【平成28年5月24日 (大阪地判 平成26年(ワ)第12481号)】

【キーワード】
 不正競争防止法2条1項1号,形態,商品等表示,特別顕著性,周知,類似,シリーズ,RIMOWA,リモワ,スーツケース

第1 事案の概要
 スーツケース等を製造販売している原告が,その製造販売に係るスーツケースの表面形状は原告の商品等表示として周知であり,これに類似した表面形状を使用した別紙被告商品目録記載1ないし4のスーツケース(以下それぞれを「被告商品1」ないし「被告商品4」といい,これらを併せて「被告商品」という。)の被告による販売は原告の商品と混同を生じさせる不正競争防止法2条1項1号の不正競争に該当する行為であると主張し,被告に対し,同法3条に基づき同行為の差止め及び上記被告販売に係るスーツケースの廃棄を求めるとともに,同法4条に基づき損害賠償として757万9440円及びこれに対する不法行為の日の後である平成27年1月10日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

第2 判旨(下線は筆者による)
 1 商品等表示該当性
  「商品の形態は,第一次的には,商品本来の効用の発揮や美観の向上等のために選択されるものであり,そもそも商品の出所を表示することを目的として選択されるものではないが,特定の商品形態が他の業者の同種商品と識別しうる特別顕著性を有し,かつ,右商品形態が,長期間継続的かつ独占的に使用され,又は短期間でも強力な宣伝が行なわれたような場合には,結果として,商品の形態が,商品の出所表示の機能を有するに至り,商品表示としての形態が周知性を獲得する場合があるというべきである。」
「原告は,単体の商品ではなく,別紙原告商品目録のとおり多数の商品を並列的に列挙し,これらをもって周知商品等表示性を主張する原告主張原告商品と特定した上,その商品に共通する商品形態であるリブ加工された表面形状が原告の商品等表示として周知となっているとし,その特徴を,原告主張4要素にまとめて主張しているところ,複数の商品からなる商品群であるような場合であっても,その共通形態において上記アの要件を満たし得るのであれば,上記同様に商品表示としての形態が周知性を獲得する場合があるというべきであるが,原告の上記主張は,そもそも以下の点において相当ではないというべきである。すなわち,原告は,ほとんどがスーツケースと呼ばれ得る鞄類であるものの,その中にはスーツケースとはいえない形状の商品(SALSAシリーズのBOARDCASEやBEAUTY CASEなど(甲3の11の6枚目))を含む一方,原告主張原告商品に含まれるスーツケースとほぼ同じ形態であるのに,本体前面にファブリックを用いたフロントポケットを付加したことにより原告主張4要素の第2要素(2-5)の特徴を満たさない商品(SALSAシリーズのSALSA DELUXE HYBRID(甲3の11の8枚目)あるいはBOLERO(甲3の11の12枚目))を除いて,これらを原告の周知商品等表示を主張する商品であるとして原告主張原告商品を特定し,その上で,原告主張4要素で記述されるリブ加工による表面形状の特徴だけが,原告の周知商品等表示であると主張している。
   しかし,ある商品形態に出所表示機能があるとする需要者の認識は,現実の商品の販売や宣伝広告に接する中で形成されてくるものであるから,まず実際の販売実績や宣伝広告頻度に基づき需要者が原告製の多数の商品からいかなる共通形態を認識するようになるかが検討されるべきであって,これらの検討を経ずに結論である原告主張4要素の表面形状の特徴を有する商品だけを選び出し,これらをもって周知商品等表示を主張する原告主張原告商品であるとする主張は相当ではない。
   また,スーツケースの正面側や背面側の面形状は,確かに商品を見た場合に一番目に入り易い部分であるが,需要者は商品全体を見て商品を選択するのであり,特に実用品であるスーツケースの場合,その機能と関わるハンドルの形状やキャスターの形状にも相応の注意が払われるはずであるから,原告主張原告商品の商品全体と一般的同種商品との商品形態の差異について具体的な検討を経ることなく,原告主張原告商品の周知商品等表示が原告主張4要素で記述されるリブ加工された表面形状に限られるようにいう点も相当ではないというべきである。」
   「そこで,以上の点を踏まえると,単体ではない,原告製の商品群に共通する,ある商品形態が周知商品等表示となったというためには,その商品群が原告製の商品のうちでも販売実績が多く,また宣伝広告の頻度の多いもの,すなわち,需要者が原告製の商品として認識する機会が多い商品群であることを明らかにした上で,これら商品群の商品全体を観察して需要者が認識し得る商品形態の特徴を把握し,これと同種商品の商品形態とを比較して,上記商品形態の特徴が特別顕著性を有し,かつ,販売実績や宣伝広告の実態から出所表示機能を獲得して周知となったといえることが主張立証されるべきである。」
   「本件訴訟において明らかにされた宣伝広告費の伸び,あるいは販売額の増加傾向,さらには林五が直営店を出店するようになったのが平成20年であるということからすると,原告の「RIMOWA」,「リモワ」のブランド名は,平成20年代になって以降にブランド名として周知性を確立したと認められるが,それ以降についてみると,原告製の商品の主要部分は,8輪キャスターのスーツケースであり,現に宣伝広告等に用いられるスーツケースにも,その種のものが多く,さらには有名人の愛用品として取り上げられる機会の多い商品も8輪キャスターのスーツケースであると認められるから,需要者が原告製の商品であると認識する機会の多い商品群は,原告が原告主張4要素の特徴を有するリブ加工の有無で画することによって特定した原告主張原告商品という商品群ではなく,そのうちの典型的な4輪キャスター(原告の場合は8輪)のスーツケースを中心とする商品群であると認められる(なお,原告が訴状に記載して主張した原告の代表的商品の変遷は平成12年以降については別紙原告の代表的商品一覧のとおりであるが,平成18年以降は,上記形態のスーツケースが原告の代表的商品とされている。)。」
   「そして,そのように原告製の商品として需要者に認識される機会の多いスーツケースに共通する商品形態について,一般的なスーツケースの商品形態とを比較して検討してみると,それらの商品は,原告が周知商品等表示と主張するリブ加工が施されている点に商品形態の特徴があるといえるが,そのほか,一般的なスーツケースでは,本体正面側や背面側の大きな面はやや外方向に向けて膨らまされ,また直方体の6面を繋ぐコーナー部分も大きな曲率半径のカーブで処理されたものが多いのに対し,原告製のスーツケースでは,大きな面も含め6面がほぼ完全なフラットな面で構成され,その折曲げ箇所も小さな曲率半径のカーブとして,スーツケース本体全体をすっきりとした直方体で形成しているという点にも商品形態の特徴があると認められる。そしてスーツケース本体がフラットな面で構成されることで,原告が主張するリブ加工で形成される直線も整然としたものとなって,それが原告製のスーツケースの特徴となっているものと認められる(したがって,原告製のスーツケースに認められるリブ加工の特徴を,本体を構成する面の特徴と切り離して認識することはできないというべきである。)。
また原告代表例との形態の差異として被告が指摘した点であるが,被告商品を含み一般的な4輪キャスターのスーツケースでは小径の黒色一色の   1輪のキャスターが底面に4か所付加的に取り付けられているだけのものがほとんどであるのに対し,原告製のスーツケースでは,キャスターを取り付けるために本体底面の四隅に少し切欠いた箇所が設けられ,同所に比較的大径の2輪のキャスター(しかも,ホイール自体はタイヤと色が異なっている。)がスーツケース本体の底面四隅に目立つ態様で取り付けられている点にも商品形態の特徴があると認められる。」
   「以上をまとめると,需要者に認識される機会の多い原告製の商品(スーツケース)は,正面側及び背面側に,原告主張4要素で記述されるリブ加工が施されていることで商品形態の特徴があるといえるが,それに尽きるのではなく,そのリブ加工が施される本体の6面がほぼ完全なフラットな面で構成され,しかも,その折曲げ部を小さな曲率半径のカーブとしてすっきりとした直方体が形成されていること,加えて一般に4輪キャスターに分類される商品では,底面に,キャスターを取り付けるために本体底面の四隅を少し切欠いた箇所を設け,同所に比較的大径の2輪のキャスターがスーツケース本体の底面四隅に目立つ態様で取り付けられ8輪キャスターになっているという点に商品形態の特徴があり,これらの三つの商品形態の特徴が相俟って,他のスーツケースと識別しうる特別顕著性を有するものと認められる(日本国内において原告がブランドとして周知になり,またその製造に係るスーツケースが大量に販売されるようになってきた時期からすると,上記商品形態の特徴のなかで,リブ加工された表面形状の特徴が,他の商品形態の特徴より優勢であるということはできない。)。」
   「そして,上記(1)ア,イ認定の各事実からすると,原告製の商品は,そのような商品形態を有するスーツケースを中心に宣伝広告され,また現に販売実績においても増加してきたことにより,そのブランド名が周知性を確立するとともに,その商品形態が出所表示機能を有するに至り,原告の出所を表示するものとして周知になっていたものと認められる。すなわち原告製の商品に周知商品等表示となる商品形態が認められるとするのなら,それは原告主張に係る表面形状に関する商品形態に限定されるのではなく,他の二つの商品形態の特徴も加わったものと認めるのが相当である(原告が被告以外に販売停止の警告書を送付した事業者6社のうち,任意に販売を停止した3事業者の商品は,コスト高となると考えられるキャスター取付け部の切欠きがない以外,上記三つの商品形態の特徴を備えていることも,これらが原告の商品等表示となっていたことを示しているものといえる。)。」
   「そうすると,原告が特定する原告主張原告商品の商品形態に周知商品等表示が認められるとしても,上記三つの商品形態の特徴を備えて初めて認められるから,その一部だけを取り出していう原告の商品等表示の主張は失当であるといわなければならない。」

 2 類似性
   「上記1で検討したとおり,本件における原告の商品等表示の主張は不十分なものであるといわなければならないが,なお念のため被告商品が,上記認定した原告の周知商品等表示を備えることで,原告製の商品に類似しているといえるかについて検討してみると,以下のとおりである。」
   「すなわち,被告商品は,スーツケースの正面側及び背面側の全面に長手方向に左右対称の山型立体形状からなるリブ加工が等間隔かつ平行に施され,そのリブ加工は側面に回り込むように延伸している上,被告商品は光沢のあるポリカーボネート製の製品であって全体に光沢を有していることから,原告が主張する特徴で記述され得るリブ加工が施されていることが認められる。しかし,被告商品の正面側及び背面側のリブは,原告製の商品のそれよりリブ間の間隔がやや広いものであり,また一本一本のリブ自体がやや太く(したがって,平面部からの盛り上がりも高く),その上,平面部との境界があいまいであるという点で原告製の商品のそれとの違いが指摘できる。
   また,被告商品は,本体の正面側及び背面側は,ほぼフラットであり,上記認定した二つ目の商品形態の特徴を有していることが認められそうであるが,子細にみるとやや膨らんだ形状を有しており,また折曲げ部も,原告製の商品のそれらに比べれば大きな曲率半径のカーブで形作られているという違いはある。
   さらに,キャスターについては,被告商品のそれは,それぞれが小径の1輪のキャスターが本体底面に4か所取り付けられているだけのものであって,大径の8輪キャスターが目立つ態様で取り付けられた原告製の商品のそれと全く異なるものである。」
   「したがって,被告商品は,原告製の商品の商品形態の特徴といえるうちの二つを備えているといえそうではあるが,上記のリブの形状や本体を構成する面の微妙な形態の違いなどにキャスターの違いが合さって,商品全体が持つ雰囲気は,原告製の商品のようなシャープさを感じさせず,明らかに異なるものとなっている。
   すなわち,被告商品は,原告の周知商品等表示となる商品形態の特徴の全てが揃っているわけではないため,全体的印象が明らかに異なっているから,被告商品を原告製の商品と類似しているということは困難である。」
   「以上によれば,原告の被告に対する請求は,その余の点につき検討するまでもなく理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。」

第3 若干のコメント
 本判決は,複数のサイズが展開されている同シリーズのリモワのスーツケースについて,シリーズ商品に共通する形態に商品等表示該当性を認めた判決である。シリーズ商品を構成する個々の商品はありふれた形態であり識別力がない場合や,シリーズ商品に共通する形態のレベルに抽象化しなければ周知性が認められない場合,または原被告商品において共通する形態がシリーズ商品に共通する形態のみである場合等に,シリーズ商品に共通する形態の商品等表示該当性が問題になり得るところ,本判決は,そもそもいかなる範囲の商品をシリーズ(「商品群」)と見るべきであるのかについての判断手法を示した点で特徴的である。すなわち,本判決は,「単体ではない,原告製の商品群に共通する,ある商品形態が周知商品等表示となったというためには,その商品群が原告製の商品のうちでも販売実績が多く,また宣伝広告の頻度の多いもの,すなわち,需要者が原告製の商品として認識する機会が多い商品群であることを明らかにした上で,これら商品群の商品全体を観察して需要者が認識し得る商品形態の特徴を把握し,これと同種商品の商品形態とを比較して,上記商品形態の特徴が特別顕著性を有し,かつ,販売実績や宣伝広告の実態から出所表示機能を獲得して周知となったといえることが主張立証されるべきである」と判示した。シリーズ商品の捉え方について恣意的な主張を抑止する効果があるといえ,実務上参考になるものと思われる。

以上
(文責)弁護士 山本 真祐子