【令和3年3月30日判決(知財高裁 令和2年(行ケ)第10133号)】

【判旨】
 本願商標に係る特許庁の不服2019-009420号事件について商標法第3条第1項第3号,同条第2項の判断は正当であるとして,請求を棄却した事案である。

【キーワード】
Ujicha,商標法第3条1項3号,商標法第3条第2項,地域団体商標

事案の概要

以下,証拠番号等は適宜省略するものとする。なお,下線等は筆者が付した。
⑴ 原告は,「Ujicha」の文字を標準文字で表して構成される商標(以下「本願商標」という。)について,第30類に属する願書記載のとおりの商品を指定商品として,平成29年3月7日に登録出願された商願2017-29699に係る商標法11条3項の規定による団体商標登録出願として,同年9月6日に登録出願をした。
その後,平成30年6月1日付けの手続補正書により,その指定商品は第30類「京都府・奈良県・滋賀県・三重県の4府県産茶を京都府内業者が京都府内において宇治地域に由来する製法により仕上加工した緑茶,京都府・奈良県・滋賀県・三重県の4府県産茶を京都府内業者が京都府内において宇治地域に由来する製法により仕上加工した緑茶を使用した菓子,京都府・奈良県・滋賀県・三重県の4府県産茶を京都府内業者が京都府内において宇治地域に由来する製法により仕上加工した緑茶を使用したパン,京都府・奈良県・滋賀県・三重県の4府県産茶を京都府内業者が京都府内において宇治地域に由来する製法により仕上加工した緑茶を使用したサンドイッチ,京都府・奈良県・滋賀県・三重県の4府県産茶を京都府内業者が京都府内において宇治地域に由来する製法により仕上加工した緑茶を使用した中華まんじゅう,京都府・奈良県・滋賀県・三重県の4府県産茶を京都府内業者が京都府内において宇治地域に由来する製法により仕上加工した緑茶を使用したハンバーガー,京都府・奈良県・滋賀県・三重県の4府県産茶を京都府内業者が京都府内において宇治地域に由来する製法により仕上加工した緑茶を使用したピザ,京都府・奈良県・滋賀県・三重県の4府県産茶を京都府内業者が京都府内において宇治地域に由来する製法により仕上加工した緑茶を使用したホットドッグ,京都府・奈良県・滋賀県・三重県の4府県産茶を京都府内業者が京都府内において宇治地域に由来する製法により仕上加工した緑茶を使用したミートパイ,京都府・奈良県・滋賀県・三重県の4府県産茶を京都府内業者が京都府内において宇治地域に由来する製法により仕上加工した緑茶を使用した調味料,京都府・奈良県・滋賀県・三重県の4府県産茶を京都府内業者が京都府内において宇治地域に由来する製法により仕上加工した緑茶を使用したアイスクリームのもと,京都府・奈良県・滋賀県・三重県の4府県産茶を京都府内業者が京都府内において宇治地域に由来する製法により仕上加工した緑茶を使用したシャーベットのもと,京都府・奈良県・滋賀県・三重県の4府県産茶を京都府内業者が京都府内において宇治地域に由来する製法により仕上加工した緑茶を使用した穀物の加工品,京都府・奈良県・滋賀県・三重県の4府県産茶を京都府内業者が京都府内において宇治地域に由来する製法により仕上加工した緑茶を使用したチョコレートスプレッド,京都府・奈良県・滋賀県・三重県の4府県産茶を京都府内業者が京都府内において宇治地域に由来する製法により仕上加工した緑茶を使用した即席菓子のもと」と補正された。
⑵ 原告は,平成31年4月10日付けの拒絶査定を受けたので,令和元年7月12日,拒絶査定不服審判を請求した。
 特許庁は上記請求を不服2019-009420号事件として審理をした上,令和2年9月30日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同年10月20日,原告に送達された。
⑶ 原告は,令和2年11月11日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。

なお,漢字表記の「宇治茶」については,本願商標の指定商品と同じ第30類「京都府・奈良県・滋賀県・三重県の4府県産茶を京都府内業者が京都府内において宇治地域に由来する製法により仕上加工した緑茶」を指定商品として,原告を権利者として,地域団体商標登録がされている(第5050328号。以下,この登録商標を「本件地域団体商標」という。)。

本願商標

上記事案の概要を参照。

争点

本願商標が,商標法第4条第1項第3号及び同条第2項に該当するか否か。

判旨抜粋

1 取消事由1(商標法3条1項3号該当性の判断の誤り)について
⑴ 本願商標の構成
本願商標は,「Ujicha」の文字を標準文字で表して構成されるものであり,我が国におけるローマ字の普及状況に鑑みれば,需要者において,「宇治茶」の語の表音を欧文字で表記したものと容易に認識できると解される。
⑵ 本願商標の商標法3条1項3号該当性について
広辞苑第7版(2018年1月12日発行)によれば,「宇治茶」は,「京都府宇治地方から産出する茶。室町時代から茶道で賞美。」であるとされ,「新茶業全書」(昭和63年10月1日発行),「茶道辞典」(昭和54年9月20日発行),「新・食品事典11 水・飲料」(乙5 6,1992年10月20日発行)といった書籍においても,「宇治茶」が,京都府宇治地方から産出する茶である旨の記載がある。
 また,多数のウェブサイトにおいて,本願の指定商品又は関連する商品に関して,「宇治茶」,「UJICHA」,「Ujicha」,「Uji cha」,「UJI-CHA」あるいは「宇治」,「Uji」,「“Uji”」,「UJI」といった文字を包装に表示したものが掲載されている。
 そうすると,本願商標は,その指定商品との関係において,「京都府宇治地方で製造又は販売する茶」であることを認識,理解させるにすぎず,単に商品の産地,販売地,品質又は原材料を普通に用いられる方法で表示するものであって,商標法3条1項3号に該当するものというべきである。
(中略)
2 取消事由2(商標法3条2項該当性の判断の誤り)について
⑴ 商標法3条2項の趣旨
 商標法3条2項は,同法3条1項3号ないし5号に該当する商標でも,使用をされた結果,需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるに至ったときは,商標登録を受けることができる旨定める。これは,このような商標でも,特定の者がその業務に係る商品又は役務について使用した結果,その商品又は役務と密接に結びついて,自他識別力を有することがあるからである。
 このような自他識別力を取得するには,商品又は役務の主体が特定の者であることが商品又は役務の需要者の間で全国的に認識され,また,出願商標と使用商標は少なくとも実質的に同一であることを要すると解される。
⑵ 使用による識別力の獲得について
ア 原告は,本願商標の使用の事実を立証するものとして,原告の組合員である株式会社伊藤久右衛門(以下「伊藤久右衛門」という。)の使用に係る甲1,2と,矢野園の使用に係る甲5,6を提出する。
イ まず伊藤久右衛門の使用について判断すると,同社は,かぶせ茶,煎茶,ほうじ茶についてそれぞれティーバッグを販売しているところ(甲1),甲2は,そのうちかぶせ茶の包装について,中央上部に大きく「かぶせ茶」の横書きの記載があり,その下に「急須用ティーバッグ」,さらにその下に「UJICHA TEA BAG」と横書きで記載されており,煎茶やほうじ茶についても中央上部にそれぞれ茶の種類が記載されているものと推認される。
そうすると,本願商標「Ujicha」と甲2の表示は,その文字数や記載ぶりが大きく異なるものというべきであるから,両者が実質的に同一であると認めることはできない。
よって,伊藤久右衛門による甲2の表示については,商標法3条2項にいう使用がされたものとは認められない。
ウ 次に,矢野園の使用については,同社は,その商品の包装の中央部に,煎茶については「産地直送 宇治蔵出し煎茶」の,玉露については「産地直送 宇治蔵出し玉露」の大きな縦書きの記載をし,その下部に横書きで「UJICHA」の記載をしているが,同包装には,原告との関連性を示す記載はない。
 このような記載では,原告固有の商標として表示しているのか,単なる産地表示や品質表示として表示しているのかが明らかとはいえず,当該表示に接する需要者が,本願商標について,原告又はその構成員固有の出所識別標識であると直ちに認識,理解するとはいえない。
エ 甲7,8によれば,矢野園が包装に「UJICHA」の記載をした煎茶について,平成20年に東京に1万本,平成21年に金沢に1万本売り上げたことが認められるが,販売期間,累計の販売数量,売上金額,販売地域を裏付ける証拠はなく,原告の他の組合員に関しては,本願商標を付した指定商品の売上に関する証拠は提出されていないし,原告又はその組合員による本願商標を付した指定商品の市場占有率を裏付ける証拠もない。
他方で,本願の指定商品又は関連する商品に関して,原告の組合員以外のウェブサイトにおいて,「UJICHA」,「Ujicha」,「Uji cha」,「UJI-CHA」といった「宇治茶」の欧文字表記を包装に表示した商品が掲載されている。
オ 以上を前提に検討すると,本願商標に通じる「宇治茶」は,前記1⑵のとおり,「京都府宇治地方で産出する茶」を指称する語として広く受け入れられ,もともと特定の主体と結びつき難いものである一方,原告の組合員である伊藤久右衛門による甲2の表示については,そもそも商標法3条2項にいう使用がされたものとは認められないし,矢野園による本願商標の使用態様も,原告固有の商標として表示しているのか,単なる産地表示や品質表示として表示しているのかが明らかとはいえない態様のものである。また,原告の組合員による本願商標を付した指定商品の販売期間,販売数量,累計の売上金額,販売地域,市場占有率等については,矢野園による平成20年及び平成21年の散発的な販売実績を除き,これを裏付ける証拠はなく,結局,原告又はその構成員による本願商標の使用状況は明らかでない。さらに,原告の組合員以外の者が,「UJICHA」,「Ujicha」,「Uji cha」,「UJI-CHA」といった「宇治茶」の欧文字表記を包装に表示した商品を販売しているという実情がある。
 これらを総合すると,本願商標が,原告又はその構成員により使用をされた結果,需要者が原告又はその構成員の業務に係る商品であると全国的に認識されているとはいえず,本願商標は商標法3条2項の要件を具備しないというべきことは明らかである。

解説

 本件は,商標権に係る審決取消訴訟である。特許庁は,本願商標について,商標法3条1項3号及び同条第2項にもとづいて拒絶査定(及び審決)をおこなったものであるが,裁判所は当該判断を是認した。
 裁判所は,まず,Ujichaとの文字が,「単に商品の産地,販売地,品質又は原材料を普通に用いられる方法で表示」するものにすぎないとして,商標法第3条第1項第3号に該当するとし,次に,原告の組合員(団体商標出願であるため,構成員の使用も含まれる。)の本願商標の使用態様を認定した上で,「原告又はその構成員により使用をされた結果,需要者が原告又はその構成員の業務に係る商品であると全国的に認識されているとはいえ」ないと判断した。
 原告は,「宇治茶」という地域団体商標を有していることから,Ujichaについても出所識別能力を有すると主張したが,裁判所は,「地域団体商標の登録を受けたからといって,当然に同法3条1項3号に該当しない(出所識別機能を有する)ことになるわけではないことは明らか」であると判断した。
 本件においては,裁判所の認定のように,本件地域団体商標を有しているからといって,これとは異なる本願商標についても,自他識別能力等が認められるわけではないことは明らかであり,裁判所の判断は妥当であると思われる。

以上
(筆者)弁護士 宅間仁志


第三条 自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。
(中略)
三 その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状(包装の形状を含む。第二十六条第一項第二号及び第三号において同じ。)、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標
(中略)
2 前項第三号から第五号までに該当する商標であつても、使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては、同項の規定にかかわらず、商標登録を受けることができる。