平成24年2月2日判決(最高裁第一小法廷 民集66巻2号89頁)
【判旨】
①人の氏名,肖像等は,個人の人格の象徴であるから,当該個人は,人格権に由来するものとして,これをみだりに利用されない権利を有する。
②肖像等を無断で使用する行為は,〔1〕肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し,〔2〕商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し,〔3〕肖像等を商品等の広告として使用するなど,専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に,パブリシティ権を侵害するものとして,不法行為法上違法となる。
【キーワード】
パブリシティ権,人格権,肖像,ピンクレディ

第1 事案
1 本件は,上告人らが,上告人らを被写体とする14枚の写真を無断で週刊誌に掲載した被上告人に対し,上告人らの肖像が有する顧客吸引力を排他的に利用する権利が侵害されたと主張して,不法行為に基づく損害賠償を求めた事案である。
2 (1)上告人らは,昭和51年から昭和56年まで,女性デュオ「ピンク・レディー」(以下,単に「ピンク・レディー」という。)を結成し,歌手として活動をしていた者である。ピンク・レディーは,子供から大人に至るまで幅広く支持を受け,その曲の振り付けをまねることが全国的に流行した。
  (2)被上告人は,書籍,雑誌等の出版,発行等を業とする会社であり,週刊誌「女性自身」を発行している。
3 平成18年秋頃には,ダイエットに興味を持つ女性を中心として,ピンク・レディーの曲の振り付けを利用したダイエット法が流行した。
4 被上告人は,平成19年2月13日,同月27日号の上記週刊誌(縦26cm,横21cmのAB変型版サイズで約200頁のもの。以下「本件雑誌」という。)を発行し,その16頁ないし18頁に「ピンク・レディーdeダイエット」と題する記事(以下「本件記事」という。)を掲載した。
 本件記事は,タレント(以下「本件解説者」という。)がピンク・レディーの5曲の振り付けを利用したダイエット法を解説することなどを内容とするものであり,本件記事には,上告人らを被写体とする14枚の白黒写真(以下「本件各写真」という。)が使用されている。
5 本件雑誌16頁右端の「ピンク・レディーdeダイエット」という見出しの上部には,歌唱している上告人らを被写体とする縦4.8cm,横6.7cmの写真が1枚掲載されている。
 本件雑誌16頁及び17頁には上下2段に分けて各1曲の振り付けを,同18頁の上半分には残りの1曲の振り付けをそれぞれ利用したダイエット法が解説されている。上記の各解説部分には,それぞれのダイエット効果を記述する見出しと4コマのイラストと文字による振り付けの解説などに加え,歌唱している上告人らを被写体とする縦5cm,横7.5cmないし縦8cm,横10cmの写真が1枚ずつ,本件解説者を被写体とする写真が1枚ないし2枚ずつ掲載されている。
 本件雑誌17頁の左端上半分には,ピンク・レディーの曲の振り付けを利用したダイエット法の効果等に関する記述があり,その下には水着姿の上告人らを被写体とする縦7cm,横4.4cmの写真が1枚掲載されている。また,同頁の左端下半分には,本件解説者が子供の頃にピンク・レディーの曲の振り付けをまねていたなどの思い出等を語る記述がある。 
 本件雑誌18頁の下半分には「本誌秘蔵写真で綴るピンク・レディーの思い出」という見出しの下に,上告人らを被写体とする縦2.8cm,横3.6cmないし縦9.1cm,横5.5cmの写真が合計7枚掲載されている。その下には,本件解説者とは別のタレントが上記同様の思い出等を語る記述があり,その左横には,上記タレントを被写体とする写真が1枚掲載されている。
6 本件各写真は,かつて上告人らの承諾を得て被上告人側のカメラマンにより撮影されたものであるが,上告人らは本件各写真が本件雑誌に掲載されることについて承諾しておらず,本件各写真は,上告人らに無断で本件雑誌に掲載された。
7 以上の事実関係のもと,上告人らは,被上告人に対し,パブリシティ権の侵害を理由に損害賠償を求めて提訴したが,第一審東京地判平成20年7月4日判時2023号152頁,原審知財高判平成21年8月27日判時2060号137頁は,いずれも上告人らの請求を棄却した。これに対し,上告人らが上告。

第2 判旨 ―上告棄却―
1 パブリシティ権の法的性質と侵害要件

「人の氏名,肖像等(以下,併せて「肖像等」という。)は,個人の人格の象徴であるから,当該個人は,人格権に由来するものとして,これをみだりに利用されない権利を有すると解される(氏名につき,最高裁昭和58年(オ)第1311号同63年2月16日第三小法廷判決・民集42巻2号27頁,肖像につき,最高裁昭和40年(あ)第1187号同44年12月24日大法廷判決・刑集23巻12号1625頁,最高裁平成15年(受)第281号同17年11月10日第一小法廷判決・民集59巻9号2428頁各参照)。そして,肖像等は,商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合があり,このような顧客吸引力を排他的に利用する権利(以下「パブリシティ権」という。)は,肖像等それ自体の商業的価値に基づくものであるから,上記の人格権に由来する権利の一内容を構成するものということができる。他方,肖像等に顧客吸引力を有する者は,社会の耳目を集めるなどして,その肖像等を時事報道,論説,創作物等に使用されることもあるのであって,その使用を正当な表現行為等として受忍すべき場合もあるというべきである。そうすると,肖像等を無断で使用する行為は,〔1〕肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し,〔2〕商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し,〔3〕肖像等を商品等の広告として使用するなど,専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に,パブリシティ権を侵害するものとして,不法行為法上違法となると解するのが相当である。」
2 あてはめ
「これを本件についてみると,前記事実関係によれば,上告人らは,昭和50年代に子供から大人に至るまで幅広く支持を受け,その当時,その曲の振り付けをまねることが全国的に流行したというのであるから,本件各写真の上告人らの肖像は,顧客吸引力を有するものといえる。
 しかしながら,前記事実関係によれば,本件記事の内容は,ピンク・レディーそのものを紹介するものではなく,前年秋頃に流行していたピンク・レディーの曲の振り付けを利用したダイエット法につき,その効果を見出しに掲げ,イラストと文字によって,これを解説するとともに,子供の頃にピンク・レディーの曲の振り付けをまねていたタレントの思い出等を紹介するというものである。そして,本件記事に使用された本件各写真は,約200頁の本件雑誌全体の3頁の中で使用されたにすぎない上,いずれも白黒写真であって,その大きさも,縦2.8cm,横3.6cmないし縦8cm,横10cm程度のものであったというのである。これらの事情に照らせば,本件各写真は,上記振り付けを利用したダイエット法を解説し,これに付随して子供の頃に上記振り付けをまねていたタレントの思い出等を紹介するに当たって,読者の記憶を喚起するなど,本件記事の内容を補足する目的で使用されたものというべきである。
 したがって,被上告人が本件各写真を上告人らに無断で本件雑誌に掲載する行為は,専ら上告人らの肖像の有する顧客吸引力の利用を目的とするものとはいえず,不法行為法上違法であるということはできない。」

第3 若干の検討
1 パブリシティ権の法的性質について

  本判決は,肖像等に生じる顧客吸引力を排他的に利用する権利(パブリシティ権)は,人格権に由来する権利の一内容を構成すると判示した。パブリシティ権の法的性質については諸説あるが,本件最高裁判決は,パブリシティ権は人格権に由来するものであるとの立場を明示したものである。このような立場は,論理必然ではないものの,パブリシティ権の譲渡性・相続性を否定する考え方に結びつきやすい。
  以上のような理解を前提とすると,死者の肖像を使用する場合にはパブリシティ権侵害が成立する可能性は低いといえる。ただし,たとえば写真を使用する場合には,別途,写真著作物についての権利処理が必要となり得る。この点には注意が必要である。
2 侵害要件について
 (1)本判決は,パブリシティ権侵害が成立するのは,「専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とする」場合であるとした。そのうえで,本判決は。パブリシティ権侵害が成立する例として,以下の3類型を上げている。
①肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用する場合
②商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付す場合
③肖像等を商品等の広告として使用する場合
 (2)本判決以前,パブリシティ権の侵害要件をめぐっては,専ら顧客吸引力の利用を目的とするものであるか否かを基準とする「専ら」基準説(東京高判平成11・2・24 判例集未登載〔キング・クリムゾン事件〕, 東京地判平成12・2・29 判タ1028 号232 頁〔中田英寿事件〕等)を採用する裁判例が多かった。もっとも,裁判例では上記以外にも種々の見解が唱えられており,その中でも最も限定的な判断基準の一つとされていたのが,肖像等の利用態様に着目し,肖像等の有するキャラクターの価値を商品化し,又は広告として利用するものであるか否かを基準とする「商品化又は広告」基準説である(東京地判平成17・8・31 判タ1208 号247 頁〔@ブブカ事件〕)があった(同旨を説いていた学説として,田村善之『不正競争法概説』(有斐閣,第2版,2003年)512頁以下)。
 (3)本判決は,形式的には「専ら」基準説を採用したように見えるが,上記3 類型を精査すれば,第1 類型(上記①)と第2 類型(上記②)は肖像等の有するキャラクターの価値を「商品化」する場合を指し, 第3 類型(上記③)は肖像等を「広告化」する場合を指していると解することもできる。
 以上のような理解によれば,本判決は,形式的には「専ら」基準説を採用しつつも,実質的にはそこに「商品化又は広告」基準説の考え方を取り入れるものであり,さらに,これと同等の違法性を含む場合にもパブリシティ権侵害の成立を肯定する(上記3類型は例示として挙げられているにすぎないため,上記3類型に該当しない場合でもパブリシティ権侵害が成立することは有り得る)見解であると評し得る(中島基至「判解」ジュリスト1445号88頁(2012年))。
 (4)パブリシティ権侵害について考える際には,本判決を参照することが必須である。

 以上

2013.10.1 弁護士 高瀬 亜富