【平成16年6月23日(東京地方裁判所 平成15年(ワ)29488号)】

【要旨】
 原告(ブラザー工業㈱)が製造するファクシミリに用いるインクリボンを製造販売する者の包装箱に「ブラザー用」,「ブラザー対応」などと記載する行為に関し,かかる使用態様は用途表示であり,商標的使用態様に該当しないとの判断がされた。

【キーワード】
用途表示,商標的使用態様

【判旨】

イ これに対し,被告標章は,前記アの用途等を示す記載と比較して小さく記載されている。また,前             記(1)のとおり,取付方法の記載された面に表示された被告標章を除き,被告標章1の前には「For」の文字が付加され,被告標章2の後ろには,「用」との文字がそれぞれ付加されている。そして,「For」は,「〜のために」といった目的を意味する中学で学習する基本的な英単語であり,「用」は,接尾語的に用いられる場合には,何かに使うためのものという意義を有する語である。したがって,被告製品の一般需要者は,被告標章を含む「For brother」,「ブラザー用」,「新ブラザー用」の表示について,被告製品が,原告製造のファクシミリに使用できるインクリボンであることを示すための表記であると理解するものと認められる。

ウ  取付方法の記載された面においては,「対応表」の部分に被告標章2が「用」との文字を付加せずに表示されているほか,被告製品1においては,「取付け方法」との記載の右側に被告標章2を含む「ブラザー対応インクリボン」との表示がされている。
 しかし,上記表の部分の被告標章2は,「対応表」の「メーカー」欄の真下の欄に記載され,その右側には,適用機種名として,いくつかの製品名が記載されていることに前記イに判示したところを併せ考えると,需要者は,この「対応表」における被告標章2の表示につき,端的に,被告製品が使用できるファクシミリが原告製造のファクシミリであることを示すための表記であると理解するものと認められる。
 また,被告製品1の「取付け方法」との記載部分の右側の「ブラザー対応インクリボン」との表示についても,上記と同様に,被告製品が使用できるファクシミリが原告製造に係る機種であることを示す表記であると理解するものと認められる。

エ 前記(1)のとおり,被告旧製品においては,被告標章と同じ又は小さく,英語表記であるものの,被告オームの名称が記載され,住所等が記載されているが,その記載態様からすれば,これらの記載は,被告オームの連絡先を表示したものと認識できる。また,被告新製品においては,上記の記載に加え,被告標章とほぼ同じ大きさで又はそれより大きく被告オームの名称が英語表記で記載されている。被告オームに関する以上の表示は,被告製品の製造者又は販売者を示すものと認識し得る表示といえる。

オ 前記(1)のとおり,当該機器類と消耗品との適合関係が限定されているような場合に,ユーザーが誤って自己の使用する機器類に適合しない消耗品を購入することがないように,商品の外箱等に適合機種を表示することが通常行われており,消費者も,そのようなことを十分に認識し,消耗品購入の際の参考としている。また,被告製品は,原告の製造に係るファクシミリの特定の機種にのみ使用できるインクリボンであって,被告が,インクリボンを販売するに当たっては,消費者が,他社製のファクシミリに使用する目的で当該インクリボンを誤って購入することがないよう注意を喚起することが不可欠であり,そのような目的に照らすならば,被告標章の表示は,ごく通常の表記態様であると解される。
 以上の点を総合すれば,被告が被告製品において前記認定の態様で被告標章を用いた行為は,被告標章を,被告製品の自他商品識別機能ないし出所表示機能を有する態様で使用する行為,すなわち商標としての使用行為であると解することはできない。

【検討】

 本件では,原告(ブラザー工業㈱)が製造するファクシミリに用いるインクリボンを製造販売する者の包装箱に「ブラザー用」,「ブラザー対応」などと記載する行為に関し,機器類と消耗品との適合関係が限定される場合に,商品の外箱等に適合機種を表示することが通常行われていることや,消費者保護のために適合機種を表示することが不可欠であることを理由に,用途表示であることが肯定されている。また,①「For」や「用」の表示から消耗品の用途と理解できたこと,②「対応表」や「取付け方法」の表示があったこと,③消耗品の製造者又は販売者を示すものと認識し得る表示があったことといった各表示に基づく使用態様を理由に,用途表示であることが肯定されている。控訴審(東京高判平成17.1.13平成16(ネ)3751)もかかる判断を維持している。

 同様に用途表示に関する裁判例として,大阪地判平成9年7月17日判タ973号203頁〔NEO・GEO事件・第一審〕では,専用コントローラーがゲーム機に適合することを示す用途表示としての態様に該当する場合は商標的使用に該当しないとしつつも,被告による使用態様が用途表示とはいえないとの判断がされた。控訴審(大阪高判平成10年12月21日知財集30・4・981)もかかる判断を維持している。

 このように,ブラザー事件・第一審及びNEO・GEO事件・第一審は,いずれも,何らかの用途を表示するものであれば,一律に用途表示であるとして商標的使用態様に該当しないとはしておらず,適合関係を示すものでなければ用途表示に該当せず,また,用途表示に該当するかどうかを使用態様に基づいて判断している点で共通している。
 これらの裁判例は,用途表示に関する商標的使用態様の考え方について,実務上,参考になるものと考えられる。

(文責)弁護士・弁理士 杉尾雄一