【平成19年12月26日[針付バイブレーター] 東京地判平成18年(ワ)第27454号 裁判所ウェブサイト】

【ポイント】
原告の商品形態を模倣した被告に対し、原告が不正競争2号1項1号に基づいて被告の当該商品について差止請求、損害賠償請求がなされことについて、原告の請求が肯定された事例

【キーワード】
商品形態、不正競争防止法2条1項1号、形態模倣、類似性、特定商品等表示性、混同

【事案の概要】
 本件は、原告が、被告らに対し、原告が製造販売する家庭用医療機器である針付きバイブレーター (以下、「原告製品」という。)の本体の形態が原告の商品等表示として需要者の間に広く認識されているところ、被告製品の本体の形態がこれに類似し、原告製品と混同するおそれがあり、原告の営業上の利益が侵害されると主張して、不正競争防止法2条1項1号、3条に基づき、被告製品の製造、販売等の差止め、並びに在庫品及び半製品の本体の廃棄並びに金型の廃棄を求めるとともに、同法4条に基づく損害賠償金(一部請求)の支払を求めた事案である。

【争点】
 原告製品の商品の形態は、不正競争2条1項1号により保護されるか。

【結論】
 原告製品の商品の形態は、不正競争2条1項1号により保護される。

【判旨抜粋】
1 商品等表示について
 「 (ウ) これらの事実によれば、原告製品の本体の形態の特徴は、正面から見ると、立体的な形状となっているのに対し、背面は平面的な形状となっており、立体的形状と平面的形状とを混合させたデザインとなっている点、バイブ部分は丸みのある箱形の形状であり、側面に長方形の盛り上がり部分が設けられている点、グリップ部分の正面の下端には楕円状の突起がある点、ホルダー部分と針セット部分の長さは比較的長く、バイブ部分から針セット部分の先端に向かって徐々に直径が小さくなる山型形状となっている点、並びに全体がクリーム色の合成樹脂製のカバーで覆われている点を組み合わせた具体的構成態様にあると認められる。
   (エ) 被告らは、原告製品の本体の形態は「針付バイブレータ」の機能を発揮するために必然的、不可避的に採用せざるを得ない形態又はありふれた形態であり、商品等表示に該当しない旨主張する。
 確かに、針付バイブレータとしての機能を考慮すると、原告製品の本体の形態のうち、バイブ部分とグリップ部分が一体的に形成され、バイブ部分からホルダー部分及び針セット部分が正面に向かって直角に突き出た形状であるとの基本的形状については、被告らの主張のとおりであると認められる。
 しかしながら、上記(ウ)で指摘した具体的構成態様が機能的に必然の形態であるとか、ありふれた形態であると認めるに足りる証拠はないから、被告らの上記主張は理由がない。」

2 周知性について
「(ア) 原告製品の製造販売
  a 前提事実(3)イのとおり、原告は、平成3年、原告製品1の製造販売を開始し、平成10年、原告製品1のコントローラー部分等を改良した原告製品2の製造販売を開始し、原告製品を15年以上販売している。
  b 弁論の全趣旨によれば、原告製品の平成3年から平成17年までの販売数は、合計約13万台であることが認められる。
 (イ) チラシの配布
  a 前提事実(3)ウのとおり、原告は、全国各地の販売代理店において、「体験会」を実施し、「体験会」の宣伝を、朝日新聞、読売新聞等の全国紙や地方紙に原告製品の写真を載せたチラシを折り込む方法で行っている。
  b(a) 証拠(甲43、44)及び弁論の全趣旨によれば、原告の販売代理店の一つである株式会社ニッシン(以下「ニッシン」という。)が平成15年5月から平成17年10月までの期間において配布したチラシは、合計1億0224万6548枚であること、そのチラシ1枚の費用は5.9円(消費税を除く。)であること、同期間におけるニッシンによる原告製品2の販売台数は7803台であることが認められる。
   (b) このチラシ効率を原告のこれまでの販売総数13万台に単純に乗すれば、これまで約17億枚の宣伝チラシが配布され、上記5.9円を乗ずれば、その費用額は100億円を超える計算となる。
 1億0224万6548枚÷7803台×13万台=17億0345万3958枚
 5.9円×17億枚=100億3000万円
   (c) 他の販売代理店はニッシンよりはチラシの配布数が少ない可能性があるが、安全率を見込んで上記の金額からある程度減額した金額は、これまで原告の販売代理店が積み重ねてきた宣伝チラシ代を示すものと認められる。
 (ウ) 雑誌等での紹介
 原告製品の発売以来、原告製品の紹介記事は、「サンデー毎日」、「週刊読売」、「週刊朝日」などの全国で発売される雑誌に、69回掲載されたこと(甲10~42)、及びこれらの雑誌等の紹介記事には、原告製品の写真が掲載されていることは、当事者間に争いがない。
 また、その記事の内容からすると(甲10~42)、これらの記事は、原告が出版社に費用を払って掲載を依頼した記事の体裁を採った広告であることが認められる。
 これらの掲載数から計算すると、平成14年から平成17年にかけての掲載回数は、年平均6.2回である。
 (エ) テレビ番組での紹介
 原告製品は、平成7年9月25日放送の「おもいっきりテレビ」の中で紹介されたことは、当事者間に争いがない。」
「 (2) 判断
  ア 以上に説示の事実によれば、原告製品の本体の形態は、遅くとも被告製品の販売が開始された平成18年6月までに、周知の商品等表示になっていたことが認められる。
  イ これに反する被告らの主張は、原告製品が医療機器である針付バイブレータであり、その需要者が老人などの一定範囲の者に限られることを無視するものであり、到底採用することができない。」

3 形態の類似性について
  「前記2のとおり、原告製品の本体と被告製品の本体は、形態が類似している。」

4 混同について
 「(2) 混同を増大させる要因
  ア パッケージの同一性
  (ア) 前提事実(2)イ(ア)のとおり、原告製品も被告製品も、アタッシュケース内に格納されており、パッケージ方法が同じである。
 弁論の全趣旨によれば、アタッシュケース型パッケージは、家庭用マッサージ器などにおいてよく採用される収納方法であることが認められる。
  (イ)a 各アタッシュケースの寸法及び色、取っ手等の色等、並びにアタッシュケース前面の右下のシールプレートの表示の事実(前記第2、3(3)(原告の主張)イ(ア)c(b)~(d))は、被告らにおいて明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。
  b 被告製品のアタッシュケースでは、ホコリの侵入を防止するなどのために、本体部分に印籠蓋加工を施していることは、原告において明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。
  c また、被告らは、被告製品の2箇所の留め金とケースの取っ手は、既成の鞄材料から上質のものを選定している旨主張する。確かに、証拠(甲48の6)によれば、その点が窺われないではないが、外観上の差はさほどないといわなければならない。
  d これらの事実によれば、原告製品のアタッシュケースと被告製品のアタッシュケースとは、寸法、色及び形が類似していると認められる。
  (ウ)a 原告製品も被告製品も、箱の左側に黒色(ただし、原告製品1は橙色)のコントローラーが箱に固定されて設置され、コントローラーとコードで結ばれた本体が右側に格納されていること、及び蓋の裏側及び右側の本体の格納部分には、いずれもグレーの波状スポンジが機器の損傷防止クッションとして敷き詰められていることは、被告らにおいて明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。
  b ただし、証拠(甲48の7~10)によれば、原告製品1及び被告製品のコントローラーは、箱の左側上部に設置されているが、原告製品2では、箱の左側全体に設置されていることが認められる。
  (エ)a 原告製品も被告製品も、コントローラーには、白地の電流計、0~100まで10単位での目盛が表示された出力調整つまみ、「連続」動作と「断続」動作の切り替えスイッチ、及び電源スイッチが設けられていることは、原告において明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。
  b 被告製品のコントローラーは、原告製品とは異なり、電流メーターの直下にボリュームコントロールツマミが配置され、電源スイッチ自体が通電状態を表示するネオンランプ内蔵のものが使用され、連続/断続スイッチもセレクタ・スイッチが採用されていること(原告製品ではトグル・スイッチある。)は、原告において明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。
  (オ) 以上に説示の事実によれば、被告主張の相違点は微差というべきものであり、原告製品のアタッシュケースと被告製品のアタッシュケースとは、外観、内部の配置とも類似していると認められる。
  イ 販売方法及び販売場所の同一性
  (ア) 原告の販売方法
 前提事実(3)ウのとおり、原告は、原告の販売代理店によって、「体験会」を実施し、この体験を通じて原告製品を販売し、事前にチラシを配布するなどして、「体験会」の実施を宣伝している
  (イ) 被告らの販売方法
  a 被告クリエイト及び被告アメックは、自ら又は販売代理店によって公共の施設等を使用して「体験会」などを実施し、この体験を通じて被告製品を販売していること、及び体験会の開催は事前にチラシを配布するなどして宣伝していることは、当事者間に争いがない(被告晃栄らとの関係では、明らかに争わない。)。
  b 被告らは、被告らの販売方法は体験会方式に限られるものではなく、被告クリエイトは、家電量販店や百貨店の催事場での販売を推奨してきたし、被告アメックも、家庭への訪問販売やデパート、呉服店等の販路を開拓している旨主張する。
 証拠(乙33)及び弁論の全趣旨によれば、被告クリエイト及び被告アメックは、公共の施設等を使用しての体験会だけでなく、家電量販店や百貨店の催事場での販売を行っているが、その販売方法は、依然として体験会方式が多いこと、被告アメックにおいて、家庭への訪問販売を試みているが、さほど成果は上がっていないことが認められる。
  ウ 宣伝チラシの類似性
 証拠(甲55、58、59、62、64)によれば、被告アメックが使用する宣伝チラシ(甲55)及び被告クリエイトの販売代理店らが使用する宣伝チラシ(甲58、59)に掲載されている内容は、以前それらの販売代理店が原告製品を販売していた当時に使用していたチラシ(甲62、64)の掲載内容の一部をそのまま使用し、原告製品に関する記事内容及び原告製品の写真によって被告製品の宣伝をしていること、並びに宣伝チラシ(甲58、59)は、「針+圧+振」という原告製品を想起させる文言を用いていることが認められる。
  エ マニュアル冊子の同一性
  (ア)原告は、平成4年より、原告製品の販売の際に、「皮膚刺激療法の参考治療点」(甲65。監修 東洋医学研究会、発行所 株式会社大企画 出版部)というマニュアル冊子を配布又は販売してきたことは、当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば、同冊子は、原告が制作を企画したものであることが認められる。
  (イ) 被告らが上記冊子と同一内容の冊子)甲68。ただし、監修者と発行所の表示はない。)を製作し、被告製品に添付して配布したことは、当事者間に争いがない。
 証拠(乙15)及び弁論の全趣旨によれば、被告クリエイトは、現在では、甲68の冊子の配布は取り止め、別の冊子(乙15)を作成して配布していることが認められる。
  オ 使用説明マニュアル中の原告製品の写真の使用
 証拠(甲69)及び弁論の全趣旨によれば、被告クリエイトの販売代理店の一部が作成し、被告製品に同梱されている「楽らく針の使い方」と題する使用説明マニュアル(甲69)には、原告製品の写真が使用されていることが認められる。
 その体裁から、被告クリエイトがその作成に関わったとまで認定することはできない。
 (3) 混同を減少させる要因
  ア 価格
  (ア) 原告製品の価格は25万円以上、被告製品の価格は20万円程度と高価であることは、当事者間に争いがない。
 価格が高額であればあるほど、一般消費者は、製品の違いをよく吟味するものと認められる。
  (イ) 被告らは、家庭用医療機器という商品の性質上、一般消費者は商品の形態よりも、効能に着目して購入する旨主張する。
 確かに、家庭用医療機器という商品の性質上、一般消費者は効能に着目して購入するものと考えられるが、商品の形態又は商品のデザインも、商品の選択の際に一定の貢献をしているものと考えられる。
  イ 販売方法
  (ア) 社名、商品名の表示
 薬事法64条、63条、63条の2に従い、被告製品の本体、アタッシュケース及び添付文書(乙1の1~8)には、被告製品の商品名、製造会社である被告晃栄の名称等が大きく表示され、また、「晃栄電子 針付きバイブレータ 楽らく針 取扱説明書」(乙2)の末尾には、「保証とアフターサービス」のページがあり、「晃栄電子お客さまご相談窓口のご案内」として、被告晃栄の電話・ファックス番号が表示されていることは、当事者間に争いがない。
  (イ)体験会における説明
 被告らは、被告製品の体験会において、販売員は、製造元及び発売元の点を含め十分説明をした上で販売している旨主張するが、上記(2)ウないしオの宣伝チラシの類似性等の事実を考慮すると、上記被告らの主張事実を認めることはできない。
 (4) 判断
 上記に説示の事実によれば、原告製品の本体と被告製品の本体は、形態が類似しているものであり、混同を増大させる要因及び混同を減少させる要因を併せ考慮しても、需要者である一般消費者が被告製品を原告製品と混同を生じるおそれがあり、少なくとも被告製品の販売者が原告と緊密な営業上の関係がある者と誤信するおそれがあり、広義の混同を生じるおそれがあると認められる。
 そして、原告は、上記混同により、その営業上の利益を侵害されるものと認められる。
 これに反する被告らの主張は、採用することができない。」

5 結論 
 「よって、原告の差止め及び廃棄請求は、主文第1項から第3項までに記載の限度で理由があるから認容し、不正競争防止法4条に基づく損害賠償請求は、主文第4項に記載の限度で理由があるから認容し、その余を棄却し、仮執行宣言は、損害賠償請求に関する部分につき相当と認め、差止め及び廃棄請求の部分については付さないこととし、主文のとおり判決する。」

【検討】
 他人の商品の形態を模倣した商品を譲渡等する行為は不正競争防止法2条1項3号により規制される。しかし、同号における規制では、被告が原告の商品と実質同一の商品を譲渡等したこと(不正競争防止法2条1項3号)、及び最初に販売された日から3年を経過していないこと(不正競争防止法19条1項5号イ)等が要件とされるため、同号による保護のみでは、必ずしも商品形態の十分な保護とは言えない。
そこで、不正競争防止法2条1項1号により商品の形態を保護できるかが問題となる。
 この点について、不正競争防止2条1項1号は、保護をうける商品等表示の具体例として、「容器、包装」を列挙しており、学説も商品形態を同号により保護できるとするものが多数である。
 不正競争2条1項1号の要件は、①原告の商品等表示が(特定商品表示性)、②需用者の間に広く認識されていること(周知性)、③被告が①の商品等表示と同一又は類似の表示を使用し又は使用した商品等を譲渡していること(類似性)、④①が原告の商品又は営業と混同を生じさせるおそれがあること(混同)である。
 商品の形態が問題となった裁判例を見ると、商品の形態が技術的形態である場合には商品等表示にあたらないとされる(東京地判平成12年10月31日平成9(ワ)12191〔MAGIC CUBE〕東京地判平成17年2月15日判時1891号147頁〔マンホール用ステップ〕、大阪地判平成23年10月3日平成22(ワ)9684〔水切りざる〕)。また、周知性、類似性、混同の各要件も通常の出所識別標章を対象とした1号事案と同様に必要となる。たとえば、周知性では、商品の形態がそれが特定の者の商品であることを示す表示であると需用者の間で広く認識される必要があるとされる(大阪地判平成20年10月14日判時2048号91頁〔マスカラ容器〕等)。
 このように、不正競争防止法2条1項1号にて形態模倣の保護を要求するにはハードルが高いといえる(不正競争防止法2条1項1号にて形態模倣の保護を求めた原告の請求を否定した例として、東京地判平8 年12月25日知裁集28巻4 号821 頁[ドラゴン・ソード]、東京地判平成12年10月31日平成9(ワ)12191〔MAGIC CUBE〕東京地判平成17年2月15日判時1891号147頁〔マンホール用ステップ〕、大阪地判平成23年10月3日平成22(ワ)9684〔水切りざる〕、東京地判平成26年10月17日平成25(ワ)22468[フランクフェイス] 等多数ある)。
 本件は、商品等表示性について、被告から「原告製品の本体の形態は「針付バイブレータ」の機能を発揮するために必然的、不可避的に採用せざるを得ない形態又はありふれた形態であり、商品等表示に該当しない」旨の主張がされたが、裁判所は、「確かに、針付バイブレータとしての機能を考慮すると、原告製品の本体の形態のうち、バイブ部分とグリップ部分が一体的に形成され、バイブ部分からホルダー部分及び針セット部分が正面に向かって直角に突き出た形状であるとの基本的形状については、被告らの主張のとおりであると認められる。」「しかしながら、上記(ウ)で指摘した具体的構成態様が機能的に必然の形態であるとか、ありふれた形態であると認めるに足りる証拠はないから、被告らの上記主張は理由がない。」として、原告の商品形態の商品等表示性を肯定した。また、他の周知性、類似性、混同の各要件も肯定し、不正競争防止法2条1項1号での商品形態の保護を肯定した。
 本件は、機能的に必然の形態であるとか、ありふれた形態として特定商品等表示性が否定されず、不正競争防止法2条1項1号での商品形態の保護を肯定した事案として特徴を有するといえる。

以上
(文責)弁理士・弁護士 高橋 正憲