判断がなされることを十分に説明し、納得してもらった上で実施する必要があろう。

以上

2011.7.4 (文責)弁護士 溝田宗司