【平成20年10月14日[マスカラ容器](大阪地決 判時2048号98頁)】

【ポイント】
原告が不正競争2号1項1号に基づいて被告の販売等する商品について差止及び損害賠償を求めて訴えをしたことについて、原告の請求が認められた事例
【キーワード】
商品形態、不正競争防止法2条1項1号、形態模倣、類似性、特定商品等表示性、混同

【事案の概要】
 本件は、原告らの製造・販売するまつ毛化粧料(マスカラ)の容器及びその包装が原告の商品表示として周知・著名なものになっており、被告がこれに類似する商品表示を使用したマスカラを製造し、譲渡し又は引き渡したことは、不正競争防止法2条1項1号又は2号所定の不正競争に該当するとして、被告に対し、同法3条1項に基づき被告の製品の製造・譲渡等の差止め、同法3条2項に基づき被告の製品の廃棄及び同法4条に基づき被告の製品の販売によって原告が被った損害賠償の一部として原告らそれぞれに対する6600万円(原告らの不可分債権)の支払及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成19年2月23日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

【争点】
1 原告ら容器及び原告ら包装は原告らの商品表示として需要者の間に広く認識されているか。
2 イ号容器は原告ら容器と類似するか。
3 被告商品は原告ら商品と混同のおそれがあるか。

【結論】
1 原告ら容器及び原告ら包装は原告らの商品表示として需要者の間に広く認識されている。
2 イ号容器は原告ら容器と類似する。
3 被告商品は原告ら商品と混同のおそれがある。

【判旨抜粋】
1 原告ら容器及び原告ら包装は原告らの商品表示として需要者の間に広く認識されているか。
 「上記認定事実によれば、原告ら容器は、容器本体が濃いワインレッド色であり、キャップが銀色である点(以下「原告ら容器の特徴点A」という。)、及び容器本体の正面視に目やまつ毛の絵柄が施され女性がウィンクしているようなまつ毛を強調した目の絵柄(以下「原告ら容器の絵柄」という。)が施されている点(以下「原告ら容器の特徴点B」という。)において、需要者の注意を引く他の商品とは異なる独自の特徴を有するものと認められる。」
 「上記認定のとおり、原告ら商品につき、原告イミュは、平成14年4月以降、全国各地の主要都市の交通機関や主要駅構内において多数回にわたって広告を行ったこと、平成14年9月以降、全国誌である女性用ファッション雑誌においても多数回にわたって純広告を行ったこと、平成14年8月以降、全国各地の放送局においてテレビCMを放映したこと、これら広告のために、総額20億円余りの広告費を支出したことが認められ、平成13年9月から平成17年3月までの約4年半の間に1115万6465個もの原告ら商品が販売され、その卸売販売額合計は93億7262万円余り(小売販売額合計は167億3469万円余り)に上ったことが認められる。そして、上記広告のうち交通広告や雑誌広告における広告内容(ビジュアル1ないし同9)を見ると、いずれの広告内容においても原告ら容器の拡大写真が掲載されており、特にビジュアル1、同2、同7及び同9においては原告ら容器の拡大写真が広告の中心となっていること、いずれの広告内容においても原告ら容器本体の濃いワインレッドが基調とされており、特にビジュアル2、同5及び同6においては広告のほぼ全面が濃いワインレッドに覆われていること、いずれの広告内容においても原告ら容器の拡大写真が掲載されることにより原告ら容器の絵柄も大きく掲載されており、特にビジュアル5においては同絵柄のみが大きく取り上げられて描かれていること、以上の事実が認められる。これらの事実によれば、遅くとも平成18年4月までには、上記大量の広告及び極めて多数に及ぶ販売等により、原告ら容器は、その特徴点A及び同Bをもって、原告ら容器が、原告ら商品の出所を示すものとしてマスカラの需要者たる女性の間に広く認識されていたと認められる。
 また、ビジュアル1ないし同9のいずれの広告内容においても、原告ら容器とともに原告ら包装の台紙も掲載されており、特にビジュアル1及び同2においては同台紙が広告の中に大きく掲載されることにより、台紙の木の葉型の形状及びライトグリーンの色彩も目を引くものとなっていること、いずれの広告内容においても同台紙の表示とは別に「塗るつけまつげ」との記載がされていること、以上の事実が認められ、これにより遅くとも平成18年4月までに、原告ら包装の特徴点A及び同Bをもって、原告ら包装も原告ら商品を示すものとして需要者たる女性の間に広く認識されていたと認められる(なお、原告らが原告ら包装の特徴点として主張するブリスター方式の包装(原告ら包装の特徴点〈2〉)や、台紙の形状とプラスチック状包装との形状の不一致(原告ら包装の特徴点〈5〉)については、上記各広告内容において、プラスチック状の包装自体が全く現れていない以上、周知性の点においても、これらをもって需要者の間に広く認識されているとは認め難い。)。」
2 イ号容器は原告ら容器と類似するか。
 「上記一致点のとおり、イ号1容器と原告ら容器とは、その大きさ及び容器本体とキャップの長さにおいて完全に一致しており、しかも容器本体の色も一致している。
 相違点について検討すると、キャップの色についても、確かにイ号1容器は金色に分類される色ではあるが、かなり淡めの金色であり、原告ら容器の銀色(イ号1容器と同じく艶消しである。)との差異は必ずしも顕著とはいえず、むしろ他の色と比べると、金色と銀色はいずれも光沢感があり、かつ高級感を感じさせる同系統の色である上、いずれも艶消しであることからすると、キャップの色は類似しているといい得る。
 容器本体に描かれている絵柄についても、原告ら商品も被告商品1もマスカラであるから、マスカラを塗ったことによってまつ毛が長くなるという点こそが重要であって、眉の有無は必ずしも重要なものではないところ、両者の絵柄を対比すると、いずれも右目を閉じてウィンクしているような絵柄であり、まつ毛の長さを強調し印象付ける絵柄になっているという点では似たような印象をもたらすものといえる。
 そうすると、結局、イ号1容器は、原告ら容器の特徴点A及び同Bをいずれも具備していると認められる。他方、イ号1容器と原告ら容器には、前記イのとおり、容器本体の文字及びその色並びに絵柄の色及びその位置において相違点があるものの、イ号1容器の文字は他の文字と同色で灰色に近い暗めの色で控えめに付されているにすぎず、これによる識別力は高いものとはいえない。また、絵柄の位置や色に至っては微細な差異というほかないことからすれば、これらの相違点が需要者に対して前記一致点等による印象を打ち消すに足りるものとは到底いえない。」
3 被告商品は原告ら商品と混同のおそれがあるか。
 「原告ら商品と被告商品1は、いずれも同じ用法により同じ効果を奏するマスカラであるところ、前記1(2)及び(4)において判示したとおり、原告ら容器は、原告ら容器の特徴点A及び同Bにおいて他の商品とは異なる独自の特徴を有するものであり、またかかる特徴点において周知性を獲得していること、前記2(1)において判示したとおり、イ号1容器は原告ら容器の各特徴点をいずれも具備し、これと類似すること、原告ら商品は原告ら包装に包容されて販売されているところ、前記1(3)及び(4)において判示したとおり、原告ら包装は原告ら包装の特徴点A及び同Bにおいて他の商品包装とは異なる独自の特徴を有するものであり、またかかる特徴点において周知性を獲得していること、前記3において判示したとおり、被告商品1が包容されているロ号包装は、原告ら包装の各特徴点と類似する構成を具備し、これと類似すること、証拠(甲8)によれば、原告ら商品は薬局(ドラッグストア)においても販売されていると認められるところ、証拠(甲16の1・2、17の1~4、18、47、48の1・2、49の1・2、50の1・2、51の1・2、66)及び弁論の全趣旨によれば、被告商品1が薬局で販売されており、また原告ら商品と並べて販売されている店舗もあること、販売価格も原告ら商品の販売価格である1500円(原告ら商品表示目録2の台紙に記載。)と大きく異ならない980円であること、以上によれば、被告商品1に接した需要者は、これを原告ら商品と混同するおそれがあるというべきである。」

【検討】
 他人の商品の形態を模倣した商品を譲渡等する行為は不正競争防止法2条1項3号により規制される。しかし、同号における規制では、被告が原告の商品と実質同一の商品を譲渡等したこと(不正競争防止法2条1項3号)、及び最初に販売された日から3年を経過していないこと(不正競争防止法19条1項5号イ)等が要件とされるため、同号による保護のみでは、必ずしも商品形態の十分な保護とは言えない。
 そこで、不正競争防止法2条1項1号により商品の形態を保護できるかが問題となる。
 この点について、不正競争防止2条1項1号は、保護をうける商品等表示の具体例として、「容器、包装」を列挙しており、学説も商品形態を同号により保護できるとするものが多数である。
 不正競争2条1項1号の要件は、①原告の商品等表示が(特定商品表示性)、②需用者の間に広く認識されていること(周知性)、③被告が①の商品等表示と同一又は類似の表示を使用し又は使用した商品等を譲渡していること(類似性)、④①が原告の商品又は営業と混同を生じさせるおそれがあること(混同)である。
 商品の形態が問題となった裁判例を見ると、商品の形態が技術的形態である場合には商品等表示にあたらないとされる(東京地判平成12年10月31日平成9(ワ)12191〔MAGIC CUBE〕東京地判平成17年2月15日判時1891号147頁〔マンホール用ステップ〕、大阪地判平成23年10月3日平成22(ワ)9684〔水切りざる〕)。また、周知性、類似性、混同の各要件も通常の出所識別標章を対象とした1号事案と同様に必要となる。たとえば、周知性では、商品の形態がそれが特定の者の商品であることを示す表示であると需用者の間で広く認識される必要があるとされ(大阪地判平成20年10月14日判時2048号91頁〔マスカラ容器〕等)。
 このように、不正競争防止法2条1項1号にて形態模倣の保護を要求するにはハードルが高いといえる(不正競争防止法2条1項1号にて形態模倣の保護を求めた原告の請求を否定した例として、東京地判平8年12月25日知裁集28巻4号821頁[ドラゴン・ソード]、東京地判平成12年10月31日平成9(ワ)12191〔MAGIC CUBE〕東京地判平成17年2月15日判時1891号147頁〔マンホール用ステップ〕、大阪地判平成23年10月3日平成22(ワ)9684〔水切りざる〕、東京地判平成26年10月17日平成25(ワ)22468〔フランクフェイス〕等多数ある)。
 本件は、マスカラ容器の形態が不正競争防止法2条1項1号により保護されるかが争われた事例であり、これについて裁判所は、商品等表示性、周知性、類似性、混同のおそれの各要件を具備していると認め、不正競争防止法2条1項1号による商品の形態保護を肯定した。
 本件は、保護のハードルが高いとされる同号による商品形態の保護を肯定した事例として特徴を有するといえる。

以上
(文責)弁理士・弁護士 高橋 正憲