【平成19年7月17日(東京地裁 平成18年(ワ)第3772号)】

【キーワード】
 不正競争防止法2条1項3号,形態模倣,模倣品,実質的同一性,衣料品,衣服,被服,アパレル,blondy,ブロンディ,Apuweiser-riche,アプワイザーリッシェ


第1 事案の概要

 株式会社イーダム(以下「原告」という。)が,株式会社アルページュ(以下「被告」という。)に対し,被告が,原告が製造・販売した4点の衣服の形態を模倣した衣服を製造又は輸入して販売したことは,不正競争防止法2条1項3号所定の不正競争行為に該当するとして,上記目録記載の衣服の製造,販売,販売のための展示又は輸入の差止め,同衣服の廃棄,損害賠償及び謝罪広告を求めた事案である。
 本稿では,「模倣」(不正競争防止法2条1項3号)における実質的同一性の判断部分についてのみ検討する。

第2 判旨(下線は筆者による)

1 原告商品1と被告商品Aの実質的同一性について

 

(画像:最高裁判所HPから引用)

 「原告商品1の形態において特徴的な点は,丸首,襟なし,前あきボタン留めの長袖カーディガンで,前身頃と後身頃の下端部約16ないし17センチメートルを覆い,胴回りを一周するように,幅約16ないし17センチメートルの幅広のレースAが付されている点にあり,被告商品Aも同様の特徴を有するものであると認められる。そして,長袖カーディガンの胴回り下部に幅広のレースBを付するとの上記特徴は,後記b)及びウb)に説示するとおり,これまでの他の商品にみられるありふれたものではなく,創作的なデザインであるということができる。
 もっとも,両商品には,①原告商品1のほうがややゆったりしていること,②レースの突出幅が異なること,③使用されている糸の染めが異なること,④袖口のリブ編みの有無,⑤ボタンのカットの有無などの相違点もある。しかし,原告商品1の上記特徴が他の商品にみられるありふれたものではない,創作的なものであることからすれば,上記①,③,④及び⑤は,いずれも上記の原告商品1の特徴的な点とは関わりがなく,需要者に異なる印象を与えるものということはできない。また,②の突出幅の違いは,上記特徴に関するものであるものの,レースが裾から下へ突出している部分が,約3センチメートルであるか,約1.5センチメートルであるかの僅かの差異にすぎず,両製品の形態の同一性の判断に影響を与えるものではない。
 以上によると,原告商品1と被告商品Aの形態は,実質的に同一ということができる。」
「被告は,定番の商品形態であるカーディガンの裾の部分に一周する形でレースを装飾するのはありふれたものであると主張する。
 しかし,被告がその主張の根拠として提出する乙22ないし24に掲載されたカーディガンは,いずれもその販売時期が不明であるから,原告商品1の販売開始時期に,カーディガンの胴回り下部の部分を一周するように幅広のレースを装飾した商品が販売されていたことを認めるに足りる証拠はない。」

2 原告商品2と被告商品Bの実質的同一性について

(画像:最高裁判所HPから引用)

  「原告商品2の形態において特徴的な点は,袖なし,襟なしの白色のシャツで,V字状に開いた襟刳り部分にレースBを付した点にあり,被告商品Bも同様の特徴を有するものであると認められる。
 もっとも,両商品には,①原告商品2のほうが全体に長くゆったりしていること,②原告商品2は寸胴型であるのに被告商品Bはウエスト部分が細くなっていることなどの相違点もある。これらの相違点は,全体的なシルエットの違いに影響するものではある。しかし,仮に,白色のノースリーブの襟刳りにレースを付するとの上記特徴部分がありふれたものではなく,創作的なデザインであるとすれば,その特徴的な点が共通することによって,若干のシルエットの違いは,その同一性の判断に実質的な影響を与えるものではないということができ,また,逆に,上記特徴部分がありふれたものであるとすれば,上記相違点が同一性の判断に実質的な影響を与えることになる。そこで,次に,上記特徴部分がありふれたものであるか,創作的なデザインであるかを検討する。」
 「被告が原告商品2の展示会出品の1年以上前に,白色のノースリーブのタンクトップのV字型の襟刳りに白色のレースを付すという原告商品2及び被告商品Bと同様の特徴を有する被告先行商品を製造,販売していたことからすれば,原告商品2における前記特徴(ノースリーブのシャツの襟刳りにレースを付するとの特徴)が原告商品2について独創的なものであったとまでいうことはできない。しかし,本件全証拠によっても,原告商品2における上記特徴が女性用被服においてありふれたものであることまで認めるに足りる証拠もない。したがって,原告商品2と被告商品Bの形態の同一性については,上記相違点も考慮して判断すべきであるとしても,白色のノースリーブのシャツの襟刳りにレースを施したとの特徴部分の共通性からすれば,両者の実質的同一性は肯定し得るところである。」

3 原告商品3と被告商品Cの実質的同一性について

(画像:最高裁判所HPから引用)

「原告商品3の形態において特徴的な点は,長袖,前あき金属ファスナー止めのフード付きパーカーで,裾及び袖口の内側から突出するようにレース編み布地が付されていること,左胸部に黒色のワンポイント飾りがあること,生地は灰色,フードを止めるリボン,レース及びワンポイント飾りは黒であることにあり,被告商品Cも同様の特徴を有するものであると認められる。そして,長袖,前あき金属ファスナー止めのフード付きパーカーで,裾及び袖口の内側から突出するようにレース編み布地が付されていること,左胸部に黒色のワンポイント飾りがあること等の上記特徴は,後記b)に説示するとおり,これまでの他の商品にみられるありふれたものではなく,創作的なデザインである。
 もっとも,両商品には,①原告商品3のほうが身幅が広めで丈が短い,②裾レースの突出幅が被告商品Cのほうが約1.8センチメートル長い,③被告商品Cのレース及びワンポイント飾りは取り外しができる,④ファスナーの色と装飾の有無などの相違点もある。しかし,③は,機能を付加したものであって商品の形態においての相違点とは言い難い。また,原告商品3の上記特徴が他の製品にはみられない,創作的なものであることからすれば,①及び②は,全体的なシルエットの違いに影響するものの,上記の特徴的な点が共通することに鑑みれば,若干のシルエットの違いは同一性の判断に影響を与えるものではない。さらに,上記④の違いも,生地の灰色とレース等の黒色のコントラストが需要者に与える印象の強さと比較すれば,需要者に与える印象にさして影響を与えない些細な相違にすぎない。
 以上によると,原告商品3と被告商品Cの形態は,実質的に同一ということができる。」
「これに対し,被告は,灰色のフードパーカーの裾等にレースを施す商品形態は,ありふれた形態であるなどと主張する。
 しかし,被告の主張の根拠として提出された乙38ないし43,検乙1ないし5は,その販売時期が不明であるから,被告の主張の裏付けとなるものではなく,原告商品3の販売開始時期に,灰色のフードパーカーの裾等にレースを施した商品が販売されていたことを認めるに足りる証拠はない。

4 原告商品4と被告商品Dの実質的同一性について

 

(画像:最高裁判所HPから引用)

「原告商品4の形態において特徴的な点は,①襟なしの丸首,前あきボタン留めの長袖カーディガンで,②前身頃及び後身頃の下の部分(左右脇腹部から背部)にかけて帯状に透かしレース部分があり,また,背面上部及び両袖の前腕部にも透かしレース部分があることである。
 これに対し,被告商品Dも①の基本形状は同一ではあり,また,身頃下の部分及び両袖に透かしレース部分もあるものの,背面上部には透かしレース部分はなく,また,その関係で,後身頃下のレース部分が原告商品4よりもやや上にあり,後身頃における生地と透かしレース部分とのバランスが異なるものとなっている。このように,被告商品Dは,原告商品の特徴的な部分である,背面部における透かしレース部分の配置と生地とのバランスに相違点があるため,原告商品4とは,その背面部の印象が実質的に異なるものとなっている。また,原告商品4はグレーの地に白色のレースが施されており,地とレースの色のコントラストがさほど強くないのに比べ,被告商品Dは,ピーコック地に白色レースが施されており,地とレースの色のコントラストが強くさらに,原告商品4においてはウエスト部分がゆったりと太めになっており袖は比較的長いのに対し,被告商品Dにおいてはウエスト部分がやや細身で袖が比較的短いこともあって,両商品の全体的な印象ないし美感が実質的に異なるものとなっている。以上の相違点は,原告商品4の特徴的形態部分における看過し得ない相違点を含むものであり,両商品の形態の同一性に大きな影響を与えるものである。
 したがって,被告商品Dは,原告商品4とその特徴的形態において実質的な相違点を有しており,原告商品4と実質的に同一であると認めることはできない。」
 「以上によれば,被告商品Dは,原告商品4の形態を模倣したものと認めることはできず,被告商品Dの製造・輸入・販売等は,不正競争防止法2条1項3号の不正競争行為に該当しないと認められる。」

第3 若干のコメント

 本件は,不正競争防止法2条1項3号にかかる実質的同一性の判断において,(特に原告商品Cと被告商品Cについて)比較的緩やかに実質的同一性を認めた事案であり,その判断方法に特徴がある。すなわち,原告製品と被告製品の共通点が,原告製品の「創作的なデザイン」である場合には,相違点の存在を重視せず比較的緩やかに実質的同一性を認めるという点で特徴的である。 かかる判断手法による場合,ある程度商品形態に相違がある場合であっても,不正競争防止法2条1項3号を活用できる可能性があるといえよう
 他方,被告としては,原告製品との共通部分が(「創作的なデザイン」ではなく)「ありふれたもの」であると主張する際の立証に力を入れる必要がある。本件においても,原告製品の特徴的部分と同様の特徴を有する商品(以下「同種商品」という。)の存在をもってかかる立証がなされている。しかしながら,同種商品の販売時期が明らかではない点や,販売時期が明らかであったとしても提出証拠からは原告商品の特徴的部分がありふれたものであるとまではいえない等の理由をもって,「創作的なデザイン」であることが否定されきっていない。かかる判断からは,同種商品の販売時期に関する立証の厳密さ,及び証拠の数(数が多ければ多いほど,ありふれた形態ということができる。)が重要なポイントになることが確認できるといえよう。

以上
(文責)弁護士 山本 真祐子

なお,結論としては,依拠性が認められないとして「模倣」該当性が否定されている。
本件の控訴審判決である知財高裁平成20年1月17日(平19(ネ)10063号・平19(ネ)10064号)は,当該コントラストの強弱は考慮しなくとも,「レースの施し方の顕著な違いなど」から両商品の実質的同一性を否定できる旨判断している。
この点については,蘭々「商品形態の実質的同一性判断における評価基準の構築-近時の裁判例を素材として-」(知的財産法政策学研究vol.45)において以下のとおり指摘されている。
 「原被告商品に共通する形態的特徴が創作的なデザインである場合に,同判決が両商品の相違点をほとんど重視することなく3号の保護を認めているのは,他の商品に比べて消費者に強い訴求力をもつ原告衣服の形態的特徴が被告衣服にそのまま取り込まれている以上,これを放置する場合には被告は商品開発に伴う費用・労力・リスク等の負担回避が可能となり,原告の市場先行利益が害されるおそれが高くなると判断しているからであろう。
 衣服関連商品については、ライフサイクルが短く流行にも左右されやすいうえ、シルエットがある程度パターン化されており、創作性を発揮できる空間が狭いという性質がある。同判決の判断構造は、このような衣料品の性質に照らし、衣服の形態的特徴の創作的価値に応じて3号の保護範囲を柔軟に調整しようとする手法であると評価することができる。」
本件の控訴審判決である知財高裁平成20年1月17日(平19(ネ)10063号・平19(ネ)10064号)は,「創作的なデザイン」という文言は用いていないものの,本判決と同様の判断をして控訴を棄却している。