【大阪地裁平成31年1月24日判決(平成29年(ワ)第6322号) 損害賠償請求事件】

【判旨】
 コンタクトレンズ販売店のビジネスモデル自体は、著作権による保護の対象にならない。本件において、そのビジネスモデルを表現したチラシにおける各表現方法自体は、ありふれたものにすぎないため、創作性があるとは認められない。

【キーワード】
著作物、創作性、表現の選択の幅、実用的

事案

(詳細な事情を捨象し、簡潔に記載する。)
(1) 原告及び被告は、いずれもコンタクトレンズ販売店を経営する会社であり、P1は原告を経営していた。原告の店舗Aは、眼科を併設しており、P2はその眼科医として原告と提携していた。
(2) P2は、自らコンタクトレンズ販売店を営もうと考え、P1の協力の下、被告を設立し、コンタクトレンズ販売店である店舗Bを開店した。被告は、原告に対し、店舗Bの運営を委託した。この店舗Bは、従来のコンタクトレンズ販売店と異なり、眼科を併設せず、眼科の検査なしでコンタクトレンズを買うことができるというビジネスモデルを採用した。店舗Bにおいて、チラシ(以下「本件チラシ」という。)が作成・配布されていた。
(3) 原告とP2の提携関係が終了し、被告が原告に運営を委託する関係も終了した。
(4) 原告が店舗Bを明け渡した後、被告が同じ場所でコンタクトレンズ販売店である店舗B’を開店した。また、原告と契約関係にある別の会社が、店舗B’の付近に店舗B”を更に開店した。
(5) 被告は、店舗B’の販売宣伝のため、チラシ(以下「被告チラシ」という。)を作成し、配布した。

争点

本件訴訟において、原告は、被告に対し、本件チラシの著作権(複製権及び翻案権)侵害、違法な従業員の引抜きに係る不法行為及び競業避止義務違反の債務不履行又は不法行為を主張して損害賠償を請求した。本稿は、本件チラシの著作権に関する部分について記載する。

本件チラシと被告チラシの対比

本件チラシ(各左側)及び被告チラシ(各右側)の対比表のうち、本判決で問題となった対比表No. 2は、以下のとおりである(本判決の別紙1に掲載)。

本判決

原告は、上記対比表No. 2の本件チラシの表現のうち、①「検査時間 受診代金[注:各文言の上に『×』の記号あり]」や「検査なし スグ買える!」という宣伝文句、②「コンタクトレンズの買い方比較」という表及び③「なぜ検査なしで購入できるの?」という箇所における説明文言の3点について、創作性があるとして、本件チラシに著作物性が認められると主張した。なお、視力検査をしている男の子のイラストは、インターネット上のフリーアイコン等を使用したものであり、原告は、著作権を主張していない。
本判決は、概要、以下の理由により、本件チラシの創作性を否定した。

①は、個性が現れているということはできない上に、ありふれた表現方法にすぎない。
②については、表現方法としては、文章で伝えるなどの別の方法が存する。しかし、販売宣伝という本件チラシの性質上、表現方法の選択の幅はそれほど広いとは認められず、文字で表現しようと思えばできる事項を表形式にまとめることは通常行われることであり、その具体的な内容はありふれた手法にすぎない。
③の説明文言は、眼科での受診(検査)なしでコンタクトレンズを購入することができる理由を文章で説明したもので、店舗Bにおけるビジネスモデルの客観的な背景や方針をそのまま文章で記載したものにすぎず、文章表現自体に特段の工夫があるとはいえない上、その表現方法に何らかの工夫がみられるわけでもない。
なお、店舗Bにおけるビジネスモデル自体が著作権による保護の対象になるわけではない。

また、原告は、①~③の組合せに著作物性が認められるとも主張したが、本判決は、これらの組合せを、「組み合わせることによって当該ビジネスモデルを強調し、読み手に分かりやすく説明しようとしたものということはできる。しかし、何かを強調し、分かりやすく伝えるために、説明文とキャッチフレーズと表形式のものを組み合わせることそれ自体は、特徴的な手法とは認められない」として、①~③の各表現に創作性が認められないことを踏まえると、これらの組合せ自体にも創作性は認められないと判断した。

検討

(1) 法律上問題となった点
上記対比表No. 2を見ると、本件チラシと被告チラシとでは、構成、文言等がほとんど同じであり、類似しているという印象は否定し難い。しかし、著作物性は、類似性とは別の問題である。
著作権法上の著作物(著作権法2条1項1号)であるためには、
ア 思想又は感情を
イ 創作的に(創作性)
ウ 表現したものであって、
エ 文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの
であることが必要である。
本判決で判断されたのは、上記イの創作性である。創作性には、独創性(著作者自身が独立して創作したこと)及び創造性(作品に何らかの知的活動の成果があること)の2つの要素が含まれているといわれる。小説、美術品等の伝統的な表現物については、独創性があれば、通常、創造性もあるものと考えられ、創造性を独立して問題とする必要がない場合が多い。また、裁判所が美術品の創造性を判断するのは極めて困難である。
しかしながら、コンピュータ・プログラムのような実用的な表現物については、創造性のないものを著作物として著作権法で保護するとすれば、大きな問題が生じる。一定の機能を有するコンピュータ・プログラムが、誰が書いても同じような表現になる場合、最初にそのコンピュータ・プログラムを書いた者に独占権を認めてしまうと、他の者は、同様の機能を有するコンピュータ・プログラムを書くことができなくなってしまい、「文化の発展に寄与する」(著作権法1条)という著作権法の目的にも反すると考えられる。つまり、表現の選択の幅が狭い場合、創造性の高い表現をすることは困難である。これに対し、同じ機能を有する表現に選択の幅がある場合は、創造性の高い表現も可能である。この場合、1つの表現に著作権を認めたとしても、他の者は、別の表現を創作することができるので、多様な表現が生まれ、著作権法の目的に適うであろう。このような考え方を適用すべき実用的な表現物として、従来、コンピュータ・プログラム及び建築設計図が挙げられることが多かったが、本判決は、チラシを同様に実用的な表現物として捉えたものと考えられる。

(2) 本判決の具体的判断
本判決において、本件チラシの①の表現は、「個性が現れているということはできない」及び「ありふれた表現方法にすぎない」として、表現の選択の幅に触れず、創造性が低いという観点で創作性が否定されたものと考えられる。
②の表現は、「コンタクトレンズの買い方比較」として他店との違いを表形式にまとめたものであるため、表形式ではなく文章表現によることも可能であることが明らかであり、一見、表形式をとったことに創造性を認める余地もあるように思われる。しかし、本判決は、本件チラシが販売宣伝目的のものであるから、スペースが限られることや一目で理解できる表現にする必要があることを考慮し、表現方法の選択の幅が広いとはいえないとした上、表形式にまとめることを通常行われる手法であると判断した。本判決が指摘するとおり、チラシの作成においては、スペースや理解のしやすさという制約は非常に大きなものであると考えられるから、このような事情を前提とした判断は妥当であろう。紙のチラシではなく、ウェブ上の広告であれば、スペースの問題は緩和されるから、別の見方もあるであろう。
③の表現は、ビジネスモデルの客観的な背景や方針をそのまま文章で記載したという点が、本判決の判断に大きく影響したのではないかと考えられる。本判決も触れているとおり、ビジネスモデル自体が著作権法により保護されるものではないから、ビジネスモデルを表現する過程において特段の工夫が見られない以上、創作性を認めることができないという結論は妥当であろう。
しかしながら、本判決は、チラシについて一般論を述べたものではない。判断例として参考になるが、過度に一般化すべきではなく、具体的事案に即した検討が必要であることは言うまでもない。

(3) その他
本判決後、原告が控訴し、控訴棄却の判決がされている(大阪高裁令和元年7月25日判決(平成31年(ネ)第500号))。控訴審では、控訴人(原告)は、その従業員が多大な労力を要して作成した本件チラシについて、被控訴人(被告)がデッドコピーを作成、頒布し、集客効果を上げたことについて、一般不法行為を主張したが、労力を要したこと及び集客効果の程度の立証がないとして、不法行為の成立を認めなかった。

以上
(文責)弁護士 後藤直之