平成20年5月29日判決(大阪地裁 平成12年(ワ)8725号)
【ポイント】
被告の製造販売する廃材用切断器について,「のみ」要件(特許法101条1号)の該当性が争われた事例において,被告製品は原告発明にかかるパワーショベルに取り付けられる以外の用途が想定できないとして,「のみ」要件の該当性を肯定し,間接侵害の成立を認めた事例
【キーワード】間接侵害,技術的範囲の属否,「のみ」要件


【事案の概要】
 原告は,廃材用切断装置に関する発明にかかる特許権者である。原告は,被告の製造販売する廃材用切断器が原告の特許発明の技術的範囲に属し,また,「生産にのみ用いる物」(特許法101条1号)に当たると主張して,被告に対し,100条1項及び2項に基づき,被告製品の製造・販売等の差止めを請求するとともに,特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償金として,三〇〇〇万円等の支払を求めた事案である。

【争点】
 被告の製造販売する廃材用切断器が,「のみ」要件(特許法101条1号)に該当するか。

【結論】
 被告の製造販売する廃材用切断器はいずれも,原告特許発明の技術的範囲に属する装置の生産にのみ用いられる物にあたる。したがって,本件廃材用切断器を製造・販売等する行為は,原告の特許権を侵害するものとみなされる(特許法101条1号)。

【判旨抜粋】
 本件判決は,「被告は,イ号物件が別紙「イ号物件の商品化の販売装着図」のとおり,油圧パワーショベルに取り付けられて用いる物であることを認めている。そして,証拠(甲7,乙10,11,18)によれば,イ号物件は,そのパンフレットにおいて,使用時の写真ないし絵としては,専らパワーショベルに取り付けられて廃材の切断に使用している状態の写真ないし絵が掲載されていることが認められる。そして,イ号物件それ自体は,動力を発生させるシリンダを有しておらず,また,可動刃を作動させて被切断物の切断を可能とし,イ号物件を被切断物のところに移動させて切断位置に維持するには,パワーショベルと接続して,パワーショベルの流体圧シリンダを用いて可動刃を作動させ,パワーショベルのアームによりイ号物件を被切断物のところに移動させて切断位置に維持することが必要であるから,イ号物件は,パワーショベルに取り付けられる以外の用途は想定できず,専らパワーショベルに取り付けられる物と認められる。したがって,イ号物件は,パワーショベルに取り付けて,本件発明2の技術的範囲に属する物を製造することにのみ用いられるものであるから,業としてイ号物件を製造・販売することは,物の発明である本件発明2について,「業として,その物の生産にのみ用いる物の生産,譲渡」に該当し,特許法101条1号により,本件特許権2を侵害するものとみなされる。」と判示し,間接侵害の成立を肯定した。

【解説】
 特許法101条1号では「その物の生産にのみ用いる物」であることを要求(「のみ」要件)する。「のみ」要件については,特許発明を実施する機能があることを前提として,他の用途が「社会通念上経済的,商業的ないし実用的な他の用途」であるかを基準として判断することが通説とされている(田村義之『知的財産法(第5版)』(2010年・有斐閣)262頁,渡辺光「第101条(侵害とみなす行為)」中山信弘・小泉直樹編『新・注解特許法(下巻)』(2011年・青林書院)1481頁等)。
 通説的裁判例の中でも、他の用途が無い場合には当然「のみ」要件に該当することになり,他方,他の用途がある場合にはその経済性・商業性・実用性に着目して判断がわかれていた。裁判例の事例をみると,「のみ」要件は,他の用途が単に存在するだけでなく現実に有用な形で提供される場合には否定されていた。
 このような裁判例の状況の中で,本件は,「イ号物件は,パワーショベルに取り付けられる以外の用途は想定できず,専らパワーショベルに取り付けられる物」であるから「のみ」に該当すると判示されている。つまり,イ号物件その自体に他の用途が存在しなかった例である。したがって、本件は、通説的判断枠組みに従うと当然に「のみ」要件に該当する事例であり、通説的裁判例の流れに沿った判断をなしたと評価できる。
 本件は,通説的判断枠組みの流れに沿った判断をした点に意義を有するものである。「のみ」要件については,本件のように通説的見解を採用する裁判例が多いもが,通説的見解から要件を緩和する説を採用する事例も一部存在することから(大阪地判平成12・10・24判タ1081号241頁[製パン器]),今後の裁判例の動向に注意を払う必要があろう。

以上
(文責)弁護士 高橋正憲