【平成26年1月30日判決(知財高裁 平成25年(行ケ)第10146号 審決取消請求事件)】

【はじめに】
本件は、本件発明(特許第4551587号)において、「着脱自在」という用語が使用されていたところ、これは、着けたり外したりすることができることを意味し、着脱にあたり、分解組立作業を伴うものは含まれないと判断されたものである。

【キーワード】
機能的、作用的、機能クレーム、クレーム解釈、クレームの解釈

【概要】
本件は、原告が、被告である特許権者を相手に特許無効審判請求をしたところ、特許庁が請求不成立審決をしたので、これに対して原告が審決取消訴訟を提起したものである。以下では、原告による「着脱自在」という用語が不明確であるとの主張に対する判断に着目することとする。

・本件発明(下線筆者)
【請求項1(本件発明1)】
A.板金面を引き出すための板金用引出装置であって、
B.シャフト(24、81)またはロッドを備えている引出具(2、8)と、
C.該引出具(2、8)に着脱自在に取り付けできる引出補助具(3)と
D.の組み合わせを含み、
E.前記引出補助具(3)は、
E-1.グリップ(3)と、
E-2.中空部(310)と、
E-3.該中空部(310)に通じている後部側の貫通孔(314)を有する補助具本体(31)と、
E-4.前記後部側の貫通孔(314)に挿入され前記補助具本体(31)に対して進退自在に設けられており、嵌め入れられる前記引出具(2、8)のシャフト(24、81)またはロッドを着脱自在に保持する装着部(35)と、
E-5.前記中空部(310)の中で回動自在に軸支されており、前記引出具(2、8)のシャフト(24、81)またはロッドが通り抜け、かつ前記中空部(310)の中で前記装着部(35)と当接し前記装着部(35)の進退方向と同じ方向に動かす操作レバー(32)と、
E-6.前記装着部(35)を進行させる方向に付勢する手段(36)と、
E-7.前記補助具本体(31)の前部側に設けられている脚部(34)と、を備え、
F.前記装着部(35)は、
F-1.筒状の装着部本体(352)と、
F-2.前記補助具本体(31)の後部側に露出しており前記装着部本体(352)に螺合して装着部(35)全体の長さを調整する筒状の調整部(354)を有し、
G.前記引出補助具(3)は、前記引出具のシャフト(24、81)またはロッドを前記装着部(35)に嵌め入れて通すことにより前記引出具(2、8)に装着される、
H.板金用引出装置。

【判旨】
 2 取消事由2(本件発明1の技術的意義の把握の誤り及び一致点・相違点の認定の誤り)
  (1) 本件発明1の構成Cでは、引出具(2、8)を引出補助具(3)に「着脱自在」に取り付けできる構成が特定されているが、「自在」とは、日常用語例では「心のままであること。思いのままであること。」を意味するから(広辞苑第5版1161頁、乙1)、構成Cにいう「着脱自在」も、着けたり外したりすること(取り付けたり取り外したりすること)が自由にできること(あるいは、着けたり外したりすることが思いのままにできること)程度の意味合いを有することが明らかである。
  そうすると、構成Cにいう「着脱自在」も、かかる限度で明確であるといい得るものであるが、念のため本件明細書(甲11)の該当する部分を参酌すると、上記「着脱自在」に関し、次のとおりの記載がある。
  ・段落【0022】
  「一方、荒出し作業後に更に細部の引き出しが必要である場合や、狭い(小さい)凹部の補修を行う場合は、引出補助具を引出具に装着し、板金用引出装置を構成して使用する。引出補助具は、少なくとも機能または構造を異にする取着部を備えた2種類以上の引出具の何れにも着脱自在に取り付けできるので、施工箇所に適合した引出具を引出補助具と選択的に組み合わせる。」
  ・段落【0025】
  「図1に示すように、板金用引出装置1は、引出具2と、この引出具2に着脱自在に取り付けできる引出補助具3を有している。」
  ・段落【0035】
  「補助具本体31の後部側(図3で右側)には貫通孔314が設けてある。この貫通孔314には、引出具2のシャフト24を着脱自在(着脱可能)に嵌入れるためのシャフト装着部35が挿入して設けてある。シャフト装着部35は、補助具本体31に対して進退自在(進退可能)となっている。」
  ・段落【0065】
  「また、引出補助具は、2種類以上の引出具の何れにも着脱自在に取り付けできるので、施工箇所に適合した引出具を引出補助具と選択的に組み合わせることによって、効率よく凹んだ箇所を引き出すことができる。」
  ・図1
(中略)
  上記のとおり、本件明細書では、施工箇所の位置や形状等に応じて器具を選択できるようにするべく、引出具(2又は8)を引出補助具(3)に対して自由に着けたり外したりすること(取り付けたり取り外したりすること)ができるという趣旨で「着脱自在」の語が使用されているし、とりわけ図1には、引出具(3)のシャフト(24)を引出補助具(3)の円筒状の部材であるシャフト装着部(35)に差し込むだけで、引出具(2)を引出補助具(3)に装着し、両者を一体の器具として板金面の凹部引出し作業に用いることができる状況が図示されている。そして、本件明細書の記載上、引出具(2)を引出補助具(3)に着脱するに当たって、両者の間に介在する部品を取り外したり、かかる部品を取り付けたり、あるいは引出具(2)等自体を分解したり組み立てたりする等の分解組立て作業が必要となる態様が予定されておらず、例えばシャフトを差し込むといったような、簡易な方法で上記着脱を行うことが予定されていることは明らかである。
  そうすると、本件明細書の記載も斟酌してされた、「分説Cに係る『着脱自在に取り付けできる』という発明特定事項が表しているのは、着脱に当たって、分解組み立て作業を伴うことなく、引出補助具(3)は引出具(2、8)に取り付けできるということである。」(37頁)との審決の認定に誤りはない

  (2) 原告は、本件明細書の段落【0035】の記載等を根拠に、本件発明1等にいう「着脱自在」は「着脱可能」を含むから、引出具(2、8)の着脱に当たって分解組立て作業を伴う場合も「着脱自在」に含まれると主張する。しかしながら、例えば甲1発明の第1、2の操作手段のように、操作手段の相当部分を分解(解体)しなければ両者を分離できず、また分離された両者の相当部分を組み立てなければ両者を組み合わせて一体の器具となし得ないようなものは、「着脱」が不自由であって、もはや「着脱自在」の範疇に属しないことは明らかである。また、本件明細書の段落【0035】で「この貫通孔314には、引出具2のシャフト24を着脱自在(着脱可能)に嵌入れるためのシャフト装着部35が挿入して設けてある。」と記載されているのは、シャフト(24)をシャフト装着部(35)に差し込むだけで引出具(2)を引出補助具(3)に取り付けることが可能であり、またシャフト(24)をシャフト装着部(35)から引き抜くだけで引出具(3)を引出補助具(3)から取り外すことが可能である構成となっていることを示すためであって、本件明細書において「着脱自在」の語と「着脱可能」の語が同一の技術的な意味合いで使用されていることを裏付けるものではないし、引出具(2、8)の着脱に当たって分解組立て作業を伴う場合も「着脱自在」に含まれることの根拠となるものではない。したがって、原告の上記主張は採用することができず、審決による本件発明1の技術的意義の把握に誤りがあるとはいえない。

  (3) 以上のとおり、審決による本件発明1の技術的意義の把握に誤りがあるとはいえないから、これを前提としてされた本件発明1と甲1発明の一致点・相違点の認定にも誤りはない。したがって、原告が主張する取消事由2は理由がない。

【コメント】
本件は、本件発明の発明特定事項の解釈に関して判断されたものである。
「着脱自在」とは、たしかに、日常用語として使用される分には明確であるが、何を以て自在であるのか、部品の分解・組立てを伴うものの着脱が可能であるものが含まれるのか、といった点では、本件の原告のように、争いになる余地があるとも思える。しかし、部品の相当な部分を分解・組立てしなければならないのであれば、もはや、「自在」という表現から遠ざかるのであって、本判決が判断したとおり、「着脱自在」ではない。
「着脱自在」というような機能的・作用的な表現は、争いになる余地がある表現であるが、本判決は、そのような表現について裁判所が判断した事例として、参考になるものである。

以上
(文責)弁護士 関裕治朗