平成26年10月17日判決(東京地裁平成25(ワ)第22468号)
【キーワード】建築の著作物、商品等表示、特別顕著性、周知性、グッドデザイン賞
【判旨】
 ①「商品の形態自体が不競法2条1項1号の「商品等表示」に該当するためには、①商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しており(特別顕著性)、かつ、②その形態が特定の事業者によって長期間独占的に使用され、又は短期間であっても極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等により、需要者においてその形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっていること(周知性)を要するものと解するのが相当である。」
②「一般住宅が『建築の著作物』に当たるということができるのは、客観的、外形的に見て、それが一般住宅の建築において通常加味される程度の美的創作性を上回り、居住用建物としての実用性や機能性とは別に、独立して美的鑑賞の対象となり、建築家・設計者の思想又は感情といった文化的精神性を感得せしめるような造形美術としての美術性を備えた場合と解することが相当である。」

第1 はじめに

 本件は、一般住宅の外観・形態に関する法的保護の可否が争われた事例です。原告は、法的保護の根拠として、著作権法、不正競争防止法等を主張しましたが、裁判所はいずれの請求も否定しています。本件は建物外観・形態の法的保護を考える際の好例と思われますので、以下、概要を紹介いたします。

第2 事案の概要

 本件は、下記原告建物を販売する原告が、下記被告建物を販売する被告に対し、①被告による被告建物の販売は、不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項1号の不正競争行為に該当する、②被告による被告建物の建築は、原告が有する著作権(翻案権)を侵害する、などと主張して損害賠償の支払い等を求めた事案である 。下記原告建物を含むシリーズ商品としての一群の建物は、平成16年度にグッドデザイン賞を受賞している。
 原告建物及び被告建物の外観は以下のとおり。

<正面>

原告建物  被告建物

<斜め>

原告建物  被告建物

第3 判旨 -請求棄却-
 1 原告建物の形態は「商品等表示」にあたるか

 裁判所は、建物等の商品の形態が不正競争防止法の商品等表示として保護されるのは以下の①及び②の要件を充足する場合であるとしたうえで、原告建物には①特別顕著性も②周知性も認められないとした。
「商品の形態自体が不競法2条1項1号の『商品等表示』に該当するためには、①商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しており(特別顕著性)、かつ、②その形態が特定の事業者によって長期間独占的に使用され、又は短期間であっても極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等により、需要者においてその形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっていること(周知性)を要するものと解するのが相当である。」

 2 原告建物は「建築の著作物」にあたるか

 裁判所は、以下のとおり判示して本件建物の著作物性を否定した。
「一般住宅が『建築の著作物』に当たるということができるのは、客観的、外形的に見て、それが一般住宅の建築において通常加味される程度の美的創作性を上回り、居住用建物としての実用性や機能性とは別に、独立して美的鑑賞の対象となり、建築家・設計者の思想又は感情といった文化的精神性を感得せしめるような造形美術としての美術性を備えた場合と解することが相当である。
…原告建物の(1)建物全体の外観、(2)建物の外壁面、(3) 玄関面のいずれをみても、それらが一般住宅の建築において通常加味される程度の美的創作性を上回り、居住用建物としての実用性や機能性と は別に、独立して美的鑑賞の対象となるものとは認めることができない」

第4 若干の検討
 1 はじめに

 本件は、一般住宅の外観デザインに関する法的保護の可否が争われた事例です。原告は、本件建物は出所として原告を表示する商品等表示に該当する、本件建物は「建築の著作物」に該当するなどとして保護を求めましたが、裁判所はいずれも否定しています。従前の裁判例の傾向からすると止むを得ない判断かと思いますが、本判決は、一般住宅の外観保護のハードルが高いことを認識させる事例といえそうです。

 2 不正競争防止法による保護の可能性

 一般住宅に関する事例ではありませんが、建物(店舗)の外観デザインの保護の可否が争われた数少ない先例として、大阪地判平成19年7月3日判時2003号130頁[ごはんやまいどおおきに食堂]、大阪高判平成19年12月4日平成19年(ネ)第2261号[同控訴審]があります。両判決は、飲食店の店舗外観の「商品等表示」該当性について以下のように判示し、店舗外観が「商品等表示」として保護される余地を認めています 2

店舗外観は、それ自体は営業主体を識別させるために選択されるものではないが、特徴的な店舗外観の長年にわたる使用等により、第二次的に店舗外観全体も特定の営業主体を識別する営業表示性を取得する場合もあり得ないではない

 上記両判決は、店舗外観が商品等表示に該当し得る場合として「長年にわたる使用等」がある場合とのみ判示しており、具体的にどのような場合に店舗外観(やその他の建物の外観・形態)が商品等表示として保護されるのかは判然としませんでした。本判決は、この点について、一般住宅について、①特別顕著性及び②周知性が認められる場合には、その形態も商品等表示に該当し得ると述べ、より具体的に判断基準を判示していますので、実務的には参考になります。
 なお、本判決は一般住宅について判断したものですが。店舗外観についても同様の判断基準が妥当し得ると思われます。

 3 著作権法による保護の可能性

 本件と同様、グッドデザイン賞を受賞した一般住宅の著作物性が争われた事案として、大阪地判平成15年10月30日判時1861号110頁[グルニエダイン]、大阪高判平成16年9月29日平成15年(ネ)第3575号[同控訴審]があります。両判決は、一般住宅が「建築の著作物」にあたる場合につきほぼ同旨を述べており、このうち前掲大阪高判[同控訴審]は、本判決とほぼ同様の判断基準を述べています。一般住宅が「建築の著作物」として保護される否かの判断基準について、裁判所の立場は固まっているといってよさそうです。
 ただ、そのハードルはなかなかに高そうです。一般住宅のデザインは、多かれ少なかれ機能性や実用性と関連するものが多いと思われますが、「建築の著作物」として保護されるのは、「一般住宅の建築において通常加味される程度の美的創作性を上回」る創作性があり、かつ、「居住用建物としての実用性や機能性とは別に、独立して美的鑑賞の対象とな(る)」ことが必要であるため、そのようなデザインは保護の対象外とされる場合が多いと思われるためです3

説明の便宜のため、相当程度事案(当事者の主張)を簡略化した。
ただし、両判決は類似性を否定することにより不正競争防止法による保護を否定していますので、本文で引用した判示部分は傍論です。
もっとも、壁面のデザイン等については、別途美術の著作物等として保護する余地があるかもしれません。

以上
(文責)弁護士 高瀬亜富