【平成29年(ワ)第5249号(東京地裁H29・5・11)】

【判旨】
 被告の役務に係る標章が、本件商標権を侵害するとして、差止めを原告が求めたところ、その請求が認められず、請求が棄却された。

【キーワード】
 役務についての使用に当たるか,LOCKON

【事案の概要】
 本件は,別紙「商標権目録」記載の商標権を有する原告が,被告が別紙「被告標章目録」記載の標章をインターネットホームページのサイトで使用する行為が原告の商標権を侵害すると主張して,被告に対し,商標権に基づき,被告の役務に係るホームページ及び広告に同標章を付することの差止めを請求した事案である。

被告の標章及び使用態様



争点

被告による被告標章の使用は,本件商標の指定役務又はこれに類似する役務についての使用にあたるか

判旨抜粋

 1 認定事実 後掲証拠によれば,以下の事実が認められる。
 (1) 被告サービスの内容
 ア 「製品・サービス」のページ
被告のホームページは,「新着情報」,「会社概要」,「事業案内」,「製品・サービス」及び「採用情報」のページから構成されており・・・,そのうちの「製品・サービス」のページでは,被告の「製品・サービス」の一つとして「ロックオン」の項があり,そこには,「スマートフォン対応のケータイサイト作成ASP。 SEOにも効果的。華やかなケータイサイトが専門知識なしで簡単に作成できる!」と記載されている。
 イ 「Lockon とは?」のページ
 (ア)・・・小さい活字ではあるが,「スマートフォン対応のケータイサイト作成ASP。 SEOにも効果的。華やかなケータイサイトが専門知識なしで簡単に作成できる!」と記載されている。
 (イ)・・・「華やかなサイトが専門知識なしで作成でき,専用管理画面&エディタで更新も簡単です。また,スマートフォンアプリが標準対応。 クーポン機能やアプリ特有のプッシュ通知など,アプリだからできる様々な機能も満載。 プッシュ通知を使えば,ユーザーのスマートフォンに,簡単&確実にクーポンやお知らせを通知できます。」と説明されている。
 (ウ) 同ページでは,次に,「プッシュ通知」として「管理画面からボタン一つで簡単に,iOS・Android のスマートフォンにプッシュ通知ができます。」・・・と記載されている。
 (中略)
 ウ 「機能一覧」のページ
 (ア) 上記の「製品・サービス」の中の「ロックオン」の項の下の階層の「機能一覧」のページ・・・では,・・・17種類の機能が簡略な説明とともに列挙されている(別紙「機能一覧」のとおり)。このうち,「Lockon アプリ」には,「アプリのプッシュ通知でユーザーにダイレクトに情報配信」と,「メールマーケティング」には,「メールを送りたいターゲットの条件を絞って送信」と,それぞれ記載されている。
 (イ) 上記の「機能一覧」のページの「Lockon アプリ」の項の下の階層には,・・・プッシュ通知機能に関するページがある・・・このページには,・・・「アプリのプッシュ通知でカンタン情報配信!」と記載され,さらにその下に,より小さいフォントの活字で,「アプリと連動することで,ユーザーがリアルタイムに最新のニュース(更新情報)を知る手だて(アイキャッチ効果)が増え,アクセス数の増加が見込めます。 また,メルマガを配信してもユーザーがメールアドレスを変更等をして届かない場合もありますが,アプリをダウンロードしていただければアプリダウンロードユーザーに更新情報を届けることが出来ます。」と記載されている。(中略)
 (ウ) 上記の「機能一覧」のページの「メールマーケティング」の項の下の階層には,・・・メールマーケティング機能に関するページがある・・・。このページには,・・・「メールマーケティングではケータイアンケートの作成・収集データのダウンロード・データ属性抽出によるメール配信などができます。 また,配信日時の指定予約をまとめて登録できる機能を装備した,メールマガジン配信も可能です。」と記載されている。
 (2) 被告サービスの利用方法
 ア 被告の顧客は被告と契約を締結し,ホームページ作成アプリ画面へのログインID及びパスワードを取得し,ログインして,被告が管理するサーバ内にあるソフトウェアを利用する(乙9)。
 イ・・・被告の顧客が,この欄にメッセージを入力して通知ボタンを押すと,登録されたエンドユーザーにメッセージが配信される。
 ウ 被告の顧客がログインして利用する管理画面の中の,「メールマーケティング」画面(乙8の1ないし8の5)では,被告の顧客がエンドユーザーに任意のタイミングで送信する「サンクスメール」,「バースデーメール」,「クーポンメール」について,それらのタイトル,本文(内容)等を記入する欄がある。
 2 争点1(被告による被告標章の使用は,本件商標の指定役務又はこれに類似する役務についての使用に当たるか)について
 (1) 前記のとおり,被告のホームページにおいて,被告サービスは,「スマートフォン対応のケイータイサイト作成ASP」,「華やかなケータイサイトが専門知識なしで簡単に作成できる」として総括的に紹介されており,被告サービスの17の機能の多くはホームページの作成支援に関わる機能であることからすると,被告サービスは,ホームページ作成支援を主たる機能とするものであると認められる。そして,前記のとおり,被告サービスは,「ASP」とされ,ASPとは,ソフトウェアをインターネットを介して利用させるサービスをいうこと(弁論の全趣旨)からすると,被告標章が使用されている被告サービスは,全体として,インターネットを介してスマートフォン等の携帯電話用のホームページの作成・運用を支援するためのアプリケーションソフトの提供を行うものであり,第42類の「電子計算機用プログラムの提供」に該当すると認められ,本件商標の指定役務第35類の「広告」には該当せず,また,これに類似する役務とも認められない。

解説

 本件は、商標権に係る差止請求訴訟である。裁判所は,結論として当該請求を認めなかった。
 本件では,被告標章と本件商標権の標章が類似していることに争いはなかった。本件では,被告の提供しているサービスが,原告の保有する本件商標権の指定役務に該当するか(該当する場合には,商標法2条3項各号に定める使用に該当するかを判断する必要がある。)が争点となった。
 裁判所は、被告の提供している役務は,「インターネットを介してスマートフォン等の携帯電話用のホームページの作成・運用を支援するためのアプリケーションソフトの提供を行うもの」であって,第42類の「電子計算機用プログラムの提供」 1。であり「広告」及びこれに類似する役務とも認められない旨判断した,
 原告は,「被告サービスのうちのプッシュ通知機能及びメールマーケティング機能」に着目して,「広告業」に被告標章を使用するものである旨主張した。しかしながら,裁判所は,「これら機能が独立して提供されているわけではないから,被告標章がそれらの機能について独立して使用されていると認めることはできない」こと及び「被告サービスによって提供されるアプリケーションソフトを被告の顧客が使用することにより自動的に行われるものであるから,被告の提供する役務は,そのような配信機能を有するプログラムを提供するものというべきであり,被告自身が広告配信サービスを提供していると捉えることはできない」ことから,原告の主張を退けた。
 本件は,事例判断であるが,指定役務に係る判断として参考となるものである。

以上
(文責)弁護士 宅間仁志

1平成27年政令第26号による改正前の商標法施行令1条別表及び平成25年経済産業省令第58号による改正前の商標法施行規則6条別表が適用されるところ,同改正前の政令の別表に規定された第42類の役務に属するものとして
「第四十二類
二 電子計算機のプログラムの設計,作成又は保守
ウェブサイトの作成又は保守
三 電子計算機用プログラムの提供」
が定められていた。