【平成24年11月29日判決(知財高判 平23(行ケ)10446号)】

【概要】
本判決は、本件商標において、デザイン化された「BDO」部分が、取引者,需要者の注意を喚起させる特徴部分と認め一部抽出を認めました。

【キーワード】
結合商標、類否、デザイン、図形化、つつみのおひなっこや事件、強く支配的な印象

1.事例

本件商標引用商標

2.判旨

(2) 本件商標の特徴部分
 本件商標は,「BDO」を大文字により表記した部分と「Banco De Oro」と表記した部分とからなる商標である。「BDO」部分は,「Banco De Oro」部分と対比して,概ね2倍の太さで表記され,「B」の文字は下側のふくらみの部分のみ「D」と接触し,また,「O」の文字は,「D」の文字に重なるように配置され,かつ黄色で目立つように彩色されている。他方,本件商標の他の文字は,すべて青色に彩色されている。
 また,「Banco De Oro」の部分は,原告の設立準拠法であるフィリピン法では,ユニバーサルバンク(商業銀行業務・投資銀行業務・証券業務のほか,リース・ファクタリングなど一切の金融業務ができる銀行)を指す語であり,取引者,需要者は,同部分については,役務の内容それ自体を指すものと認識,理解するものと解される。これに対して,「BDO」部分は,それ自体では,何らの観念も有しない。
 さらに,取引の実情等についてみると,原告は,「BDO Remit(Japan)」(Remitは送金を指す。)との構成からなる登録第5310534号商標の商標登録を受けたが,その商標登録取消決定取消請求訴訟が当裁判所に係属中である(当裁判所に顕著な事実)こと,原告のウェブサイトでは,「BDO」部分のみを表示している部分があること(甲14),原告は商号を従前の「バンコデオロユニバンク」から「ビーディーオーユニバンク」に変更していることを考慮すると,原告においては,「Banco De Oro」部分については,役務の出所表示として機能するような態様で使用していないことが推認される。
 以上のとおり,「BDO」部分が,それぞれの文字が接触又は重なるように配置されて,デザイン上の特徴を備えており,「O」の文字が黄色で目立つように彩色されていること,原告では,「BDO」部分を共通のロゴとして統一的に用いていること,その他の事実経緯に照らすならば,本件商標中における取引者,需要者の注意を喚起させる特徴部分は,「BDO」部分であると解すべきである。
(3) 本件商標と引用商標の類否判断
 本件商標は,「ビーディーオー」の称呼を生じる。本件商標は,「BDO」部分からは特定の観念を生じることはない(なお,「Banco De Oro」部分を併せると,取引者,需要者において,フィリピン法の下でのユニバーサルバンクを連想させるが,それは,役務の内容を説明したものと認識,理解される。)。
 引用商標は,いずれもその構成文字に相応して「ビーディーオー」の称呼を生じ,特定の観念を生じない。
 本件商標の特徴部分である「BDO」と引用商標とを対比すると,「ビーディーオー」との称呼において共通し,外観において「BDO」部分において共通し,観念においては,比較することができない。
(4) 小括
 以上のとおりであり,本件商標と引用商標とは類似する。

3.検討

 最判平成20年9月8日(平19(行ヒ)223号)は、結合商標の類否判断は、「複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて,商標の構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,その部分が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などを除き,許されないというべきである」と判示しています。
 本判決は、本件商標において、デザイン化された「BDO」部分が、取引者,需要者の注意を喚起させる特徴部分と認め一部抽出を認めました。上記最高裁判決は、「取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などを除き」として、要部を抽出できる場合を、強く支配的な印象を与えるものと認められる場合、出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合に限定しておりません。本件では、取引者,需要者の注意を喚起させる特徴部分が上記の「など」に含まれる場合として、判断が示された点で、参考になるものと考えられます。
 また、本判決は、結合商標においてデザイン化された部分が一部抽出される場合があることを示した点や、一部抽出に必要となるデザイン化の程度についての事例判決としても参考になるものと考えられます。

(文責)弁護士・弁理士 杉尾雄一