【平成18年9月26日判決 (知財高裁平成17年(行ケ)第10698号審決取消請求事件)】

【キーワード】
ソフトウェア関連発明,2条1項,29条1項柱書,自然法則の利用

【事案の概要】
  原告らは,発明の名称を「ポイント管理装置および方法」とする発明(特願2000−319884,以下「本願」という)の発明者である。本願につき拒絶査定を受けたため,拒絶査定不服審判請求をした(不服2003−5927号事件)が,「本願発明(本願の請求項11)は,自然法則を利用した技術的思想の創作とは認められないから,特許法29条柱書の「発明」に該当せず,特許を受けることができない」との理由で拒絶審決を受けた。
 そこで,原告らは,当該審決の取消を求めて知財高裁に取消訴訟を提起したが,知財高裁は審決を支持し棄却した事案。

本願発明:
  出願番号 特願2000−319884
  発明の名称 ポイント管理装置および方法
  平成12年10月19日 出願
  平成15年 2月17日 手続補正
       同年 3月 6日 拒絶査定
       同年 4月 9日 審判請求(不服2003−5927号事件)及び第1補正
       同年 5月 8日 第2補正
  平成17年 8月 2日 第1補正及び第2補正を却下,拒絶審決

本願発明の概要:
  ジュースのボトルなどにシールを貼付し,これを消費者が集めて応募ハガキに貼り,郵送するタイプのキャンペーンの手続きを省力化する発明である。
 


請求項11(第1補正及び第2補正は不適法却下されたため,平成15年2月17日のもの):

ユーザのポイントキャンペーンごとのポイントアカウントを用いて当該ポイントキャンペーンごとの累積ポイントを記憶するポイントアカウントデータベースを参照してポイントを管理する方法において,
ユーザの識別情報とユーザが入力した記号列とを含む送信情報をネットワークを介して受信するステップと,
上記送信情報を受信したことに対応して,上記ユーザの識別情報に基づいて決定されるユーザの,上記記号列に基づいて決定されるポイントキャンペーンのポイントアカウントに関して,上記ポイントアカウントデータベースの累積ポイントに所定ポイントを加算するステップとを有することを特徴とするポイント管理方法。

原査定の拒絶の理由:
  請求項11は,ポイント管理方法の一部においてネットワークを通信手段として使用しているにすぎず,コンピュータがハードウェア資源を具体的に利用してポイント管理方法を行うものではないから,この請求項に係る発明は依然として自然法則を利用した技術的思想の創作である発明には該当しない動作主体が人間と仮定してみた場合に無理なく読めるような請求項の記載では,コンピュータシステムの動作方法を具体的に記載したものとは認められない。)ので,本願発明は特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていない。

  したがって,本願発明は,自然法則を利用した技術的思想の創作である発明に該当するとは認められない。

審決の理由:
 本願発明が自然法則を利用した技術的思想の創作である発明に該当し,特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしているかどうかを検討する。
 請求項11の記載では,人間が各手段を操作してポイント管理を行う場合とコンピュータがポイント管理を行う場合があると認められるので,人間が各手段を操作してポイント管理を行う場合,及びコンピュータがポイント管理を行う場合についてそれぞれ検討する
 
(1)人間が各手段を操作してポイント管理を行う場合
 本願発明のポイント管理方法のステップは,人為的に取り決められたポイントキャンペーンの仕方に基づくものであると認められる。
 そして,主体的に本願発明のポイント管理方法の各ステップを遂行するのは人間であり,対応付け手段及びポイントアカウントデータベースは,各ステップの遂行のために単に道具として用いられるものであると認められる。
 よって,請求項11には,実質的には,人為的に取り決められたポイント管理の仕方に基づくポイント管理方法そのものが記載されていると認められる。
 
(2)コンピュータがポイント管理を行う場合
 本願発明は,「ポイント収集に手間が係らず,また応募の費用も少なくてすみ,さらに,キャンペーン実施者のコストも少なくてすみ,さらに応募者の情報を利用しやすい,ポイント管理技術を提供する」という技術的課題を解決しようとするものであって,ポイント管理方法として,
 (ア)ユーザの識別情報とユーザが入力した記号列とを含む送信情報をネットワークを介して受信するステップ,
 (イ)上記送信情報を受信したことに対応して,上記ユーザの識別情報に基づいて決定されるユーザの,上記記号列に基づいて決定されるポイントキャンペーンのポイントアカウントに関して,上記ポイントアカウントデータベースの累積ポイントに所定ポイントを加算するステップ,
の各ステップを備えるものであり,上記(ア)及び(イ)のステップを実行することを特徴とするものである。
   してみれば,本願発明は,「ポイント管理方法」であって,ネットワーク,ポイントアカウントデータベースなどのハードウェア資源を用いて実行するところの,上記(ア)及び(イ)のステップを備える方法発明であるから,その発明の実施にソフトウェアを必要とするところの,いわゆるソフトウェア関連発明である。
 そして,こうしたソフトウェアを利用するソフトウェア関連発明が,「自然法則を利用した技術的思想の創作」であるためには,発明はそもそもが一定の技術的課題の解決手段になっていなければならないことから,ハードウェア資源を利用したソフトウェアによる情報処理によって,所定の技術的課題を解決できるような特有の構成が具体的に提示されている必要があるというべきである。
 本願発明は前記のとおりであるから,本願発明において技術的課題の解決手段の根拠となるべき要部は,上記(ア)及び(イ)のステップである。
 そこで,本願発明が,特許法第2条で定義される「発明」,すなわち「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当するか否かについて,以下順次上記(ア)及び(イ)のステップについて検討する。
 
(a)上記(ア)に記載のステップについて
 上記(ア)の記載は,単に,ポイント管理のための入力データとして,ネットワークを介して受信された,ユーザの識別情報とユーザが入力した記号列とを含む送信情報を用いることを示しているだけであり,上記(ア)の記載では,ハードウェア資源であるネットワークがどのように用いられて上記送信情報が入力処理されるのかを示す具体的な事項が記載されているとは認められない
 
(b)上記(イ)に記載のステップについて
 上記(イ)の記載は,単に,送信情報を受信したことに対応して,ユーザの識別情報に基づいて決定されるユーザの,記号列に基づいて決定されるポイントキャンペーンのポイントアカウントに関して,上記ポイントアカウントデータベースの累積ポイントに所定ポイントを加算することを示しているだけであり,上記(イ)の記載では,ハードウェア資源であるポイントアカウントデータベースがどのように用いられて,送信情報を受信したことに対応して,ユーザの識別情報に基づいて決定されるユーザの,記号列に基づいて決定されるポイントキャンペーンのポイントアカウントに関して,累積ポイントに所定のポイントを加算するのかを示す具体的な事項が記載されているとは認められない。
 
 以上の検討によれば,上記(ア)及び(イ)のステップの処理が,ネットワークやポイントアカウントデータベースなどのハードウェア資源を利用したソフトウェアによる情報処理によって,どのように実現されるのか,という点に関しては,何ら具体的に記載されていない。
 そして,これら(ア)及び(イ)のステップを実質的な要部として含む本願発明は,その技術的課題を解決できるような特有の事項を具体的に提示するものではなく,一定の技術的課題の解決手段であるとは到底いえないから,本願発明は,自然法則を利用した技術的思想の創作である発明に該当するとは認められない。
 
7.むすび
 以上のとおり,本願発明は,自然法則を利用した技術的思想の創作とは認められないので,特許法上の「発明」とは認められない。
 したがって,本願発明は,特許法第29条柱書に規定する要件を満たしていないから,特許を受けることができない。

【裁判所の判断】
 前記2及び3のとおり,第1補正及び第2補正が不適法なものとして却下されるべきであるから,第1補正前の特許請求の範囲を基にして,本願発明(旧請求項11)が特許法29条柱書の「発明」に該当するか否かを判断する
 審決は,本願発明において,人間が各手段を操作してポイント管理を行う場合とコンピュータがポイント管理を行う場合とがあるとした上で,「発明」該当性を判断しているが,原告らは,本願発明において人間が各手段を操作してポイント管理を行う場合はあり得ず,コンピュータがポイント管理を行う場合しかないと主張し,このような本願発明は特許法29条柱書の「発明」に該当すると主張する。
 (1) 人間が各手段を操作してポイント管理を行う場合について
 原告らは,本願発明において人間が各手段を操作してポイント管理を行う場合はあり得ないと主張する。
 しかし,第1補正前の特許請求の範囲の請求項11(旧請求項11)において,「(累積ポイントの)記憶」,「受信」,「加算」等の行為の主体がコンピュータに限定されていないし,次のとおり,各行為を人間が行うことも可能である。
 ア 例えば電子メールやFAXにより,人間が「ユーザの識別情報とユーザが入力した記号列とを含む送信情報をネットワークを介して受信する」ことは,可能である。
 イ 適当な対応表を用いて,人間が「上記送信情報を受信したことに対応して,上記ユーザの識別情報に基づいて」ユーザを決定し,また,「上記記号列に基づいて」ポイントキャンペーンを決定することにより,ポイントアカウントを特定することも,可能である。
 ウ データベースは,整理して体系的に蓄積されたデータの集まりであって,例えばカード・ファイルのような紙媒体も一つの態様として含むものであり,ポイントアカウントは,ポイントキャンペーンに対応付けされたカードに相当することから,人間が,累積ポイントが記載されたカード・ファイルからなるデータベースを用いて,決定したユーザの,決定した「ポイントキャンペーンのポイントアカウントに関して,上記ポイントアカウントデータベースの累積ポイントに所定ポイントを加算する」ことも,可能である。
 エ ポイントアカウントデータベースがコンピュータからなるシステムとしても,そのデータベース・システムをカード・ファイルの代わりに,人間が,単に累積ポイントを蓄積するための道具として用いることも,可能である。
 以上の検討結果によると,本願発明の各行為を人間が実施することもできるのであるから,本願発明は,「ネットワーク」,「ポイントアカウントデータベース」という手段を使用するものではあるが,全体としてみれば,これらの手段を道具として用いているにすぎないものであり,ポイントを管理するための人為的取り決めそのものである。したがって,本願発明は,自然法則を利用した技術的思想の創作とは,認められない。
 (2) コンピュータがポイント管理を行う場合について
 本願発明は「ポイント管理方法」の発明であるところ,ポイント管理における各ステップの行為主体がコンピュータであることは,旧請求項11には,明示されておらず,コンピュータの構成要素,すなわちハードウェア資源を直接的に示す事項は,何も記載されていない。上記旧請求項11には,「データベース」,「ネットワーク」との記載があるが,「データベース」は整理して体系的に蓄積されたデータの集まりを意味し,「ネットワーク」は通信網又は通信手段を意味するもので,いずれの文言もコンピュータを使ったものに限られるわけではない。したがって,上記旧請求項11の記載からは,本願発明の「ポイント管理方法」として,コンピュータを使ったものが想定されるものの,ソフトウェアがコンピュータに読み込まれることにより,ソフトウェアとハードウェア資源とが協働した具体的手段によって,使用目的に応じた情報の演算又は加工を実現することにより,使用目的に応じた特有の情報処理装置の動作方法を把握し得るだけの記載はない。
 ア 原告らは,発明がコンピュータにより実現されようと,コンピュータを用いない機械(例えば,組み合わせ論理回路を用いた順序機械)により実現されようと,基本的には,その発明の成立性には変わりがないはずであるのに,コンピュータにより実現されている,あるいは実現可能であるという理由だけで,発明の成立性が否定されるという考え方には,合理的な理由がないし,産業保護の観点からも問題であると主張する。また,コンピュータを利用しないで,通常の装置(トランジスタやICやシーケンス回路を用いてかかる装置を形成することが可能である)で実現するポイント管理方法では,発明性が成立し,コンピュータを利用して実現するポイント管理方法では,発明の成立性がないというのでは,不合理であると主張する。
 特許法29条柱書の「発明」に該当するためには,自然法則を利用したものでなければならないところ,審決は,上記旧請求項11の記載からは,コンピュータを使った「ポイント管理方法」が自然法則を利用していると認められるだけの記載がないと判断しているのであって,コンピュータを用いるか,コンピュータを用いない機械(例えば,組み合わせ論理回路を用いた順序機械)を用いるかによって,「発明」該当性が左右されると判断したものではない。原告らの主張は,審決を正解しないでされたものであって,失当である。
 イ 原告らは,コンピュータが数学的なルールや経済学的なルールも実行可能であることから,審査基準(第Ⅱ部第1章)の趣旨は,精神的作用に属する事柄(数学上の理論等)のように,本来発明といえないにもかかわらず,コンピュータを利用しているという理由だけで,自然法則を利用した技術的思想の創作であるという外観を持つものを排除できればすむのであり,ソフトウェア関連発明については,そのような観点からも,発明の具体的な解決手段の内容が吟味されれば,十分であると主張する。
 審査基準(第Ⅶ部第1章2.2.2「判断の具体的な手順」(2))には,自然法則を利用した技術的思想の創作であると判断するためには,ソフトウェアによる情報処理が,ハードウェア資源を用いて具体的に実現されていることを必要とする旨が記載されている。この基準には,「コンピュータによって処理される文書データが,入力手段,処理手段,出力手段の順に入力されることをもって,情報処理の流れが存在するとはいえても,情報処理が具体的に実現されているとはいえない。」との記載(第Ⅶ部第1章2.2.2「判断の具体的な手順」(3))もあり,原告らのいう趣旨に解することはできない
 ウ 原告らは,上記旧請求項11の各ステップがポイントの管理という目的・効果を実現するものであり,ソフトウェア関連発明の具体性も十分であるから,本願発明は,審査基準に照らして,自然法則を利用した技術的思想の創作であると主張する。
しかし,本願発明は,ハードウェア資源としては,「ネットワーク」と「ポイントアカウントデータベース」のみを有するものであり,本願発明のソフトウェアは,これらのハードウェア資源について,「ポイントアカウントデータベースを参照」し,「ネットワークを介して受信」し,「ポイントアカウントデータベースの累積ポイントに所定ポイントを加算する」ものでしかない。そうすると,旧請求項11の各ステップには,ポイントを管理するための処理と,「ネットワーク」及び「ポイントアカウントデータベース」からなるハードウェア資源とが,どのように協働しているのかが具体的に記載されていない。したがって,情報処理の流れが存在するとはいえても,ハードウェア資源を用いて,情報処理が具体的に実現されているとはいえない。したがって,本願発明は,審査基準に照らしても,自然法則を利用した技術的思想の創作であるとは,認められない。
 エ 原告らは,ソフトウェア関連発明における特許請求の範囲の記載は,当業者が所期の目的・効果を実現できる程度に記載されていれば,十分具体的であり,それを超えて,その具体的な態様,例えば,中央処理装置,主メモリ,バス,外部記憶装置,各種インタフェース等のコンピュータの各部品をどのように用いるかまで,具体的に特定する必要はないから,旧請求項11の各ステップの記載は,当業者が所期の目的・効果を実現できるように記載されていると主張する。
 審査基準(第Ⅶ部第1章2.2.2「判断の具体的な手順」(2))には,ソフトウェア関連発明において,ソフトウェアによる情報処理が,ハードウェア資源を用いて具体的に実現されているか否かにより,「自然法則を利用した技術的思想の創作」であるかを判断することが記載されているが,審査基準は,自然法則を利用した技術的思想の創作であるためには,コンピュータの部品の類まで具体的に特定する必要があるとするものではないし,コンピュータの部品の類まで具体的に特定していれば,「自然法則を利用した技術的思想の創作」であると判断するというものでもない
 審決は,本願発明がポイントの管理方法として,「(ア)ユーザの識別情報とユーザが入力した記号列とを含む送信情報をネットワークを介して受信するステップ」及び「(イ)上記送信情報を受信したことに対応して,上記ユーザの識別情報に基づいて決定されるユーザの,上記記号列に基づいて決定されるポイントキャンペーンのポイントアカウントに関して,上記ポイントアカウントデータベースの累積ポイントに所定ポイントを加算するステップ」を有し,「(ア)及び(イ)のステップの処理が,ネットワークやポイントアカウントデータベースなどのハードウェア資源を利用したソフトウェアによる情報処理によって,どのように実現されるのか,という点に関しては,何ら具体的に記載されていない。そして,これら(ア)及び(イ)のステップを実質的な要部として含む本願発明は,その技術的課題を解決できるような特有の事項を具体的に提示するものではなく,一定の技術的課題の解決手段であるとは到底いえないから,本願発明は,自然法則を利用した技術的思想の創作である発明に該当するとは認められない。」と判断したものであって,コンピュータの各部品をどのように用いるかを具体的に特定していないことのみを理由にしてはいない
 原告らの主張は,審査基準の意味及び審決を正解しないものであり,失当である。

【解説】
 ソフトウェア関連発明及びビジネス関連発明について問題となりやすい特許要件が,自然法則利用性の充足である。ソフトウェアとは,本質的には「機械の操作方法」 1であり,それ単体では自然法則利用性を充足しないと考えられている。
 審査基準によれば,ソフトウェアに関する発明が自然法則利用性を充足する場合とは,「ソフトウェアによる情報処理が,ハードウェア資源を用いて具体的に実現されている」場合であり,その意義は「ソフトウェアとハードウェア資源とが協働することによって,使用目的に応じた特有の情報処理装置又はその動作方法が構築されること」であるとされる。また,自然法則利用性を充足しない場合とは,以下の5つであるとされる。
(i) 自然法則以外の法則(例:経済法則)
(ii) 人為的な取決め(例:ゲームのルールそれ自体)
(iii) 数学上の公式
(iv) 人間の精神活動
(v) 上記(i)から(iv)までのみを利用しているもの(例:ビジネスを行う方法それ自体)
 もっとも,ソフトウェアとハードウェアの役割分担は様々であり,どの程度「ハードウェア資源を用いて具体的に実現」され,またどの程度「人為的な取決め」などの要素が入っていれば,自然法則利用性が充足又は非充足と判断されるのか,という境界線は明確とはいえないことから,当該要件がソフトウェア関連発明及びビジネス関連発明において問題になりやすくなっている。

 本願発明は,拒絶査定,拒絶審決及び知財高裁の全てにおいて,「ソフトウェアによる情報処理が,ハードウェア資源を用いて具体的に実現されている」といえるか,「人為的な取決め」にすぎないのではないか,といった点の判断が問題になった。
 本件において裁判所がもっとも重要視したのは,「(累積ポイントの)記憶」,「受信」,「加算」等の行為の主体がコンピュータに限定されて」おらず,かつ「各行為を人間が行うことも可能」である点である。つまり,本願発明は,行為主体がコンピュータであることが明示されていない上に,その各行為自体も複雑なものではなく,人間でも容易に実現できる内容であった。したがって,仮に本願発明において行為主体がコンピュータであることが明記されていたとしても,その行為の内容からやはり「人為的取決めに過ぎない」と判断され,自然法則利用性を充足しない,又は発明該当性は充足しても進歩性を充足しない,と判断される余地もあると考えられる。
 本件の判決における特徴として,審査基準の引用が多いことが挙げられる。これは,原告らの主張が,審査基準に言及しつつもその趣旨を理解していないものであったためと考えられる(本件の訴訟代理人は,本件の特許出願手続きの代理人と同一である)。そういった意味で,本件はソフトウェア関連発明における審査基準の外延を判断するような微妙な事案ではないといえる。もっとも,ソフトウェア関連発明における自然法則利用性について,「ソフトウェアによる情報処理が,ハードウェア資源を用いて具体的に実現されている」か否かという点に言及した初期の裁判例であることから,ここに取り上げた。
 ちなみに,本願発明は,平成12年(西暦2000年)の出願であり,ソフトウェア関連発明及びビジネス関連発明の出願がピークを迎えた年のものである。したがって,代理人にもまだソフトウェア関連発明に関するノウハウが蓄積されておらず,特許範囲をなるべく広く取ろうとする意図から,漠然とした請求項になった可能性もある。


 1 『新・注解特許法』 上巻 18頁 中山 信弘, 小泉 直樹 編 青林書院 2011年4月

以上 
(文責)弁護士 松原 正和