【平成17年2月21日(東京地裁平成16年(ワ)第12723号)
(控訴審:知財高裁平成17年11月10日・平成17(ネ)10088号)】

【キーワード】
不正競争防止法2条1項3号,形態模倣,商品形態,デザイン,模倣,実質的同一性,取り外し,機能,アパレル,衣服,被服,衣類,衣料品,服飾

第1 事案の概要
本件は,原告が,下記各写真左側の原告商品1ないし3の形態を被告が模倣したとして,不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項3号,3条,及び4条の基づき下記各写真右側の被告商品1ないし3の販売行為の差止,並びに損害賠償等を求めた事案である。




最高裁判所HPより引用

第2 判旨(下線は筆者による)
 1 原告商品1と被告商品1の実質的同一性
  「証拠(甲3,6,検甲1)及び弁論の全趣旨によれば,原告商品1の特徴的な点は,襟,袖ぐり,裾の各形態を含む全体のシルエット及び生地の風合いにあると認められる。
 そこで,原告商品1と被告商品1とを対比すると,原告商品1及び被告商品1は,①ノースリーブのワンピースである点,②襟が首の後ろ部分でリボンを結ぶことができるロールネックである点,③前身頃の左脇ウエスト位置から裾にかけて,下部が丸みを帯びたスリットになっている切替部分がある点,④光沢のある2枚重ねの生地で,表地がやや透ける素材となっている点,⑥裾が,全体的にややフレア状になっており,後身頃の裾は,その中心部分が両脇部分よりもやや長くなっている点において共通しており,一見すると類似した印象を与えないではない。
 しかしながら,他方,原告商品1は,袖ぐりが,肩の大きく出る(肩山部分がほとんどない)アメリカンスリーブと呼ばれるものであるのに対し,被告商品1の袖ぐりは,肩が隠れる(肩山の幅が襟ぐりから腕の付け根辺りまである)ものである点において相違がある。また,原告商品1は,両脚の腿辺りの位置から下方に向かって絞られた,マーメイドラインと呼ばれるシルエットであるのに対し,被告商品1は,両脚の腿辺りの位置から下方に向かって絞られていない,Aラインと呼ばれるシルエットである点で相違している。
 そして,原告商品1や被告商品1のようなノースリーブのワンピースを着用する比較的若い女性の需要者やこれら商品の専門的取引者が,形態上の相違を十分に吟味検討した上で,当該商品の購入・取引に至ることを考慮すると,上記の相違点は,共通点に比して数は多くないものの,与える印象を大きく左右するものであると考えられる。すなわち,袖ぐりについては,肩が大きく出るものであるか,肩が隠れるものであるかによって,着用する下着の形態が異なってくるほか,肌の露出度合の観点での印象が大きく異なるのであって,商品購入の際の重要な考慮要素となる形態の相違である。また,マーメイドラインと呼ばれるシルエットであるか,Aラインと呼ばれるシルエットであるかについても,マーメイドラインでは,着用した女性の腰や脚のラインが強調されるのに対し,Aラインでは,腰や脚の部分にゆとりがあり,身体のラインが強調されないという相違があり,着用時の全体的な印象が大きく左右されることから,前記同様に商品購入の際の重要な考慮要素となる形態の相違である。
 そうすると,以上のような需要者・取引者に大きな印象を与える相違点が存する原告商品1と被告商品1とが,実質的に同一であると認めることはできない。」

 2 原告商品2と被告商品2の実質的同一性
  「アで認定した事実によれば,原告商品2及び被告商品2の形態は,前身頃がドレープ仕様となったラッパ状の長袖のブラウスとして共通するものの,後身頃側の襟ぐり,袖,襟ぐり辺りにおいて表地から透けて見える裏地,両身頃の肩山部分の各形態,前身頃肩山部分のタックの有無の点において,いずれも相違している。これらの相違点が需要者・取引者に与える印象は大きく,とりわけ,袖部分の袖山及び肘から先の形態の相違により,需要者・取引者は,原告商品2及び被告商品2を一見して明瞭に区別することができるものと認められる。
 このような,需要者・取引者に大きな印象を与える相違点が存する原告商品2と被告商品2とは,実質的に同一であるということはできない。
 なお,原告は,被告商品2は,原告商品2の袖の取外し機能を模倣している旨主張するが,不正競争防止法2条1項3号の「商品の形態」とは,物の外観の態様であり,外観の態様に影響しない機能を含むものではないと解されるから,原告の主張を採用することはできない。」

3 原告商品3と被告商品3の実質的同一性
  「証拠(甲5,8,検甲5)及び弁論の全趣旨によれば,原告商品3の特徴的な点は,パンツのフレア状のスリット部分及びパレオにあると認められる。
そこで,原告商品3と被告商品3とを対比すると,原告商品3及び被告商品3は,パンツのフレア状のスリット部分の形態が共通しているが,パレオの形態において相違している。そして,パレオ付パンツの需要者・取引者にとって,パレオの形態は,商品から受ける印象において大きな部分を占めるものと解されるところ,被告商品3のパレオの形態は,上記のとおり,帯状でフレア状の裾部分が継ぎ足された点で,原告商品3に見られない特徴を有するものである。そうすると,パレオの形態の相違は,原告商品3及び被告商品3について,相当異なった印象を需要者・取引者に与えるものであるということができる。
 そうすると,このような大きな印象を与える相違点が存する原告商品3と被告商品3とが,実質的に同一であると認めることはできない。
 なお,原告は,被告商品3は,原告商品3のパレオの取外し機能を模倣している旨主張するが,不正競争防止法2条1項3号の「商品の形態」とは,前記のとおり,物の外観の態様であり,外観の態様に影響しない機能を含むものではないと解されるから,原告の主張を採用することはできない。」

第3 控訴審の判旨(下線は筆者による)
 「控訴人は,原審において,原告商品2,3が有する機能そのものが保護を受けるべきであると主張したものではなく,機能を実現するための形態上の特徴を主張したのに,原判決は,その主張の趣旨を誤った,と主張するとともに,原告商品2の袖が取り外し可能な形態となっていることや,原告商品3のパレオが取り外し可能な形態となっていることに関する原判決の判断を非難する。
 しかし,控訴人(原告)の原審における主張は,「『取り外し式のパレオ』が付くという点が,デザインの大きな機能的な特徴である。被告は,この機能(原告のアイデア)を,完全に,模倣しているものである。」とするなど(原告準備書面(2)2頁),「商品の形態模倣」として,「機能の模倣」を主張していたとしか解されない。したがって,原判決の原告の主張の摘示に誤りはなく,原判決は,その主張に対する判示として,「外観の態様に影響しない機能」は「商品の形態」に含まれないとの判断を示したものであるから,控訴人が主張するような誤りはない。
 なお,控訴人が主張するように,袖やパレオが取り外し可能となっていることに起因する商品の形態上の特徴を検討しても,実質的同一性についての前判示の認定判断を変更すべきものとはいえない。」

第4 若干のコメント
 本件の地裁判決は,実質的同一性の判断において,原被告商品の相違点にかかる形態が,需要者及び取引者が商品購入の際に重要な考慮要素となるかどうかを詳細に検討している(控訴審判決も,同様の検討を行っている。)。例えば,原告商品1については,袖ぐりにおける肩の出具合は,着用する下着の形態や,肌の露出度合の観点で印象が大きくことなるために,重要な考慮要素である等と判示されている。かかる判断方法は,実質的同一性判断における手法として実務上参考になろう。なお,実質的同一性を需要者又は創作者(改変者)いずれの視点で判断するかという問題 1があるところ,本判決は「購入の際の重要な考慮要素」等を検討していることからすると,需要者の視点に立った判断をしているものと思われる。
 つぎに,本件の地裁判決及び控訴審判決は,「商品形態」(不競法2条1項1号)における「取り外し可能」という機能の取扱いを示した点でも重要である。すなわち,地裁判決は取り外し機能の模倣について「不正競争防止法2条1項3号の「商品の形態」とは,物の外観の態様であり,外観の態様に影響しない機能を含むものではない」と判示している。また,控訴審判決は,更に進んで「袖やパレオが取り外し可能となっていることに起因する商品の形態上の特徴」は「商品の形態」として保護され得ることを示唆している。取り外し機能を有しており「●●way」等を謳う衣服は少なからず存在するところ,特に本件の控訴審判決は,そのような商品の形態保護に関して非常に参考になるといえるだろう。

1
当該問題については,田村善之「商品形態のデッド・コピー規制の動向 ―制度趣旨からみた法改正と裁判例の評価―」(知的財産法政策学研究第25号・2009年),及び蘭々「商品形態の実質的同一性判断における評価基準の構築 ―近時の裁判例を素材として―」(知的財産法政策学研究第25号・2009年)において詳細な検討がなされている。M/dd>

(文責)弁護士 山本 真祐子

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