【平成28年 1月20日判決(知財高判 平27(行ケ)10158号)】

【概要】
本願商標は、著名な「REEBOK」の文字を含むところ、本判決は、同部分を抽出して、引用商標との類否を判断するのが相当であり、本願商標は引用商標と類似しないと判示した。

【キーワード】
結合商標、類否、著名、つつみのおひなっこや事件、強く支配的な印象

1.事例

1.事例

本願商標引用商標

2.判旨

(1) 本願商標の外観は,「REEBOK」,「ROYAL」,「FLAG」の各文字部分の間に1字分のスペースを空けて,「REEBOK ROYAL FLAG」と標準文字にて横一行で表して成る。
 本願商標は,その構成の全体から,「リーボックロイヤルフラッグ」との称呼を生じる。
 また,本願商標の構成中の「REEBOK」の文字部分は,運動用の被服や履物等の製造販売を主たる業務とするスポーツブランドである原告の商号の略称又はその展開するブランドの名称,あるいは,その業務に係る商品の出所を表示する商標として,本件審決時において,我が国の取引者,需要者の間に広く認識されていたと認められる(甲16~20,49。なお,この点について,当事者間に争いがない。)。
 そうすると,本願商標の構成中の「REEBOK」の文字部分は,取引者,需要者に対し,商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるから,上記文字部分から,「リーボック」という称呼も生じるというべきである。

 ところで,「ROYAL FLAG」という文字部分は,一連の語が既成語として辞書に掲載されているものではないが,「ROYAL」が「王の,王室の」を意味する英単語であり(甲1,46等),「FLAG」が「旗」を意味する英単語であって(甲2,31等),我が国における英語の普及率に照らせば,取引者,需要者に対し,「王の旗」といった意味を想起させるということができる。そして,上記のとおり,「REEBOK」の文字部分が,原告の商号の略称又はその展開するブランドの名称,あるいは,その業務に係る商品の出所を表示する商標として,本件審決時において,我が国の取引者,需要者の間に広く認識されていることに照らすと,本願商標全体から,「リーボックの展開する「ROYAL FLAG」(王の旗)という商品シリーズ」といった観念が生じ,あるいは,本願商標の構成中の「REEBOK」の文字部分から,「リーボック」の観念が生じるものということができる。
(2) 本願商標の構成中の「ROYAL FLAG」の文字部分を抽出することの可否
ア 被告は,「王の旗」の意味を認識させる「ROYAL FLAG」の語は,一種の造語であって,自他商品の識別標識としての機能を果たし得るものであるから,本願商標は,「REEBOK」の語と「ROYAL FLAG」の語とを組み合わせて成るものとして看取され,これらを分離して観察することが取引上不自然であるというべき事情はない旨主張する。
イ しかしながら,本願商標は,その外観上,「REEBOK」,「ROYAL」及び「FLAG」の各英単語を組み合わせて成る結合商標であると認められるが,本願商標は,「REEBOK ROYAL FLAG」の文字を標準文字で横書きして成るものであり,各文字の大きさ及び書体は同一であって,単語と単語の間(「REEBOK」と「ROYAL」との間,「ROYAL」と「FLAG」との間)に1文字分のスペースを空けているほかは,等間隔に,その全体が1行でまとまりよく表されているものであるから,その外観上,「ROYAL FLAG」の文字部分だけが独立して見る者の注意をひくように構成されているということはできない。
ウ また,「ROYAL FLAG」という一連の語は,既成語として辞書に掲載されているものではないが,①「ROYAL」及び「FLAG」は,我が国における英語の普及率に照らせば,いずれも一般的な英単語であって,格別のものではないこと,②「ロイヤル(royal)」が国語辞典に掲載されているだけでなく(甲46),これを付した複合語(例えば,「ロイヤル・ウェディング(royal wedding)」,「ロイヤル・スマイル(royal smile)」,「ロイヤル・ファミリー(Royal Family)」,「ロイヤルブルー(royal blue)」,「ロイヤル・ボックス(royal box)」,「ロイヤル・ミルク・ティー(royal milk tea)」など)も,カタカナ・外来語辞典等に数多く掲載されていること(甲47,48),③「フラッグ(flag)」が国語辞典に掲載されているだけでなく(甲31,37),これと他の語との複合語(例えば,「チェッカー フラッグ(checker flag)」,「チャンピオン フラッグ(champion flag)」,「ナショナル フラッグ(national flag)」,「ナショナル フラッグ キャリアー(national flag carrier)」,「フラッグ・ショップ(flag shop)」など)も,外来語辞典等に複数掲載されていること(甲33~36,40),④「ROYAL」又は「FLAG」の英単語を含む商標登録も数多く存在すること(甲52~55)等に照らせば,一般的な英単語をつないだものにすぎないというべきである。そして,「ROYAL FLAG」の文字部分は,それ自体が自他商品を識別する機能が全くないというわけではないものの,商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与える「REEBOK」の文字部分との対比においては,取引者,需要者に対し,商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものであるということはできず,本件全証拠によるも,このようにいえるだけの事情を認めるに足りない。
 エ したがって,本願商標の構成のうち「ROYAL FLAG」の文字部分だけを抽出して,引用商標と比較して類否を判断することは相当ではない。
(3) そうすると,本願商標については,全体として一体的に観察し,又は商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与える「REEBOK」の文字部分を抽出して,引用商標との類否を判断するのが相当である。

3.検討

 最判平成20年9月8日(平19(行ヒ)223号)は、結合商標の類否判断は、「複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて,商標の構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,その部分が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などを除き,許されないというべきである」と判示しています。
 本判決では、本願商標の「REEBOK」の文字部分について、著名商標であることを理由に、上記結合商標の類否判断における「商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与える」に該当するとして、一部抽出することを認めています。一方、本判決は、「ROYAL FLAG」の部分は識別力を有するものの、「REEBOK」との対比では、強く支配的な印象を与えるとはいえないため、同部分を抽出することは認めませんでした。
 本判決は、著名商標であることが、「取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合」に該当することを明確に判断した事例として重要な意義を有するものと考えられます。
 なお、論点が関連する事件として、知財高判平成20年10月30日(平20(行ケ)10100号)は、著名商標であっても、極めて小さく,ほとんど目立たない態様で表記されているため、強く支配的な印象を与えると認められないものと判断しています。

(文責)弁護士・弁理士 杉尾雄一