【令和元年(行ケ)第10151号(知財高裁R2・5・20)】

【判旨】
 本願商標に係る特許庁の不服2019-1895号事件について商標法4条1項11号の判断は誤りであるとして,請求を認容した事案である。

【キーワード】
CORE ML,CORE,商標法4条1項11号,本願商標の認定の誤り

事案の概要

(1) 原告は,平成29年11月6日に,指定商品を「第9類 アプリケーション開発用コンピュータソフトウェア,他のコンピュータソフトウェア用アプリケーションの開発に使用されるコンピュータソフトウェア,コンピュータソフトウェア」(以下「本件指定商品」という。)として,「CORE ML」の文字を標準文字で表してなる商標(以下「本願商標」という。)について,商標登録出願(商願2017-145606号)をしたところ,平成30年11月9日付けで拒絶査定を受けた(以下,同拒絶査定を「本件拒絶査定」という。)ので,平成31年2月12日に,不服審判請求をした(不服2019-1895号)。
(2) 特許庁は,前記(1)の不服審判請求について,令和元年6月25日に,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,本件審決の謄本は,同年7月9日に原告に送達された。

【本願商標】
 事案の概要参照。

【引用商標】
 引用商標1
 登録第5611369号商標(以下「引用商標1」という。)は,「CORE」の文字を標準文字で表してなり,平成25年4月17日に登録出願,第9類「加工ガラス(建築用のものを除く。),写真機械器具,映画機械器具,光学機械器具,測定機械器具,電池,電子応用機械器具及びその部品,眼鏡,レコード,メトロノーム,電子楽器用自動演奏プログラムを記憶させた電子回路及びCD-ROM,インターネットを利用して受信し,及び保存することができる音楽ファイル」を指定商品として,同年8月30日に設定登録され,現に有効に存続しているものである。
 引用商標2
 登録第5611370号商標(以下「引用商標2」といい,引用商標1と引用商標2を併せて「引用商標」という。)は,「コア」の文字を標準文字で表してなり,平成25年4月17日に登録出願,第9類「加工ガラス(建築用のものを除く。),写真機械器具,映画機械器具,光学機械器具,測定機械器具,電池,電子応用機械器具及びその部品,眼鏡,レコード,メトロノーム,電子楽器用自動演奏プログラムを記憶させた電子回路及びCD-ROM,インターネットを利用して受信し,及び保存することができる音楽ファイル」を指定商品として,同年8月30日に設定登録され,現に有効に存続しているものである。

争点

 本願商標の認定に誤りがあるか否か及び本願商標が,商標法4条1項11号に該当するか否か。

判旨抜粋

 下線は筆者が付した。証拠番号等は,適宜省略する。

1 取消事由1(本願商標の認定の誤り)について
(1) 前記第2の2(1)のとおり,本願商標は,「CORE ML」の文字を標準文字で表してなる商標であり,「CORE」の文字と「ML」の文字とからなる結合商標である。
 複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて,商標の構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,その部分が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などを除き,原則として許されないというべきである(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成3年(行ツ)第103号平成5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁,最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁)。
 そこで,本件商標と引用商標との類否の判断に当たって,本件商標の一部である「CORE」の部分を抽出して,引用商標と比較することができるかについて,以下,検討する。
(2) まず,「CORE」,「ML」の語の意味内容及び使用状況,本願商標の使用状況につき,判断の基準時である本件審決時までに存した証拠に基づき認定する。
ア 「CORE」の語について
 後掲証拠によると,各種辞典等に以下のとおりの記載があることが認められるが,「ウィキペディア」の「コンピュータ略語一覧」(平成31年3月14日。甲8の2),「デジタル用語事典2000-2001年版」(平成12年3月20日,日経BP社。乙6),「コンピュータ&情報通信用語事典」(平成13年7月25日,株式会社オーム社。乙7),「最新・基本パソコン用語事典(平成21年4月15日,株式会社秀和システム。乙9),「IT用語図鑑」(令和元年5月13日,株式会社翔泳社。乙11)には,「CORE」又は「コア」の項目はない。
(ア) 広辞苑第7版(平成30年1月12日,株式会社岩波書店。乙3)
「コア【core】①ものの中心部。中核。核心。②建物の中央部で,共用施設・設備スペース・構造用耐力壁などが集められたところ。・・・③鋳物の中子なかご。④(コイルなどの)鉄心てつしん。⑤地球の核。・・・⑥試錐(ボーリング)によって採取した円柱状の土壌や岩石の試料。・・・」との記載がある。
(中略)
イ 「ML」の語について
 後掲証拠によると,新聞やウェブサイト等に以下のとおりの記載があることが認められる。なお,「ウィキペディア」の「コンピュータ略語一覧」には,「ML」の項目はない(平成31年3月14日。甲8の2)。
(ア) 日本経済新聞朝刊(平成30年1月18日。乙15)
「グーグル,AI活用手軽に,利用企業,専門家要らず,わずかな材料で画像分析。」との見出しの下,「米グーグルは17日,クラウド経由で企業が簡単に人口知能(AI)を活用できるサービスを始めると発表した。・・・新サービス「クラウドオートML(機械学習)」を17日朝から一部顧客を対象にサービスを始めた。」との記載がある。
(中略)
(3) 以上を前提に検討する。
ア 「CORE」について
 前記(2)アのとおり,「CORE」の語には,「ものの中心部,中核,核心」,「建物の中央部で,共用施設・設備スペース・構造用耐力壁などが集められたところ」,「地球の核」,「試錐(ボーリング)によって採取した円柱状の土壌や岩石の試料」,「一部のオペレーションシステムでプログラムが不正に終了したとき,メモリの内容をまるごと保存したファイル(コアファイル,コアダンプ)」,「マイクロプロセッサのコア」,「Intel社の商品であるCOREシリーズ」等の多様な意味があるが,前記(2)アのとおり,多くのコンピュータ関連の用語辞典等には,「CORE」や「コア」の項目が掲載されていない。
 上記の意味のうち,「コアファイル」,「コアダンプ」,「マイクロプロセッサのコア」,「Intel社の商品であるCOREシリーズ」は,コンピュータ関連の用語であるが,「CORE」の語がコンピュータソフトウェアである本件指定商品に使用された場合は,コンピュータハードウェアを意味する「マイクロプロセッサのコア」やコンピュータハードウェアの商品名である「Intel社の商品であるCOREシリーズ」を意味するものとは認識されないというべきであるし,「コアファイル」や「コアダンプ」も一部のオペレーションシステムで用いられている用語にすぎず,「コアファイル」や「コアダンプ」と認識されるとも認められない。
 また,「CORE」の語が本件指定商品に使用された場合,「中心部,中核,核心」などの一般の辞書に掲載されている意味のどれとも認識されないか,認識されるとしても,せいぜい「中心部,中核,核心」という意味と認識されるにすぎないというべきである。
イ 「ML」について
(ア) 前記(2)イの認定からすると,「ML」の語には,「マシーンラーニング(Machine Learning)」,「メーリングリスト(mailing list)」,「マークアップ言語(MarkupLanguage)」の略語の意味があることが認められる。
 しかし,①本件において,一般的な辞書に,「ML」の項目が存在することの証拠は提出されていないこと,②前記(2)イのとおり,「ML」の語が「マシーンラーニング(Machine Learning)」の略語として使用された例は一定数存するが,それらの使用例においては,必ず,「機械学習」という語と共に使用されていること,③コンピュータ関連の用語辞典の中には,「ML」の項目が存在するものがあるものの,同項目が存在しないものもあり(「ウィキペディア」のウェブサイトの「コンピュータ略語一覧」),同項目を設けている用語辞典(「IT用語辞典e-Words」)では,「ML」は「メーリングリスト」の意味であると説明されていることからすると,「ML」の語が何らの説明もなく使用された場合,「マシーンラーニング(Machine Learning)」の略語を意味すると認識されるとはいえないというべきである。また,ブランド名と「ML」を結合し,「ML」を「Machine Learning」として用いる例があるとしても,「CORE」のみでは,本件指定商品との関係ではブランド名とは認められないから,そのことを根拠に本願商標の「ML」が「Machine Learning」と認識されると認めることもできない。
 また,上記のとおり,コンピュータ関連の用語辞典には,「ML」を「マークアップ言語」を意味するものと説明しているものはないこと,本件証拠上,「ML」の語が「マークアップ言語」の略語の意味として使用されていると認められる例は,「SGML」,「XML」,「HTML」のみであることからすると,「CORE」の語の次に一文字開けて「ML」の語を配置した場合に,「ML」の語が「マークアップ言語」と認識されるとはいえないというべきである。
 さらに,上記のとおり,「ML」の語が「メーリングリスト(mailing list)」の略語の意味を有することは「IT用語辞典e-Words」に記載されているが,他に,「ML」の語が「メーリングリスト」の意味で使用されている例を示す証拠は提出されていないことからすると,「ML」の語が「メーリングリスト(mailing list)」の略語の意味として認識されるということもできない。
(イ) 以上からすると,本件指定商品に,「CORE」の語の末尾に1文字開けて「ML」を配した語が使用された場合,「ML」から,何らかの観念が生じると認めることはできない。
ウ 以上のア,イで判示したところからすると,本願商標が本件指定商品に使用された場合,「CORE」の語からは,せいぜい「中心部,中核,核心」といった一般的な意味が認識されるにすぎず,「CORE」の部分が出所識別標識として強く支配的な印象を与えるということはできないのに対し,「ML」の語からは特定の観念を生じることはなく,「ML」の部分が「CORE」の部分に比べて特段出所識別標識としての機能が弱いということはできない。
 また,本願商標の外観上も,「CORE」と「ML」は,いずれも,同じ大きさの標準文字で構成されており,その間に1文字開いているだけであるから,別個独立の商標と認識されるものではない。
 さらに,称呼においても,本願商標は,一連に発音されるものと認められる。したがって,本願商標と引用商標との類否を判断するに当たっては,本願商標全体と引用商標を対比すべきであり,本願商標から「CORE」の部分を抽出し,これを引用商標と対比してその類否を判断することは許されないというべきである。
 したがって,原告の主張する取消事由1は理由がある。

2 取消事由2(本願商標と引用商標の類否判断の誤り)について
 本願商標からは,「コアエムエル」の称呼が生じ,引用商標1,2からは,「コア」の称呼が生じるところ,その音数は大きく異なっていることからすると,その差異は大きいというべきである。
 また,本願商標の「CORE ML」と引用商標1の「CORE」及び引用商標2の「コア」とは,その外観が異なる。
 本願商標の「CORE ML」の「CORE」の部分と,引用商標1の「CORE」及び引用商標2の「コア」では,「中心部,中核,核心」といった観念が生じる点で,観念が共通することがあるものの,上記のとおり,本願商標と引用商標1,2とは,称呼と外観において異なっており,称呼における差異は大きいことからすると,本願商標は,引用商標のいずれとも類似していないというべきであり,原告の主張する取消事由2は理由がある。

解説

 本件は,商標登録出願に係る拒絶査定不服審の決取消訴訟である。特許庁は,本願商標について,商標法4条1項11号1にもとづいて拒絶査定(及び審決)をおこなったものであるが,裁判所は当該判断を否定した。
 裁判所は,まず,本願商標について,審決においては「ML」部分について,「Machine Learning(機械学習)」との意味を持つと認定した部分を各種の記載から否定し,「『ML』の語が何らの説明もなく使用された場合,『マシーンラーニング(Machine Learning)』の略語を意味すると認識されるとはいえない」と判断した。
 つぎに,裁判所は,上記の本願商標に係る認定をもとに,称呼,外観が異なり,観念として,一部共通する部分があるものの,称呼の差異が大きく,外観も異なることから類似していない都判断した。
 本件は,事例判断であるものの,新しく使用されるようになった言葉についての商標出願において参考になると思われる。

以上
(文責)弁護士 宅間仁志


1 第四条 次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。
(中略)
十一 当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標又はこれに類似する商標であつて、その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務(第六条第一項(第六十八条第一項において準用する場合を含む。)の規定により指定した商品又は役務をいう。以下同じ。)又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの