勝訴の可能性の点では訴訟をやってみる価値があっても,それだけでは訴訟をやる,という判断はできません。 次のような訴訟のデメリットも考慮しなければならないからです。
1.侵害者特許による反撃の可能性
御社が実施企業(実際に物づくりを行っている企業)である場合,御社の製品が侵害者が保有する特許を侵害していないかを検討する必要があります。 侵害者がコンペティターである場合,御社製品が侵害者の特許を侵害していることも十分に想定されますし,この場合,「寝た子を起こす」ようなことになってしまいます。 1件の特許で攻撃して,10件の特許により反撃されたら,軽率に訴訟を提起したばかりに,巨額の損害賠償や,極めて不利なクロスライセンス契約にて和解という結果になりかねませんし,なによりも,知財担当者としての責任問題になります。
したがって,まず,侵害者の特許ポートフォリオの精査が必要です。そして,洗い出した侵害者の特許について,御社製品の侵害の有無を判断しなければなりません。 詳しくは,【特許調査をしたら危ない特許が】
2.費用
弁護士費用,訴訟印紙代,社内労力等の負担は小さくありません。 訴訟をしたばかりに,そちらに社内の労力をとられてしまい,特許出願や知財のマネジメントなど本来行うべき業務に注力ができなくなった,という声はよく聞かれます。 なお,弁護士費用等の外部コストに関して詳しくは,【気になる費用はどのくらい?】
3.時間
特許侵害訴訟にかかる期間は,以前より短くなりました。 それでも,東京地裁における第1審判決までの平均審理期間は14~15月となっています(平成22~27年データ)。 判決によって終了するもののうち,約7割は請求棄却によって終了しているのですから(http://www.ip.courts.go.jp/vcms_lf/tokyo_toukei.pdf),侵害論(文言該当性),無効論を経た上で,別途損害論を行う請求認容の審理期間は,一概には言えませんが,これよりも相当長くなると言ってよいでしょうし,もし,相手方が控訴,上告したら,数年がかりになりかねません。 詳しくは,【訴訟の進行ペースは?】
4.不安定な法的状態
御社が勝訴の可能性が十分にあると踏んで訴訟を提起したとしても,判決はどっちに転ぶか分からないのが現実です。 このように,法的に白黒はっきりしない状態が続くこと自体が,デメリットといえます。 例えば,このように法的に不安定な状況できちんとした事業計画が書けるでしょうか。 事業部には,訴訟とはこのようなものであるということを十分に理解していただくことが必要になります。
5.評判の低下
業界最大手の企業が下位企業に提訴する場合,大手企業が中小企業に提訴する場合は,弱い者いじめ,とも捉えられかねないことがあります。また,中小企業を提訴する場合には,差止めによってその企業を市場を排除するという目的であればともかく,損害賠償についてはそもそも支払う体力があるかという問題もあります。下手をすれば,せっかく訴訟費用をかけたのに回収できず,費用倒れということにもなりかねません。 それでなくても,「あの会社は法的手段に訴える会社」として危険分子扱いされるリスクもあります。 十分に関係各所とコンセンサスをとることが必要です。
これらのような訴訟のデメリットを考慮した上で,いざ訴訟ということになるのです。
USLFでは,このような諸事情を加味し,訴訟という決断をすべきかどうかについてのご相談に応じます。お気軽にご相談ください。