【平成31年1月31日判決(大阪地判 平成29年(ワ)第9834号)】

【ポイント】
不正競争防止法21条1項現21号(旧15号)の「営業上の信用を害する虚偽の事実」の告知があると認められた事例

【キーワード】
不正競争防止法21条1項21号(旧15号)
営業上の信用を害する虚偽の事実
信用毀損
営業誹謗

第1 事案

 本件は,被告が,自己のウェブサイト上に,競合他社である原告を思わせる会社の記載をし(原告の名称自体の記載はない),当該会社が被告製品のコピー製品を販売している旨や被告の従業員を引き抜いた旨等を掲載し,原告が被告に対して,不正競争防止法21条1項21号(旧15号),3条1項等に基づき,表示差止請求や損害賠償請求等をした事案である。
 主な争点は,上記掲載が「営業上の信用を害する虚偽の事実」(不正競争防止法21条1項21号(旧15号))に該当するかである。
 なお,上記掲載の具体的な記載は次のとおりである(「本件掲載文●」は判旨より引用。以下,合わせて「本件掲載文」という。)。
 「本件掲載文1」:「ただ一社だけ,当社の下請けで加工を任せていた高知の小さな会社がサイレントパイラー(筆者注;被告製品のこと)のコピー機をつくって売り始めた。」
 「本件掲載文2」:「いまでもこの会社は平然とコピー機を製造しているが,業界の小さな“鬼っ子”にむしろ感謝している。」
 「本件掲載文3」:「辞めた社員の一部は,当社の機械のコピー機をせっせとつくっている件の会社に引き抜かれた。彼らが当社にいた頃は,『機械の値段を下げて一気にそこを潰しましょう』などと言っていたその相手である。」

第2 当該争点に関する判旨(裁判所の判断)(*下線や【●】,改行等は筆者)

2 争点(1)(本件掲載文1ないし3は原告の営業上の信用を害する虚偽の事実か)について

【Ⅰ 本件掲載の「受け手」の認定について】
(1) 本件掲載文1ないし3の対象について
ア 本件ウェブページ1及び2の閲覧者について
 本件ウェブページ1及び2が掲載された被告ウェブサイトは,不特定多数の一般人に対して公開されているが,本件ウェブページ1及び2を含む本件連載が「50周年記念サイト」内のコンテンツであること,被告代表者の自伝であること,社内報における連載記事の再掲であること等から,本件ウェブページ1及び2の閲覧者の多くは,被告の事業内容,あるいは被告代表者の業績や人柄に関心を抱く者,具体的には被告の関係者や取引業者,競争相手,油圧式杭圧入引抜機を使用した工事を行う工事業者といった当該業界の者が中心になると考えられる。
 したがって,これらの者が,本件掲載文1ないし3に接した際,本件連載中の他の記事と合わせてどのような認識を持つかについて検討すべきことになる。

【Ⅱ 本件掲載文記載の「会社」が原告を指すことについて】
イ 当該業界の認識について
(ア) 平成29年当時,油圧式杭圧入引抜機の製造販売事業を行う会社は,高知県内においては原告及び被告以外には存在しなかったこと,昭和54年から55年頃まで,土佐機械工業(筆者注:平成17年に原告が同工業の当該事業を譲り受けた)がサイレントパイラーの部品の製造の下請けをしていたこと,P3が垣内商店でサイレントパイラーの図面作成等に関与した後,土佐機械工業を経て原告に勤務していること,被告が土佐機械工業に対し同社の製品は被告の発明の技術的範囲に属する旨を通告したことは前記1で認定したとおりであり,原告の資本金が2300万円であるのに対し,被告の資本金が80億5567万0215円であること(甲1,5)を考慮すると,被告代表者であるP1が,本件掲載文1ないし3として,「当社の下請けで加工を任せていた高知の小さな会社」,「この会社は平然とコピー機を製造している」,「当社の機械のコピー機をせっせとつくっている件の会社」と記載した際に,土佐機械工業又は原告を指す意図でしたことは明らかである。
 そして,上記各事情は,当該業界の者にとっては知り得ることであったと考えられるし,前記1で認定したところによれば,被告と土佐機械工業及び原告との間には,長年にわたって特許権等に関する紛争があり,これらの事情は,当該業界の者にとって周知であったとされるのであるから,当該業界の者は,本件掲載文1ないし3に記載されている会社が土佐機械工業及びその事業を承継した原告を指すということを容易に理解するものと解されるし,現に,原告の取引先は,本件ウェブページ1及び2に接して原告のことを指すものと理解し,原告に連絡しているのである。
(イ) 被告は,本件掲載文3について,原告ではなく中央自動車興業を指すものであると主張する。
 しかし,「件の会社」という表現は,以前に言及された会社を指す表現であると解するのが当然であるところ,中央自動車興業は本件連載において本件掲載文3以前に一度も言及されておらず(乙35,被告代表者),中央自動車興業が高知県内に本店又は支店を有していたことはないことから(甲28),第28回である本件ウェブページ2の「件の会社」については,直前の第27回である本件ウェブページ1にある「平然とコピー機を製造販売している高知の小さな会社」を受けた表現と解するのが相当であり,逆に,これを中央自動車興業と解する余地はないといわざるを得ない。

【Ⅲ① 本件掲載文記載(「コピー機」に関する記載)が原告の営業上の信用を害する虚偽の事実に該当することについて】
(2) 「コピー機」との表現について
 ア 「コピー」という表現は,一般には,同一性を保ちつつ,転写,複製,演奏等を行うことと解され,権利者の許諾を得ずに著作物,商標,意匠あるいは商品形態についてのコピーをした場合,多くの場合に権利侵害が成立することから,コピー品の製造販売や輸入が違法であることは,一般的な警告の対象とされている(甲21ないし26,33ないし35,乙22)。
 特許権との関係でコピーという表現が使われることは多くはないが,上述した同一性の保持を前提とすると,相手方の製品が自身の製品のコピーであると表現することができるのは,外観,構造等が同一,あるいは区別し得ない程度に類似しているような場合か,少なくとも,相手方の製品が,自身の有する特許発明の技術的範囲に属し,特許権侵害が肯定されるような場合に限られると解される。
 そうすると,外観等が類似はしていても,全体としては同一とはいえない場合や,機能や基本となる原理が類似していても,特許発明の技術的範囲に属するのではない場合に,これをコピーと表現した場合,本来は特許法その他の法律により違法とされる範囲外の行為について,違法との印象を与える内容を告知することになる
 イ 本件について見るに,原告の製品は,被告のサイレントパイラーと同じ圧入原理を利用する油圧式杭圧入引抜機であるが,この基本原理自体は,サイレントパイラーの開発以前である昭和35年から公知であったものであるし,原告の製品の形状は,サイレントパイラーの形状と一部類似することが認められるが,油圧式杭圧入引抜機という機械の機能を発揮するためにはある程度決まった構造・形状を採らざるを得ないと合理的に推測できるのであって,他の会社がかつて製造していた油圧式杭圧入引抜機も,サイレントパイラーと主要な構造や形状が類似していたことが認められる。また,サイレントパイラーの図面作成に携わったことのあるP3らが,その後土佐機械工業へ転職したことが認められるが,同社は油圧式杭圧入引抜機の開発に際し,被告の有する特許権等の権利を侵害するおそれがないか弁理士と相談して調査したとされることは前記認定のとおりである。
 そして,被告の特許申請については拒絶査定が確定し,土佐機械工業において杭打込引抜機についての特許を取得していることは既に認定したとおりであって,本件において,土佐機械工業または原告が自らの杭打込引抜機を製造販売することが,特許権を含む被告の何らかの排他的権利を侵害すると認めるに足りる事実の主張,立証はなされていない
 ウ 以上によれば,被告は,原告の製品が,被告の製品をコピーしたものであると表現し得る場合ではないにもかかわらず,本件掲載文1ないし3において,原告の製品を「コピー機」と記載したものであるから,これは,虚偽の事実に当たるというべきであるし,既に検討したところに照らし,競争関係にある原告の営業上の信用を害する行為に当たるというべきである
 エ 被告は,本件連載が被告代表者の自伝であるという性質から,主観的であり価値判断を含む記載であることが考慮されるべきであって,本件ウェブページ1及び2の全体の表現ぶりや,本件掲載文2の「当社が発明した機械ではあるが,一社で市場を完全に独占するのはやはり罪悪である。」,「業界の小さな“鬼っ子”にむしろ感謝している。」等の表現から,「コピー機」を作っているとする会社を否定的に評価するものではないと主張する。
 しかし,本件連載を通じ,被告代表者がサイレントパイラーを発明したことが強調されており,本件ウェブページ1においても,「世界ではじめて杭圧入機を実用化し,世の中になかった「圧入業界」をつくり」との記載がある中で,本件掲載文2及び3においては,「平然とコピー機を製造している」,「当社の機械のコピー機をせっせとつくっている」との表現がなされているのであるから,「コピー機」という表現が,被告の発明品であるサイレントパイラーの技術を,被告の権利を侵害し,あるいは,違法な手段で盗用・模倣したという否定的な文脈で用いられていることは明らかであり,この表現に接した者は,原告の製品が被告の製品の模造品や模倣品,違法な権利侵害品であるとの印象を受けるものと認められる。
 上記被告の主張を採用することはできない。

【Ⅲ② 本件掲載文記載(「引き抜かれた」に関する記載)が原告の営業上の信用を害する虚偽の事実に該当することについて】
 (3) 「引き抜かれた」との表現について
 本件ウェブページ2の前半は,昭和58年頃,被告の取引先の一つが会社更生手続開始決定を受けたことをきっかけに,被告代表者が被告の営業担当者に対して社外への外出を禁止するという措置を執り,これに反発した営業幹部の多くが退職し,その一部は「件の会社」に引き抜かれたというものであり,被告代表者の措置に反発した営業幹部の退職が先行し,引抜きにより退職したとするものではない
 しかしながら,本件ウェブページ1の記載を前提に本件ウェブページ2を見た場合,本件掲載文3の「当社の機械のコピー機をせっせと作っている件の会社」は土佐機械工業又はその事業を承継した原告と解されることは前記認定のとおりであるし,「コピー機をせっせと作っている件の会社」という否定的表現の中で「引き抜かれた」という表現が用いられれば,これに接する者は,土佐機械工業又は原告が,違法,不当な手段を用いて,被告の従業員を転籍させたとの印象を抱くものと解される
 本件において,昭和58年1月31日付けで退職した被告の従業員が,土佐機械工業に転職したとの事実は認められないし,土佐機械工業又は原告が被告の従業員に対して違法・不当なはたらきかけをしたという事実も認められないから,被告が,本件掲載文3に「件の会社に引き抜かれた」と記載したことは,競争関係にある原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知したことになる。

 (4) まとめ
 以上より,被告は,本件掲載文1ないし3を被告ウェブサイトに掲載し,競争関係にある原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を流布したもの(不正競争防止法2条1項15号)と認められる。

第3 検討

 本件は,不正競争防止法21条1項旧15号(現21号)の「営業上の信用を害する虚偽の事実」の要件を充足することが認められた事案である。
 まず,虚偽であるかの判断主体の基準については,「『虚偽』であるかどうかは,その受け手が,陳述ないし掲載された事実について真実と反するような誤解をするかどうかによって決すべきであり,具体的には,受け手がどのような者であって,どの程度の予備知識を有していたか,当該陳述ないし掲載がどのような状況で行われたか等の点を踏まえつつ,当該受け手の普通の注意と聞き方ないし読み方を基準として判断されるべきである」と判示した裁判例がある(東京高裁平成14年6月26日判決)。本件判決において,当該基準をそのまま記載はしていないが,その基準を考慮し,本件掲載文が掲載されたウェブサイトの性質や内容から,「受け手」である当該ウェブサイトの閲覧者を,「被告の関係者や取引業者,競争相手,油圧式杭圧入引抜機を使用した工事を行う工事業者といった当該業界の者」であると認定した(上記第2のⅠ)。
 次に,本件掲載文には,原告の名称が直接記載されていないので,本件判決は,上記基準に従い,本件ウェブサイトの閲覧者(「受け手」)の業界の認識(「予備知識」)を基準として,本件掲載文の内容から,本件掲載文の中で(信用毀損された)「会社」が原告であると認定した(上記第2のⅡ)。仮に,本件掲載文がウェブサイトに掲載されていたこと(ウェブサイトは誰しも見ることができること)に鑑み,「受け手」が主として不特定多数の一般人であると認定されたとすれば,一般人は,上記「予備知識」を有していないだろうから,異なる結論になる可能性があった。
 そして,「営業上の信用を害する虚偽の事実」として,本件掲載文において,「会社」(原告)が被告製品の「コピー機」を販売している旨が記載されていたため,本判決は「コピー」の解釈を前提に,「相手方の製品が自身の製品のコピーであると表現することができるのは,(①)外観,構造等が同一,あるいは区別し得ない程度に類似しているような場合か,(②)少なくとも,相手方の製品が,自身の有する特許発明の技術的範囲に属し,特許権侵害が肯定されるような場合に限られる」と判断した。つまり,当該①又は②でないの場合には,「これをコピーと表現した場合,本来は特許法その他の法律により違法とされる範囲外の行為について,違法との印象を与える内容を告知することになる」との規範を示した。本判決は,本件は①の場合でも②の場合でもなく,本件掲載文は違法との印象を与える内容である旨を判断し,「営業上の信用を害する虚偽の事実」であると判断した(上記第2のⅢ①)。
 このように,直接的に自己の権利の「侵害品」であると記載しなくても,「コピー」と記載する場合には,上記①又は②の場合に該当しなければ,「営業上の信用を害する虚偽の事実」を告知等したことになる可能性があるので,留意する必要がある。
最後に,本件掲載文中に,被告の従業員が原告に「引き抜かれた」旨の記載があったが,そのような事実はなく,受け手は,原告が「違法,不当な手段を用いて,告の従業員を転籍させたとの印象を抱くものと解される」と判断し,「営業上の信用を害する虚偽の事実」の告知があったと判断した。
 なお,本件では,「営業上の信用を害する虚偽の事実」を告知があったことを前提に,本件掲載文の限度で表示の差止請求が認められたが,原告が請求した損害賠償請求については,「取引先から本件ウェブページ1及び2についての指摘があったことを認定し得るに止まり」,本件掲載文によって取引先との取引が終了した等の事情がなかったため(原告が主張立証しなかったため),営業上の信用が害された結果発生した損害がないとして,損害賠償請求は認められなかった。

以上
(筆者)弁護士 山崎臨在