【東京地裁平成31年1月31日判決(平成29年(ワ)第4106号) 商標権侵害差止等請求事件】

【要約】
 文字部分がイタリア語の単語「OGGETTI」である原告商標に対し、文字部分が「Oggetti」のみである被告標章について類似性を肯定し、文字部分が「Oggetti」又は「OGGETTI」以外に英語を含む被告標章について類似性を否定した事案。

【キーワード】
商標、類似性、外国語、英語

事案

 原告は、本店所在地である建物1階においてチョコレート専門店「ショコラティエ・エリカ」を営み、同建物2階において日用雑貨の小売やラッピングサービスを行う店舗「OGGETTI」を営む会社である。OGGETTIの売場面積はそれほど広くなく、取り扱っている商品は15種類前後であり、一般消費者に対する小売のみを行っている。原告の以下の商標が登録されている。

 ただし、原告は、ホームページ上に掲載しているOGGETTIの店舗の紹介記事において、同店舗をラッピングサービスの提供を行う店として紹介しており、日用雑貨等の販売を行っていることを紹介していない。
 被告は、小売業者に対して日用雑貨を卸売しており、後記の被告標章1~8を使用していた。

争点

 判決において判断された争点は、以下のとおりである。本稿では、このうち⑴について判決を紹介する。
⑴ 原告商標と被告標章との類否
⑵ 被告標章7の使用の有無
⑶ 被告標章1及び2の商標的使用の有無
⑷ 先使用権の存否
⑸ 継続的使用権の存否
⑹ 損害不発生の抗弁の成否
⑺ 原告の損害の額

本判決

 本判決は、原告商標を、イタリア語で「物、事物、物体等」を意味する「OGGETTO」の複数形である「OGGETTI」(発音は「オジェッティ」)という欧文字がえんじ色の正方形の図形の中に白色のブロック体で横書きされた結合商標であること、「OGGETTI」の文字部分に出所表示機能があること及び「OGGETTI」が日本国内において一般的に使用される単語ではなく、特段の観念を生じないことを認定した。

⑴ 被告標章1、2及び4~7について

被告標章1:被告サイト(ウェブサイト)において、被告商品の販売について使用

被告標章2:被告サイトにおいて、被告商品の販売について使用

被告標章4:被告営業所において、被告商品の販売を行っている建物の看板において使用

被告標章5:被告営業所において、被告商品の販売を行っている建物の看板において使用

被告標章6:被告営業所において、展示会の案内板に使用

被告標章7:被告サイト内の被告ウェブページにおいて、被告商品の販売に関する広告に使用

本判決は、被告標章1、2及び4~7について、以下のとおり、原告商標と類似すると判断した。

  • 被告標章1、2及び4~7は、いずれも「Oggetti」という欧文字がブロック体で横書きされた部分を有しており、「オジェッティ」との称呼を生ずる。被告標章は、一部に小文字を含む点で原告商標と異なるが、いずれも「OGGETTI」の欧文字が横書きされたものである点において同一であり、称呼も同一である。
  • 文字部分が四角形の中に配置されていること(被告標章1、4~6)や文字に下線が引かれていること(被告標章4、5)については、いずれもありふれた図形等であって出所表示機能が認められない。
  • 原告商標の文字部分は「OGGETTI」という単語自体が出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものであるから、被告標章1、2及び4~7の文字部分が原告商標の文字部分と異なるフォントで表記されていることは、両者の類否判断に影響しない。
  • したがって、被告標章1、2及び4~7は、原告商標と出所の誤認混同のおそれを生じさせるものであり、原告商標と類似する。

⑵ 被告標章3及び8について

被告標章3:被告サイトにおいて、被告商品の販売のため被告が開催する展示会(以下「展示会」という。)の案内広告に使用

被告標章8:被告サイト内の被告ウェブページにおいて、被告商品の販売に関する広告に使用

 本判決は、被告標章3及び8について、以下のとおり、原告商標と類似しないと判断した。

  • 被告標章3及び8は、それぞれ、原告商標と異なる称呼を生ずる。(被告標章3は「ニセンジュウロク エーダブリュ(又はオータムウィンター) オジェッティ エクシビション」の称呼と「2016年秋冬オジェッティ展示会」の観念、被告標章8は「ウェブショッピング オジェッティ ドアーズ」等の称呼と「ウェブでの買い物 オジェッティのドア」あるいは「オジェッティのドア」といった程度の観念)。
  • 被告標章3は、文字部分が全体として展示会の名称を形成していると認識されるから、文字部分のうち「OGGETTI」の部分のみを切り離して要部と捉えることは相当でない。また、被告標章8は、全体として一体のデザインをなす標章であるから、需要者において「OGGETTI」の部分のみを切り離して認識することは通常考え難く、「ウェブでの買い物 オジェッティのドア」あるいは「オジェッティのドア」といった観念を想起するから、文字部分のうち「OGGETTI」の部分のみを切り離して要部と捉えることは相当でない。
  • 被告標章3のうち図形部分は、ありふれた形状と色彩であって、特段の称呼や観念を生じさせるものでもなく、出所表示機能があるとは認められない。
  • したがって、原告商標のうち出所表示機能を有する文字部分と被告標章3及び8とは、外観、称呼及び観念のいずれの点においても異なるから、類似しない。

⑶ 被告標章7の使用の有無

ウ 原告と被告の需要者の異同について
 被告は、原告と被告の需要者が全く異なるから、被告標章1ないし6に接した需要者においてその営業主体を誤認混同するおそれがない旨を主張したが、本判決は、以下の理由によりこの主張を排斥した。

  • 原告は、原告商標を使用して一般消費者向けに日用雑貨の小売などを行う店舗を営んでいる。
  • 被告は、小売業者に対する卸売に利用する被告サイトや、ショールーム兼商談スペースがある被告営業所、小売業者との商談を兼ねた展示会において被告標章を使用している。
  • 原告商標と外観や称呼において類似する各被告標章に小売業者等が接すれば、小売業者等がその出所を誤認することは十分あり得る。
  • 原告商標権1及び2の指定商品及び指定役務が一般消費者向けの小売に限定されているわけでもないから、類否判断において考慮すべき取引者・需要者の範囲を小売業者と異なる一般消費者に限定すべき根拠はない。
  • 被告の上記主張によれば、商標権者が現に登録商標を使用している取引の範囲でしか商標権の効力が認められないことにもなりかねないところ、そのような帰結は、登録主義を採用した法の趣旨に反する。

検討

 本判決は、原告商標における「OGGETTI」というイタリア語が日本国内で一般的に使用される単語ではないため、原告商標の文字部分に出所識別機能を認めた上で、被告標章のうち文字部分が「Oggetti」のみであるもの(被告標章1、2、4~7)については原告商標との類似性を認めた。
 また、本件において、被告標章のうち文字部分が「Oggetti」以外の文字を含むもの(被告標章3、8)は、「Oggetti」以外の文字が、意味を理解する一般人が多いであろう英語及び数字「2016AW」・「Exhibition」(被告標章3)、「Web Shopping」・「doors」(被告標章8)を含んでいた。
 過去の裁判例において、外国語からなる商標については、国内においてどのように認識されるかを個別に判断し、観念が生ずるか否かが判断されている。英語は、他の外国語に比べ、国内で意味が認識されるため観念が生じると判断されることが多い。
 本判決では、「OGGETTI」・「Oggetti」がイタリア語であり、国内において一般的に意味が認識されないため観念を生じないとされたのに対し、「2016AW」・「Exhibition」及び「Web Shopping」・「doors」の意味は認識され、それぞれ観念を生じるとされた。このうち「2016AW」に含まれる「AW」の部分は、それぞれ「Autumn」、「Winter」の頭文字であると思われるが、秋冬を「AW」と省略することが国内で浸透しているかどうかは疑問の余地がある。しかし、年を表す「2016」と結合されたことによって、年と関連性のある単語であるという印象を与えるであろうこと、さらには、「2016」が認識されれば、「AW」の意味が正確にわからなくても、「2016年オジェッティ展示会」という程度の観念が生じるであろうことからすれば、あまり大きな問題ではないと考えられる。
 また、本判決は、被告標章のうち、観念の生じる英語を含む標章について「OGGETTI」・「Oggetti」の部分のみを切り離して要部と捉えることは相当でないとして全体を観察し、原告商標との間で非類似と判断した。しかし、この事例判断を一般化することは適切でないと思われる。例えば、被告標章3については、デザインが少し異なる場合などには、「2016AW」・「Exhibition」を、中心の「OGGETTI」に付加的に表示されている一般語と見て、支配的な印象を与える「OGGETTI」に対し、その「2016年秋冬の展示会」という程度の意味にすぎないという捉え方もあり得るのではないかと考えられる。

以上
(文責)弁護士 後藤直之