平成26年3月27日判決(知財高裁 平成25年(ネ)第10026号、第10049号)
【ポイント】
侵害しない態様で使用される可能性があることを理由としては差止めを認めるのが不当とはいえず、差止めが認められた事例
【キーワード】差止め、差止めの要件、過剰差止め


【事案の概要】
(1) 原審における請求等
 控訴人は被控訴人に対して,イ号製品及びロ号製品を製造,販売等をする行為が,控訴人の有する本件特許権を直接侵害又は間接侵害すると主張して,本件特許権(①ないし③について)及び不法行為(④について)に基づいて,
① イ号製品の生産,譲渡,輸出,輸入又は譲渡の申出の差止め
② ロ号製品の生産,譲渡,輸入又は譲渡の申出の差止め
③ イ号製品及びロ号製品並びにこれらの半製品の廃棄
④ 損害賠償金2億2000万円及び遅延損害金の支払
を請求。
 原審は,控訴人の請求のうち,イ号製品の生産,譲渡等の差止め,ロ号製品の一部の生産,譲渡等の差止め,イ号製品の廃棄並びに損害賠償金及び遅延損害金の支払の請求を認容。
 これに対し,控訴人は,損害賠償請求のうち,原判決で認容された分を含めて損害賠償金1億1000万円及び遅延損害金の支払を求めて,控訴を提起。被控訴人は,原判決のうち被控訴人敗訴部分の取消し及び控訴人の請求の棄却を求めて,附帯控訴を提起。
【争点】
差止め及び廃棄請求の成否。

【結論】
差止め及び廃棄請求を認める。

【判旨抜粋】
控訴審において是認された原審判示は以下の通り。
「7-2 争点7-2(差止め及び廃棄請求の成否)について
(1) 差止請求の成否
ア イ号製品に係る請求
 被告は,イ号製品について,大半が単一材料の微粉除去に使用されており,これらは本件特許権を侵害するものではなく,当該用途に使用されるものについてまで差止めを認めるのは著しく過剰であり,不当である旨主張する。
 しかしながら,前記3-1・2のとおり,イ号製品は,本件各特許発明による課題の解決に不可欠なものに当たり,これを製造販売等する行為には,特許法101条2号,5号の間接侵害が成立する。そして,顧客が,被告からロ号製品を購入した後,イ号製品にオートセレクター等を接続するなどして,本件特許発明1に係る方法の使用に又は本件特許発明2に係る装置として用いることが可能であることは被告も争っていない。そもそも,被告代表者作成の論文(甲65)には,「ほとんどの成型加工メーカーが成形機サイド,あるいはコンベアの端に各種の粉砕機を設置し,スプル・ランナあるいは成形不良品を粉砕し,再生原料化している。」旨の記載がある。
 これらのことからすれば,イ号製品については,その用途にかかわらず,製造販売等の差止めの必要性があるものと認めるのが相当であり,これを認めることが被告に過剰な負担を課すものであるとは認めることができない(販売先の利用態様に応じて限定することは現実的にも不可能であるし,その必要があるとも認めがたい。)。
 なお,前記3-1・2のとおり,原告は,イ号製品の輸入の差止めも求めているところ,被告がイ号製品を輸入していることを認めるに足りる証拠はない。また,輸出について特許法101条2号及び5号の間接侵害は成立しない。」
 以下は、控訴審で追加された判示。
 「また,被控訴人は,イ号製品については販売を終了し,在庫はなく,既に設計変更を行っているので,差止めの必要はないと主張する。しかし,被控訴人はこれまでイ号製品の製造,販売等を行っていた経緯に照らすならば,今後,イ号製品の製造,販売等を行う可能性がないとはいえず,イ号製品に関する差止請求を認めるのが相当である。」
 以下は、控訴審で是認された原審の判示。
 「したがって,本件請求のうち,輸出入の差止めを求める部分を除き,イ号製品の製造,販売等の差止めを求める部分には理由がある。」

「(2)廃棄請求の成否について
ア イ号製品については,被告も在庫を有することを認めており,その廃棄を求める請求には理由がある。
イ 被告は,ロ号製品を構成するイ号製品及び材料供給装置は,それぞれ別個の製品として製造されており,各装置は顧客の工場内において接続されて使用されるものであるから,ロ号製品の在庫を有しない旨主張する。
 他に,被告がロ号製品の在庫を有することを認めるに足りる主張立証はないから,ロ号製品の廃棄を求める請求には理由がない。
ウ これ以上に,本件において半製品の廃棄請求を認めるまでの必要性があるとは認めるに足りない。」

【解説】
 差止請求は、「おそれ」でも認められるもので、侵害の蓋然性があれば、設計変更や稼働停止が明らかな場合を除けば認められる傾向がある。本件でも、在庫が無く、設計変更を行ったため差止めへは不要であるとの被控訴人主張を排斥した。
 また、被控訴人は、本件特許権を侵害しない他の用途に大半が用いられることを理由に、差止めは過剰であると主張したが、裁判所は、当該他の用途の有無にかかわらず、差止めの必要性を肯定し、差止め及び廃棄請求を認めた。当該差止めの必要性を肯定した根拠として、侵害製品が本件特許発明の課題の解決に不可欠なものであること、当該特許発明の方法の使用に用いることができることだけでなく、上記被告側主張と整合しない(判示では明確に整合しないものと述べられてはいないが、そのような趣旨と思われる。)被告認識(被告代表者論文)を挙げている。

(文責)弁護士・弁理士 和田祐造