【判旨】
 本願商標に係る特許庁の不服2016-3346号事件について本願商標と引用商標との類否判断は正当であるとして、原告の請求を棄却した事案である。

【キーワード】
eTrike,商標法4条1項11号

【事案の概要】
1 特許庁における手続の経緯等
(1) 原告は,平成27年3月2日,別紙本願商標目録記載の構成からなる商標(以下「本願商標」という。)について,第12類「自動車,二輪自動車,三輪自動車,自転車並びにそれらの部品および附属品」を指定商品として,商標登録出願(商願2015-18330号。以下「本願」という。)をした。
(2) 原告は,本願について,平成27年10月26日付けの拒絶査定を受けたので,平成28年2月16日,拒絶査定不服審判を請求した。
特許庁は,上記請求につき不服2016-3346号事件として審理を行い,平成28年6月15日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,同年7月6日,その謄本が原告に送達された。
(3) 原告は,平成28年8月3日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。

【本願商標と引用商標】
1 本願商標

2 引用商標

【争点】
本願商標が引用商標に類似するか。

【判旨抜粋】
1 本願商標について
(1) 本願商標は,別紙本願商標目録記載のとおり,「eTrike」の欧文字を太字で一連に横書きしてなる商標であるところ,商標全体としては,辞書等に記載された既成の語ではなく,一種の造語として認識されるものと認められる。
 したがって,本願商標からは,欧文字表記をする外国語として我が国において最も一般的な英語の読みに従った称呼が生じるものと考えられるところ,上記一連の欧文字綴りからは,「エトライク」の称呼が自然に生じるものといえる。
(2) 他方,本願商標は,一連表記された6つの欧文字のうち,冒頭の「e」の文字が小文字であり,2番目の「T」の文字のみが大文字である点に特徴があるところ,英語では一つの語の冒頭の文字のみを大文字で表記することが一般的に行われていることからすれば,本願商標に接した取引者,需要者らは,大文字の「T」以降の文字である「Trike」を一つの語としてとらえ,冒頭の「e」の文字と区分して理解することも自然にあり得ることといえる。加えて,上記「Trike」及びその片仮名表記である「トライク」の語は,「三輪車」や「三輪の自転車またはオートバイ」を意味する既成の用語であり(乙3,4),特に,本願商標の指定商品に含まれる「二輪自動車,三輪自動車,自転車」に係る取引者,需要者らの間では,そのような意味を有する用語として相応の認識が得られていると考えられること(乙3ないし11),・・・に鑑みれば,本願商標に接した上記取引者,需要者らにおいては,これを,「三輪の自転車またはオートバイ」等を意味する「Trike」の冒頭に「e」の欧文字を付した造語として認識することも自然にあり得ることであるといえる。
 そして,取引者,需要者らが本願商標を上記のように認識することを前提とすれば,本願商標の冒頭の「e」の文字からは,その自然な英語読みである「イー」の称呼が生じ,2文字目以降の「Trike」からは「トライク」の称呼が生じて,全体からは,上記「Eメール」等と同様に,「イートライク」という一連の称呼が生じ得るものといえる。
(中略)
 (4) 以上によれば,本願商標からは,「エトライク」の称呼のほかに,「イートライク」の称呼も生じるものと認められる。
 また,上記(2)のとおり,本願商標は,「三輪の自転車またはオートバイ」等を意味する既成語である「Trike」の冒頭に,電子化されたものを表す「e」の欧文字を冠してなる造語として認識される可能性もあり得るから,これに接した取引者,需要者らとしては,「電子化された三輪のオートバイ」等を想起することも考えられるが,そのようなものは特定の観念をもつものとして一般に認知されているものではないことからすると,本願商標から特定の観念が生じるとまではいい難いというべきである。
2 本願商標と引用商標1の類否について
⑴ 引用商標1について
ア 引用商標1は,「イートライク」の片仮名を標準文字で表してなる商標であるから,そこから,「イートライク」の称呼が生じることは明らかである。また,当該片仮名は,辞書等に記載された既成の語ではなく,引用商標1からは特定の観念が生じないものと認められる。
(中略)
⑵ 類否の判断
 以上を前提に,本願商標と引用商標1とを対比すると,両商標は,「イートライク」の称呼を同一にするものである。
 また,本願商標は「eTrike」の太字の欧文字からなるのに対し,引用商標1は「イートライク」の片仮名の標準文字からなるものであるから,両商標は,文字の種類を異にする点において,その外観が異なるものといえる。しかし,本願商標及び引用商標1の指定商品である「自動車,二輪自動車,自転車」等を取り扱う業界においては,欧文字からなる商標を片仮名で表記することも一般的に行われていることといえるから(乙26ないし31),両商標における文字の種類の違いが,これに接する取引者,需要者らに対し,外観上の差異として強い印象を与えるとはいえないというべきである。
 さらに,本願商標と引用商標1からは,いずれも特定の観念を生じないものと認められるから,この点において両商標に相違があるものではない。
 以上のとおり,本願商標と引用商標1は,「イートライク」の称呼を共通にする一方,その外観において,称呼の共通性を凌駕するほどの顕著な差異があるとはいえず,また,観念においても相違があるものではないことからすると,互いに相紛れるおそれのある類似する商標というべきである。
3 本願商標と引用商標2の類否について
(1) 引用商標2について
ア 引用商標2は,「E-TRIKE」の欧文字及びハイフン記号を標準文字で表してなる商標であるところ,商標全体としては,辞書等に記載された既成の語ではなく,一種の造語として認識されるものと認められる。
 したがって,引用商標2からは,欧文字表記をする外国語として我が国において最も一般的な英語の読みに従った称呼が生じるものと考えられるところ,引用商標2に接した取引者,需要者らは,「-」(ハイフン)で区切られた冒頭の「E」の文字と後方の「TRIKE」の語とを区分して認識することになるから,その結果,冒頭の「E」からは,その自然な英語読みである「イー」の称呼が生じ,後方の「TRIKE」からは「トライク」の称呼が生じ,また,「-」(ハイフン)の記号は特に発音されずに,全体からは,「イートライク」という一連の称呼が生じるものと認められる。
(中略)
ウ 以上によれば,引用商標2からは,「イートライク」の称呼が生じるものと認められる。
 また,前記1(2)で述べたところによれば・・・これに接した取引者,需要者らとしては,「電子化された三輪のオートバイ」等を想起することも考えられるが,そのようなものは特定の観念をもつものとして一般に認知されているものではないことからすると,引用商標2から特定の観念が生じるとまではいい難いというべきである。
⑵ 類否の判断
 以上を前提に,本願商標と引用商標2とを対比すると,両商標は,「イートライク」の称呼を同一にするものである。
 また,本願商標は「eTrike」の欧文字からなるところ,その文字の態様は,太字のゴチック風の書体であり,格別特異なデザインが施されているものではなく,他方,引用商標2は「E-TRIKE」の欧文字及びハイフン記号を標準文字で表してなるものである。しかるところ,両商標は,「-」(ハイフン)記号の有無のほか,前者が大文字と小文字の組合せからなるのに対し後者が大文字のみからなることや書体の相違が見られるものの,いずれも格別顕著な相違とはいえないものであり,他方,欧文字の綴りを同一にすることから,外観上近似した印象を与えるものということができる。さらに,本願商標と引用商標2からは,いずれも特定の観念を生じないものと認められるから,この点において両商標に相違があるものではない。
 以上のとおり,本願商標と引用商標2は,「イートライク」の称呼を共通にする上,その外観においても近似した印象を与えるものであり,また,観念においても相違があるものではないことからすると,互いに相紛れるおそれのある類似する商標というべきである。

【解説】
 本件は、商標権に係る審決取消訴訟である。特許庁は、本願商標について、商標法4条1項11号1 にもとづいて拒絶査定(及び審決)をおこなったものであるが、裁判所はこれを正当であると判断した。
 裁判所は,本願商標の「eTrike」から,「エトライク」,「イートライク」との称呼が生じ,本願商標から特段の観念は生じないと判断した上で,本願商標と引用商標1とは「イートライク」と称呼が共通であり,外観が称呼を凌駕するほどの顕著な差異がなく,いずれも観念が生じないことから類似しており,本願商標と引用商標2とは称呼が同一であり,外観も,「-」の有無や大文字と小文字の組み合わせか,大文字のみかといった差異しかなく,近似しており,いずれも観念が生じないことから,類似していると判断した。
 以上の判断をもとに,裁判所は,審決の判断を維持した。
 なお、原告は、引用商標1の「ー」(長音記号)を「-」(ハイフン)であると主張する等しているが,裁判所は,いずれの主張も退けている。
 本件は,事例判断ではあるが,極めてわかりやすい類否判断を行っている事例であり,実務上参考になると思われる。

以上

(文責)弁護士 宅間仁志


 1 第四条   次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。 (中略)
十一 当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標又はこれに類似する商標であつて、その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務(第六条第一項(第六十八条第一項において準用する場合を含む。)の規定により指定した商品又は役務をいう。以下同じ。)又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの