【平成31年4月11日(大阪地裁 平成29年(ワ)第7764号)】

【キーワード】

不正競争、品質等誤認惹起行為、ステルスマーケティング(ステマ)、口コミサイト、ランキング

【事案の概要】

Yは、訴外B(サイト制作会社)に対し、「みんなのおすすめ、塗装屋さん」と題する口コミサイト(以下「本件サイト」という。下記イメージも参照されたい[i]。)の制作を委託した。Yは、本件サイトのSEO対策の状況を確認したり、Bからその状況確認の報告を受けたりしていた。本件サイトは、トップページ、サイト説明ページ、口コミランキングページ、掲載業者一覧ページ、口コミ投稿フォームページ等で構成されるところ、XやYも含む業者23社を、投稿された口コミの件数及び内容に基づいてランキングで表示する形式である。しかし、同ランキング表示において、Yが常時1位として表示されていた。


Xは、本件サイトにおいて、Yが自らをランキングの1位と表示したことは、Yの提供するサービスの質、内容が全国の外壁塗装業者の中で最も高く評価されているかのような表示をした点で、品質等誤認惹起行為に該当するとして、Yに対し損害賠償を請求した[ii]。本件では、裁判所は、原告の請求を一部認容した。

本稿では、本件の争点のうち、本件サイトの表示が、Yの提供する「役務の質、内容…について誤認させるような表示」に当たるかという点を取り上げ、当該表示の品質誤認表示該当性を検討する。

【判旨(下線部は筆者による)】

裁判所は、本件ランキング表示の意味について、「本件サイトを閲覧する者の認識を前提とすれば、本件サイトのランキングは、・・・本件掲載業者一覧ページに掲載されている業者の提供するサービスの質、内容に関する評価のランク付けを表示したものであって、被告がランキング1位であることは、投稿された口コミの件数及び内容に基づき、被告の提供するサービスの質、内容が、本件掲載業者一覧ページに掲載されている業者の中で投稿者の主観的評価として最も優良であると評価されていると表示したものである」とした。その上、本件サイトの表示の品質誤認表示該当性について、下記のとおり判断した。

  • 本件ランキング表示は、掲載業者の中での、投稿された口コミの件数及び内容に基づく評価との間にかい離がないのであれば、品質誤認表示に該当するとはいえない。
  • もっとも、そもそもYへの口コミが虚偽のものである場合、例えば、Yが自ら投稿したものであったり、形式的には施主又は元施主(以下「施主等」という。)からの投稿であったとしても、その意思を反映したものではなかったりなどする場合は、本件サイトの表示上のYへの口コミの件数及び内容をそのままのものとして受け取ることが許されなくなり、その結果、本件ランキング表示とのかい離があることとなる。
  • 前記かい離の有無について、以下の事実が認定されるため、当該口コミは虚偽であるといえる。
    • 本件サイト公開前の日付となっている5件の投稿が、Yの関与の下にBにおいて投稿作業をした架空の投稿であること等から、Yについては、本件サイトの公開時点から、既にランキング1位と表示されていたと推認できること
    • 業者毎の口コミが掲載されているウェブページにおける口コミの投稿フォームの入力項目が変更され、かつ入力内容が即時に反映される仕様に変更されていたにも関わらず、Yの口コミ投稿については、当該変更後も従前の入力項目が表示されるものがあるところ、この点についてYから合理的な説明がないため、真に施主等がした投稿であるか重大な疑問を抱かざるを得ないこと
    • Y は、コメントを書いた施主等にプレゼントを進呈していたことが認められ、Y が施主等から聞き取った内容を自ら口コミとして投稿していたこといえるから、何とかしてYへの口コミ件数を増やそうとする姿勢が見て取れること
    • 過去コメント分に対する編集の可否に関するYの担当者とBのメールのやり取りから、施主等から投稿される口コミをそのまま反映させようとしない作為的な態度も見て取れること

以上より、裁判所は、「本件サイトにおけるYがランキング1位であるという本件ランキング表示は、実際の口コミ件数及び内容に基づくものとの間にかい離があると認められる。そして、本件サイトが表示するようないわゆる口コミランキングは、投稿者の主観に基づくものではあるが、実際にサービスの提供を受けた不特定多数の施主等の意見が集積されるものである点で、需要者の業者選択に一定の影響を及ぼすものである。したがって、本件サイトにおけるランキングで1位と表示することは、需要者に対し、そのような不特定多数の施主等の意見を集約した結果として、その提供するサービスの質、内容が掲載業者の中で最も優良であると評価されたことを表示する点で、役務の質、内容の表示に当たる。そして、その表示が投稿の実態とかい離があるのであるから、本件ランキング表示は、Y の提供する『役務の質、内容・・・について誤認させるような表示』に当たると認めるのが相当である。」とした。

【若干のコメント】

2023年10月から景表法に基づくステルスマーケティング(ステマ)規制が施行されているが、不正競争防止法(品質等誤認惹起行為等)がステマ行為にどのような役割を果たすかは1つの論点であった。景表法は、消費者庁等による行政的アクションを想定する一方、事業者にとって、競争者の行為に伴い不利益を被った場合、使い勝手がよいのは不競法であるといえよう。
本判決は、口コミサイトにおけるランキング操作というステマ行為に近い類型が、品質等誤認惹起行為(不正競争)に当たることを認め、その判断過程を示したという点で一定の意義があることから、本稿にて取り上げた。ただし、本判決の射程が及ぶのは、少なくとも以下のような事例において、広告主体が第三者に委託した(又は自ら投稿した)ことが立証される場合であると考えられ、ステマ行為等を規律する先例としての価値を有するかについては疑問が残る。

  1. 広告主体が構築したサイトにおいて、「競合他社の製品・サービスの品質等を評価する口コミ内容を集計した結果」である旨を表示した上で、当該結果をランキング表示し、自己が上位となるよう意図的に操作する場合(本件のような事例)
  2. 他社のランキングサイトで、第三者が、広告主体の製品・サービスに好意的な口コミを大量に投稿してランキング自体に変動をもたらす場合
  3. 他社の口コミサイトやSNS等で、第三者が、「●社の製品・サービスが、同業他社に比べて●●の点で最も高評価を受けている」等、明らかに客観的事実に反する投稿をする場合

以上より、ステマ行為については、少なくとも表示主体を偽る行為の立証により広告主体が明らかにされ、かつ、製品・サービスの「品質(質)、内容」に関する評価の実態と表示との乖離が認められなければ、品質等誤認惹起行為を成立させるのは難しく、また、(差止請求が効果的であっても)損害賠償請求について期待できない面があるため、必ずしも不競法アプローチの使い勝手が良いというわけではなさそうである。

 

[i] 大塚理彦「口コミサイトにおける不正競争防止法の誤認惹起行為」(神戸法學雑誌、2022年)に参照されていたイメージと同様のイメージを筆者が作成

[ii] 本件訴訟の提起にあたり、本件サイトは閉鎖されていたので、差止請求は行われていない。

 

以上
弁護士 藤枝 典明