【平成22年11月18日[子供用いす](東京地判 平成21年(ワ)第1193号 裁判所ウェブサイト】

【ポイント】
原告が不正競争2号1項1号に基づいて被告の当該商品について差止請求、損害賠償請求がなされことについて、原告の請求が肯定された事例
【キーワード】
商品形態、不正競争防止法2条1項1号、形態模倣、類似性、特定商品等表示性、混同


【事案の概要】
本件は、被告が、被告製品を製造、販売する行為につき、原告らの周知な商品等表示である原告製品の形態を使用する不正競争行為に該当するとして、原告らが被告に対し、不正競争防止法2条1項1号、3条1項、2項に基づき被告製品1の製造、販売等の差止め及び廃棄並びに同法4条に基づく損害賠償又は民法703条に基づく不当利得の返還を求めた事案である。(他に著作権に基づく請求もあり。)

【争点】
1 原告製品の形態が不競法2条1項1号の周知な「商品等表示」に該当するか。
2 原告製品の形態と被告製品の形態が類似するか。
3 混同のおそれの有無。

【結論】
1 原告製品の形態が不競法2条1項1号の周知な「商品等表示」に該当する。
2 原告製品の形態と被告製品の形態が類似する。
3 混同のおそれを有する。

【判旨抜粋】
1 原告製品の形態が不競法2条1項1号の周知な「商品等表示」に該当するか。
「 ア 原告製品の形態の周知性について
原告製品の形態は、上記(1)アのとおりであり、4本の脚から構成される一般的な子供用のいす(甲12、27参照)と比べると、特徴的な形態を有するといえる。
そして、上記(1)ウのとおり、原告製品は、遅くとも昭和52年から日本で販売されるようになり、その販売数量は、年々増加し、平成4年度には年間販売数量が1万脚を突破し、平成8年度以降は年間2万脚以上、平成13年度以降は年間3万脚以上販売され、平成17年度には年間約4万脚販売された。
そして、上記(1)エのとおり、原告製品についての広告は、遅くとも昭和54年2月には新聞に掲載され、平成元年以降は、ほぼ毎年、様々な種類の雑誌に、原告製品の紹介記事や、原告製品の宣伝広告記事等が掲載された。平成元年4月発行の雑誌には原告ストッケ社のいすとして原告製品が紹介され、平成2年5月発行の雑誌に掲載された原告製品の宣伝広告記事には原告ストッケ社の表示がある(甲21)。平成13年7月発行の雑誌に掲載された原告製品を紹介する宣伝広告記事にも原告ストッケ社の表示がされており(甲29)、平成15年発行の雑誌では原告ストッケ社を紹介する記事の中で原告製品が紹介され、さらに、平成16年以降発行の雑誌に掲載された原告製品を紹介する宣伝広告記事には、原告ストッケ社の表示がされている(甲32、38、39、41)。また、昭和62年ころ松屋が作成した原告製品のパンフレットには、原告ストッケ社の表示があり、スキャンデックスが平成15年ころに作成した原告製品のパンフレットにも原告ストッケ社の表示がある。
イ 上記アの事実を総合すれば、原告製品の形態は、遅くとも、旧アップリカ社が被告製品2の販売を開始した平成17年10月31日までには、原告ストッケ社の商品等表示として周知なものになっていたということができる。
なお、原告らは、原告製品の形態が原告ら、すなわち、原告オプスヴィック社及び原告ストッケ社の商品等表示であると主張する。しかしながら、原告製品が原告オプスヴィック社の商品であると紹介している雑誌の記事や広告が存在したことや、原告製品のパンフレットに原告オプスヴィック社の表示があったことを示す証拠はなく、原告製品が原告オプスヴィック社の商品として製造、販売されていたとも、需要者が原告製品を原告オプスヴィック社の商品であると認識していたとも認めることはできないから、原告製品の形態を原告オプスヴィック社の商品等表示であるということはできない。」

2 原告製品の形態と被告製品の形態が類似するか。
「ア 原告製品の形態は、前記(1)アのとおりであり、被告製品の形態は、前記(1)イのとおりである。
両製品の形態は、〈1〉 側面部分が側面板と脚板とから構成されており、脚板は地面と並行に配置され、脚板の先端と側面板の下端が接続されて、側面から見た場合、側面板と脚板とで略L字型の形状を形成しており、側面板と脚板との角度は約66度(原告製品)ないし約65度(被告製品)であり、側面板と脚板とから構成される側面部分は二組あり、いずれも地面に対して垂直に配置され、また、二組の上記側面部分は平行に配置されている点、〈2〉 側面板には地面と平行(原告製品)ないしほぼ平行(被告製品)に14本(原告製品)ないし13本(被告製品)の溝が形成されており、1枚ずつある座板と足のせ板は、この溝に挿入され配置されている点、〈3〉 側面板の下部及び中央部に1本ずつ金属の棒が配置されている点、〈4〉 側面板の上部に2枚の曲線状の背板が配置されている点において、ほぼ共通しており、これらの共通点を総合すると、両製品の形態は類似するというべきである。
両製品は、脚板の先端と側面板の下端とが、原告製品においては同一平面で接続され、脚板の前方先端部は鋭角となっているのに対し、被告製品においては脚板の先端と側面板の下端とがジョイントによって立体的に接続され、脚板の前方先端部が丸みを帯びた形状となっている点や、脚板に配置された1枚の横木の位置が、原告製品においては脚板の中央部であるのに対し、被告製品においては脚板の後部である点において差異を有するものの、上記差異点は、上記共通点を凌駕するものとはいえず、両製品の形態が類似するとの上記判断を左右するものとはいえない(被告は、このほかにも、両製品の形状や寸法の差異を指摘するものの、いずれも、ささいな差異にとどまり、上記類似の判断を左右するものではない。)。」

3 混同のおそれの有無。
「 ア 上記(3)のとおり、原告製品の形態と被告製品の形態は類似している。また、原告製品も被告製品も子供用のいすであり、両製品の主な需要者はいずれも小さな子供を持つ親たちであって共通している。さらに、原告製品の定価は、2万8350円(消費税込み。甲1)であり、他方、被告製品の定価は、2万6040円(消費税込み。甲51)であって、両製品の価格帯もほぼ同じである。
以上の事実によれば、被告製品に接した需要者において、被告製品が、原告ストッケ社の商品である、あるいは、原告ストッケ社の関係する会社の商品であると誤信するおそれがあるということができる。
イ 被告は、被告製品に被告商標を明示しており、需要者が原告製品と被告製品を混同することはない旨主張する。
しかしながら、被告製品の左の側面板の上部に「Aprica」のロゴが存在することは認められるものの(弁論の全趣
旨)、同表示は被告製品全体の大きさに比べ小さなもので、需要者の目に留まらないこともあり得ることであり、仮に需要者が同表示を認識することがあったとしても、上記アのとおり、少なくとも、需要者において、被告製品が原告ストッケ社の関係する会社の商品であると誤信するおそれはあるといえるから、上記被告の主張には理由がない。
(5) まとめ
以上によれば、原告ストッケ社の周知な商品等表示である原告製品の形態と類似する形態を有する被告製品を被告が製造、販売する行為は、出所の混同を生じさせるおそれがある行為であり、不競法2条1項1号の不正競争行為に該当する。」

【検討】
他人の商品の形態を模倣した商品を譲渡等する行為は不正競争防止法2条1項3号により規制される。しかし、同号における規制では、被告が原告の商品と実質同一の商品を譲渡等したこと(不正競争防止法2条1項3号)、及び最初に販売された日から3年を経過していないこと(不正競争防止法19条1項5号イ)等が要件とされるため、同号による保護のみでは、必ずしも商品形態の十分な保護とは言えない。
そこで、不正競争防止法2条1項1号により商品の形態を保護できるかが問題となる。
この点について、不正競争防止2条1項1号は、保護をうける商品等表示の具体例として、「容器、包装」を列挙しており、学説も商品形態を同号により保護できるとするものが多数である。
不正競争2条1項1号の要件は、①原告の商品等表示が(特定商品表示性)、②需用者の間に広く認識されていること(周知性)、③被告が①の商品等表示と同一又は類似の表示を使用し又は使用した商品等を譲渡していること(類似性)、④①が原告の商品又は営業と混同を生じさせるおそれがあること(混同)である。
商品の形態が問題となった裁判例を見ると、商品の形態が技術的形態である場合には商品等表示にあたらないとされる(東京地判平成12年10月31日平成9(ワ)12191〔MAGIC CUBE〕東京地判平成17年2月15日判時1891号147頁〔マンホール用ステップ〕、大阪地判平成23年10月3日平成22(ワ)9684〔水切りざる〕)。また、周知性、類似性、混同の各要件も通常の出所識別標章を対象とした1号事案と同様に必要となる。たとえば、周知性では、商品の形態がそれが特定の者の商品であることを示す表示であると需用者の間で広く認識される必要があるとされる(大阪地判平成20年10月14日判時2048号91頁〔マスカラ容器〕等)。
このように、不正競争防止法2条1項1号にて形態模倣の保護を要求するにはハードルが高いといえる(不正競争防止法2条1項1号にて形態模倣の保護を求めた原告の請求を否定した例として、東京地判平8 年12月25日知裁集28巻4号821 頁〔ドラゴン・ソード〕、東京地判平成12年10月31日平成成9(ワ)12191〔MAGIC CUBE〕東京地判平成17年2月15日判時1891号147頁〔マンホール用ステップ〕、大阪地判平成23年10月3日平成22(ワ)9684〔水切りざる〕、東京地判平成26年10月17日平成25(ワ)22468〔フランクフェイス〕 等多数ある)。
本件は、子供いすの形態が不正競争防止法2条1項1号により保護されるかが争われた事例であり、これについて裁判所は、周知な商品等表示性、類似性、混同の各要件を認め、原告の請求を容認した。特に、類似性における判断では、「両製品の形態は、〈1〉 側面部分が側面板と脚板とから構成されており、脚板は地面と並行に配置され、脚板の先端と側面板の下端が接続されて、側面から見た場合、側面板と脚板とで略L字型の形状を形成しており、側面板と脚板との角度は約66度(原告製品)ないし約65度(被告製品)であり、側面板と脚板とから構成される側面部分は二組あり、いずれも地面に対して垂直に配置され、また、二組の上記側面部分は平行に配置されている点、〈2〉 側面板には地面と平行(原告製品)ないしほぼ平行(被告製品)に14本(原告製品)ないし13本(被告製品)の溝が形成されており、1枚ずつある座板と足のせ板は、この溝に挿入され配置されている点、〈3〉 側面板の下部及び中央部に1本ずつ金属の棒が配置されている点、〈4〉 側面板の上部に2枚の曲線状の背板が配置されている点において、ほぼ共通しており、これらの共通点を総合すると、両製品の形態は類似するというべきである。両製品は、脚板の先端と側面板の下端とが、原告製品においては同一平面で接続され、脚板の前方先端部は鋭角となっているのに対し、被告製品においては脚板の先端と側面板の下端とがジョイントによって立体的に接続され、脚板の前方先端部が丸みを帯びた形状となっている点や、脚板に配置された1枚の横木の位置が、原告製品においては脚板の中央部であるのに対し、被告製品においては脚板の後部である点において差異を有するものの、上記差異点は、上記共通点を凌駕するものとはいえず、両製品の形態が類似するとの上記判断を左右するものとはいえない(被告は、このほかにも、両製品の形状や寸法の差異を指摘するものの、いずれも、ささいな差異にとどまり、上記類似の判断を左右するものではない。)。」と判示し、相違点が共通点を凌駕しないとして、類似性を肯定した。
本件は、保護のハードルが高いとされる不正競争防止法2条1項1号での商品形態の保護を肯定した事案として特徴を有するといえる。

以上
(文責)弁理士・弁護士 高橋 正憲