【東京地方裁判所平成30年12月21日(平成29年(ワ)第18184号)】

【キーワード】
文言侵害,均等侵害

【判旨】
 被告製品は構成要件Eを充足しないので,本件特許の文言侵害に基づく原告の請求は理由がない。しかし,被告製品は,均等侵害の第1,第2,第3及び第5要件を充足し,第4要件の充足性に争いはない。被告製品の構成は,本件発明と均等なものとして,本件発明の技術的範囲に属する。

はじめに

 本件は,名称を「骨切術用開大器」とする特許権(登録番号特許第4736091号)を有する原告が,被告が製造,貸渡し及び貸渡しの申出をしている骨切術用開大器が,上記特許の請求項1に係る発明の技術的範囲に属し,上記特許権の侵害行為に当たると主張して,被告に対し,被告製品の製造,貸渡し及び貸渡しの申出の差止め並びに同製品の廃棄を求める事案です。
 本件の争点は,①被告製品が本件発明の技術的範囲に属するか,②被告製品による均等侵害の成否,及び,③無効の抗弁(サポート要件違反)の成否です。以下では,これらの争点のうち,①(構成要件Eに関するもの)及び②をとりあげてご紹介します。
 本件は,事例判断ではありますが,文言侵害や均等侵害の検討やあてはめの視点に関して,参考になるものと考えられます。

本件発明及び被告製品

1.本件発明(構成要件に分説)
(1)本件発明1
【請求項1】
A 変形性膝関節症患者の変形した大腿骨または脛骨に形成された切込みに挿入され,該切込みを拡大して移植物を挿入可能なスペースを形成する骨切術用開大器であって,
B 先端に配置されたヒンジ部により相対的に揺動可能に連結された2対の揺動部材と,
C これら2対の揺動部材をそれぞれヒンジ部の軸線回りに開閉させる2つの開閉機構とを備え,
D 前記2対の揺動部材が,前記ヒンジ部の軸線方向に着脱可能に組み合わせられており,
E 前記2対の揺動部材の一方に,他方の揺動部材と組み合わせられたときに,該他方の揺動部材に係合する係合部が設けられている骨切術用開大器。

(2)本件発明2
【請求項2】
F 前記2対の揺動部材が,それぞれ,閉じられた状態で先端側から漸次厚くなる略楔形状に形成されている請求項1に記載の骨切術用開大器

(3)本件発明の一実施形態(特許公報より引用)

骨切術用開大器を一対の揺動部材を通る切断面において切断した縦断面図 骨切術用開大器を示す平面図
 
骨切術用開大器において、2対の揺動部材を分離した状態を示す平面図 骨切術用開大器において、2つの開閉機構を作動させた状態を示す縦断面図

2.被告製品(裁判所ウェブサイトより引用)

全体の外観(表側) 全体の外観(裏側)
   
揺動部材1(上)及び
揺動部材2(下)単体の表側
角度調整器
 

3.本件発明と被告製品の相違点
 本件発明と被告製品の相違点は,上記構成要件Eに関するものであり,判旨では,次のように述べられています(説明の便宜のため,ここで先に採り上げます。下線は,筆者によるものです。)。
「本件発明と被告製品との相違点は,本件発明では,係合部が一方の揺動部 材の一部分を構成するものであるのに対し,被告製品では,揺動部材2から揺動部材1に力を伝達する部分である角度調整器のピン及び留め金の突起部が揺動部材2とは別部材である点にある」。

判旨

1.本件発明の意義
「本件発明は,①変形性膝関節症患者の変形した大腿骨又は脛骨に形成された切込みに挿入され,当該切込みを拡大して移植物を挿入可能なスペースを形成する骨切術用開大器を技術分野とするものであり,②拡大器を用いて切込みを拡大した場合,拡大器が移植物の挿入の妨げになり,また,挿入時に拡大器を取り外した場合,切込みが拡大された状態が維持されず,移植物の挿入が困難になるという課題を解決するため,③請求項1及び2に係る構成を採ることにより,2対の揺動部材で切込みを拡大した後,一対の揺動部材を閉じ,一対の揺動部材により切込みを拡大した状態に維持しつつ,閉じられた一対の揺動部材を取り外して,切込みに移植物を挿入可能なスペースを確保することを可能にし,④これにより,切込みを拡大した状態を維持しつつ,移植物の挿入を容易にすることができるという効果を奏するものであると認められる。」

2.構成要件Eの充足性
「ア …請求項1の「前記2対の揺動部材の一方に,…係合部が設けられている」との記載は,その一般的な意味に照らすと,「係合部」が揺動部材の一方の一部を構成していると解するのが自然であり,原告の主張するように,揺動部材とは別の部材が係合部を構成する場合まで含むと解するのは困難である。
 また,請求項3…,請求項4…の規定も,2対の揺動部材のうち,係合部が設けられている側と設けられていない側が区別可能であることが前提となっていると解するのが自然である。…
 以上のとおり,本件特許に係る特許請求の範囲の記載によれば,本件発明の「係合部」は揺動部材の一方の一部を構成するものであると解される。

イ 次に,本件明細書等を参酌して,同明細書等における「部材」と「部」の意義についてみると,…本件明細書等において,「部材」という語は独立した部分を意味するものとして,「部」は部材の一部を構成するものとして用いられているということができ,係る用法に照らしても,「係合部」は一方の揺動部材の一部分を構成すると解することが相当である。また,…実施例の記載も,本件発明の「係合部」は揺動部材の一方の一部を構成するとの上記解釈と整合するものということができる。
 以上のとおり,本件明細書等に照らしても,本件発明の「係合部」は揺動部材の一方の一部を構成すると解するのが相当である。

ウ …原告の「係合部」に関する解釈は,請求項1の「前記2対の揺動部材の一方に,…係合部が設けられている」との記載や請求項3及び4の記載と必ずしも整合するものではなく,前記判示に係る本件明細書等の記載に照らしても,採用し得ない。

エ 証拠…によれば,被告製品の角度調整器及び留め金は,各揺動部材とは独立した部材と認められ,一方の揺動部材の一部分として構成されているとは認められないので,被告製品は,構成要件Eを充足しない。」

3.被告製品による均等侵害の成否
(1)第1要件(非本質的部分)
「本件発明において従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分は,開閉可能な2対の揺動部材を着脱可能に組み合わせるとともに,揺動部材が組み合わされた状態で一方の部材が他方の部材に係合するための係合部を設け,これにより,2対の揺動部材が同時に開くことを可能にするとともに,2対の揺動部材で切込みを拡大した後には,一方の揺動部材によりその拡大状態を維持しつつ,閉じられた他方の揺動部材を取り外して,移植物の挿入可能なスペースを確保して移植物の挿入を容易にする点にある」。
「被告製品は,本件発明とその特徴的な技術的思想を共有し,同様の効果を奏するものである」。
「本件発明と被告製品との相違点…は,係合部を揺動部材の一部として設けるか別部材にするかの相違にすぎず,本件発明の技術的思想を構成する特徴的部分には該当しない」。

(2)第2要件(置換可能性)
「被告製品の角度調整器のピンと留め金の突起部は,2対の揺動部材が組み合わされた状態で一方の部材が他方の部材に係合するための係合部に相当し,本件発明のように,揺動部材の一部に係合部を設ける構成を,被告製品の角度調整器のピンと留め金の突起部に置き換えたとしても同様の効果を奏すると認められる。」

(3)第3要件(置換容易性)
「一般的に,ある部材から他の部材に力を伝達する際に,2つの部材を直接係合させて力を伝達するか,2つの部材に同時に係合する第3の部材を介して力を伝達するかは,当業者が適宜選択し得る設計的事項であるということができる。
 そうすると,本件発明のように2対の揺動部材の一方に他方に係合する係合部を設けて直接力を伝達することに代えて,2対の揺動部材に同時に係合する第3の部材(角度調整器及び留め金)を介して力を伝達するようにして被告製品のような構成とすることは,被告製品の製造時において当業者が容易に想到することができたと認めるのが相当である。」

(4)第5要件(特段の事情)
(構成要件Eは補正によって追加されたものであるところ,拒絶理由通知に対する意見書の記載によれば,原告は,被告製品のように係合部を別部材とする構成を特許発明の対象から意識的に除外したと理解することができるとの被告の主張に対し,)「原告が,係合部を揺動部材とは別の部材とする構成を特許請求の範囲から意識的に除外したと認めることはできない。」

以上
(文責)弁護士 永島太郎