【判旨】
・被告作品の魚の引き寄せ画面は,アイデアなど表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において原告作品の魚の引き寄せ画面と同一性を有するにすぎないものというほかなく,これに接する者が原告作品の魚の引き寄せ画面の表現上の本質的な特徴を直接感得することはできないから,翻案に当たらない。
・被告作品の画面の変遷並びに素材の選択及び配列は,アイデアなど表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において原告作品のそれと同一性を有するにすぎないものというほかなく,これに接する者が原告作品の画面の変遷並びに素材の選択及び配列の表現上の本質的な特徴を直接感得することはできないから,翻案に当たらない。
【キーワード】
アイデア・表現二分論 

1 事案の概要 
 本件は,原告が,被告らに対し,被告らが共同で製作し公衆に送信している携帯電話機用インターネット・ゲームソフト「釣りゲータウン2」(以下「被告作品」という。)は,原告が製作し公衆に送信している携帯電話機用インターネット・ゲームソフト「釣り□スタ」(以下「原告作品」という。)と,魚を引き寄せる動作を行う画面の影像及びその変化の態様や,ユーザーがゲームを行う際に必ずたどる画面(主要画面)の選択及び配列並びに各主要画面での素材の選択及び配列の点等において類似するので,被告作品を製作してこれを公衆送信する行為は,原告の原告作品に係る著作権(翻案権,公衆送信権)及び著作者人格権(同一性保持権)を侵害すると主張して,差止等を請求した事件である。

2 争点
・「魚の引き寄せ画面」に係る著作権侵害及び著作者人格権(同一性保持権)の成否
・ 主要画面の変遷に係る著作権及び著作者人格権(同一性保持権)の侵害の成否

3 判旨要旨
(1) 原告作品の魚の引き寄せ画面と被告作品の魚の引き寄せ画面の共通する部分は,表現それ自体ではない部分又は表現上の創作性がない部分にすぎず, また, その具体的表現においても異なるものである。
 そして, 原告作品の魚の引き寄せ画面と被告作品の魚の引き寄せ画面の全体について,水中が描かれた部分の輪郭が異なり, そのため, 同心円が占める大きさや位置関係が異なる。また, 被告作品においては, 同心円の大きさ, パネルの配色及び中心の円の部分の図柄が変化することや, 引き寄せメーターの位置及び態様, 魚影の描き方及び魚影と同心円との前後関係等の具体的表現においても相違する。
   以上のような原告作品の魚の引き寄せ画面との共通部分と相違部分の内容や創作性の有無又は程度に鑑みると, 被告作品の魚の引き寄せ画面に接する者が, その全体から受ける印象を異にし,原告作品の表現上の本質的な特徴を直接感得できるということはできない。
 以上のとおり, 被告作品の魚の引き寄せ画面は, アイデアなど表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において原告作品の魚の引き寄せ画面と同一性を有するにすぎないものというほかなく,表現上の本質的な特徴を直接感得することはできないから,翻案に当たらない。

 (2) 原告作品と被告作品とは,いずれも,「トップ画面」,「釣り場選択画面」,「キャスティング画面」, 「魚の引き寄せ画面」及び「釣果画面( 釣り上げ成功時又は釣り上げ失敗時) 」が存在し, その画面が, ユーザーの操作に従い, ① 「トップ画面」→ ② 「釣り場選択画面」→ ③ 「キャスティング画面」→ 「魚の引き寄せ画面」→ ④ 「釣果画面( 釣り上げ成功時) 」又は「釣果画面( 釣り上げ失敗時) 」の順に変遷し, 上記④ 「釣果画面( 釣り上げ成功時) 」又は「釣果画面( 釣り上げ失敗時) 」から上記① の「トップ画面」に戻ることなくゲームを繰り返すことができる点において, 共通する。
 しかし, 原告作品及び被告作品は, いずれも携帯電話機用釣りゲームであり, 基本的な釣り人の一連の行動を中心として, この社会的事実の多くを素材として取り込み, 釣り人の一連の行動の順序に即して配列し構成したものである。
 上記のような画面を備えた釣りゲームが従前から存在していたことにも照らすと, 釣りゲームである原告作品と被告作品の画面の選択及び順序が上記のとおりとなることは, 釣り人の一連の行動の時間的順序から考えても, 釣りゲームにおいてありふれた表現方法にすぎないものということができる。また, 被告作品には, 原告作品にはない画面があり,逆に原告作品にある画面がないなどの点においても異なること, 原告作品と被告作品とはその他にも具体的相違点があることも併せ考えると, 上記の画面の変遷に共通性があるからといって, 表現上の本質的な特徴を直接感得することができるとはいえない。
 トップ画面, 釣り場選択画面, キャスティング画面, 釣果画面についても同様であり,被告作品の画面の変遷並びに素材の選択及び配列は, アイデアなど表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において原告作品のそれと同一性を有するにすぎないものというほかなく, 表現上の本質的な特徴を直接感得することができない。

 (3) 被告作品の魚の引き寄せ画面は,原告作品の魚の引き寄せ画面の表現上の本質的な特徴を直接感得することができない。よって, Y らが魚の引き寄せ画面を含む被告作品を製作したことは, X の翻案権を侵害するものとはいえず, これを配信したことは, 著作権法2 8 条による公衆送信権を侵害するということもできない。また, 同様に, Y らが魚の引き寄せ画面を含む被告作品を製作したことが, X の同一性保持権を侵害するということもできない。
 画面の変遷並びに素材の選択及び配列についても同様である。

4 検討・考察
 著作権侵害となるかどうかを検討するにあたり、常に問題となるのは、どの程度分析的に検討するかどうかという点である。つまり、分析的に見れば見るほど創作性が認められにくく、集合的に見れば見るほど創作性は認められやすいのが通常である。例えば、言語の著作物などは典型例で、1文で見るのか、段落で見るのか、1つの作品でみるのかで、創作性の有無は大きく異なる。実務的にもしばしば直面する問題であり、本件でも原告は集合的にとらえるよう主張し、被告は分析的にとらえるよう主張した。
 この点について、 知財高裁は、次のように判示している。
 「第1審原告は,創作性は著作物を全体的に観察して判断されるもので,一つのまとまりのある著作物を個々の構成部分に分解して,パーツに分けて創作性の有無や,アイデアか表現かを判断することは妥当ではないとも主張する。しかしながら,著作物の創作的表現は,様々な創作的要素が集積して成り立っているものであるから,原告作品と被告作品の共通部分が表現といえるか否か,また表現上の創作性を有するか否かを判断する際に,その構成要素を分析し,それぞれについて表現といえるか否か,また表現上の創作性を有するか否かを検討することは,有益であり,かつ必要なことであって,その上で,作品全体又は侵害が主張されている部分全体について表現といえるか否か,また表現上の創作性を有するか否かを判断することが,正当な判断手法ということができる・・・。」
 私見では、ゲーム画面等のパーツの集合からなる性質の著作物については、原則として分析的に判断するべきである。仮にその集合について、創作性の有無を問題としたいのであれば、編集著作物であると主張すべきである。したがって、この知財高裁の判断枠組みは正当であると考える。

以上

2012.7.2 (文責)弁護士 溝田宗司