【平成20年10月30日判決(知財高判 平20(行ケ)10100号)】

【概要】
 本判決は、本願商標において、著名商標「旺文社」は,極めて小さく,ほとんど目立たない態様で表記されているため、強く支配的な印象を与えると認められるのは「レクシス」の文字部分であると判断した。

【キーワード】
結合商標、類否、著名、つつみのおひなっこや事件、強く支配的な印象

1.事例

本願商標引用商標
LEXIS

2.判旨

ウ 本願商標における「レクシス」部分の識別力
 各証拠によれば,①我が国では,「レクシス」の文字(片仮名)は馴染みのある語ではないこと(乙1~7),②仮に,同文字が「語彙」等を意味する「LEXIS」との英単語(甲11,乙10,11)の片仮名表記であると認識されることがあったとしても,「LEXIS」の欧文字は,我が国において一般に親しまれている語とはいえないこと(乙8~11),③原告の発行に係る「旺文社レクシス英和辞典」のケースには,「英和辞典の新定番『レクシス』」との記載のある帯が巻かれており(乙12),原告自身も「レクシス」の文字を,「語彙」という意味で説明的に用いるのではなく,むしろ商品の出所識別標識として使用していることが,それぞれ認められる。そうすると,本願商標における「レクシス」の文字部分は,取引者,需要者において,特定の親しまれた観念を有する成語と認識されるものではなく,専ら商品又は役務の出所識別標識として認識されるものといえる。
 原告は,同文字部分について,商品又は役務の品質を記述的に表したものであると主張するが,上記認定事実及び判断に照らし,採用することができない。
エ 本願商標における「旺文社」の文字部分の識別力
 本願商標における「旺文社」の文字部分は,「レクシス」の文字部分と比較すると,極めて小さく,ほとんど目立たない態様で表記されていることに照らすならば,「旺文社」が原告の商号として著名である(弁論の全趣旨)などの実情を考慮したとしても,本願商標に接する取引者,需要者は,専ら「レクシス」の文字部分に着目するものと認めるのが相当である。
オ 小括
 以上によれば,本願商標は,「レクシス」の文字部分が,取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認めるのが相当である。

3.検討

 最判平成20年9月8日(平19(行ヒ)223号)は、結合商標の類否判断は、「複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて,商標の構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,その部分が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などを除き,許されないというべきである」と判示しています。
 本判決は、著名商標「旺文社」は,極めて小さく,ほとんど目立たない態様で表記されているため、強く支配的な印象を与えると認められるのは「レクシス」の文字部分であると判断しました。
 論点が関連する事件として、知財高判平成28年 1月20日(平27(行ケ)10158号)は、「REEBOK ROYAL FLAG」のうち、「REEBOK」の部分が著名商標であることを理由に、強く支配的な印象を与えると判断しました。
 例え著名商標であったとしても、小さく表記された場合や、目立たない態様で表記された場合は、強く支配的な印象を与えるものと認められない可能性があることが示された点で、本判決は参考になると考えます。

(文責)弁護士・弁理士 杉尾雄一