【知財高裁令和2年3月25日(令和元年(行ケ)第10135号)】

【ポイント】
「AI介護」(文字商標)が商標法3条1項3号に該当すると判断された裁判例

【キーワード】
商標法3条1項3号
役務の質 役務の質を普通に用いられる方法で表示する標章のみ

事案

原告が出願した以下の商標について拒絶査定を受けたことから,不服審判請求をしたところ,請求は成り立たない旨の審決がされた。本件は、原告が当該審決のその取消しを求める取消訴訟である。
   商標   AI介護(標準文字)
   指定役務 第44類「・・・・介護・・・・」
 主な争点は、当該商標が商標法3条1項3号(「役務の」「質」「を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」)に該当するか否かである。

当該争点に関する判旨(裁判所の判断)(*下線等は筆者)

1 取消事由1(商標法3条1項3号該当性の判断の誤り)について
(1) 商標法3条1項3号は,「その商品の産地,販売地,品質,原材料,効能,用途,形状(包装の形状を含む。・・・),生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴,数量若しくは価格又はその役務の提供の場所,,提供の用に供する物,効能,用途,態様,提供の方法若しくは時期その他の特徴,数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」は,商標登録を受けることができない旨を規定しているが,これは,同号掲記の標章は,商品の産地,販売地その他の特性を表示,記述する標章であって,取引に際し必要な表示として誰もがその使用を欲するものであるから,特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに一般的に使用される標章であって,多くの場合,自他商品・役務識別力を欠き,商標としての機能を果たし得ないことから,登録を許さないとしたものである。
   (・・・省略・・・)
(4)ア 前記(2)のとおり,「AI」の語は,「artificial intelligence」,「artificial insemination」,「airinterceptor」,「Amnesty International」及び「avian influenza」という二つの単語からなる語の各頭文字をつなげた略語として使用されているが,広辞苑には,「エー・アイ〔AI〕」の項目には,「(artificial intelligence)人工知能」と記載されていることからすると,「AI」の語は,通常,「エーアイ」と発音し,「人工知能」という意味で使用されるものと認められる
 また,前記(2)のとおり,「介護」は,「高齢者・病人などを介抱し,日常生活を助けること」を意味する。
イ 前記(3)のとおり,「AI」の語は,多くの新聞やウェブサイト等において,「人工知能」を意味する言葉として使用されていることその中には,「AI」の語の意味を説明せずに「AI」とのみ表記されているものもある(甲3,4)ことからすると,「AI」の語は,人工知能を意味する言葉として一般的に知られているものと認められる
 そして,前記(3)のとおり,介護の分野において人工知能である「AI」を活用することに関する新聞やウェブサイトの記載が多数あると認められるが,一方で,証拠上,介護の分野において,「AI」という語を人工知能以外の意味で使用している例があるとは認められないことからすると,介護の分野において「AI」の語を使用した場合は,その「AI」は,人工知能を意味するものと認識されるというべきである。
 前記(3)のとおり,新聞やウェブサイト等においては,「AI介護」の語が,AIを活用した介護という意味で,「AI介護ソフト」の語が,AIを活用した介護のためのソフトウェアという意味で,「AI介護事業」の語が,AIを活用した介護事業という意味で,「AI介護ロボ」及び「AI介護ロボット」の語が,AIを活用した介護用ロボットという意味でそれぞれ使用されていることからすると,「AI」の語に名詞が続いた場合は,当該「AI」は,「AIを活用した」との趣旨で使用され,また,そのような使用法が一般的に受け入れられているものと認められる
 以上からすると,本願商標の「AI介護」からは,AIを活用した介護という意味合いが生じ,本願商標に接した取引者,需要者は,通常,本願商標は,本願の指定役務である「介護」の質を示すものと認識するため,本願商標は,自他役務識別力を欠くというべきである
 したがって,本願商標は,商標法3条1項3号の商標に該当するというべきである。

検討

 本件は、「AI〇〇」(文字商標)が商標法3条1項3号に該当するとして、登録の要件を満たさないと判断された事例である。
 前提として、商標法3条1項3号は、自己の業務に係る役務について使用する商標のうち、その役務の質その他の特徴等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標は、商標登録を受けることができない旨を規定する。そして、本裁判例は、本号の趣旨について、①「商品の産地,販売地その他の特性を表示,記述する標章であって,取引に際し必要な表示として誰もがその使用を欲するものであるから,特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としない」点(「独占適法性の欠如」)、②「一般的に使用される標章であって,多くの場合,自他商品・役務識別力を欠き,商標としての機能を果たし得ない」点(「自他識別力の欠如」)であると述べる。これは、最三小判昭和54年4月10日(「ワイキキ事件」)】を踏襲したものである。
 本裁判例は、商標法3条1項3号の該当性について、①「AI」は広辞苑において「人工知能」と記載されていること、②「AI」は、新聞やウェブサイト等の記載等から、「AI」は,「人工知能」を意味する言葉として一般的に知られていること、③介護分野においても、「AI」を使用した場合には、「人工知能」を意味するものと認識されていること、④「AI」の語に名詞が続いた場合は,「AIを活用した」との趣旨で使用され,また,そのような使用法が一般的に受け入れられていることから、⑤「AI介護」は,AIを活用した介護という意味合いが生じ,「AI介護」に接した取引者,需要者は,通常,本願商標は,指定役務である「介護」の質を示すものと認識するため,自他役務識別力を欠く旨を述べ、同号に該当すると判断した。
 本裁判例の当該判断は、指定役務が「介護」であることを前提とした結論であるだろう(上記③や⑤参照)。昨今AI技術が驚異的な進歩を遂げつつあり、世間で謳われる状況において、「AI+(指定商品又は指定役務)」という商標は、「AIを活用した(指定商品又は指定役務)」という質を示したものにすぎず、商標法3条1項3号に該当すると判断される可能性が高いと考えられる。
 なお、同号は、「・・・普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」と規定していることから、「普通に用いられる方法」に該当しない方法で表示するものや、「標章のみ」ではなく特殊な図形やマーク等と結合したものは同号に該当しないことになる。

以上
(筆者)弁護士 山崎臨在