【知財高判平成19年3月13日平18(行ケ)10292号】

【要旨】
 審決が一致点の認定において,「入力データにサイズ調整用の情報を加算して特定の大きさのサイズとなるようにする過程を備えることを特徴とする」点で両者が一致するとしたのは,本願発明の「オフセット値」と引用発明の「無駄なデータ」の技術的意義の差異を看過したものであって,誤りである。

【キーワード】
引用発明の認定,上位概念化

【事案の概要】
1.事案の概要
 本件では,本願発明(特表2002-533976号)と引用例(特開62-190932号公報)に基づき認定した引用発明を上位概念化して一致点を認定した点が争点となった。

2.本願発明の内容
 本願発明の内容は,以下のとおりである。

【請求項1】
 2m(m>1)の整数倍でないサイズを有する入力データをインターリービングする方法において,
前記入力データのサイズにオフセット値を加算して仮想アドレスのサイズが2mの整数倍となるようにする過程を備えることを特徴とするインターリービング方法。

 本願発明は,一定の特性を満たしながら,入力データのサイズLに該当するメモリ容量のみでインターリービング処理を可能とするインターリービング 方法を提供するものである。

3.審決の内容
(1)概要

 本願発明は,引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたから,特許法29条2項により特許を受けることができない。

(2)認定した引用発明の内容
 「固定長のインタリーブサイズに等しくない入力情報データをインタリーブする方法において,前記入力情報データにサイズ調整用のデータを加えてインタリーブサイズとなるようにする過程を備えることを特徴とするインタリーブ方法。」

(3)本願発明と引用発明の対比
<一致点>
 「特定の大きさでないサイズを有する入力データをインターリービングする方法において,
 前記入力データにサイズ調整用の情報を加算し調整用の大きさのサイズとなるようにする過程を備えることを特徴とするインターリービング方法。」である点。
 
<相違点1>
 「特定の大きさ」が,本願発明は「2m(m>1)の整数倍」であるのに対し,引用発明は「固定長のインタリーブサイズ」である点。

<相違点2>
 本願発明は「入力データのサイズにオフセット値を加算して仮想アドレスのサイズが2mの整数倍となるようにする過程」を備えるのに対し,引用発明は「入力情報データにサイズ調整用のデータを加えてインタリーブサイズとなるようにする過程」を備える点。

【争点】
 本願発明と引用発明における一致点及び相違点の認定。

【判旨】
 判決では,審決における本願発明と引用発明の一致点及び相違点の認定の誤りの有無を検討するにあたり,本願発明における「仮想アドレス」及び「オフセット値」並びに引用発明の「サイズ調整用のデータ」の各技術的意義を以下のとおり認定した。
 「(1) 本願発明にいう「仮想アドレス」及び「オフセット値」の技術的意義
 (…省略…)以上から,本願発明における「仮想アドレス」とは,インターリービング処理の過程において,インターリービング処理に必要な読み出しアドレスを生成するために,入力データのサイズに「オフセット値」を加えることによって設定した2m(m>1)の整数倍のサイズの仮想的なアドレスを意味することであると理解できる。また,ここでいう「オフセット値」とは,入力データのサイズと仮想アドレスのサイズとの差を意味するのであって,メモリ上の実アドレスに書き込まれるデータ(情報)ではない。
 そして,本願発明においては,仮想アドレスのサイズは2m(m>1)の整数倍とされるのに対して,インターリービング処理においてデータの蓄積のために使用されるメモリ上のアドレスのサイズは,インターリービング処理の前後を通じて,入力データのサイズと同じで足りることも理解できる。(…省略…)

(2) 引用発明にいう「サイズ調整用のデータ」の技術的意義
  (…省略…)

 審決が引用発明として認定したのは,引用例(甲1)の上記記載にいう「従来のインターブ方式」であるが,上記記載によれば,引用発明においては,固定された「インタリーブサイズ」にデータの個数を等しくするために,入力データに「無駄なデータ」(第4図に示された「無駄情報」)を加えてからインターリービング処理が行われていることが認められる。そして,引用例(甲1)においては,「無駄情報」を加えるに際してどのようなアドレスの設定を行うかについては何ら記載はなく,上記(1)で検討したような本願発明にいう意味での「仮想アドレス」を用いることを示唆する記載もないから,「無駄情報」は実アドレスに書き込まれると理解するのが自然である。そうすると,引用発明においては,無駄情報を書き込むための実アドレスを含めて,固定された「インタリーブサイズ」に相当する実アドレスを必要とし,書き込み・読み出し・出力というインターリービング処理における一連の動作も,実アドレス上で行われると認められる。」

 その上で,判決は,以下のように判示し,審決における本願発明と引用発明の一致点及び相違点の認定に誤りがある旨を認定した。
 「本願発明は,上記(1)のとおり,入力データのサイズLに(2m−L)をオフセット値として加え,2m個の仮想アドレス上でインターリービング処理を行うものであると認められる。そして,ここでいう「オフセット値」は情報(データ)ではなく,仮想的な数値である。また,インターリービング処理において使用されるメモリのサイズはLであり,インターリービング処理後に送信されるデータのサイズもLである。
 これに対して,引用発明は,入力データのサイズがL,インタリーブサイズが2mである場合を想定すれば,「サイズ調整用のデータ」である(2m−L)個の「無駄なデータ(無駄情報)」をL個の入力データに加え,これら2m個のデータを2m個の実アドレスを有するメモリ上に書き込んだ上,インターリービング処理を行うものであると認められる。そして,ここでいう「無駄なデータ(無駄情報)」も,実アドレス上の情報(データ)にほかならない。また,インターリービング処理において使用されるメモリのサイズは2mであり,インターリービング処理後に送信されるデータのサイズも2m個である。
 そうすると,審決が一致点の認定において,「入力データにサイズ調整用の情報を加算して特定の大きさのサイズとなるようにする過程を備えることを特徴とする」点で両者が一致するとしたのは,本願発明の「オフセット値」と引用発明の「無駄なデータ」の技術的意義の差異を看過したものであって,誤りである。」
   
 一方,本判決は,「サイズ調整用の情報」が「オフセット値」と「無駄なデータ」の両者を包含する上位概念であるならば,一致点の認定に誤りはないが,この場合は,相違点2の容易想到性の判断に誤りがあることを補足的に説明している。
 「なお,上記一致点の認定にいう「サイズ調整用の情報」が,本願発明の「オフセット値」と引用発明の「無駄なデータ」の両者を包含する上位概念であると理解すれば,一致点の認定に誤りがあるとはいえないことになる。
 しかし,「仮想アドレス」を設定してインターリービング処理をするという本願発明の技術的思想は,実アドレス上でインターリービング処理を行う引用発明の技術的思想とは別個のものであり,また,引用例には,仮想アドレス上での処理を開示又は示唆する記載もない。そして,本願発明は,仮想アドレス上での処理という構成により,引用発明に比べて,インターリービング処理のために使用されるメモリのサイズ及びインターリービング処理後に送信されるデータのサイズが少なくて済むという作用効果を奏するものであると認められる。
 しかるに,審決は相違点2についての判断において,他の引用刊行物や周知技術を何ら摘示することなく,引用発明から本願発明を想到することは当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)にとって容易であると判断しているのであって,その判断が誤りであることは明らかである。

【検討】
 本判決では,本願発明の「オフセット値」と引用発明の「無駄な情報」は,前者は仮想的な数値であるのに対し,後者は,実アドレス上の値であって,本願発明は,「オフセット値」を使用することによりインターリービング処理後に送信されるデータのサイズを減少できる効果を奏することから,両者の技術的意義を看過して「サイズ調整用の情報」を一致点とした審決の判断に誤りがあると判示している。
 また,本判決では,両者を一致点として認定した場合でも,前者が「仮想アドレス」に用いるものであり,後者が「実アドレス」に用いるものである点を相違点として認定していれば,両者を上位概念化して一致点として認定することが許容される旨も判示している。
 本判決は,本願発明と引用発明の一致点の認定において,本願発明と引用発明の技術的意義の差異を看過して,一致点を認定することは許されないが,本願発明と引用発明の両者を包含する上位概念を一致点と認定すること自体が許されないわけではないことを判断した東京高判平成16年9月30日平16(行ケ)66号の判旨に沿うものである。

以上

(文責)弁護士・弁理士 杉尾雄一