【平成24年12月6日(大阪地裁平成24年(ワ)第1920号)】

【キーワード】
不正競争防止法2条1項3号,商品形態,帽子,変形,製造委託契約,模倣,不正競争防止法19条1項5号イ,3年,

第1 事案の概要
 原告が,被告に対し,下記原告商品の製造委託契約が終了した後に原告商品の形態を流用した下記被告商品を製造販売した行為について,同契約の債務不履行又は信義則上の義務違反に当たるとして,損害賠償を請求した事案である。


原告商品の6面写真


被告商品の6面写真
最高裁判所HPより引用

第2 判旨(下線は筆者による)
1 本件契約等に基づく債務の有無
 「本件契約の締結に際し,被告が原告商品のデザインを流用した商品を製造,販売してはならない旨合意したことを認めるに足りる証拠はない。」
 「不正競争防止法2条1項3号は,他人の商品形態を模倣した商品の譲渡行為等について,当該他人の商品が最初に販売された日から3年間に限って不正競争に当たるとしたものである。その趣旨は,同法1条の事業者間の公正な競争等を確保するという目的に鑑み,開発に時間も費用もかけず,先行投資した他人の商品形態を模倣した商品を製造販売し,投資に伴う危険負担を回避して市場に参入しようとすることは公正とはいえないから,そのような行為を不正競争として禁ずることにしたものと解される。
 したがって,同号によれば,最初に販売された日から3年間を経過した商品の形態を模倣する行為は,不正競争に当たらないし,そのことのみをもって不法行為が成立することもないと解される。他人の商品の製造を委託された者が,当該商品について最初に販売された日から3年間を経過した後に,当該商品の形態を模倣した商品を製造等した場合も同様であり,そのことのみをもって不法行為が成立することはない。そうである以上,当該製造業者が委託者に帰属するべき営業秘密を示されていたような特段の事情のない限り,上記委託契約の関係にあるというだけで,上記行為が当該委託に係る契約の債務不履行又は信義則上の義務違反に当たるということもない。」

2 被告の行為の評価
⑴ 不正競争防止法2条1項3号の不適用
   「前提事実のとおり,被告商品が製造,販売された時点において,原告商品が最初に販売された日から3年間が経過していたことが認められる。
   したがって,第三者が原告商品の形態を模倣した商品を製造,販売したとしても,当該行為について不正競争防止法2条1項3号の不正競争には当たらないし,そのことのみをもって不法行為が成立することもない(そうであるからこそ,原告は,本件で,被告商品の製造を委託したムーンバット株式会社に対する請求をしていないと解される。)。」
⑵ 特段の事由の存否
   「そこで上記特段の事情の有無について検討すると,原告は,被告が原告商品の型紙を流用して被告商品を製造した旨主張しており,これは,前記特段の事情(前記(1)イ)を主張するものと解することができる。
   しかしながら,そもそも,型紙を流用しなければ,原告商品と同一形態の帽子を製造することができないとする主張立証はない。かえって,原告代表者作成の報告書(甲3)によれば,被告商品の上に生地を重ね,パーツごとに縫い代を除いたサイズの生地を作成し,当該生地を紙に写して縫い代を除いた型紙を作成し,被告商品の縫い代を除いた型紙をほぼ正確に再現したところ,原告商品の型紙とほぼ同一であったというのである。このことから明らかなとおり,原告商品の型紙を流用などしなくとも,原告商品の縫製を解けば型紙を再現することができることなどからすれば,原告商品と同じ形状の製品を製作することについて特段の困難はないことが窺われる。そして,第三者が上記のような方法を用いて原告商品の型紙を再現し,原告商品の形態と実質的に同一の商品を製作したとしても,そのこと自体は不正競争等には当たらないのである。
   このように,第三者が原告商品の型紙を再現することが容易であり,それを利用すること自体も違法ではないこととの均衡を考慮すると,仮に被告が原告商品の型紙を流用したとしても,そのことをもって上記特段の事情に当たるとはいいがたい。」

3 原告商品と被告商品の形態
  「なお,原告商品と被告商品が共通の特徴(前記第3の1【原告の主張】(1)イ)を有していることは当事者間に争いがない。
  しかし,その一方で,つばの有無(原告商品にはつばがなく,被告商品にはつばがある。),生地の素材,色(柄)が異なることについても,当事者間に争いがない。しかも,甲3によると,原告商品は,着用者が自由に形状を変形できるため,本来の形状というものを特定することが困難である。別紙原告商品写真と別紙被告商品写真の形状を比較すると,その外部の形状は類似しているといえるが,これは,被告商品のつばの部分が隠れるようにした上,類似する形状に整え,撮影したものであることが認められる。仮に,原告商品と被告商品の生地を折らずに伸ばしきった場合,つばの有無という相違点が目立つことを容易に認めることができ,生地や柄の違いも併せ考えると,被告商品は,原告商品のデッドコピーということはできない。
  むしろ,原告商品は,2つのワイヤーを用いることで,自由に形状を変形できることに大きな特徴を有しているということができるが,この点についても,前記イと同様の理由により,営業秘密ということはできない。」

第3 若干のコメント
 本判決は,製造委託契約が終了した後の受託者による商品形態模倣行為の法的責任についての判断を示しているが,かかる判断内で示された,自由に変形できる商品における「商品形態」の認定方法に注目したい。
 すなわち,本件の原告商品のように,ワイヤー等で自由に変形できる「本来の形状というものを特定することが困難」な商品については,いかなる形態を「商品形態」として特定するかが実務上問題となる。
 この点,原告は,原告商品と被告商品の形態を最も似せた状態に整えた対比写真等の証拠を提出するものと予想されるが,裁判所は,本判決のように,相違点を目立たせないようにして撮影した写真のみを判断基礎とせず,異なる形態に変形した状態も想定したうえで実質的同一性を判断する可能性がある。このことは,原告において「商品形態」を特定するに際し留意する必要がある。これに対し,被告としては,そのような裁判所の判断を促すために,相違点を目立たせる形態に整えた対比写真等の証拠を提出していくことが有益といえるだろう。

(文責)弁護士 山本 真祐子