平成22年9月8日判決(知財高裁 平成21年(ネ)第10078号)TVブレイク控訴審 1
【判旨】
 動画投稿サイト運営者が,動画投稿サービスを提供し,それにより経済的利益を得るために,その支配管理するウェブサイトにおいて,ユーザの複製行為を誘引し,実際に本件サーバに本件管理著作物の複製権を侵害する動画が多数投稿されることを認識しながら,侵害防止措置を講じることなくこれを容認し,蔵置する行為は,ユーザによる複製行為を利用して,自ら複製行為を行ったと評価することができる。
【キーワード】
動画投稿サイト、著作権侵害主体性、不作為

(1)事案の概要
 ア 本件は,音楽著作物の著作権等管理事業者である原告(JASRAC)が,「TVブレイク」という名称の動画投稿サイト(以下,「本件サービス」  あるいは「本件サイト」という。)を運営する被告会社に対し,被告会社が管理するサーバに原告管理著作物の複製物である動画ファイルが蔵  置され,これが各ユーザのパソコンに送信されているなどとして,著作権(複製権及び公衆送信権)に基づき,当該行為の差止め等を求めた  事案である。
 イ 本件サービスは,「You Tube」や「ニコニコ動画」といった他の動画投稿サイトと類似のサービスである。本件サイトに投稿された動画は,本  件サイトにアクセスした者であれば自由に閲覧することができるが,本件サイトに動画を投稿するためには,本件サイトにおいて会員登録を   する必要がある。平成20年4月24日現在,本件サービスにおける総動画ファイル数は4万1629件,このうち,原告の管理著作物を録画した  動画ファイルは少なくとも2万0613件ある。
 ウ 本件サービスにおいては,他の動画投稿サイトにおいて採用されているような著作権侵害回避のための有効な措置は何ら講じられていな  い。被告会社が著作権侵害防止のために講じていた措置は,動画ファイルのアップロード時に警告を出すことのみである。事後的な削除措   置についても,被告会社は,権利者から権利侵害であることの明白な動画ファイルの削除要求があっても,当該動画ファイルを直ちに削除す  ることはせず,権利者からの度重なる削除要求を受けた後で初めて当該動画ファイルを削除するなどの対応をしていた。
 エ 原審東京地判平成21.11.13平成20(ワ)21902[TVブレイク第一審]は,被告会社の著作権侵害主体性を肯定し,原告の差止請求を認   容した。これに対し,被告会社が控訴。
(2)判旨
   控訴棄却。
 ア 著作権侵害主体の判断枠組み
   「著作権法上の侵害主体を決するについては,当該侵害行為を物理的,外形的な観点のみから見るべきではなく,これらの観点を踏まえた  上で,実態に即して,著作権を侵害する主体として責任を負わせるべき者と評価することができるか否かを法律的な観点から検討すべきであ  る。そして,この検討に当たっては,問題とされる行為の内容・性質,侵害の過程における支配管理の程度,当該行為により生じた利益の帰   属等の諸点を総合考慮」して判断するべきである(原審の判断を是認)。
 イ 直接的な著作権侵害行為の存在
  「本件サービスにおいて,著作権を侵害する動画を本件サーバに投稿する行為を実際に行っているのは,ユーザであって,控訴人らではな   い。したがって,ユーザが本件サービスに投稿する動画の中に,本件管理著作物が利用されている場合には,ユーザが当該動画を本件サー  バに投稿する行為は,ユーザによる本件管理著作物の複製権侵害に該当することはいうまでもないところである。」
 ウ 被告会社の著作権侵害主体性
  「本件サイトは,本件管理著作物の著作権の侵害の有無に限って,かつ,控え目に侵害率を計算しても,侵害率は49.51%と,約5割に達し  ているものであり,このような著作権侵害の蓋然性は,動画投稿サイトの実態それ自体や控訴人会社によるアダルト動画の排除を通じて,控  訴人会社において,当然に予想することができ,現実に認識しているにもかかわらず,控訴人会社は著作権を侵害する動画ファイルの回避   措置及び削除措置についても何ら有効な手段を採っていない。
   そうすると,控訴人会社は,ユーザによる複製行為により,本件サーバに蔵置する動画の中に,本件管理著作物の著作権を侵害するファイ  ルが存在する場合には,これを速やかに削除するなどの措置を講じるべきであるにもかかわらず,先に指摘したとおり,本件サーバには,本  件管理著作物の複製権を侵害する動画が極めて多数投稿されることを認識しながら,一部映画など,著作権者からの度重なる削除要請に   応じた場合などを除き,削除することなく蔵置し,送信可能化することにより,ユーザによる閲覧の機会を提供し続けていたのである。
   しかも,そのような動画ファイルを蔵置し,これを送信可能化して閲覧の機会を提供するのは,控訴人会社が本件サービスを運営して経済   的利益を得るためのものであったこともまた明らかである。
   したがって,控訴人会社が,本件サービスを提供し,それにより経済的利益を得るために,その支配管理する本件サイトにおいて,ユーザの  複製行為を誘引し,実際に本件サーバに本件管理著作物の複製権を侵害する動画が多数投稿されることを認識しながら,侵害防止措置を   講じることなくこれを容認し,蔵置する行為は,ユーザによる複製行為を利用して,自ら複製行為を行ったと評価することができる」。
(3)解説
 ア 問題の所在
   本件は,我が国において動画投稿サイト運営者の著作権侵害主体性が争われた(おそらくは)初めての事案である。本件で問題となった    ような動画投稿サイトについては,一定の割合で第三者の権利を侵害するコンテンツが投稿されているのが実態である。そのため,動画投稿  サイト運営者の多くは,違法コンテンツのアップロードに備えた対策・措置を講じている 。
   しかしながら,そもそも,動画投稿サイトの運営者は,自身が運営するサイトに投稿された違法コンテンツについて,著作権侵害主体として   の責任を負うべき者なのであろうか。直接物理的な侵害行為(違法コンテンツのアップロード(複製,公衆送信))の主体は個々のユーザであ  り,動画投稿サイトの運営者は,「動画投稿サイト」という形態のサービスを提供している者に過ぎないのではないか。動画投稿サイト運営者  の著作権侵害主体性が問題となる所以である。
   以下,本判決の著作権侵害主体性に関する判示を検討していく。
 イ 関連裁判例
  (ア)カラオケ法理による侵害主体性判断
   ⅰ カラオケ法理の登場
     直接物理的な利用行為を行っていない者の著作権侵害主体性について論じた重要な先例は,最判昭和63.3.15民集42巻3号199頁    [クラブキャッツアイ]である。この事案では,客の歌唱行為それ自体は著作権法38条1項の非営利演奏として非侵害であり,また,当時     は,附則14条によりカラオケ店によるカラオケテープの再生も非侵害であったため,権利者側の請求を認容するためには,客による歌唱    行為の主体をカラオケ店経営者であると認定する必要があった。
     かかる事情の下,最高裁は,「客は…,上告人らの従業員による歌唱の勧誘,上告人らの備え置いたカラオケテープの範囲内での選      曲,上告人らの設置したカラオケ装置の従業員による操作を通じて,上告人らの管理のもとに歌唱しているものと解され,他方,上告人ら    は,客の歌唱をも店の営業政策の一環として取り入れ,これを利用していわゆるカラオケスナックとしての雰囲気を醸成し,かかる雰囲気    を好む客の来集を図って営業上の利益を増大させることを意図していた」ことを理由に,カラオケ店経営者の演奏権侵害主体性を肯定し     た。一般的に,同最判は,①カラオケ店経営者が客の歌唱行為を管理しており(管理要件),②それにより利益を得ている(利益要件)とい    う2要件を満たす場合には,同経営者を客による歌唱行為の主体と認定し得る旨を判示したものと解されている(いわゆる「カラオケ法       理」)。
     かかるカラオケ法理は,同最判の事案から明らかな通り,直接的な利用行為者が権利制限規定の適用を受ける場合でも,その他の者     を侵害者とすることにより著作権侵害を肯定するという,適法行為の違法行為への転換ともいうべき機能を有する 。
   ⅱ 下級審裁判例によるカラオケ法理の変容と射程の拡大
     その後,同最判により示されたカラオケ法理は,下級審裁判例により若干の変容が加えられたうえで,直接的な利用行為に対する人的     支配・管理が認められないような事案についてもその射程が拡大されていく。嚆矢となったのは,「ファイルローグ」という名称のインター      ネット上のファイル交換サービス提供者の著作権侵害主体性が問題となった一連の事件である。この事案においては,ファイル交換サー    ビスを利用して直接物理的な複製や公衆送信を行っているのは個々のユーザであったため,同サービスの提供者が著作権侵害の主体と    いえるかかが争点となった。
    かかる事案において,東京地判平成15.1.29判時1810号29頁[ファイルローグ著作権中間判決]は,「〔1〕被告…の行為の内容・性質,    〔2〕利用者のする送信可能化状態に対する被告…の管理・支配の程度,〔3〕被告…の行為によって受ける同被告の利益の状況等を総合    斟酌」するとの判断枠組みの下,サービス提供者の著作権侵害主体性を肯定している 。
     このファイルローグ事件以降,同事件と同様の判断枠組によりインターネット上のサービス提供者の著作権侵害主体性を肯定する裁判    例が続く。かかる裁判例として,インターネットを利用したテレビ番組の転送サービスの提供者について著作権侵害主体性を肯定した東京    地決平成16.10.7判時1895号120頁[録画ネット],東京地決平成17.5.31(平成16(モ)15793)[同仮処分異議],知財高決平成        17.11.15(平成17年(ラ)10007)[同抗告審],平成19.3.30(平成18年(ヨ)22046)[ロクラク2第一審]などを挙げることができる 。
     これらの裁判例においては,カラオケ法理の管理要件における「管理」の対象が,直接的な利用行為者の「行為」から,利用行為を誘発    する「サービス」ないし「システム」に変容しているということが指摘されている 。
   ⅲ カラオケ法理の射程拡大への警鐘
     このような裁判例の傾向に対し,学説上は,適法行為の違法行為への転換という機能を有するカラオケ法理の射程は,直接,人的な関    係により物理的に直接的利用行為者を支配している事案に限定されるべきであるとの見解も有力である 。
     近時は,裁判例においても,カラオケ法理(の変容法理)による適法行為の違法行為への転換について警鐘を鳴らすものが現れている     (知財高判平成21.1.26(平成20(ネ)10055,同10069)[ロクラク2控訴審])。
     同判決は,インターネットを利用したTV番組転送サービスの提供者につき,個々の利用者の行為が適法な私的利用行為であることを前    提に,「控訴人が提供する本件サービスは,利用者の自由な意思に基づいて行われる適法な複製行為の実施を容易ならしめるための環    境,条件等を提供しているにすぎない」などと判示してその著作権侵害主体性を否定しており,注目される 。
  (イ)不作為を理由に侵害主体性を肯定する裁判例
    他方,BBS 上に原告の著作権を侵害する書き込みがなされたという事案において,カラオケ法理(ないしその変容法理)を用いることなく,   「不作為」を理由として当該BBS管理者の著作権侵害主体性を肯定する裁判例も存在する(東京地判平成16.3.11判時1893号131頁[2   ちゃんねる小学館第一審],東京高判平成17.3.3判時1893号126頁[同控訴審])。この事案では,直接的な侵害行為であるBBSに対する   書き込み(複製,公衆送信)を行ったのはユーザであるため,直接的な行為者ではない当該BBSの管理者が著作権侵害の主体といえるか   が問題となった。
    かかる事案において,上記両判決は,自身が管理するBBSに著作権を侵害する書き込みがなされたことを知り(得)ながら,これを「放置」   したという不作為を理由に,BBS管理者の著作権侵害主体性を肯定している(以下,両判決の判断枠組みを「不作為構成」という。) 。
  (ウ)最高裁判決によるカラオケ法理及び不作為構成の統合的理解
    以上のような状況の中,平成23年1月,TV番組転送サービスを提供する事業者の著作権侵害主体性が問題となった事案に関して,立て   続けに2件の最高裁判決が出されている(最判平成23.1.18(平成21(受)653)[まねきTV上告審] ,最判平成23.1.20(H21(受)788)[ロ   クラク2上告審] )。両判決は,いずれも,原審において上記サービス提供者の著作権侵害主体性が否定されていたところ,最高裁がかかる   原審の判断を否定したというものである。
   両判決のうち,特に注目されるのが最判[ロクラク2上告審]である。同判決は,複製の主体を判断する際の考慮要素につき,「複製の主体の   判断に当たっては,複製の対象,方法,複製への関与の内容,程度等の諸要素を考慮して,誰が当該著作物の複製をしているといえるかを   判断するのが相当である」と判示している。かかる基準により複製主体を判断する場合,カラオケ法理適用の際に考慮されてきた①管理要   件及び②利益要件や,不作為構成による侵害主体性判断の際に考慮されていた③著作権侵害に対する認識・容認などは,いずれも,紛争   類型に応じた著作権侵害主体性判断のための一要素に過ぎないことになる 。実際,最判[ロクラク2上告審]は,カラオケ法理適用の際の要   件ないし考慮要素とされてきた上記②の利益要件について,明示的には言及していない。
   同判決は,カラオケ法理を再構成ないし再評価し,種々の要素を考慮して著作権侵害主体を認定・判断することを積極的に肯定した判決と   位置付けることが可能である。
 ウ 本判決の位置付け
  (ア)本判決の判断枠組とあてはめ
    先に述べたような本判決以前の裁判例の傾向を意識してか,本件原告は,被告会社につき,主位的にカラオケ法理(の変容法理)による    侵害主体性の肯定を,予備的に不作為構成による侵害主体性の肯定を主張している。
    これに対し,原審は,「問題とされる行為の内容・性質,侵害の過程における支配管理の程度,当該行為により生じた利益の帰属等の諸点   を総合考慮」して,被告会社の著作権侵害主体性を肯定した。かかる原審の判示は,原告の主位的請求に応えてのものであり,カラオケ法   理(の変容法理)により被告会社の著作権侵害主体性を肯定したものと解される 。
    本判決は,上記原審の判断枠組みを是認したうえで,被告会社の著作権侵害主体性を判断しており,原判決と同様,カラオケ法理(の変    容法理)により被告会社の著作権侵害主体性を肯定した判決と位置付けることが可能である。
  (イ)最判[ロクラク2上告審]との関係等
    もっとも,本判決は,原判決の著作権侵害主体性に関する結論部分を改め(上記(2)ウ参照),被告会社が,本件サービスにおいて原告    管理著作物の著作権を侵害する動画が多数投稿されることを認識しながら,あえてこれを放置していたことを強調する内容としている。かか   る本判決の判示は,前掲東京地判[2ちゃんねる小学館第一審],前掲東京高判[同控訴審]が採用する不作為構成を念頭においてのものと    も思われ,注目される。本判決後の最判[ロクラク2上告審]をも併せて考慮すれば,本判決は,BBSや動画投稿サイトなどといったユーザに   よる適法行為と違法行為が混在し得るサービスを提供する者については,その著作権侵害主体性の判断にあたり,違法行為に対する認識   及びその容認という要素が重視されることを確認した判決ということも可能である。
    いずれにせよ,本判決は,被告会社が動画投稿サイトの運営にあたり有効な著作権侵害回避措置を講じていなかったことを重視して被告   会社の著作権侵害主体性を肯定したものであり,動画投稿サイト運営者一般についての著作権侵害主体性を肯定する趣旨でないことは明   らかである。


本判決に対しては,平成22年9月22日付で,控訴人(被告)側から上告受理の申立てがなされているが、最高裁は、平成24年3月29日、当 該申立てを不受理とする決定を行っている(最決平成24年3月29日平成22年(受)第2463号)。
他の動画投稿サイトにおいて採用されている著作権侵害回避のための措置については,原判決59頁の認定を参照。
著作権の間接侵害に関する裁判例の動向については,田村善之「著作権の間接侵害」知的財産法政策学研究26号35頁(2010年)(初出   は,田村善之「著作権の間接侵害」第二東京弁護士会知的財産権法研究会編『著作権法の新論点』293頁-295頁(商事法務,2008年)), 吉田克己「著作権の「間接侵害」と差止請求」知的財産法政策学研究14号143頁(2007年)が詳しい。
田村・前掲注(7)38頁。
同一サービスに関する先行仮処分申立事件である東京地決平成14.4.11判時1780号25頁[ファイルローグ著作権仮処分],控訴審判決であ る東京高判平成17.3.31(平成16年(ネ)405)[ファイルローグ著作権控訴審]も同様の判断をしている。
なお,カラオケ法理によりつつ著作権侵害主体性を否定した例として,東京地判平成20.6.20(平成19(ワ)5765)[まねきTV第一審],知財高 判平成20.12.15判時2038号110頁[まねきTV控訴審]。
吉田・前掲注(7)160頁以下,田村・前掲注(7)53頁。
田村・前掲注(7)66頁以下。
なお,同判決の判断枠組みによれば,前掲東京地決[録画ネット]等は非侵害になると説くものとして,田村・前掲注(7)65頁。
10Bulletin Board Systemの略。電子掲示板。
11高瀬亜富「判批」知的財産法政策学研究17号137頁(2007年)。
12山田真紀「判解」L&T 51号95頁(2011年)。
13柴田義明「判解」L&T 51号105頁(2011年)。
14柴田・前掲注(17)108頁。最判[ロクラク2上告審]金築誠志裁判長の補足意見も参照。
15佐藤豊「動画投稿サイトの運営者の法的責任に関して―TVブレイク事件(東京地判平成21.11.13平成20(ワ)21902)を題材に」パテント  63巻7号68頁(2010年)。
                                                                         (文責)弁護士 高瀬亜富