【令和元年(行ケ)第10171号(知財高裁R2・9・24)】

【判旨】
 本願商標に係る特許庁の不服2019-4521号事件について商標法第4条第1項第11号の判断には誤りがないとして,請求を棄却した事案である。

【キーワード】
甘味,おかめ,商標法4条1項11号

事案の概要

⑴ 原告は,平成29年12月15日,別紙記載1の構成から成る商標(以下「本願商標」という。)について,第30類「菓子,パン,角砂糖,果糖,氷砂糖,砂糖,麦芽糖,はちみつ,ぶどう糖,粉末あめ,水あめ」及び第43類「飲食物の提供」を指定商品及び指定役務として,商標登録を出願した(商願2017-164914号)。
⑵ 原告は,平成30年12月21日付けで拒絶査定を受けたので,平成314月5日,不服審判を請求した(不服2019-4521号)。
⑶ 特許庁は,令和元年11月19日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同年12月3日,原告に送達された。
⑷ 原告は,令和元年12月23日,審決の取消しを求めて本件訴訟を提起した。

【本願商標】

 指定商品及び指定役務については,事案の概要を参照のこと。

【引用商標】

争点

 本願商標が,第4条第1項第11号に該当するか否か。

 判旨抜粋

 証拠番号等は,適宜省略する。

1 原告の取消事由1~3は,全体として商標の類否判断の誤りをいうものであるので,一括して検討する。
 なお,「お多福」は,「頬が高く鼻の低い女性の顔貌を戯画化した図柄」の意味で用いる(広辞苑第7版では,「お多福面」を「丸顔で,額が高く,頬がふくれ,鼻の低い女の仮面」としている。)。
2 商標の類否判断の手法について
 商標の類否は,対比される商標が同一又は類似の商品又は役務に使用された場合に,その商品又は役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,それには,使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべく,しかも,その商品又は役務に係る取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断するのが相当である(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁,最高裁平成6年(オ)第1102号同9年3月11日第三小法廷判決・民集51巻3号1055頁参照)。
 また,複数の構成部分を組み合わせた結合商標については,商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合していると認められる場合においては,その構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して類否を判断することは,原則として許されないが,その場合であっても,商標の構成部分の一部が取引者又は需要者に対し,商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与える場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じない場合などには,商標の構成部分の一部だけを取り出して,他人の商標と比較し,その類否を判断することが許されるものと解される(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁,最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)。なお,出所識別標識としての印象を与える機能を,以下「識別力」という。
3 本願商標の要部
 原告は,本願商標の構成は,不可分一体のものであって分離観察をすることは許されないと主張する。
 そこで検討するに,まず本願商標の外観を見ると,同一の色の「甘味」の文字部分と「おかめ」の文字部分とが,間隔を空けながらも一列に配置され,その背景に,上記各文字部分と一部重なるような形で,より淡色ではあるものの,同系統の色で表された家紋様の図形部分が配置され,一体としてまとまりのある外観を呈しているといえなくもない。しかし,その一体性はさほど強いものではなく,むしろ,「甘味」の文字部分と「おかめ」の文字部分とは,字の大きさも太さも全く異なっている上,かなり広い間隔を置いて配置されているため,それほど統一感があるとはいえないし,図形部分も各文字部分を有機的に結合させるほどの機能を果たしているとは見えず,むしろ,背景の装飾といった程度の機能を果たしているのにすぎないと見える。そうであるとすると,本願商標の外観の構成は,分離観察を不可能とするほどの一体性を有しているとは認められない。
(中略)
 そうすると,本願商標は分離観察をすることも許されるものというべきところ,本願商標のうち,「おかめ」の文字部分は,大きな字体の太字で書かれており,目立つものである上,自他商品識別力も有するといえるから,この部分を要部として抽出することも許されるものというべきである。
4 引用商標の要部
 引用商標は,お多福の面を表した図形部分を上に配置し,その下に「おかめ」という文字部分を配置したものであるが,特に工夫もなく,両者が上下に配置されているだけであることからすると,分離観察を許さないほど全体が不可分一体になっているということはできない。そして,図形部分の方が,文字部分よりも大きいとはいえ,文字部分もそれなりの大きさを有し,太い字体で記載されており,それなりに目立つ上,自他商品識別力も有することからすれば,この部分を要部として抽出することも可能であるというべきである。
 もっとも,お多福とおかめとは同義であるとされていることからすると,「おかめ」の文字部分は,お多福の図形を説明しているものであって,両者が不可分一体に「おかめ」という観念を示しているとか,「おかめ」の文字部分は,より大きな図形部分の説明をしているのにすぎず,補助的役割を有するにすぎないから要部には当たらないと見る余地もあり得ることになる。この場合には,引用商標全体又は図形部分を要部と見るべきこととなる。
 以下の検討においては,両者の可能性を前提として検討をする。
5 類否判断
 引用商標から「おかめ」の文字部分を要部として抽出し得ると考えた場合,本願商標と引用商標は,その要部において,字体こそやや異なるものの「おかめ」という文字を表すほぼ同一の外観を有するといえ,その称呼はいずれも「オカメ」であり,お多福等の観念を有することになるから,外観,称呼,観念のいずれにおいても共通し,類似性を有することは明らかである。
 引用商標の要部は引用商標全体又は図形部分であると考えた場合,外観は異なるものの,「オカメ」という称呼及びお多福等の観念においては共通することとなる。このように,称呼,観念において共通することや,外観においても,「おかめ」という文字部分は共通することを併せ考えると,本願商標と引用商標とは,出所につき相紛れるおそれのある類似の商標であるというべきである。
 したがって,引用商標の要部を上記のいずれとして捉えたとしても,本願商標と引用商標とが類似するという結論には違いがない。

解説

 本件は,商標に係る審決取消訴訟である。特許庁は,本願商標について,商標法4条1項11号1にもとづいて拒絶査定(及び審決)をおこなったものであるが,裁判所は当該判断を肯定した。
 裁判所は,まず,本願商標について,「甘味」の文字部分と「おかめ」の文字部分とがそれほど統一感があるとはいえないし,図形部分も背景の装飾といった程度のものであるとして,分離観察可能であるとし,「おかめ」の「文字部分は,大きな字体の太字で書かれており,目立つものである上,自他商品識別力も有するといえるから,この部分を要部として抽出することも許される」と判断した。
 つぎに,裁判所は,引用商標について,
①「おかめ」という文字部分について「それなりの大きさを有し,太い字体で記載されており,それなりに目立つ上,自他商品識別力も有することからすれば,この部分を要部として抽出することも可能」であるし,
②「おかめ」の文字部分は,「お多福の図形を説明しているものであって,両者が不可分一体に「おかめ」という観念を示している」等と考え「引用商標全体又は図形部分を要部」と考えることも可能である
とした。
 裁判所は,①の場合であれば,外観,称呼,観念のいずれにおいても共通し,類似性を有するし,②の場合であっても図形と文字であることから「外観は異なるものの,『オカメ』という称呼及びお多福等の観念においては共通」することから,「本願商標と引用商標とは,出所につき相紛れるおそれのある類似の商標」であるとして,商標法第4条第1項第11号に該当すると判断した。
 本件では,裁判所は,引用商標に関して場合分けをしているが,「おかめ」との文言がそれ自体で自他商品識別力を有すると認定しているのであるから,特段,②の場合を考えなくても良かったようにおもわれる。

以上
(筆者)弁護士 宅間仁志


1 第四条 次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。
(中略)
十一 当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標又はこれに類似する商標であつて、その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務(第六条第一項(第六十八条第一項において準用する場合を含む。)の規定により指定した商品又は役務をいう。以下同じ。)又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの