知財高裁平成25年9月25日(平成25年(行ケ)第10031号)
【判旨】
 「本件商品は,マックハウスの商品として,マックハウス商標が付されると共に,東麗商事により東レの特殊軽量素材の生地を使用してODM型生産された,軽量感のあるソフトな風合いの機能性,快適性に優れた衣類であることも表示するものとして,本件使用商標が付されて販売されたものであり,単に,本件商品に使用された素材を示すために,本件使用商標が本件商品に付されたものとみることは相当ではない。」
【キーワード】
 商標、指定商品、素材、被服、衣服、使用、不使用取消審判、商標法50条1項

第1 事案の概要

 本件は、株式会社コタニ・アンド・カンパニー(以下「被告」という。)が、東レ株式会社(以下「原告」という。)が有する登録商標第0646237号(「グラム」という文字商標であり、以下「本件商標」という。)の指定商品中「第25類 被服」について、商標法50条1項に基づく不使用による商標登録取消審判(取消2011-300879号事件)を請求したところ、特許庁がかかる請求を認めて不使用取消審決をしたため、原告が当該審決の取消訴訟を提起したという事案である。
 本件において、本件商標が実際に付されたのは、日本国内ではなく中国国内においてであった。すなわち、原告が100%出資する東レ(中国)投資有限公司の配下組織にある中国法人(原告の連結子会社であって、本件商標権の通常使用権を有する。)により、中国国内において被服であるダウンジャケットを含むダウンウェア(以下「本件商品」という。)の下げ札に本件商標が付され、その後日本国内所在のサン・メンズウェア株式会社、及び株式会社マックハウスへ転々譲渡されたという事案であった。そのため、①国外に所在する商標権者や通常使用権者が日本国外で商品に商標を付したあと同商品が日本に輸入され転々流通した場合、国外所在の商標権者や通常実施権者が当該商標を「使用」したといえるか否かが問題となった。また、②素材メーカが被服の下げ札に商標を付した場合、当該被服の「素材」ではなく、「被服」について使用されたものといえるか否かも問題となった。
 本稿では、実務上被服の下げ札の記載方法について参考になると思われる②について検討する。


第2 判旨(下線は筆者による)

   裁判所は、以下のとおり判示し、特許庁が取消2011-300879号事件について平成24年12月28日にした審決を取り消した。
1 原告が本件商標を使用していたか否か

「証拠(甲11~15,23,24,29,30,40~43)及び弁論の全趣旨によれば,東麗商事は,平成22年6月18日頃,サン・メンズウェアとの間で本件商品に関わる売買契約を締結し,ODM型生産により本件商品を生産し,同年10月から同年11月にかけて,これに本件使用商標が付された本件下げ札を付して日本国内所在のサン・メンズウェアにこれを譲渡したこと,同月頃,サン・メンズウエアが本件商品をマックハウスに販売したことが認められる。そして,本件商品は,「被服」に属するものである。したがって,東麗商事は,日本法人であるサン・メンズウェアに対し,本件使用商標を付した本件商品を譲渡し,その後日本国内において,本件商品を流通させたものと認められる。
  なお,東麗商事は,原告の子会社の傘下にある中国法人であり,サン・メンズウェアからの発注を受け,ODM型生産により本件商品を中国において生産したものの,日本法人であるサン・メンズウェアにこれを譲渡したのであり,本件商品は,その後サン・メンズウェアからマックハウスに譲渡されて,日本国内において転々流通したものである。商標権者等が商品に付した商標は,その商品が転々流通した後においても,当該商標に手が加えられない限り,社会通念上は,当初,商品に商標を付した者による商標の使用であると解されるので,上記認定事実に照らすと,東麗商事は,日本国内において本件商標を使用したものということができる。」

 2 本件商品に付された本件商標が、本被服に使用されたか否か

「確かに,証拠(甲10,20,39,45~64,乙1)及び弁論の全趣旨によれば,本件商品には,本件下げ札のほかに,マックハウスの有するマックハウス商標を表示した襟ネームが付されていたのみならず,マックハウス商標の表示された下げ札や他の下げ札が付されていたことが認められる。また,本件下げ札の表面には,「TORAY」の文字が表示され,中段には「非常に軽い」を意味する英語「Extra Light Weight」の欧文字と「Gram」の欧文字が一体的に表示されていること裏面には,「非常に軽い特殊な素材が新たな快適性と機能性を提供します。」,「東レの特殊軽量素材を使用して,軽量感を実現。」などと記載され下段には表面と同様に「Extra Light Weight」と一体化された「Gram」の文字が記載されさらに,その下には「この商品は東レのせんいを使用しています。」と記載されていることが認められる(なお,甲20には,裏面に「輸入・発売元サン・メンズウエアー(株)」との記載があるが,甲49の2,51の2,59の2には上記記載はない。)。以上によれば,本件商品がマックハウスの「navy natural」ブランドの製品であること,また,東レ(原告)の繊維である特殊な素材を使用することにより本件商品が上記の特徴を有することが認識され得るものといえる。
「しかし,他方で,本件商品は,上記認定のとおり,東麗商事によりODM型生産され,サン・メンズウェアに譲渡されたものであり,本件下げ札は,その際に本件商品に付されたものである上東麗商事がODM型生産をした本件商品に使用した東レの素材が非常に軽いため,ダウンジャケットである本件商品が,軽量感のあるソフトな風合いの機能性,快適性に優れるものであることを示すものであるとも解することができ,本件商品が東レの素材を使用した,「Gram」ブランドの衣類であるなどというように,被服である本件商品の出所及び品質等を示すものとして用いられているものとも理解し得るものである。このように,本件商品は,マックハウスの商品として,マックハウス商標が付されると共に,東麗商事により東レの特殊軽量素材の生地を使用してODM型生産された,軽量感のあるソフトな風合いの機能性,快適性に優れた衣類であることも表示するものとして,本件使用商標が付されて販売されたものであり,単に,本件商品に使用された素材を示すために,本件使用商標が本件商品に付されたものとみることは相当ではない。
 よって,被告の上記主張を採用することはできない。」

第3 コメント

 本件では、不使用取消審決の審決取消訴訟において、被服の下げ札に付された「Gram」という商標が、被服の「素材」について使用されたものか、それともダウンウェアという「被服」に使用されたものであるかが大きな争点となった(その他に「国外に所在する商標権者や通常使用権者が日本国外で商品に商標を付したあと同商品が日本に輸入され転々流通した場合、国外所在の商標権者や通常実施権者が当該商標を「使用」したといえるか」という点も問題となったが、本稿においては割愛する。)。
 本件において裁判所は、本件商標はダウンウェアという「被服」に使用されたものと判断し、本件商標は被服について不使用であると判断した審決を取り消している。
 これに対して、東京高裁平成17年3月17日(平成16年(行ケ)第404号)は、被服のラベルに「ZAX」という商標が付されていた事案において、当該商標は素材について使用されたものであって被服たるスラックスについて使用されたものではないと判示している(以下「ZAX事件」という。)。
 そこで、本件とZAX事件とを比較することで、どのような事実関係があれば素材についての使用と判断され、又は被服についての使用と判断をされうるのか、その分水嶺を検討したい。
 まず、本判決は、「本件商品は,上記認定のとおり,東麗商事によりODM型生産され,サン・メンズウェアに譲渡されたものであり,本件下げ札は、その際に本件商品に付されたものである」として、下げ札の提供者及び提供タイミングを考慮要素としている。これは、下げ札に商標を付した者の主観としては、素材と被服のいずれについて使用するつもりであったのかを推認する事情として取り上げられているものと思われる。
 本件では、東麗商事において被服たるダウンウェアをODM型生産、譲渡する工程において、同社により下げ札が付されており、商標が使用された段階において被服たる本件商品の生産は終わっていた。そのため、本件商標を付した者ものとしても、「被服」についての使用という意識を持っていたことが自然と考えられたものと思われる。これに対して、素材メーカーが、まだ素材が被服になっていない段階で、素材と下げ札を縫製業者に提供していたという事案においては、素材についての使用と判断されやすくなると考えらえるだろう。実際、ZAX事件は、化繊メーカーである原告が縫製業者に生地「ザックス」及びラベルを供給したうえで、縫製業者が生地「ザックス」を素材とするスラックスにラベルを付して販売していた事案であった(裁判所は下げ札の提供者及び提供のタイミングといった事情を判断において取り上げてはいないが、同事件の審決においては、考慮要素の1つとして取り上げられている。)。また、ZAX事件においては、商標権使用許諾契約書において、商標権者が素材についての責任しか負わないといった内容が記載されていたことも、素材について使用であることを示す事情の1つとして考慮されている。
 次に、裁判所は、本件下げ札が被服に付されている態様(①本件下げ札以外にも下げ札等が存在するか否か)、及び下げ札の記載内容(②表面、及び③裏面の記載)を認定したうえで、「本件商品がマックハウスの「navy natural」ブランドの製品であること,また,東レ(原告)の繊維である特殊な素材を使用することにより本件商品が上記の特徴を有することが認識され得るものといえる。」として、素材についての「使用」と認めるかのような判示をしつつも、「東麗商事がODM型生産をした本件商品に使用した東レの素材が非常に軽いため,ダウンジャケットである本件商品が,軽量感のあるソフトな風合いの機能性,快適性に優れるものであることを示すものであるとも解することができ,本件商品が東レの素材を使用した,「Gram」ブランドの衣類であるなどというように,被服である本件商品の出所及び品質等を示すものとして用いられているものとも理解し得るものである。」として、結局被服についての「使用」であると判断している。
 当該判断の前提として、裁判所が認定した上記①~③の要素は以下の通りである。
① ダウンジャケットには、本件下げ札のほかに、衣料品の販売メーカの襟ネームやその他の下げ札も付されている。
② 本件下げ札の表面には「TORAY」の文字が表示され、中段に「非常に軽い」を意味する英語「Extra Light Weight」の欧文字と「Gram」の欧文字が一体的に表示されている。
③ 本件下げ札の裏面には、非常に軽い特殊な素材が新たな快適性と機能性を提供します。」、「東レの特殊軽量素材を使用して,軽量感を実現。」などと記載され、下段には表面と同様に「Extra Light Weight」と一体化された「Gram」の文字が記載され、さらに、その下には「この商品は東レのせんいを使用しています。」と記載されている。

  これに対して、ZAX事件では、①~③の要素について、以下の認定がなされている。

① 衣服であるスラックスに対し、ラベルが他の1枚のラベルとともに取り付けられている。
② ラベルの表面に「ZAX ザックス」との記載されている。
③ ラベルの裏面に「ザックスは,テイジンが新しく開発した『ポリエステル/セルロース系繊維』の組み合わせによるマイルドな清涼感、しなやかなドレープ性、カジュアルな表面感を持ち、ウオッシャブル性にも優れた新質感素材です。〈取扱注意点〉この素材は、多少色落ちの傾向がありますので、他のものと分けてお取り扱いください。」と記載されており、その下に、「素材提供 帝人ファイバー株式会社」と記載され、さらに「販売元」を表示する欄が設けられている。

両事件において、①に関する事情は同様であるため、判断を分けたのは②③、すなわち下げ札やラベルの記載内容であると考えることができる。
 この点、本件下げ札の記載内容は、上記本件②③のとおり、素材をあらわしているものとも被服という商品をあらわしているものとも捉えうるのに対して、ZAX事件については上記ZAX事件③のとおり、「ザックスは」「新質感素材です」として素材の表示としか解釈できない記載がなされていたことが判断を分けたものであるということができる。
 以上のとおり、衣服の下げ札やラベルに商標を付した場合、それが当該衣服の素材についての使用にあたるのか、衣服という商品に対する使用にあたるのかは、具体的事情により異なり得るということができる。そして当該判断においては、下げ札やラベルの記載内容が重点的に考慮されるものの、下げ札の提供者及び提供タイミング等から推認される商標権者や通常実施権者としての主観も考慮されると考えられる。
 したがって、衣類の下げ札やラベル等に商標を付す場合には、以上の考慮要素を念頭において記載をなすべきことが重要である。 


この点についての詳細な評釈として、磯田直也「「グラム」事件判決―不使用取消審判における「使用」と国外からの行為―」(特許ニュースNo.13696)がある。

以上
(文責)弁護士 山本真祐子