【ポイント】
類似する4つの構成のうちの1つの構成を変更したことをもって均等第1要件の「本質的部分」の変更にあたるとして、均等第1要件を否定した事例。
【キーワード】
均等第1要件、本質的部分

【事案の概要】
Xら(控訴人、X1およびX2):特許1及び特許2の特許権者
Y(被控訴人):Xの有する特許権を侵害するとして提訴された者

Xは,Yによる各製品の製造,販売等が本件各特許権を侵害するとしてY各製品の製造,販売等の差止め及び廃棄等を求めた。

原審は,被告各製品は本件発明1の構成要件Jを充足せず、その均等侵害も認められず、また被告各製品は本件発明2の構成要件A、Bを充足せず,その技術的範囲に属するものとは認められないとして,請求を棄却した。

そこで、Xは、これを不服として本件控訴を提起した。

【争点】
構成要件Jの「腰部骨格連結部」の「第一嵌入杆」と「嵌合穴」との嵌合を「回動可能」なものとする構成が均等の第1要件の「本質的部分」といえるか否か。

[原判決]
本件発明1の構成のうち,被告各製品との相違部分である「腰部骨格連結部」の「第一嵌入杆」と「胴部下端骨格連結部」の「嵌合穴」とを回動可能に連結する構成は,本件発明1の目的ないし作用効果の重要部分を実現するために複合的に機能する構成中の不可欠な部分をなすものということができるから,本件発明1の本質的部分に当たるものというべきである。

【控訴審結論】
当裁判所も,被控訴人各製品は,いずれも本件各発明の技術的範囲に属するとは認められないから,控訴人の請求をいずれも棄却すべきものと判断する。

【判旨抜粋】
(1) 原判決の本件発明1についての判断の不当性の主張について
ア 被控訴人各製品は,「腰部用連結部」の「嵌合部」(第一嵌入杆)が,「腰部骨格」にある「腹部用連結部」の「嵌合部受け」(嵌合穴)に回動しないように規制されて嵌合されているため,本件発明1の構成要件のうち,構成要件Jの「腰部骨格連結部」の「第一嵌入杆」と「嵌合穴」との嵌合を「回動可能」なものとする構成(原判決のいう「本件相違部分」である。)を備えていない。この点について,控訴人は,公知技術との関連からの判断を一旦抜きにして考えると,本件発明1にとってこの部位が「回動可能」であることは発明の本質的部分ではあり得ないから,これを本件発明1にとって発明の本質的部分であるとして均等の第1要件を否定した原判決の判断は誤りであると主張する。
均等の第1要件「特許請求の範囲に記載された構成中の対象製品等と異なる部分が特許発明の本質的部分ではないこと」にいう「本質的部分」とは,特許請求の範囲に記載された特許発明の構成のうちで,当該特許発明特有の課題解決手段を基礎づける特徴的な部分をいうものと解される。これを本件発明1についてみると,本件明細書1の記載によれば,前記(引用に係る原判決76頁12行~77頁10行)のとおり,本件発明1は,上半身から下半身まで連続した一連の骨格群を有し,所望箇所で屈曲動作ができるとともに,自立が可能で,かつ様々な姿態を一定時間維持できる技術的構造を有するとともに,軽量・コスト安価な大型の人形を提供することを目的とし,これを達成するための手段として,本件発明1の構成要件AないしLのとおりの骨格構造を採用し,もって,大型の人形において外皮部分をソフトビニル製で構成しても,自立が可能で,かつ様々な姿態を一定時間維持できるとともに,軽量でかつ軟質なため,落下・転倒などしても安全で,破損も防げるという作用効果を奏するものである。そして,本件発明1の構成においては,構成要件J及びKのとおり,①「腰部骨格連結部」と「腹骨格部」との揺動可能な連結,②「腰部骨格連結部」の「第一嵌入杆」と「胴部下端骨格連結部」の「嵌合穴」との回動可能な連結,③「胸部骨格連結部」と「腹骨格部」との揺動可能な連結,及び④「胸部骨格連結部」の「第二嵌入杆」と「胸骨格部」の「嵌合穴」との回動可能な連結という合計4か所の揺動可能又は回動可能な連結構造が存在するところ,本件発明1の特許請求の範囲の記載と本件明細書1の記載を総合すれば,上記各連結構造は,本件発明1の目的ないし作用効果のうち,人形を「所望箇所で屈曲動作ができる」とともに,「様々な姿態を一定時間維持できる」ものとするための構成にほかならず,しかも,これら4か所の連結構造が複合的に機能することによって,「所望箇所」での屈曲動作や「様々な姿態」の維持が実現されるという関係にある。そして,上記4か所の揺動可能又は回動可能な連結構造のうち1部位を回動不能とした場合には,当該部位を回動可能とすることによってとれた様々な姿態のうち一部の姿態がとれなくなる,すなわち,本件発明1の奏する効果の一部を得られなくなることが明らかである。
したがって,本件相違部分は,本件発明1の構成のうちで,同発明特有の課題解決手段を基礎づける特徴的な部分であると認められ,本件発明1の本質的部分に当たる構成である。また,特許発明特有の課題解決手段を基礎づける特徴的な部分を認定するに当たっては,従来技術では達成し得なかった技術的課題の解決を実現するための従来技術に見られない特有の技術的思想に基づく解決手段の具体的構成を特定することが必要であるから,公知技術との関連を抜きに検討することはできず,控訴人の上記主張は,前提においても誤りというべきである。
イ 控訴人は,仮に揺動・回動構成が本件発明1の本質的部分であるとしても,揺動・回動構成の1部位に限った回動規制は発明の全体の構成としての重要性は僅か8分の1にすぎず,この1部位を回動不能にしたからといって本件発明1の本質的部分が変更されたと評価し得ないと主張する。しかし,本件発明1における4か所の揺動可能又は回動可能な連結構造は,本件発明1の目的ないし作用効果のうち,人形を「所望箇所で屈曲動作ができる」とともに,「様々な姿態を一定時間維持できる」ものとするための構成にほかならず,これら4か所の連結構造が複合的に機能することによって「所望箇所」での屈曲動作や「様々な姿態」の維持が実現されるという関係にある。本件発明1の上記4か所の連結構造のうち1部位に限った回動規制の重要性は,控訴人が主張するように8分の1にすぎないか否かはともかく,発明全体の構成の一部にすぎないとしても,この部位を回動不能にしたことによって,それまでとれていた様々な姿勢のうち一部の姿勢がとれなくなり,作用効果の一部が損なわれ,本件発明1と同じ効果は得られなくなることは,上記のとおりである。したがって,本件発明1の上記4か所の連結構造のうち,1部位を回動不能とすることは,本件発明1の本質的な部分を変更するものというべきである。
控訴人は,被控訴人各製品は,前記第一嵌入杆と腰部骨格との連結箇所を回動しないようにしても,何等商品価値が変わらないものであるから,当該箇所(第一嵌入杆と腰部骨格との連結箇所)は本質的部分ではないと主張する。しかし,第一嵌入杆と腰部骨格との連結箇所を回動しないようにした被控訴人各製品が,同部位を回動不能にしたことによって,それまでとれていた様々な姿勢のうち一部の姿勢がとれなくなり,作用効果の一部が損なわれ,本件発明1と同じ効果は得られなくなることは上記のとおりであり,このことは,被控訴人各製品の商品価値に変わりがあるか否かとは関係がない。控訴人の上記主張は,失当というほかない。

【解説】
本判決は、均等の第1要件(本質的部分)につき、本件発明1の構成のうち,被告各製品との相違部分である構成要件Jの「腰部骨格連結部」の「第一嵌入杆」と「嵌合穴」との嵌合を「回動可能」なものとする構成は,本件発明1の目的ないし作用効果の重要部分を実現するために複合的に機能する構成中の不可欠な部分をなすものであり,本件発明1の本質的部分に当たるとした原審の判断を是認した。
本件発明1の構成においては,構成要件J及びKのとおり,合計4か所の揺動可能又は回動可能な連結構造が存在するところ,上記各連結構造は,本件発明1の目的ないし作用効果のうち,人形を「所望箇所で屈曲動作ができる」とともに,「様々な姿態を一定時間維持できる」ものとするための構成にほかならず,しかも,これら4か所の連結構造が複合的に機能することによって,「所望箇所」での屈曲動作や「様々な姿態」の維持が実現されるという関係にあり、上記4か所の揺動可能又は回動可能な連結構造のうち1部位を回動不能とした場合には,当該部位を回動可能とすることによってとれた様々な姿態のうち一部の姿態がとれなくなり、本件発明1の奏する効果の一部を得られなくなることをその根拠としている。
しかし、合計4カ所で揺動可能又は回動可能な連結構造を実現しているとしても、そのうちの1部位を回動不能としたとしても、おおよそ本件発明1の奏する効果が得られるものであり、これをもって本質的部分の変更とまでいえるかは判旨のみでは判断しがたい。
クレーム作成にあたっては、合計4カ所のうち、いずれか1つを揺動可能又は回動可能な構造とするというように、選択的な記載を採り入れることが肝要である。

2012.10.22 (文責)弁護士・弁理士 和田祐造