【大阪地裁平成29年3月21日(平28(ワ)第7393号・損害賠償請求事件)】

【キーワード】
不正競争防止法第2条1項19号,著作権法第32条1項,名誉棄損,ドメイン名の不正使用,引用,著作権侵害

事案の概要

(1)原告
 原告は,「アクシスフォーマー」という名称の健康用具を販売している株式会社であり,原告製品である「アクシスフォーマー・ソフトロング」(以下「原告製品」という)を販売している。原告は,「AXISFORMER(アクシスフォーマー)」というロゴの登録商標(商標登録第5453396号)を有する1。また,原告は,原告製品の販売に関連して「Axis Former ロングタイプ ソフトロングタイプ」と題する取扱い説明書,及び,ショッピングモール「楽天市場」内に開設されたネットショップのウェブページ及び原告のホームページ中に表示されている各コンテンツ(以下「原告コンテンツ」という)を作成している。

(2)被告
 被告は,「アクシスフォーマー.com」のドメイン名2を取得登録し,遅くとも平成27年3月以降,不特定多数の者からの求めに応じて,その内容を自動的に送信できる本件ドメイン名のウェブサイト(以下「本件ウェブサイト」という)を開設し運営していた。

(3)掲載記事
 被告は,本件ウェブサイト下のウェブページ(以下「本件ウェブページ」という)において,原告コンテンツをそのまま撮影した映像やキャプチャーした画像を掲載し,以下のような原告製品についての記載(以下,これらを順に「本件記載①」,「本件記載②」といい,これらをまとめて「本件記載」という。)を掲載していた(なお,以下は本件記載のうち一部を掲載しており,下線は筆者による)。

ア 本件記載①(トップページ)
「他社メーカーの本格健康アイテムを自社の名前で売り出しているだけなので驚きの低価格を実現。規格は同等でも,製造クオリティが非常に低い商品です。(詳細は最新情報をcheck!)」(「非常に低い商品」が太字で強調されている。)

イ 本件記載②(「アクシスフォーマー/アクシスフォーマー ハーフ」のページ)
「更に,この下図の過去キャッシュから切り抜いてきたキャプチャーですが,在庫処分品と明記するどころか,「有名メーカーと同じ素材で驚きの価格を実現」という表記は,意図的に在庫処分品を自社製品かのように錯覚させる表記であり,消費者庁が指導を行なわなかったことにも疑問を感じるところです。

ウ 本件記載⑤(「アクシスフォーマー 使い方」のページ)
「禁忌事項の冒頭にある「こんな場合はひとりでエクササイズを行なわないでください」ですが,挙げられていることほとんどは,「ひとりでエクササイズを行なわない」どころか,使用を中止しなくてはならない状態だと感じます。この開発者は本当に身体のことを正しく学んでいるのか疑わしい限りです。

(4)原告の主張
 被告が本件ウェブページにおいて,原告コンテンツを撮影した画像及び本件記事を掲載する行為は,原告の名誉を棄損する行為であるとともに,原告の各コンテンツの著作権を侵害し,また,当該記事を掲載するウェブサイトを開設するためにドメイン名を取得する行為は,不正競争防止法第2条1項19号の不正競争行為に該当する。

争点

・本件記事の内容が,原告の名誉を毀損するものであるか
・コンテンツの掲載が「引用」に該当するか
・ドメイン名を使用する行為が不正競争防止法第2条1項19号に該当するか

判決一部抜粋(下線は筆者による。)

第1・第2 省略
第3 当裁判所の判断
1  争点1(本件ウェブページによる名誉棄損の成否)について
 本件ウェブページに掲載されている本件記載は,原告製品は,他社製品の模倣品であり,同等規格製品と比較すると,芯材部分が抜けやすく,芯材中央が凹んでいるなどの欠陥を有する粗悪品であること,原告は,原告製品に買替えが必要な程度の変形が生じているにもかかわらず,その説明をせずに問題がないと言い切るなど,身体のメカニズムや健康器具について必要な知識も有しない者であり,消費者庁の指導を受けてしかるべき者であるなどと指摘するものである。特に,「製造クオリティが非常に低い商品です。」(本件記載①),「消費者庁が指導を行わなかったことにも疑問を感じるところです」(本件記載②),「挙げられていることほとんどは,「ひとりでエクササイズを行なわない」どころか,使用を中止しなくてはならない状態だと感じます。この開発者は本当に身体のことを正しく学んでいるのか疑わしい限りです。」」(本件記載⑤)等の記載部分もあるから,本件ウェブサイトにアクセスして本件記載に接した一般の需要者は,原告製品は粗悪品であって信用できず,ひいてはその製造者である原告も信用できない企業であると認識するものと認められる。
 したがって,本件ウェブページの記載が原告の社会的評価を低下させ信用を棄損することは明らかであるから,本件ウェブページに本件記載を掲載した被告の行為は,原告の名誉を毀損する行為というべきである。

2  争点2(名誉棄損の免責事由の有無)について
 民事上の不法行為たる名誉棄損については,その行為が公共の利害に関する事実に係り,専ら公益を図る目的に出た場合には,摘示された事実が真実であることが証明されたときは,その行為には違法性がなく,不法行為は成立しないものと解するのが相当である。また,摘示された事実が真実であることが証明されなくても,その行為者において,当該事実を真実と信ずるについて相当の理由があるときには,その行為には故意又は過失がなく,不法行為は成立しないものと解するのが相当である。
 以上により本件についてみると,原告の具体的な事業規模及び社会的な影響力等は不明であるが,その販売に係る製品が健康用品であるから,原告製品の品質等に関する本件記載は,消費者の健康や安全に密接に関連するものであるということができ,したがって,本件記載は,公共の利害に関する事実に係るものということができる。
 しかし,本件記載の内容は,単に原告製品の品質等に関する事実や疑問点を摘示するのみならず,「製造クオリティが非常に低い」,「消費者庁が指導を行わなかったことにも疑問を感じるところです」,「本当に身体のことを正しく学んでいるのか疑わしい限りです」など,原告ないし原告製品に対する批評の程度を超えて誹謗に当たる表現が用いられている一方で,原告製品の具体的問題点及びそれが使用者の身体に及ぼす具体的影響等,本来,消費者に伝えるべきはずの事項について言及した部分は,少なくともこれら表現を含む本件記載の周辺には見当たらないものである。そして,このような原告製品についての否定的評価についての記載内容が真実であることの立証はなく,またこれを真実であると信じることにつき相当の理由があるというべき事情も認められるわけではない。
 これらの事情からすると,被告が本件記載を本件ウェブページに掲載したことが,専ら公益を図る目的によるものであると認めることはできないというべきである。
 なお,被告は,大量の原告製品を販売する必要が生じたところ,売主としての説明責任を果たすべく,本件記載のようなコメントを付したなどと主張するが,これら記載に係る事実が真実又は真実と信じることにつき相当の理由あるものと認めることができない以上,これを売主がすべき商品説明として正当な行為であるということはできない。
 したがって,被告の主張を踏まえても,被告が本件記載を本件ウェブページに掲載した行為について不法行為の成立は妨げられない。

3  争点3(被告の行為が著作権(複製権,公衆送信権)侵害に該当するか)について
(1) ・・・原告コンテンツの各記載は,・・・いずれも原告の思想又は感情を創作的に表現したものとして著作権法上の著作物であるということができ,したがって原告は,その作成者としてその著作権(複製権,公衆送信権)を有するものと認められる。
 そして,・・・被告は,原告コンテンツをそのまま自らの本件ウェブページに転載したものであり,不特定多数の者が本件ウェブサイトにアクセスして本件ウェブページを自由に閲覧することができるものであることからすると,被告は,原告の複製権及び公衆送信権を侵害したものというべきである。
(2)  被告は,これら記載の掲載行為は著作権法32条1項の「引用」に該当する旨主張する。
 しかし,被告が引用した原告コンテンツの一部の傍らには,本件記載のようなコメントが付されているのであって,既に説示したとおり,これらコメントを付す行為は,原告製品ひいては原告を批評するという公益を図る目的でされたものとは認められず,むしろ原告製品ひいては原告の信用を毀損する目的でされた違法な行為というべきものであり,また売主の説明責任を果たすための正当な行為と認めることもできないことからすれば,その引用が「公正な慣行に合致するもの」とも「引用の目的上正当な範囲内で行なわれる」ものともということはできない。
 したがって,被告による原告コンテンツの掲載行為を,著作権法32条1項の「引用」として適法と認めることはできない。・・(省略)

4  争点4(本件日本語ドメイン名を使用する行為が不正競争防止法2条1項19号の不正競争に該当するか否か。)について
(1) ・・・本件日本語ドメイン名は,原告の特定商品等表示と類似のドメイン名である。
(2) 原告製品の購入を検討しようとする需要者がインターネットを利用する場合,原告製品名である「アクシスフォーマー」を検索ワードとして,グーグル等の検索エンジンを利用して検索するのが一般的と考えられるが,本件ウェブサイトは,本件日本語ドメイン名に「アクシスフォーマー」を含むものであるから,本件ウェブサイトは検索結果として上位になり,またそのドメイン名から目的とする検索サイトであると理解されるため,アクシスフォーマーという原告製品名を手掛かりとしてインターネット検索をした一般的な需要者は,必然的に本件ウェブサイトに誘導されるものと考えられる。
 そして,一旦,本件ウェブサイトにアクセスした場合,その需要者は,本件ウェブサイトが目的とした原告製品を販売商品として取り扱うサイトであるので,その内容に注目して閲覧することになるが,本件ウェブページの記載内容は,前記のとおり,一般的な商品取扱いサイトのように取扱商品の優秀性を謳うものではなく,むしろ原告製品が問題のある商品というものであり,それだけでなく,それを製造販売する原告にも問題があるようにいうものである。
 すなわち,本件ウェブサイトでは,原告製品に興味を持ち,その購入を検討しようとしてインターネットを利用してアクセスしてきた需要者に対し,本件ウェブページの随所において,原告製品の信用を棄損して需要者の購入意欲を損なわせるような内容の記載をしているのであり,また,その記載は,併せて製造者としての原告の信用を棄損するような内容のものである。
 これらのことからすると,本件ウェブサイト自体が,原告に損害を加える目的で開設されたサイトであるといわざるを得ないものというべきである。
(3) したがって,本件ウェブサイトの開設者である被告は,原告に損害を加える目的で,原告の特定商品等表示である原告製品名と類似の本件日本語ドメイン名を使用したものというべきであり,これは不正競争防止法2条1項19号の不正競争に該当する。
・・(以下,省略)・・

検討

1.名誉棄損の判断基準
 名誉棄損の判断基準は,既に判例にて確立されており,基本的には以下の基準で判断される。
 まず問題となる特定の表現が,ある者の社会的評価を低下させるものであるかどうか,一般読者の普通の注意と読み方を基準に判断する(最高裁昭和31年7月20日第二小法廷判決・民集10巻8号1059頁参照)。
 次に,当該表現が社会的評価を低下させるものであると判断された場合,当該表現に違法性が阻却される事由が認められるかを判断する。すなわち,事実を摘示しての名誉毀損は,その行為が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあった場合に,摘示された事実がその重要な部分について真実であることの証明があるかを判断し,該当している場合,違法性が阻却される(最高裁昭和41年6月23日第一小法廷判決・民集20巻5号1118頁参照)。
 本件でも,上記の基準を用いて,原告製品に関する説明を行った本件ウェブページでの記載が原告への名誉棄損であるかどうかを判断している。
 本件記載の表現は比較的穏当であるように思われるが,真実性の証明がない(真実であると信じることにつき相当の理由があるというべき事情の存在すらない)場合,このような表現でも名誉棄損に該当する。ウェブサイトにおいて批判的な記事を掲載する際には,必ず当該批判の根拠となる情報も掲載することが良いと考える。

2.著作物の引用・ドメイン名の不正使用
 本件判示では,本件ウェブページが原告の名誉を毀損する内容であると判断した後,著作物の複製及び公衆送信が著作権法上の「引用」に該当するか,及び,本件ウェブサイトのドメイン名の使用に不正競争防止法上の「他人に損害を加える目的」が認められるかも判断している。
(1)著作物の引用
 製品を販売する際の説明にあたり,当該製品の製造メーカー等が公表するコンテンツやウェブサイトのキャプチャー画面等を使用することは多くの場合「引用」(著作権法第32条1項)に該当すると考えられる。
 しかし,本件によると,名誉棄損の内容を含む製品の説明記事が著作物の横に記載されている場合,当該記事の掲載が違法な行為であるため,引用する行為が「公正な慣行に合致するもの」とも「引用の目的上正当な範囲内で行なわれる」ものともいうことができず,著作物の「引用」に該当しないこととなる。
 ただ,名誉棄損の内容を含む記事との位置関係によっては,当該記事との関係は希薄となることから「引用」の該当性に検討の余地があるように考えられ,本件でも「コンテンツの一部の傍らには,本件記載のようなコメントが付されている」と,本件記載とコンテンツの位置へ言及しているため,名誉棄損の内容を含む記事と離れていれば「引用」に該当することを否定していないように思われる。
(2)ドメイン名の不正使用
 他人の商品等表示と同一又は類似のドメイン名の使用が不正競争行為に該当する場合は,図利加害目的(「不正の利益を得る目的」又は「他人に損害を加える目的」)のものへ限定される(不正競争防止法第2条1項19号)。
 本件によると,製品名を使用したドメイン名のサイトにアクセスする一般需要者は,当該製品の購入を検討する者であるところ,そのような需要者に名誉棄損の内容の記事を閲覧させることは,当該需要者の購入意欲を損なわせることにつながるため,当該サイトの開設自体,つまりドメイン名の使用自体に「他人に損害を加える目的」が認められるとのことである。
 製品を批判するウェブサイトのドメイン名にわざわざ当該製品の名称を使用し,検索結果として当該ウェブサイトを上位に登場させるようにしている行為は,悪質性は否めないところであり,従来も「他人に損害を加える目的」として指摘されていた(東京地裁平成14年7月15日)。本件も当該内容に沿った判断である。

以上
(筆者)弁護士 市橋景子


1 なお,本件では商標権侵害については主張されていない。
2 「xn--cckor6ak2ooc9mb.com」というドメイン名がブラウザに実装されている Punycode によって変換されることによりブラウザのURL欄に表示されるドメイン名である(判決より)。