【知財高裁平成30年2月28日(平成29年(ネ)第10068号)】

【判旨】
「テラレット」(TELLERETTE。昭和40年4月9日商標登録)という名称で不規則充填物である原告商品を製造・販売する被控訴人が、控訴人の製造・販売する被告商品は、被控訴人の商品等表示として周知な原告商品の形態と類似し、誤認混同のおそれがあるとして、被告商品の製造・販売等の差止め、控訴人が占有する被告商品の廃棄及び被告商品を製造するために使用した金型の除却、損害賠償5568万2000円の支払を求めた事案。原審は、被控訴人の請求を一部認容したところ、原判決を不服とした控訴人が、控訴人敗訴部分の取消しを求め、被控訴人は、附帯控訴し、損害賠償請求を3011万2539円に減縮するとともに不正競争に基づく損害賠償872万6225円の請求を追加した事案

【キーワード】
不正競争防止法2条1項1号、商品形態の保護

事案の概要及び争点

(1)事案の概要
   (1)  本件は,被控訴人が,控訴人が製造・販売する被告商品が,被控訴人の商品等表示として周知な原告商品の形態と類似し,誤認混同のおそれがあると主張して,不競法2条1項1号,3条1項に基づき,被告商品の製造・販売等の差止め,同法3条2項に基づき,控訴人が占有する被告商品の廃棄及び被告商品を製造するために使用した金型の除却,同法4条,5条2項に基づき,平成24年12月1日から平成28年6月30日までの不正競争に基づく損害賠償5568万2000円及びこれに対する平成27年9月12日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
    (2)  原審は,被告商品の製造・販売等の差止め,被告商品の廃棄及びこれを製造するために使用した金型の除却,並びに,損害賠償2537万4095円及びこれに対する平成27年9月12日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で,被控訴人の請求を認容した。
    (3)  控訴人は,原判決を不服として控訴した。
    (4)  被控訴人は,附帯控訴し,原審で求めていた損害賠償5568万2000円及びこれに対する遅延損害金の請求を,損害賠償3011万2539円及びこれに対する遅延損害金の請求に減縮するとともに,平成28年7月1日から平成29年8月31日までの不正競争に基づく損害賠償872万6225円及びこれに対する同年9月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の請求を追加した。

(2)争点
 本件の争点は,下記のとおりである。本稿では,主に(1)(2)の点について取り上げることとする。
   (1)  原告商品における形態の商品等表示性
   (2)  原告商品と被告商品の誤認混同のおそれ
   (3)  被告商品の製造・販売の有無
   (4)  損害発生の有無及びその額

裁判所の判断

 まず、原告商品形態の商品等表示性について、控訴人は、①他の同種商品もそれぞれ特徴的な形態を有していること、②省スペースで高効率かつ高処理量を達成するには原告商品の形態をとらざるを得ず,他の形態の不規則充填物では代替できないこと、③原告商品の形態は,その機能・効用のみに由来するものであること、④仮に第三者が同種競合製品をもって市場に参入する機会があったとしても,現実に参入者との間で競争が生じない限り,知的財産権による独占状態の影響が払拭されたと評価することはできないこと、等を主張したが、裁判所はいずれの主張も理由がないと判示した。

※判決文より抜粋

   (1)  原告商品における形態の商品等表示性について
    ア 控訴人は,不規則充填物においては,他の同種商品もそれぞれ特徴的な形態を有していることからすると,原告商品が他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しているとはいえないなどと主張する。
  しかし,前記1のとおり補正して引用する原判決の判示するとおり,特別顕著性を認めるためには,商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有していれば足り,他の同種商品の形態が同様のものであることまで要するものではないから,不規則充填物において,他の同種商品がそれぞれ特徴的な形態を有しているからといって,そのことから直ちには,原告商品の特別顕著性が否定されるものではない。そして,原告商品の形態が客観的に同種商品とは異なる顕著な特徴を有していることは,前記1のとおり補正して引用する原判決の判示するとおりである。また,控訴人は,種々の不規則充填物に特別顕著性を認めることは,不規則充填物の形態が商品等表示として保護される可能性を認めることとなり,競争が制限されるなどと主張するが,特別顕著性及び周知性を有する不規則充填物の形態が商品等表示に該当することを認めたからといって,競争が不当に制限されるということはできないから,控訴人の主張は理由がない。
    イ 控訴人は,「商品の形態が商品の技術的機能及び効用を実現するために他の形態を選択する余地のない不可避的な構成に由来する場合」にいう「商品の技術的機能及び効用」は,不規則充填物一般の技術的機能及び効用ではなく,原告商品と同一の技術的機能及び効用を意味するものであり,省スペースで高効率かつ高処理量を達成するには原告商品の形態をとらざるを得ず,他の形態の不規則充填物では代替できないのであるから,不規則充填物として他の形態が存在することをもって,原告商品の商品等表示性を肯定するのは誤りであると主張する。
  しかし,控訴人主張のように,「商品の形態が商品の技術的機能及び効用を実現するために他の形態を選択する余地のない不可避的な構成に由来する場合」にいう「商品の技術的機能及び効用」を,原告商品のような個別具体的な商品の厳密な意味での技術的機能及び効用を意味するものとまで解すべき理由はない。
  不規則充填物として,多くの商品が様々な形態で製造され,販売・使用されていること,原告商品においても,七つの型式で,表面積(㎡/㎥)や空間率(%)は異なる(原判決別紙原告商品説明書2項)ところ,いずれも相応の販売数量が認められることは,前記1のとおり補正して引用する原判決の認定するとおりであるし,証拠(甲125)によると,不規則充填物の購入に当たり,原告商品と他の形態の不規則充填物とを比較の対象とするなど,たとえ原告商品と他の形態の不規則充填物とが全く同一の表面積(㎡/㎥)や空間率(%)を有するものではないとしても,それらの間に代替性を認めている取引の実情も認められる。そうすると,原告商品の有する不規則充填物としての技術的機能及び効用は,原告商品の形態をとらざるを得ず,他の形態の不規則充填物では代替できないということもできない。
  したがって,控訴人の主張は,理由がない。
    ウ 控訴人は,原告商品の形態は,その機能・効用のみに由来するものであり,この点からも商品等表示性は認められないと主張する。
  しかし,商品の形態が商品の技術的な機能及び効用に由来するものであっても,他の形態を選択する余地がある場合は,当該商品の形態につき,特別顕著性及び周知性が認められる限り,不競法2条1項1号の「商品等表示」に該当することは,前記1のとおり補正して引用する原判決の判示するとおりである。そして,充填塔におけるガス吸収操作などの機能・効用を果たすために,原告商品とは異なる他の形態を選択する余地があることは,前記1のとおり補正して引用する原判決の判示するとおりであるし,原告商品の有する不規則充填物としての技術的機能及び効用は,他の形態の不規則充填物では代替できないといえないことは,前記イのとおりである。
  したがって,控訴人の主張は,理由がない。
    エ 控訴人は,仮に第三者が同種競合製品をもって市場に参入する機会があったとしても,現実に参入者との間で競争が生じない限り,知的財産権による独占状態の影響が払拭されたと評価することはできないと主張する。
  しかし,知的財産権の存在による独占状態は,知的財産権の存続期間が経過することにより解消し,知的財産権の存続期間中の独占状態に基づき生じた周知性も,存続期間満了後の期間の経過に伴って漸減し,存続期間満了後相当期間が経過した後は,知的財産権を有していたことに基づく独占状態の影響は払拭されたものと評価することができる。
  そして,被告商品の販売を開始した平成24年12月までの間に,原告商品のうちS-O型については,実用新案権1の存続期間が満了した昭和54年6月23日から約30年間,原告商品のうちL型,M型,S型については,実用新案権2の存続期間が満了した昭和57年12月4日から約30年間,原告商品のうちS-Ⅱ型,LL型,L-Ⅱ型については,実用新案権3の存続期間が満了した平成9年2月26日から約15年間が経過しており,第三者が同種競合製品をもって市場に参入する機会が十分にあったと評価し得ることは,前記1のとおり補正して引用する原判決の判示するとおりである。
  また,控訴人は,被控訴人による原告商品の宣伝広告が実用新案権の存続期間満了の前後を通じて基本的に変化がない旨を指摘するが,商品の形態の商品等表示性の要件である周知性を基礎付ける宣伝広告が,知的財産権の存続期間満了の前後を通じて同様のものであったからといって,そのことが周知性を否定する根拠となるものではないことは明らかである。
  そして,原告商品について,実用新案権の存続期間満了後における広告・宣伝や,継続的・独占的な大量の製造・販売により,遅くとも平成24年までには原告商品の形状が出所を表示するものとして周知又は著名であるとの事情が認められることは,前記1のとおり補正して引用する原判決の判示するとおりである。
  したがって,控訴人の主張は,理由がない。

 次に、原告商品と被告商品の誤認混同のおそれについて、控訴人は、商品がBtoBの製品であるという取引の実情や、控訴人の登録商標が必ず付されており出所の誤認混同は生じ得ないと主張したが、当該主張も裁判所により退けられた。

   (2)  原告商品と被告商品の誤認混同のおそれについて
  控訴人は,不規則充填物は,完全にBtoBの製品で,その納入単位も㎥単位であり,その取引においては,納入前には具体的な引合い及び技術評価を受けて納入に至り,納入時にはフレコン袋又はPP袋に控訴人の登録商標である「MT-PAK」を明示し,被告商品にもそのほとんどに「MT-PAK」との刻印を行っているし,宣伝広告においても,「あの充填物がマツイマシン製でMT-PAKとして登場!」(甲7)として,出所を明確に認識できるように表記しているから,原告商品と被告商品との間には,出所の誤認混同は生じ得ないと主張する。
  しかし,原告商品と被告商品とは,製造上の誤差を除き,同一の形状であること,原告商品の形態は多数の広告,文献,雑誌等に写真や図付きで紹介されていること,実際の注文においても,不規則充填物の形状に基づいて見積依頼がされる場合があること(甲108)は,前記1のとおり補正して引用する原判決の判示するとおりであり,これらの事実によると,控訴人指摘の諸事情を考慮しても,需要者である不規則充填物の購入者において,被告商品と原告商品との混同を生じるおそれがあるものと認めることができる。
  したがって,控訴人の主張は,理由がない。

むすび

 本件は、不正競争防止法2条1項1号における商品形態の保護について、具体的な判断手法を示すものであり、実務上参考になると思われる。

以上
(筆者)弁護士・弁理士 丸山真幸