【平成20年6月16日[シルバーアクセサリー](東京地判 平成19年(ワ)第4876号) 裁判所ウェブサイト 】

【ポイント】
原告の事業中断期間が3年あったが、原告の周知性は肯定され、原告が不正競争2号1項1号に基づいて被告の当該商品について差止請求、損害賠償請求がなされことについて、原告の請求が肯定された事例

【キーワード】
商品形態、不正競争防止法2条1項1号、形態模倣、類似性、特定商品等表示性、混同、周知性の継続、事業の中断と周知性の継続

【事案の概要】
 本件は、原告会社の販売するシルバーアクセサリー等の商品の立体的形状が商品等表示として周知であるとして、原告会社が、被告に対し、不正競争防止法2条1項1号に基づき、これと同一又は類似する商品の譲渡等の差止め(同法3条1項)、商品等の廃棄(同法3条2項)並びに損害賠償金500万円及びこれに対する遅延損害金の支払(同法4条、5条3項1号)を求めた事案である。

【争点】
 本件立体的形状は原告会社の表品等表示としての周知性を有するか。

【結論】
 本件立体的形状は原告会社の表品等表示としての周知性を有する。

【判旨抜粋】
「 (1) Bの生前
 前提事実(3)ウのとおり、本件立体的形状は、遅くともBが死亡する前に、原告会社の商品であることを示すものとして、日本国内で需要者、取引者に広く認識されていた。
 (2) Bの死後
 ア 原告の周知性の継続
 (ア) 上記(1)のとおり、平成11年1月以前に、本件立体的形状が原告会社の商品であることを示すものとして周知性を獲得し、前提事実(3)アのとおり、原告会社は、本件立体的形状を有する商品を、遅くとも平成14年7月以降、有限会社ムーンワークスを通じて日本へ輸出、販売している事実によれば、原告会社の商品等表示として周知性は現在まで継続して維持されているものと認めるべきである。
 (イ) 確かに、前提事実(7)ア及びイの関係記事によれば、原告会社では、B死亡後に内紛が生じ、平成11年1月ころから平成13年12月ころにかけて事業を中断し、又はかなりの程度縮小させたことが認められる。しかし、その中断等の期間は3年程度であり、平成14年1月以降は、事業を再稼働させ、それに伴い本件立体的形状や本件登録商標1及び2を有する原告の商品が継続的に各種雑誌に取り上げられ、高い評価を受けていること(特に、前提事実(7)ア(エ)ないし(キ)による。)やBの生前のシルバーアクセサリーの世界における極めて高い評価にかんがみれば、原告会社の事業が中断されていた期間があったとしても、その期間に本件立体的形状が原告会社の商品等表示としての周知性を喪失したとは考え難い。
 イ 被告の周知性の併存
 本件立体的形状が原告会社の商品等表示として周知性を維持していたとしても、本件立体的形状がインターナショナル社又はCDM社の商品等表示としても周知性を有することもあり得ないではない。
 しかしながら、前提事実(7)イのとおり、インターナショナル社又はCDM社に関する各種雑誌記事は、ごく最近の釈明広告である前提事実(7)イ(カ)を除けば、平成14年6月から平成15年8月までの約1年間に掲載されたもののみであり、しかも、その時期は、既に原告会社が事業を再稼働させた時期以降であるから、インターナショナル社又はCDM社が原告会社の周知な商品等表示と並存して商品等表示の周知性を獲得したものと認定することは、到底できない。」
「 (3) 結論
 以上のとおり、平成11年1月以前に本件立体的形状が原告会社の商品であることを示すものとして周知性を獲得し、その周知性は、現在まで継続して維持されているものである。」

【検討】
 他人の商品の形態を模倣した商品を譲渡等する行為は不正競争防止法2条1項3号により規制される。しかし、同号における規制では、被告が原告の商品と実質同一の商品を譲渡等したこと(不正競争防止法2条1項3号)、及び最初に販売された日から3年を経過していないこと(不正競争防止法19条1項5号イ)等が要件とされるため、同号による保護のみでは、必ずしも商品形態の十分な保護とは言えない。
 そこで、不正競争防止法2条1項1号により商品の形態を保護できるかが問題となる。
この点について、不正競争防止2条1項1号は、保護をうける商品等表示の具体例として、「容器、包装」を列挙しており、学説も商品形態を同号により保護できるとするものが多数である。
 不正競争2条1項1号の要件は、①原告の商品等表示が(特定商品表示性)、②需用者の間に広く認識されていること(周知性)、③被告が①の商品等表示と同一又は類似の表示を使用し又は使用した商品等を譲渡していること(類似性)、④①が原告の商品又は営業と混同を生じさせるおそれがあること(混同)ある。
 商品の形態が問題となった裁判例を見ると、商品の形態が技術的形態である場合には商品等表示にあたらないとされる(東京地判平成12年10月31日平成9(ワ)12191〔MAGIC CUBE〕東京地判平成17年2月15日判時1891号147頁〔マンホール用ステップ〕、大阪地判平成23年10月3日平成22(ワ)9684〔水切りざる〕)。また、周知性、類似性、混同の各要件も通常の出所識別標章を対象とした1号事案と同様に必要となる。たとえば、周知性では、商品の形態がそれが特定の者の商品であることを示す表示であると需用者の間で広く認識される必要があるとされる(大阪地判平成20年10月14日判時2048号91頁〔マスカラ容器〕等)。
 このように、不正競争防止法2条1項1号にて形態模倣の保護を要求するにはハードルが高いといえる(不正競争防止法2条1項1号にて形態模倣の保護を求めた原告の請求を否定した例として、東京地判平8年12月25日知裁集28巻4 号821 頁〔ドラゴン・ソード〕、東京地判平成12年10月31日平成9(ワ)12191〔MAGIC CUBE〕東京地判平成17年2月15日判時1891号147頁〔マンホール用ステップ〕、大阪地判平成23年10月3日平成22(ワ)9684〔水切りざる〕、東京地判平成26年10月17日平成25(ワ)22468〔フランクフェイス〕等多数ある)。
 本件は、シルバーアクセサリーの立体形状の周知性が争われた事例であり、これについて裁判所は、「本件立体的形状は、遅くともBが死亡する前に、原告会社の商品であることを示すものとして、日本国内で需要者、取引者に広く認識されていた。」「平成11年1月以前に、本件立体的形状が原告会社の商品であることを示すものとして周知性を獲得し、前提事実(3)アのとおり、原告会社は、本件立体的形状を有する商品を、遅くとも平成14年7月以降、有限会社ムーンワークスを通じて日本へ輸出、販売している事実によれば、原告会社の商品等表示として周知性は現在まで継続して維持されているものと認めるべきである。」「確かに、前提事実(7)ア及びイの関係記事によれば、原告会社では、B死亡後に内紛が生じ、平成11年1月ころから平成13年12月ころにかけて事業を中断し、又はかなりの程度縮小させたことが認められる。しかし、その中断等の期間は3年程度であり、平成14年1月以降は、事業を再稼働させ、それに伴い本件立体的形状や本件登録商標1及び2を有する原告の商品が継続的に各種雑誌に取り上げられ、高い評価を受けていること(特に、前提事実(7)ア(エ)ないし(キ)による。)やBの生前のシルバーアクセサリーの世界における極めて高い評価にかんがみれば、原告会社の事業が中断されていた期間があったとしても、その期間に本件立体的形状が原告会社の商品等表示としての周知性を喪失したとは考え難い。」と判示した。つまり、事業の中断期間が3年程度あるにもかかわらず、中断前の周知性が事業再開後も継続していると判断され、原告の商品形態の周知性を肯定した点に特徴を有する事案といえる。

以上
(文責)弁理士・弁護士 高橋 正憲