【知財高判平成26年10月15日(平成26(行ケ)10035号)】

【要旨】
 本願当初明細書等には,「各電極構造」が,「前記吸着材料と相互に接続する導電構造と,該導電構造に組み合わされて該導電構造を上記相互に絶縁する複数のサブ電極に分ける複数の絶縁フレームとを包含する」ものであることが記載されているものと認められる。

【キーワード】
新規事項,新たな技術的事項を導入,下位概念化

発明の概要

 特願2009-115359号に係る回転ホイール式脱着除湿装置は,除湿ホイールにより水分の脱着を行うものである。従来,除湿ホイールによる吸湿は,加熱式の脱着法を用いていたが,エネルギー消費が高いことや,除湿効率が低い等の問題があった。そこで,本発明は,材料に導電し,脱着を行うことができ,通電の方式により,エネルギー消費を低下させ,脱着効果を拡大する除湿装置を提供しようとするものである。
 本発明では,吸着材料30の両側に一対の電極構造31と32が接続され,電圧原33と接続される。また,電極構造31は,複数のサブ電極310を備え,各サブ電極310は,導電構造金属枠312を備える。
 吸着材料30が回転する時,電気ブラシ330が接触する導電構造金属枠312は,電気をサブ電極310全体に導電する。電気ブラシ330により接触されたサブ電極310とサブ電極320との間が対応する吸着材料区域300は,サブ電極310とサブ電極320との間の電場により導電し,区域300において脱着を行うよう確保することができる。通電に対応しない吸着材料30は,吸着動作を継続し,こうして吸着材料30は,吸着と脱着の効果を同時に備えることができる。
 電極構造31は,導電層314aと絶縁帯である溝314bにより複数のサブ電極を備える。また,電気的接触効果を拡大させるために,導電層314aが形成する各サブ電極の辺縁上には,導電構造314cを設置する。


争点

 本件では,下記の下線部に記載する事項を特許請求の範囲に追加し,発明特定事項を下位概念化する補正が,当初明細書等に記載された事項との関係で新たな技術的事項の導入にあたるかどうかが問題となった。

 「除湿装置は,空気中の水分を凝結させる凝結部,吸着材料,再生部,電圧源を備え,…(中略)…
 前記再生部はさらに,一対の電極構造を備え,それは前記吸着材料の両側と相互に接続し,前記各電極構造は,相互に絶縁する複数のサブ電極を備え,
 前記電圧源は,前記一対の電極構造と相互に接続し,前記電圧源は,前記一対の電極構造に電圧を提供し,これにより前記吸着材料には電流が導通し,脱着が行なわれ,
 各該電極構造は,前記吸着材料と相互に接続する導電構造と,該導電構造に組み合わされて該導電構造を上記相互に絶縁する複数のサブ電極に分ける複数の絶縁フレームとを包含することを特徴とする省エネ型除湿装置。」

 特許請求の範囲における「導電構造」は,明細書における「導電層314a」を意図して記載されたものと思われるが,明細書上には「導電構造314c」が記載されていたことから,審決は,「導電構造としての導電層」は明細書に記載されていないとして,当初明細書等に記載された事項の範囲を超えると判断をした。

判旨

 本判決では,まず,補正で追加された事項について,以下のように認定した。

 「本願発明における「各電極構造」を,「各該電極構造は,前記吸着材料と相互に接続する導電構造と,該導電構造に組み合わされて該導電構造を上記相互に絶縁する複数のサブ電極に分ける複数の絶縁フレームとを包含する」ものに限定する補正事項(補正事項(イ))を含むものである。補正事項(イ)は,「各電極構造」が,「吸着材料と相互に接続する導電構造」と「複数の絶縁フレーム」とを包含するものであり,この「複数の絶縁フレーム」は,導電構造に組み合わされることにより,導電構造を相互に絶縁する複数のサブ電極に分けるものであることを内容とする。」
 
 本判決では,新たな技術的事項が導入されるか否かについて,以下のように判示された。

 「本願出願時の特許請求の範囲の請求項2及び9には,…(中略)…各電極構造は,吸着材料と相互に接続する導電構造と導電構造上に設置され導電構造を相互に絶縁する複数のサブ電極に分ける複数の絶縁フレームを備える構成が記載されている。
本願当初明細書の段落【0017】には,「電極構造」の第2実施例のうち【図6】に示される態様においては,…(中略)…電極構造31は,吸着材料30の表面に塗布された抗酸化導電層314aと複数の絶縁フレームとを包含するものであり,この複数の絶縁フレームが,抗酸化導電層314aに形成された複数の溝314bの上に設置されることにより,抗酸化導電層314aが相互に絶縁する複数のサブ電極に分けられるものであり,この「抗酸化導電層314a」が,請求項9の「導電構造」に相当するものであると理解することができる。
 さらに,本願当初明細書の段落【0017】には,「電極構造」の第2実施例のうち,【図7】に示される態様においては,…(中略)…電極構造31は,吸着材料30の表面に塗布された抗酸化導電層314a及びその辺縁上に設置された導電構造314cと複数の絶縁フレームとを包含するものであり,この複数の絶縁フレームが,抗酸化導電層314aに形成された複数の溝314bの上に設置されることにより,抗酸化導電層314a及び導電構造314cが,相互に絶縁する複数のサブ電極に分けられるものであり,「抗酸化導電層314a及び導電構造314c」が,請求項9の「導電構造」に相当するものであると理解することができる。
 そして,抗酸化導電層314aは吸着材料30の表面に塗布により形成され,導電構造314cは,抗酸化導電層314aが形成する各サブ電極の辺縁上に金属棒,金属線,金属網などの材料を設置することにより形成されるものであるから,「導電構造」に相当する「抗酸化導電層314a」(【図6】に示される態様),「抗酸化導電層314a及び導電構造314c」(【図7】に示される態様)は,いずれも「吸着材料と相互に接続する」ものであり,「絶縁フレーム」は,抗酸化導電層314aに形成された複数の溝314bの上に設置され,「抗酸化導電層314a」(【図6】に示される態様),又は「抗酸化導電層314a及び導電構造314c」(【図7】に示される態様)を相互に絶縁する複数のサブ電極に分けるものであるから,「導電構造に組み合わされることにより,導電構造を,相互に絶縁する複数のサブ電極に分ける」ものである。
 したがって,本願当初明細書等には,「各電極構造」が,「前記吸着材料と相互に接続する導電構造と,該導電構造に組み合わされて該導電構造を上記相互に絶縁する複数のサブ電極に分ける複数の絶縁フレームとを包含する」ものであることが記載されているものと認められる。」

 また,当初明細書等では,「導電層314a」と「導電構造314c」が記載されており,導電構造の用語が使い分けられており,「導電構造」は「導電構造314c」を意味するのであって,「導電層314a」を意味しないのではないかという点について,以下のように判示した。

 「本願当初明細書の段落【0017】に,第二実施例のうち【図7】に示される態様における導電構造314cが金属棒,金属線,あるいは金属網などの材料から成るものであると記載されているからといって,また,上記段落中では,「図6に示すように,電極構造31は,・・・抗酸化導電層314aである。」と記載されており,「抗酸化導電層314a」について「導電構造」との用語をもって説明されていないからといって,これらのことから直ちに,本願当初明細書等において「導電構造としての抗酸化導電層」,すなわち,抗酸化導電層314aが「導電構造」に相当する構成が排除されているものとはいえない。」

検討

 このように本判決では,図7の「導電構造314c」は付加的な構成であることを前提に,図6の「抗酸化導電層314a」及び図7の「抗酸化導電層314a及び導電構造314c」が特許請求の範囲の記載も踏まえると「導電構造」といえると判断をした。
明細書において「導電構造314c」の用語が用いられていたとしても,特許請求の範囲に「導電構造」の文言が用いられていること,「抗酸化導電層314a」や「導電構造314c」の技術的意義,図6及び図7の関係等を踏まえ,「導電構造」が当初明細書等に開示されていたかどうかを実質的に判断した。
 このように,下位概念化が新たな技術的事項の導入に該当するかどうかは,下位概念化しようとする発明特定事項が,特許請求の範囲と明細書の記載の関係,明細書の各段落の関係や,明細書と図面の関係等を踏まえて,当初明細書等に記載されているかどうかを実質的に判断することにより行われる。

以上
(文責)弁護士・弁理士 杉尾雄一