【ポイント】
中間判決後の先使用の抗弁、権利濫用の抗弁、公知技術の抗弁に係る主張が時機に後れた防御方法として却下された事例。
【キーワード】
時機に後れた攻撃防御方法、民事訴訟法157条1項、中間判決

【事案の概要】
X:特許権者
Y:Xの有する特許権を侵害するとして提訴された者

XはYに対して、X特許権を侵害するとして、Y製品の製造、譲渡、輸出等の差止、損害賠償請求訴訟を提起した。
原審は、Y製品が技術的範囲に属さないことを理由にX請求をいずれも棄却した。
これに対してXが原判決の取消しを求めて控訴したのが本件である。

【争点】
中間判決後に出された侵害論に関する主張が、時機に後れた防御方法として却下されるか。

【結論】
Yにより中間判決後においてされた、先使用の抗弁、権利濫用の抗弁、公知技術の抗弁に係る主張、侵害論に関する書証の提出、証人尋問及び検証の申出は、いずれも被告の重大な過失によって時機に後れて提出された防御方法であり、これにより訴訟の完結を遅延させることとなるから、いずれも却下すると判断した。

【判旨抜粋】
1 「時機に後れたこと」、「故意又は重大な過失」について
「以上によれば,①被告が本件特許出願前に側面に切り込みが入った切餅を製造,販売していたか否かは,原審の第1回弁論準備手続において被告が上記主張をした後,本訴のみならず,無効審判請求及び審決取消訴訟においても,原告及び被告間において主要な争点となっていたこと,②被告において,当審の第1回口頭弁論に至るまで,充分にこの点について主張,立証及びその補充をする機会を有しており,被告は,原審の第7回弁論準備手続及び当審の第1回口頭弁論において,侵害論について他に主張,立証はない旨陳述していたこと,③被告は,本件特許出願前に被告が側面に切り込みが入った切餅を製造,販売していた事実を排斥した中間判決を受けた後,当審における弁論準備期日が終結され,最終口頭弁論期日が指定された後に,島田弁護士を解任したこと,④新たな訴訟代理人において,被告が本件特許出願前に側面に切り込みが入った切餅を製造,販売していたことについての主張と実質的には同一の主張である,先使用の抗弁,権利濫用の抗弁,公知技術(自由技術)の抗弁に係る主張及び乙45ないし150の提出,証人尋問及び検証の申出をするに至ったこと,⑤被告ないし島田弁護士らにおいて,上記防御方法の提出に格別の障害があったとは認められないことを総合すれば,被告の上記防御方法の提出は,時機に後れた防御方法に当たり,少なくとも重大な過失があったものと認められる。」

2 訴訟の完結を遅延させることについて
「上記のとおり,被告は,当審における口頭弁論終結間際になって,先使用の抗弁,権利濫用の抗弁,公知技術(自由技術)の抗弁に係る主張及び乙45ないし150の提出,証人尋問及び検証の申出をするに至ったものである。この点,上記先使用の抗弁,権利濫用の抗弁,公知技術(自由技術)の抗弁に係る主張は,①実質的に,被告が本件特許出願前に側面に切り込みが入った切餅を製造,販売していたことに関する審理の蒸し返しにすぎないこと,②これを裏付けるものとして新たに提出された乙45ないし150には,関係者の陳述書,被告側内部で行われたことに関連する資料等が多数含まれ,原告において反論するのに多大の負担を強いること,③原審における証人調べの結果や被告の従前の主張と矛盾,齟齬する部分が数多く存在すること,④とりわけ,仮に,被告が,平成14年10月に,側面に切り込みが入った切餅を製造,販売していたことを前提とするならば,被告が平成15年7月に「被告特許②」(「上面,下面,及び側面に切り込みを入れたことを特徴とする切り餅」)について特許出願をしたことと整合性を欠くことになるが,その点については,何ら合理的な説明がされていないこと等を総合考慮すると,被告主張に係る事実の真偽を審理,判断するためには,更に原告による反論及び多くの証拠調べをする必要があり,これにより訴訟の完結は大幅に遅延することになる。」

【解説】
民事訴訟法157条1項は、
「当事者が故意又は重大な過失により時機に後れて提出した攻撃又は防御の方法については、これにより訴訟の完結を遅延させることとなると認めるときは、裁判所は、申立てにより又は職権で、却下の決定をすることができる。」
 と規定する。「当事者が故意又は重大な過失により時機に後れて提出した」か否かは事件ごとに個別具体的に判断されるが、本件訴訟では、中間判決(民訴第245条)がなされた後の侵害論に関する主張が、「重大な過失により時機に後れて提出した」防御方法として、訴訟の完結を大幅に遅延させるものとして、却下された。
 中間判決は、訴訟の進行中に当事者で争いとなった事項につき、予め判決を与え訴訟手続を簡単化するもので、特許侵害訴訟では、侵害論の審理と損害論の審理が段階的に行われることから、侵害論について中間判決をした上、損害論につき審理の上終局判決がなされることがある。本件訴訟でも、侵害論の審理の後に中間判決がなされている。
 本件訴訟の事実経過は以下のとおりである。

 中間判決がなされると、裁判所は、中間判決の主文の判断を前提に終局判決をしなければならず(自己拘束力)、その判断に関する争いは同一審級ではできなくなる。これにより、同一争点につき当事者間で主張が繰り返されることがなくなり、訴訟が促進される。
 本件訴訟でも中間判決がなされ、その後に侵害論を蒸し返すことは徒に訴訟の完結を遅延させるものとして却下されている。上記事実経過をみても、原審・控訴審の第1回口頭弁論期日にて侵害論についての主張立証がないことをYが陳述し、裁判所も中間判決に至る可能性を明言している。また、控訴審第1回口頭弁論期日までにもY実施行為(侵害論)が主要争点となり十分に争う機会が確保されており、中間判決後の弁論準備手続も、侵害論に関する審理を前提としていなかったものである。したがって、中間判決に至る手続に瑕疵はなく、更なる侵害論の主張を許すことは、上記中間判決の趣旨を没却するものであり、却下は妥当であると思われる。
 中間判決後に生じた事情に基づき中間判決の判断の変更を求めることはできるとされている。この点、本判決では、「時機に後れた防御方法」と判断した根拠として、中間判決後にした侵害論の主張が既に主要な争点となっており、既になされた主張と実質的に同一で、防御方法の提出に格別の障害がなかったことを挙げている。例えば新たに発見された証拠に基づき、新たな争点についての新たな主張をするということでもなければ、中間判決の判断の変更を求めることは難しいと思われる。

2011.12.26 (文責)弁護士・弁理士 和田祐造