和解とは,当事者が互いに譲歩をしてその間に存する争いをやめることです。
和解には,裁判上の和解と裁判外の和解(民695条)とがあり,裁判上の和解には,訴え提起前の和解(民訴275条)と訴訟上の和解があります。
ここでは,特許権侵害訴訟が係属している場合における訴訟上の和解について述べます。

裁判上の和解は,裁判所が原被告双方に和解勧告をすることにより行われます。
裁判所は,訴訟がいかなる程度にあるかを問わず,和解を試みることができますが(民訴89条),実務上,特許権侵害訴訟においては,侵害論の終了段階又は弁論終結前後が多くなっています。
具体的には,裁判所の心証(端的にいうと「侵害か非侵害か」)を原被告に開示した上で,書面により又は口頭で,その心証が反映された和解案が示されることが多いのです。

裁判上の和解のメリットとしては,一般に,時間・費用の節約,任意履行への期待,柔軟な解決ということが挙げられますが,特許権侵害訴訟においては,以下のことが挙げられます。
これらのメリットがあるため,知財訴訟の約37%が和解で終了しています(平成26~27年の東京地裁・大阪地裁のデータ)。

原告勝訴が予想される場合-原告のメリット

  • 控訴による引き延ばし,逆転(特に,新証拠での特許無効による逆転)がない。
  • 被告の履行可能性が判決の場合より高い。
  • 単なる差止めではなく,被告の将来の設計変更等についても手当することができる。

原告勝訴が予想される場合-被告のメリット

  • 損害賠償額が判決の場合より低額となる。
  • 敗訴判決が公にならない(和解内容を秘密とすることができる。)。
  • 別件特許や対応外国特許に基づく訴訟も和解内容に含ませることにより,原被告間の紛争の包括的な解決が可能となる。

原告敗訴が予想される場合-原告のメリット

  • 敗訴判決が公にならない(和解内容を秘密とすることができる。)。
  • 場合によっては,無効審判の取下げによる権利維持が可能である。

原告敗訴が予想される場合-被告のメリット

  • 控訴による引き延ばし,逆転がない。

和解案を原被告双方が検討した上で,最終的に裁判所が和解調書を作成します。
和解調書は確定判決と同一の効力を有します(民訴267条)。

和解条項のイメージを示します。

この案では、係争中の特許権だけでなく、優先権主張の基礎出願を同一とするファミリーについても不行使条項を設けることで、被告にとっては紛争の全面的な解決を得ることができ、他方、原告も、無効審判の取り下げにより当面の権利維持が図れる内容となっていることが分かります。