【平成21年7月16日(知財高裁 平成20年(ワ)4733号)】

【キーワード】
 商標,類否,類似,結合商標,全体観察,分離観察,プレミアム,PREMIUM,PREMIUM BY VICKY,Premium by LAST SCENE

第1 事案の概要

 原告は,下記本件商標「プレミアム/PREMIUM」の商標権者から専用実施権を受け,下記原告標章(ローマン体の欧文字の「PREMIUM」に,これより小さくゴシック体の欧文字の「BY VICKY」を付してなる標章。)をその販売する被服に付して,展示・販売する等している者である。
 これに対し,被告は,下記各被告商標をその販売する被服,その包装及びウェブサイトに付して,展示・販売する等している者である。
 そこで,原告が,被告に対し,本件商標の専用使用権に基づき,被告各標章の使用等の差止めと,被告各標章を付した被服等の廃棄,損害賠償として9900万円及びこれに対する平成20年4月19日から支払済みまで年5%の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

本件商標


・指定商品 旧第17類
「被服,布製身回品,寝具類」
・登録年月日 昭和62年10月27日
・出願年月日 昭和60年11月21日

 

原告標章

被告各標章

 

第2 判旨(下線及び省略は筆者による)

 1 被告各標章の要部
  「被告各標章は,欧文字の「Premium」,「by」,「LAST SCENE」とが組み合わされた標章であるが,「Premium」は,和訳すると,名詞として「割増金,手数料,賞金,景品」等,形容詞として「高品質の,高級な,高価な」等を意味し(甲5ないし7,乙1,2),「プレミアム」との称呼を生じる英単語であり,「by」は,和訳すると,「~による」等を意味する英単語(前置詞)であり,「LAST SCENE」は被告のブランド名である。
  そして,このような複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて,商標の構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,その部分が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などを除き,許されないというべきである(最高裁平成20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)。
  「「プレミアム\PREMIUM\Premium」といった標章は,古くから商標登録されてきたものもあるが,その使用状況の具体的内容は明らかとはいえない。しかし,平成12年終わりころから,飲料業界において,従来品より高級・上質であることを示す言葉として商品名に使用され始め,その後,他の業界においても,同様の意味を有する商品や役務を示す言葉として頻繁に使用されるようになった。そして,これらの商品や役務が大きく宣伝広告され,広く普及したことに伴い,「プレミアム\PREMIUM\Premium」が「高品質の,高級な,高価な」を意味する言葉であるとの認識も,一般的に普及するようになったといえる。
  また,特許庁では,平成19年7月3日,商願2006-71751号(商標:プレミアム,商品区分:第19類,出願人:株式会社INAX)の審査において,出願に係る商標が,「上質な,高級な」を意味する外来語として知られている「プレミアム」の文字を書してなるものであるから,これを本願の指定商品に使用しても,単に商品の品質を誇称表示するにすぎないものと認めるという理由で,拒絶査定をしており(乙8),そのころ,同様の理由により,商願2005-2440号(標章:§PREMIUM.\プレミアム,商品区分:第16類,出願人:株式会社フジコン,拒絶査定日:平成19年3月16日),商願2006-52794号(標章:プレミアム一眼,商品区分:第9類,出願人:松下電器産業株式会社,拒絶査定日:平成19年5月16日)においても,拒絶査定をしている(乙9,10)。
  このように,「高品質の,高級な,高価な」を意味する英単語である「premium」は,もともと,多種多様な商品や役務に広く使用可能な言葉であるところ,上記認定した各種商標登録の状況,飲料業界での普及状況や他の業界への波及状況からすれば,「Premium」という英単語は,被告各標章の使用が開始された平成19年8月23日ころにおいては,既に,商品や役務の出所を示すものとして強い印象を与える言葉ではなくなっていたものと認められる。
  確かに,・・(省略)・・「Premium by LAST SCENE」ブランドが,被告商品の販売員らにより「Premium」あるいは「プレミアム」と表示されたり,被告商品を紹介する女性誌において「プレミアム」と表示されている事実は認められるが,前者はブランド内部における略称であり,後者も同ブランドの商品のみを紹介する記事内での略称であると認められるのであって,これらの事実は上記認定を左右するものではない。
  また,被告標章1,2は,「Premium by」の部分が,装飾文字の「P」と流暢な小文字の筆記体で記載され,強調されている印象を与えるが,「LAST  SCENE」の部分は,大文字のブロック体(ローマン体)で記載され,単語として認識しやすいことから,「Premium」の部分に劣らず,需要者の目を引くということができる。」
  「また,原告は,「PREMIUM」がブランド名であるとしながら,その標章として,既存ブランド「VICKY」の名声を利用するため,「PREMIUM」と「BY VICKY」を組み合わせた原告標章を使用したと主張しているように,ファッション業界においては,ブランド名として,「by」の後ろに既存ブランド名を掲げた名称が使用されることがあると窺えるが,これは,既存ブランドの知名度を利用し,既存ブランドの関連ブランドであることを示すための手法であるといえる。そして,このような場合は,顧客誘因力を有する既存ブランド名が,出所識別機能を有していることになる。
  そして,被告各標章についても,上記手法が採用されているといえるから,「by」の後ろの「LAST SCENE」の部分が,より強い出所識別機能を有しているといえる。原告は,「LAST SCENE」ブランドの周知性を問題にするが,周知性の程度は,顧客誘因力の強さに影響を及ぼす事情に過ぎず,周知性がないからといって,出所識別機能がなくなるわけではない。」
   「以上のとおりであるから,被告各標章のうち,「Premium」の部分が,取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものとは認められないし,「Premium」以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないとも認められない。
   むしろ,・・(省略)・・被告各標章において,「Premium」の部分において出所識別標識としての機能を有しているとしても,「byLAST SCENE」の部分の方により強い出所識別機能を認めることができる。
   したがって,被告各標章のうち「Premium」の部分だけを抽出し,この部分だけを本件商標と比較して類否を判断することは許されず,被告各標章の全体と対比する必要があるというべきである。」

2 類否の検討
 「被告各標章の全体は,いずれも,欧文字の「Premium by LAST SCENE」を横一列に記載するという基本的構成を有するところ,本件商標は,片仮名の「プレミアム」と欧文字の「PREMIUM」を上下二段に併記したものであるから,両者の外観は同一又は類似するとはいえない。」
「被告各標章の全体からは,いずれも「プレミアムバイラストシーン」との称呼が生じるところ,本件商標からは,「プレミアム」との称呼が生じるのみであるから,両者の称呼は異なる。」
 「上記に述べた取引の実情からすれば,被告各標章の全体からは,「ラストシーンの関連ブランドであるプレミアムという名称のブランド」あるいは「ラストシーンの高級版」などの観念が生じるところ,本件商標からは,「割増金,手数料,賞金,景品」あるいは「高品質なもの,高級なもの,高価なもの」などの観念が生じるのみであるから,両者は観念においても異なる。」
 「以上によると,被告各標章は,いずれも本件商標と類似するとはいえない。」

第3 若干のコメント

 本判決は,他業界における波及状況等に鑑み,ファッション業界においても「PREMIUM」が商品や役務の出所を示すものとして強い印象を与える言葉ではなくなっていること,及び「PREMIUM」以降に「by」と既存ブランド名を組み合わせた名称において出所識別機能を有しているのは既存ブランド名部分であることを根拠に,結合商標について全体観察すべきであるとしたうえで本件商標と被告各商標の類似性を否定した。出所識別力の観点から妥当な判断と考える。
 本件商標にかかる商標権のように比較的昔に登録されたものの場合,現在においては出所識別力が低下しているという可能性は十分にある。本判決はそのような商標権の効力範囲を検討するうえで実務上参考になるだろう。
 なお,本判決は「PREMIUM」部分の出所識別力を完全に否定しているわけではなく,「PREMIUM」部分を単独で使用した場合には商標法26条1項2号に該当せず商標権侵害となるおそれがあることには留意が必要であろう。

以上
(文責)弁護士 山本 真祐子