平成26年3月26日判決 (知財高裁 平成25年(ネ)第10017号)
【キーワード】
均等論、均等侵害、第1要件、本質的部分、置換可能性

【事案の概要】
X1(キシエンジニアリング):本件特許1の特許権者
X2(A):本件特許2の特許権者
X3(日環エンジニアリング):本件特許1及び2の独占的通常実施権者
Y:Xの有する特許権を侵害するとして提訴された者

 本件は,特許第3452844号(本件特許1)の特許権者であるX1及び発明の名称を「ロータリー式撹拌機用パドル及びオープン式発酵処理装置」とする特許第3682195号(本件特許2)の特許権者であるX2並びに上記両名から本件各特許権について独占的通常実施権の許諾を受けたと主張するX3が,イ号装置及びロ号装置が本件各特許権の特許発明の技術的範囲に属する旨主張して,X1及びX2においては,Yに対し,特許法100条1項に基づき,①イ号装置及びロ号装置の製造及び販売の差止めを,X1~X3においては,Yに対し,②不法行為に基づく損害賠償(原告日環エンジニアリング損害金元金5000万円,X1及びX2の損害金元金各750万円,遅延損害金)の支払を求めた事案である。
 原判決は,X3及びX1の本件特許権1に係る請求に基づいて,上記①のイ号装置及びロ号装置の製造及び販売の差止めを認め,上記②について,X3の請求を,Yに対し1803万4748円及び所定の遅延損害金の支払を求める限度で,X1の請求を,Yに対し41万1428円及び所定の遅延損害金の支払を求める限度で認容し,本件特許権2に係る請求部分について,イ号装置及びロ号装置は,本件特許2に係る発明の構成要件を充足しないとして,X2の請求の全部及びX3の本件特許2に係る請求部分を棄却した。
 これに対し,Yは,敗訴部分について控訴し,X3は,2316万9514円及びこれに対する平成21年8月5日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めて一部附帯控訴をした(なお,X2の請求分については,控訴なく確定。)。
 なお,X2が,本件特許2につき,訂正審判請求をし,特許庁は,訂正請求とみなし,本件特許2に係る無効審判において,訂正を適法と認めた上で,無効不成立の審決をなし,同審決は,原審口頭弁論終結後に確定。そこで,X3は,控訴審において,本件特許権2に基づく請求を,本件訂正後の特許発明に基づくものに変更した。

本件訂正発明2を構成要件に分説すると,次のとおりである(下線部は訂正箇所。判決の分説を若干修正した。)。
A2  有機質廃物を経時的に投入堆積発酵処理する長尺広幅の面域の長さ方向の1側に長尺壁を設け,
B2  その他側は長尺壁のない長尺開放側面として成る大容積のオープン式発酵槽を構成すると共に,
C2  該長尺壁の上端面にレールを敷設し,該レール上と該長尺開放側面側の面域上を転動走行する車輪を配設されて具備すると共に
D2  堆積物を往復動撹拌する正,逆回転自在のロータリー式撹拌機を横設した台車を該オープン式発酵槽の長さ方向に往復動走行自在に設け,
E2  更に該ロータリー式撹拌機は,該台車の幅方向に水平に延びる回転軸と,該回転軸の周面に且つその軸方向に配設された多数本の長杆の先端に板状の掬い上げ部材を具備するパドルとから成るオープン式発酵処理装置において,
F2  これらのパドルのうち,該オープン式発酵槽の該長尺開放側面側に位置する該回転軸の外端から少なくとも1本乃至数本のパドルは,該 長杆の先端に,前後一対の板状の掬い上げ部材が夫々台車の走行方向に対し斜めに交叉し且つ内側に向けられて配設された請求項1に記載のパドルからなり,
G2  その他の残る各パドルは,長杆の先端に,該台車の走行方向に対し直交して板状の掬い上げ部材を取り付けた通常のパドルから成ること
H2  を特徴とし,しかもまた,次のX及びYの各特徴をさらに備えるオープン式発酵処理装置。
 大容積のオープン式発酵槽は,日を改めて投入する有機質廃物について,少なくとも複数日にわたるものを既に投入したものとは別の空いた領域に経時的に投入することができるだけの面域を備えること。
 前記ロータリー式撹拌機及び前記長尺壁は,前記有機質廃物の堆積高さを高温発酵を確保するに足るだけの高さ構成を備えること。

【争点】
(1) イ号装置及びロ号装置についての本件発明1の技術的範囲の属否(争点1)。
(2) ロ号装置についての本件発明2の技術的範囲の属否(争点2)。具体的には,ロ号装置が構成要件C2及びF2を充足するか、均等侵害が成立するか。
(3) 特許法104条の3第1項に基づく本件各特許権の権利行使の制限の成否(争点3)
(4) 差止めの必要性(争点4)
(5) 原告らの損害の発生及び被告が賠償すべき原告らの損害額(争点5)
(6) 時機に後れた攻撃防御方法の成否(争点6)

【結論】
(2) ロ号装置についての本件発明2の技術的範囲の属否(争点2)につき、均等侵害を認めた。
(6) 時機に後れた攻撃防御方法の成否(争点6)につき、均等侵害の主張、損害主張は、時機に後れた攻撃防御方法ではないとして、当該主張を却下しなかった。

【判旨抜粋】
 原審では、ロ号装置が、構成要件F2の「該長杆の先端に,前後一対の板状の掬い上げ部材が夫々台車の走行方向に対し斜めに交叉し且つ内側に向けられて配設された請求項1に記載のパドル」に該当しないものとして、ロ号装置が本件発明2の技術的範囲に属しないと結論付けた。

 控訴審では、文言侵害が成立しないとする当該判断を是認した上、ボールスプライン事件最高裁判決(最高裁平成6年(オ)第1083号平成10年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁)を引用した上、以下のとおり判示し、均等侵害を認めた(下線は筆者が付した。)。

「(1) 本質的部分(第1要件)について
ア 相違点について
 ・・・
 そうすると,本件訂正発明2のV字型掬い上げ部材が「2枚の板状の部材を傾斜させて配置されるもの」であるのに対し,ロ号装置の掬い上げ部材105dは,「半円弧状の形状を有する1枚の部材から構成されたもの」である点が相違することになる。」
 ※当該相違点に関する判示内容を簡単にまとめると以下のとおりである。

「イ 本件訂正発明2の本質的部分について
(ア)  本件訂正発明2について
 本件訂正明細書2によれば,本件訂正発明2について,以下のとおり認められる。
 ・・・
(イ)  本件訂正発明2の掬い上げ部材について
 さらに,掬い上げ部材について,本件訂正明細書2には,「尚,該板状の掬い上げ部材5c1及び5c2の傾斜角度は,図示の例では,回転軸5aの中心軸線に対し20°傾斜せしめたものを示したが,一般に10°~80°の範囲が採用できる。」(段落【0015】)と記載されているから,回転軸5aの中心軸線に対して10°~80°の傾斜があれば足り,その傾斜角は一定でなければならないものではない。すなわち,回転軸5aの中心軸線に対する角度が小さくなればなるほど,走行方向に対し直交する長矩形の板状で構成される従来の掬い上げ部材に近いものとなり,掬い上げの効果は大きくなる一方,堆積物の外側への拡散が増大するが,回転軸5aの中心軸に対する角度が大きくなると,掬い上げの効果は小さくなるが外側への拡散を防止できることとなるものと推測されるところ,本件訂正発明2のV字型掬い上げ部材において,これらの角度は適宜選択できるものとなっているから,V字状のみに限定されず,より頂点への角度が緩やかな逆への字状のもの等も含まれる。また,段落【0006】には,「本発明のパドルの変形例として,図5に示すようなパドル5b″に構成しても良い。すなわち,先の実施例のそのV字状の傾斜板5c1及び5c2の一端部を当接し,互いに直接溶接する代わりに,その両傾斜板5c1及び5c2の一端部間を適当な距離離隔し,そのスペース内に板状などの補強梁5jを介在させ,その両端部を傾斜板5c1及び5c2の一端部とを溶接し,その前後一対の板状の掬い上げ板部5c1及び5c2はハの字状に対称的に傾斜した傾斜板に構成しても良い。」との記載もあり,必ずしもV字状の掬い上げ部材に限られるものではないことが明らかである。さらに,段落【0009】には,「また,その本発明のパドル5b′の夫々の傾斜板5c1及び5C2は長矩形状とし,同一形状,寸法であることが一般であり好ましく,また,通常のパドル5bの板状掬い上げ部材5cと同一形状,寸法であることが一般であるが,これに限定する必要はない。また,その各傾斜板5c1及び5C2の長さ又は高さ寸法は所望に設定される。」と記載され,しかも,本件発明1の掬い上げ部材について,本件明細書1の段落【0005】に「その先端には堆積物を掬い上げる板状,爪状などの掬い上げ部材5cを有し,その回転により堆積物の撹拌とその正転,逆転による往復動撹拌を行う作用を有する。」と記載されているから,堆積物を掬い上げるための形状も,平面な「板状」に限られるものではない。
(ウ) 以上に照らせば,堆積物の外側への掬い上げ時の拡散,崩れなどの不都合を解消するために,前後一対の板状の掬い上げ部材が,それぞれ回転軸の軸方向に対し所定角度内側(オープン式発酵槽の長尺壁の方向)を向くようにし,掬い上げ部材の内側に向いて傾斜した部材の外側が,その前方に堆積する堆積物の長尺開放面側の外端堆積部に当接し,斜め内側に向けてこれを掬い上げるよう,傾斜板を所定角度内側に向けて配置したことが,本件訂正発明2を基礎付ける特徴的部分であると認められる。
 そして,本件訂正発明2の攪拌機は,往復動走行に伴って正又は逆回転するものであることから,掬い上げ部が外端堆積部に当接する場合は,回転軸に直交する前後方向のいずれの場合もあり得ることから,そのいずれの場合においても,堆積物を掬い上げる必要があり,そのために,掬い上げ部材を前後にかつ前後方向に対し傾斜させて配置し,その前側の傾斜板の外面は斜め1側前方を向き,その後側の傾斜板の外面は斜め1側後方を向くように配向させて配設されたものと認められる。そうすると,掬い上げ部材が前後の両方向に傾斜されて配置されるとの構成も,本件訂正発明2を基礎付ける特徴的部分であるといえる。
 これに対して,本件訂正明細書2には,掬い上げ部材が2枚であることの技術的意義は,何ら記載されておらず,前記のとおり,傾斜板の外面が正又は逆回転時のそれぞれにおいて,外端堆積部に当接することが重要であるから,本件発明2の掬い上げ部材が2枚で構成されることに格別の技術的意義があるとはいえず,本件訂正明細書2に記載されるように2枚の部材を直接溶接してV字状を形成することと,1枚の部材を折曲してV字状を形成することとの間に技術的相違はないから,この点は本質的部分であるとはいえない。また,前記のとおり,前後に傾斜させる角度が,回転軸5aの中心軸線に対して10°~80°の角度であればよく,逆への字状が含まれることや,掬い上げる部材としても,平面な板状に限定されず,外端堆積部に当接して内側に掬い上げることができればよいことに照らすと,掬い上げ部材が,平面な板状で構成されていることも,本質的部分であるとはいえない。
 そうすると,上記アで述べた,本件訂正発明2のV字型掬い上げ部材が「2枚の板状の部材を傾斜させて配置されるもの」に対し,ロ号装置の掬い上げ部材105dは,「半円弧状の形状を有する1枚の部材から構成されたもの」であるとの相違点は,本質的部分に係るものであるということはできない。
(2) 置換可能性(第2要件)について
 前記(1)に述べたことからすれば,本件訂正発明2は,パドルの先端に設けられた前後一対の掬い上げ部材が,それぞれ所定角度内側(オープン式発酵槽の長尺壁の方向)を向くように配設されるとの構成によって,往復動走行に伴って正又は逆回転する場合のいずれであっても,外端堆積部に当接する側の掬い上げ部材の外面が作用して,堆積物に当接して堆積物を常に内側(長尺壁側)に向かって掬い上げることにより,堆積物の外側への掬い上げ時の拡散,崩れなどを防いで,床面を走行する台車の車輪の軌道上に堆肥が達し,円滑な走行を阻害し,その外方へ崩れた拡散分を人手によりスコップなどで掬い上げ,堆積物の頂面へ積み上げる面倒な作業を要するなどの不都合を解消できるというものである。
 他方,原判決添付別紙物件目録2によれば,ロ号装置は,台車106の脚部113に近い側に位置する撹拌機105の回転軸105aの周面に設けられたパドル105bの先端の掬い上げ部材105dが,同目録記載の図5に示すような半円弧状の形状を有し,その半円弧状部が図4に示すように,円弧の開口部が長尺開放面側を向くように取り付けられた構成を備えており,回転軸は一方向とその反対方向に回転可能な構成,すなわち,回転軸に対して正又は逆回転可能な構成を備えている。そして,この構成を採用したことにより,往復動走行に伴って正又は逆回転する場合のいずれであっても,外端堆積部に当接する側の1/4円弧状部分の外面が作用して,堆積物に当接して堆積物を常に内側(長尺壁側)に向かって掬い上げることができるものであり,被告が認めるとおり,堆積部に半円弧状部の外側が当接し,長尺壁の側に堆肥を寄せ,レールへの堆肥の崩れ落ちを避けるという効果を有するもの(乙66)であるから,本件訂正発明2と同様に,堆積物の外側への掬い上げ時の拡散,崩れなどの不都合を解消するものである。また,オープン式発酵処理装置が具備するロータリー式撹拌機に回動式パドルを用いた場合に比し,容易かつ安価にかつ軽量に構成できるとともに,稼動時の消費電力の低減をもたらすという効果が得られるものと認められる。
 したがって,本件訂正発明2のV字型掬い上げ部材とロ号装置の掬い上げ部材105dとの作用効果は同一であると認められる。
 これに対し,被告は,ロ号装置の掬い上げ部材105dは,被処理物を掬い上げないようにあえて平面部分をなくし,被処理物を保持せず逃がすようにしたものであるから,被処理物を放り投げる本訂正発明2のV字型掬い上げ部材とは異なるものであると主張する。
 しかし,本件訂正発明2の「掬い上げ」について,本件訂正発明2の請求項及び本件訂正明細書2の「発明の詳細な説明」のいずれにおいても,堆積物を保持して放り投げることまでの作用を有するものであるとの特定はなされていない。そして,前記に述べたように,回転軸に対する傾斜板の角度として10°~80°の範囲が想定されているところ,回転軸に対する傾斜板の角度を80°とした場合には,掬い上げ部の板状部分は,堆積部に対して正面から(走行方向に対して直交するように)当接しないものとなるから,堆積物を保持するという効果は,その角度を10°とした場合に比して相当弱まるものであると推測され,前記のとおり,本件訂正発明2は,そのような場合をも包摂しているものである。また,当接した堆積物がどの程度放り投げられるか,という点については,回転軸の回転速度や堆積物の状態なども影響するものである。したがって,堆積物を保持して放り投げる効果を奏するか否かは,置換可能性についての判断を左右するものではない。
 また,被告は,「掬い上げ」のためには,掬い上げ部材の作用面が湾曲していない平面であることが必要である旨主張する。
 しかし,前記のとおり,本件訂正明細書2の段落【0009】には,掬い上げ部材の形状,寸法が限定されるものでないことが記載され,本件明細書1の段落【0005】には,掬い上げ部材の形状について,「その先端には堆積物を掬い上げる板状,爪状などの掬い上げ部材」として,堆積物を掬い上げるための形状として,「板状」に限られない旨記載されていることや,原告らによる実験(甲13,14,18~21)によれば(当該実験によって用いられた半円弧状の部材がロ号装置の掬い上げ部材105dと同一形状であるかどうかは措くとしても),少なくとも写真上,湾曲していることが明らかな掬い上げ部材であれば,堆積物を掬い上げることができると認められることに照らすと,被告の上記主張は採用できない。
(3) 置換容易性(第3要件)について
 本件訂正発明2のV字型掬い上げ部材とロ号装置の掬い上げ部材105dとは,前記のとおり,本件訂正発明2の掬い上げ部材が2枚の板状であるのに対して,ロ号装置の掬い上げ部材が1枚の半円弧状である点で相違するものである。そして,前記のとおり,掬い上げ部材が2枚であることに格別の技術的意義があるともいえない。そうすると,本件訂正明細書2に開示される2枚の板状の部材を溶接してV字型を構成する実施例に直面した当業者において,1枚の部材を折り曲げて構成することは容易に着想することであり,さらに,本件訂正発明2における掬い上げ部材の傾斜角度が広範なものであることに照らせば,1枚の板を折り曲げて湾曲させ,V字状あるいは逆への字状等に代えて半円弧状とすることも,当業者であれば,必要に応じて適宜なし得る設計変更にすぎない。
(4) 容易推考性(第4要件)及び意識的除外(第5要件)について
 後記の判示のとおり,本件訂正発明2は,その出願時における公知技術から当業者が容易に想到し得たものではないから,本件訂正発明2の2枚の板状からなるV字型の掬い上げ部材を1枚の半円弧状にしたにすぎないロ号装置について,当業者が容易に推考できたものとはいえない。
 また,本件において,Aが,ロ号装置の掬い上げ部材105dの構成を意識的に除外したという事情はない。
(5) 以上からすれば,本件訂正発明2の2枚の板状の掬い上げ部材をロ号装置の掬い上げ部材105dの1枚の半円弧状に置換したとしても,ロ号装置の構成は,本訂正発明2と均等なものとして,本件訂正発明2の技術的範囲に属すると認められる。」

【解説】
 原審では文言侵害が成立せず、技術的範囲に属しないとされたロ号装置につき、控訴審で主張した均等侵害が認められた事例である。この点、均等侵害の主張が原審ではされておらず、時機に後れた攻撃防御方法といえないか争点となったが、第1回口頭弁論期日前に均等侵害の主張がなされており、新たな証拠調べを要することなく判断可能であるから、時機に後れたとはいえないとして、却下しなかった。
 均等第1要件については、本件特許2明細書の従来技術、発明が解決しようとする課題・手段、作用効果に基づき、
 本件訂正発明2の掬い上げ部材の特徴につき、
 ・傾斜角度は10°~80°の範囲が採用できるとの本件特許2明細書の記載(【0015】)を引用し、掬い上げ部材の傾斜角度は一定でなければならない必要はないこと
 ・本件特許2明細書の変形例の記載として、V字状でなく補強梁を介在させた例や、ハの字状のものでもよいとの記載から、必ずしもV字状の掬い上げ部材に限られないことと述べた上、本件訂正発明2を基礎付ける特徴的部分を、「堆積物の外側への掬い上げ時の拡散,崩れなどの不都合を解消するために,前後一対の板状の掬い上げ部材が,それぞれ回転軸の軸方向に対し所定角度内側(オープン式発酵槽の長尺壁の方向)を向くようにし,掬い上げ部材の内側に向いて傾斜した部材の外側が,その前方に堆積する堆積物の長尺開放面側の外端堆積部に当接し,斜め内側に向けてこれを掬い上げるよう,傾斜板を所定角度内側に向けて配置したこと」と認定し、
 ・掬い上げ部材が2枚であること
 ・掬い上げ部材が,平面な板状で構成されていること
 は、本質的部分ではないと認定した。
 掬い上げ部材が2枚であることが本質的部分でないとする理由は、傾斜板の外面が正又は逆回転時のそれぞれにおいて,外端堆積部に当接することが重要であって、2枚の部材を直接溶接してV字状を形成することと,1枚の部材を折曲してV字状を形成することとの間に技術的相違はないとした。たしかに、傾斜板の外面が正又は逆回転時のそれぞれにおいて,外端堆積部に当接する作用に関し両者に技術的相違はなく、妥当と考える。
 特許権者としては、変形例を含んだ上位概念で特許請求の範囲を記載することも重要であるが、仮に変形例を含んだ請求項がない場合でも、当該変形例の記載を根拠に本質的部分を狭く解釈して、均等侵害の範囲を広く主張することが、権利行使側にとって有効と思われる。
 第2要件(置換可能性)については、ロ号装置は、外端堆積部に当接する側の1/4円弧状部分の外面が作用して,堆積物に当接して堆積物を常に内側(長尺壁側)に向かって掬い上げることができ堆積部に半円弧状部の外側が当接し,長尺壁の側に堆肥を寄せ,レールへの堆肥の崩れ落ちを避けるという効果を有するから、本件訂正発明2と同様に,堆積物の外側への掬い上げ時の拡散,崩れなどの不都合を解消し、容易かつ安価にかつ軽量に構成できるとともに,稼動時の消費電力の低減をもたらすという効果を有するものであることを理由に、置換可能性を有すると認定した。作用が同じ点は、既に事実上第1要件でも評価されているものであり、本件における第2要件に大きな意味はないように思われる。

(文責)弁護士・弁理士 和田祐造