【平成29年(行ケ)第10207号(知財高裁H31・3・26)】

【ポイント】
 有名ブランドPUMAの図形商標に基づく無効判断において、本件商標(図形商標)とPUMAの図形商標を類似であると判断し、商標法第4条1項15号に該当すると判断した裁判例。

【キーワード】
商標法第4条1項15号、同項7号、同項11号、図形商標、混同を生ずるおそれ、PUMA

事案

 本件は、原告が、被告の保有する本件商標(登録539294号、指定商品:第25類・Tシャツ、帽子)に対し、原告が保有する引用商標(登録第4637003号、指定商品:第25類・被服、運動用特殊衣服等)に基づき、商標法4条1項15号違反等があるとして無効審判を請求し、無効審判で不成立と判断されたため、原告が当該審決に対し提起した審決取消訴訟である。

【本件商標】 【引用商標】
 

(各商標は、裁判所ウェブサイトから引用)

判旨(裁判所の判断)(*下線は筆者)

第5 当裁判所の判断
1 取消事由2(商標法4条1項15号該当性)について
 事案の性質に鑑み,取消事由2(商標法4条1項15号該当性)について,まず検討する。
(1) 本件商標の内容
ア 外観
 本件商標は,二つの耳がある頭部を有し,頭部と前足の間に間隔がなく,一部が丸まった大きな尻尾を有する四足動物が,右から左に向かって,跳び上がるように,頭部及び前足が後足より左上の位置になる形で,前足と後足を前後に大きく開いている様子を,側面から見た姿でシルエット風に描いた図形である。この図形の内側には,概ね輪郭線に沿って,白い線が配されているほか,口の辺りに歯のような模様,首の周りに飾りのようなギザギザの模様,前足と後足の関節部分や尻尾にも飾り又は巻き毛のような模様が,白い線で描かれている。この図形の内側には,これらの白い線よりも細い白い線で,花柄のような細かい模様が,全体に描かれている。尻尾は,全体として丸みを帯びた形状で,先端が尖っている
イ 観念
 本件商標から,四足動物を想起し得るが,直ちに特定の動物を想起し得るものではなく,何らかの四足動物という観念は生じるもののそれ以上に特定された観念は生じない
ウ 称呼
 本件商標から,四足動物を想起し得るが,直ちに特定の動物を想起し得るものではなく,特定の称呼は生じない
エ 被告の主張について
 被告は,沖縄の伝統的な獅子像である「シーサ」の観念を生じさせようとして本件商標を創造した旨主張する。
 「シーサ」は,「シーサー」を指すものと解されるところ,「シーサー」は,「獅子さん」の意味であり,沖縄で,瓦屋根等にとりつける素朴な焼き物の唐獅子像であって,魔除けの一種である(広辞苑第六版。甲5)。「シーサー」の形状には,様々なものがあり,概ねその特徴とされる点としては,たてがみや首飾り,剥き出した牙,渦巻くような毛並み,太くふっくらとした尻尾等があり,また,頭部が体全体に占める割合が相当大きく,目や口も大きく,その姿勢としては,上体を起こした状態で前足をついたものが多いが,四つん這いになったもの,前かがみのもの,後足だけで立ち上がったもの等,様々な形態があり,多くの場合には尻尾が上空に向かって炎のように逆立ち,その先端はすぼんでいる(甲6)。
 本件商標を上記の一般的な「シーサー」と比べると,首飾りのような模様,前足・後足の関節部分における飾り又は巻き毛のような模様,尻尾の全体的に丸みを帯びて先端が尖った形状等は,いずれも一般的な「シーサー」の特徴とされているところと一致する。しかし,本件商標は、頭部が体全体に占める割合が相当小さく,口に当たる位置にギザギザの白線の模様はあるが,目に当たる位置に目に見える記載はなく,四足動物が跳び上がるように前足と後足を大きく開いている姿勢は,「シーサー」の形態として一般的なものとはいえない
 そうすると,本件商標の図形が,四足動物を表現したものと看取することはできても,「シーサー」を表現したものと看取することは困難である
 したがって,本件商標から「シーサー」の観念が生じると認めることはできない

(2) 引用商標の内容
ア 外観
 引用商標は,二つの耳がある頭部を有し,頭部と前足の間に間隔があり,全体に細く,先端が若干丸みを帯びた形状となった,右上方に高くしなるように伸びた尻尾を有する四足動物が,右から左に向かって,跳び上がるように,頭部及び前足が後足より左上の位置になる形で,前足と後足を前後に大きく開いている様子を,側面から見た姿で黒いシルエットとして描いた図形である。
イ 観念
 引用商標は,平成15年1月17日に商標登録されたものであるところ,原告は,その登録以前から,Tシャツに引用商標と同様の形の図形を付した商品を販売しており(甲8の1),帽子を掲載したカタログの表紙に引用商標と同様の形を白抜きしてその内部に横線を配した図形を記載したり(甲8の3・5),Tシャツを掲載したカタログの表紙に引用商標と同様の形を白抜きにした図形を「PUmA」の文字の近辺に記載する(甲8の4)などしており,その登録後も,スポーツウェアや帽子に引用商標と同様の形の図形を付した商品を販売しており(甲9の1・3・4,甲31の1・3・4,甲32の1・3・4),それらの雑誌の広告には引用商標と同様の形の図形を「PUmA」の文字の近辺に記載する(甲9の1・4,甲31の1・3・4,甲32の1・3・4)などしており,これらに弁論の全趣旨を総合すると,引用商標は,本件商標の登録出願時(平成20年4月12日)及び登録査定時(平成23年1月11日)において原告の業務に係る「PUMA」ブランドの被服,帽子等を表示する商標の一つとして,我が国の取引者,需要者の間に広く認識されて周知著名な商標となっていたことが認められる
 したがって,引用商標からは「PUMA」ブランドの観念が生じる
ウ 称呼
 前記イのとおりであって,引用商標からは,「プーマ」の称呼が生じる

(3) 本件商標と引用商標の対比
ア 外観
(ア) 共通点
 本件商標と引用商標は,二つの耳がある頭部を有する四足動物が,右から左に向かって,跳び上がるように,頭部及び前足が後足より左上の位置になる形で,前足と後足を前後に大きく開いている様子を,側面から見た姿でシルエット風に描かれている点で共通する。
 そして,両商標の図形は,その向きや基本的姿勢のほか,跳躍の角度,前足・後足の縮め具合・伸ばし具合や角度,胸・背中から足にかけての曲線の描き方について,似通った印象を与える。
(イ) 差異点
 本件商標の図形の動物は,引用商標の図形の動物に比べて頭部が比較的大きく描かれており,頭部と前足の間に間隔がなく,前足と後足が比較的太く,尻尾が大きく,口の辺りに歯のような模様が白い線で描かれ,首の回りに飾りのようなギザギザの模様が,前足と後足の関節部分にも飾り又は巻き毛のような模様が,白い線で描かれ,尻尾は全体として丸みを帯びた形状で先端が尖っており,飾り又は巻き毛のような模様が白い線で描かれているほか,図形の内側に概ね輪郭線に沿って白い線が配されており,また,この図形の内側には,細い白い線で,花柄のような細かい模様が,全体に描かれている。
 これに対し,引用商標の図形の動物は,本件商標の図形の動物に比べて頭部が比較的小さく描かれており,頭部と前足の間に間隔があり,尻尾は全体に細く,右上方に高くしなるように伸び,その先端が若干丸みを帯びた形状となっており,図形の内側に模様のようなものは描かれず,全体的に黒いシルエットとして塗りつぶされている。
イ 観念
 本件商標からは,何らかの四足動物という観念が生じるのに対し,引用商標からは,「PUMA」ブランドの観念が生じる。
ウ 称呼
 本件商標からは,特定の称呼は生じないが,引用商標からは,「プーマ」の称呼が生じる。
エ 検討
(ア) 前記アのとおり,本件商標と引用商標は,そのシルエット,内部に白線による模様があるかなどにおいて異なるが,全体のシルエットは,似通っており本件商標において,内部の白い線の歯のような模様,首の回りの飾りのような模様,前足と後足の関節部分の飾り又は巻き毛のような模様及び概ね輪郭線に沿って配されている白い線がシルエット全体に占める面積は,比較的小さく,細い白い線の花柄のような細かい模様は,それほど目立たないものである。
 したがって,本件商標と引用商標との間に外観上の差異は認められるものの,外観全体の印象は,相当似通ったものであるということができる
 また,前記イ及びウのとおり,本件商標と引用商標は,本件商標からは何らかの四足動物の観念が生じ,特定の称呼は生じないが,引用商標からは,「PUMA」ブランドの観念と「プーマ」の称呼が生じる点で異なっているところ,本件商標から何らかの四足動物以上に特定された観念や,特定の称呼が生じ,それが引用商標の観念,称呼と類似していない場合と比較して,その違いがより明確であるということはできない
(イ) 前記(2)イのとおり,引用商標は,原告の業務に係る「PUMA」ブランドの被服,帽子等を表示する商標として,我が国の取引者,需要者の間に広く認識されて周知著名な商標となっていたものである。
 また,本件商標は,「Tシャツ,帽子」を指定商品とするところ,前記(2)イのとおり,「PUMA」ブランドの商品としても,Tシャツ,帽子が存在し,引用商標と同様の形の図形を付した商品も存在していたのであるから,本件商標の指定商品は,原告の業務に係る商品と,その性質,用途,目的において関連するということができ,取引者,需要者にも共通性が認められる
 さらに,本件商標の指定商品である「Tシャツ,帽子」は,一般消費者によって購入される商品である。
(ウ) これらの事情を総合考慮すると,本件商標の指定商品たるTシャツ,帽子の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として本件商標を指定商品に使用したときに,当該商品が原告又は原告と一定の緊密な営業上の関係若しくは原告と同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品であると誤信されるおそれがあると認められる
 したがって,本件商標には,商標法4条1項15号にいう「混同を生ずるおそれ」があるといえる

2 結論
 以上によると,本件商標の登録は,商標法4条1項15号に違反するから,取消事由2には理由があり,その余の点を判断するまでもなく,本件審決は取り消されるべきである。

検討

 本判決は、商標法4条1項15号の該当性のみを判断し、それに該当する判断した。
 ここで、商標法4条1項15号の「混同を生ずるおそれ」の有無は、「①当該商標と他人の表示との類似性の程度、②他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や、③当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断されるべきである」とされる(最判平12年7月11日 平成10年(行ヒ)85 民集54巻6号1848頁、裁判集民事198号397頁「レールデュタン事件」)。
 本判決も上記各要素を考慮して、結論を出している。具体的には、まず、上記①(類似性の程度)の要素について、本件商標と引用商標の外観、観念、称呼を総合的に判断している。両商標の外観については、全体的なシルエットは似ており、引用商標とは違い本件商標は、「内部の白い線の歯のような模様,首の回りの飾りのような模様,前足と後足の関節部分の飾り又は巻き毛のような模様及び概ね輪郭線に沿って配されている白い線」を有しているが、それらの占める面積が比較的小さいことや、本件商標の花柄の細かい模様はあまり目立たないことから、外観上の差異は大きく影響しないと考え、「外観全体の印象は,相当似通ったものである」と判断している。
 また、観念と呼称については、本件商標は、四足動物の観念が生じ,特定の称呼は生じない、他方で、引用商標は,「PUMA」ブランドの観念と「プーマ」の称呼が生じると認定し、それらに相違があることに触れつつも、「それが引用商標の観念,称呼と類似していない場合と比較して,その違いがより明確であるということはできない」と判断した。
 次に、上記③(関連性の程度、取引者及び需要者の共通性、その他の取引の実情等)の要素について、本判決は、「本件商標の指定商品は,原告の業務に係る商品と,その性質,用途,目的において関連する」(関連性の程度)、「取引者,需要者にも共通性が認められる」(取引者及び需要者の共通性)、「引用商標は,原告の業務に係る「PUMA」ブランドの被服,帽子等を表示する商標として,我が国の取引者,需要者の間に広く認識されて周知著名な商標となっていた」(その他の取引の実情)等と認定した。
 そして、結論として、本判決は、上記各要素を総合考慮して、本件商標には,商標法4条1項15号にいう「混同を生ずるおそれ」があると判断し、本号に該当すると結論付けている。
 なお、審決(特許庁)では、本件商標と引用商標の類似性について、各部の相違や図柄の有無を重視して、両商標には顕著な相違があるとして、外観の相違を認定し、また、観念及び称呼についても相違があると認定した。そして、結論として、両商標は非類似なので、本件商標は商標法4条1項15号に該当しないと判断した。このように、知財高裁と特許庁で判断が分かれたのは、知財高裁は、両商標の外観を純粋に比較すれば類似していないと思う需要者も多いと思われる中で、引用商標(PUMAブランド)が周知著名な商標であることや商品の関連性、需要者の共通性等の取引の実情を重視したのに対し、特許庁は本件商標と引用商標の類似性を重視した点にあると考えられる。

以上
(文責)弁護士 山崎臨在