【平成22年9月27日(知財高裁平成22年(行ケ)第10102号)】

【キーワード】
商標,類似,類否,二段,二段書き,全体観察,分離観察,取引の実情,4条1項11号

【判旨】(下線は筆者による)
  「引用商標2は,茶色の「W」と思しきアルファベット1文字をレタリングしたものに,黄土色の「C」を組み合わせてロゴ化した図形を表し,その下にややデザイン化された「WORLD」の欧文字を茶色で大きく横書きし,さらにその直下に「collezione」の欧文字を茶色で小さく横書きして成るものである。そして,「WORLD」の文字と「collezione」の文字は大小の差はあるものの,同一の色彩からなる丸みを帯びた文字で近接して書されていること,引用商標2の上部に配された図形は,「WORLD」の頭文字「W」と「collezione」の頭文字「C」をモノグラム化したものと容易に理解できること,「WORLD」の単語は「世界」を意味する日本人にとってなじみが深く,それだけでは商標の印象が薄いのであり,指定商品分野においてイタリア語を使用する頻度が低くないと一般に認められることも合わせると,取引者,需要者は,引用商標2の構成中の「WORLD」の文字と「collezione」の文字を一体のものとして把握することが多いと認めることができる。そして,「collezione」の語が後記のとおりの意味を持つイタリア語であることは別にしても,本願商標及び引用商標の指定商品の分野に関係する者にとって,その語から「コレツィオーネ」との称呼を連想させ,全体として「ワールドコレツィオーネ」と称呼し,しゃれた語感を持つ商標との印象を与えるものということができる。この全体の称呼は短いものではないが,商標として長すぎるものでもなく,「コレツィオーネ」を切り離して引用商標2を把握することは,「WORLD」の語の前記位置づけからすれば,引用商標2それ自体の態様でみる限り,むしろ引用商標2の自他商品識別力を弱めるものといわなければならない。
 そうすると,引用商標2の少なくとも下部の「WORLD」と「collezione」の文字部分は,一体として把握するのが自然であり,引用商標2の一部である「WORLD」の文字部分だけを抽出しこれを他人の商標と比較して商標の類否を判断するのは相当でない。このように,引用商標2自体の態様において既に引用商標2は一体のものとして対比の対象とすべきであるが,後記(4)に認定の引用商標2の取引の実情にかんがみても,同様の判断となる。」
「引用商標4は,「WORLD」と思しき欧文字(ただし,「O」の文字部分を地球に置き換えて,それが軌道上を回っているような様子の図形が含まれている。)を書し,下線を挟んで,その直下に「O N E」の欧文字をやや小さく書してなるものである。両欧文字は,共にありふれた書体であるが,「WORLD」がいわゆる「ひげ」のあるセリフ系の書体であるのに対し,「ONE」はその「ひげ」のないサンセリフ系の書体である。
そして,引用商標4を構成する「WORLD」と「ONE」の文字部分は,書体の種類を異にし,線を挟んで上下に分かれている上,上段の「WORLD」の方が下段の「ONE」に比べやや大きく書されているものの,「WORLD」の「O」の部分は軌道上を回る地球の図で表されており,上記軌道が下線の上部と下部にまたがってほぼ半円状に表され,その半円の内部に「WORLD」の「RLD」の文字部分と「ONE」の「NE」の文字分が収まるように描かれていること,「WORLD」の語も「ONE」の語も,それぞれ日本人にとってなじみの深い英単語であって,個々の語それ自体では自他商品識別力は強くなく,両者が合わさって「ワールドワン」との語感に加え後記のとおり「世界一」などの観念を与えるものとして,印象が強くなるものであることからすると,引用商標4は全体として1つのまとまりとして看取するものと見るのが自然である。したがって,引用商標4においては,「WORLD ONE」を一体として把握するのが自然である。後記(3)に認定の引用商標4の取引の実情にかんがみても,同様の判断となる。」

第1 事案の概要

 株式会社ワールド(以下「原告」という。)が,下記本願商標を出願したところ,引用商標2及び4と類似するものとして,商標法4条1項11号により拒絶された。そこで原告は,これを不服として拒絶査定不服審判を請求したが,特許庁から請求不成立の審決を受けたことから,その取消しを求めたのが本件訴訟である。

本願商標 

・指定商品 第14類
「身飾品,時計,貴金属,キーホルダー,宝石箱,宝玉及びその模造品」
・出願平成19年8月15日

引用商標2
 ・指定商品
第14類「身飾り品(カフスボタンを除く)」,第26類「頭飾品」
・出願平成16年4月1日
・商標登録第4815768号
・登録平成16年11月12日
・商標権者株式会社アートゲイン

 
引用商標4
・指定商品 第20類

「海泡石,こはく,荷役用パレット(金属製のものを除く。),養蜂用巣箱,美容院用いす,理髪用いす,プラスチック製バルブ(機械要素に当たるものを除く。),貯蔵槽類(金属製又は石製のものを除く。),輸送用コンテナ(金属製のものを除く。),木製・竹製又はプラスチック製の包装用容器,ネームプレート及び標札(金属製のものを除く。),うちわ,せんす,植物の茎支持具,きゃたつ及びはしご(金属製のものを除く。),郵便受け(金属製又は石製のものを除く。),帽子掛けかぎ(金属製のものを除く。),買物かご,家庭用水槽(金属製又は石製のものを除く。),ハンガーボード,工具箱(金属製のものを除く。),タオル用ディスペンサー(金属製のものを除く。),家具,つい立て,びょうぶ,ベンチ,アドバルーン,木製又はプラスチック製の立て看板,食品見本模型,人工池,マネキン人形,洋服飾り型類,額縁,石こう製彫刻,プラスチック製彫刻,木製彫刻,きょう木,しだ,竹,竹皮,つる,とう,木皮,あし,い,おにがや,すげ,すさ,麦わら,わら,きば,鯨のひげ,甲殻,人工角,ぞうげ,角,歯,べっこう,骨,さんご」

・出願平成18年8月14日
・商標登録第5080554号
・登録平成19年9月28日
・商標権者
コスメティックローランド株式会社
ステファニーエンタープライズ株式会社
銀座ステファニー化粧品株式会社

第2 判旨(下線は筆者による)

 1 判断基準
  「商標法4条1項11号に係る商標の類否は,対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,それには,そのような商品に使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべく,しかもその商品の取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断すべきものである。そして,複数の構成部分を組み合わせた結合商標を対比の対象とする際には,まずは結合商標の外観,観念,称呼の態様を総合的に観察してみて,一体のものとして対比の対象とするのか分離して対象とするのかを決し,その上で,具体的な取引の実情が認定できる場合には,その状況も踏まえて,不可分なものとするのか,それとも分離しその一部を抽出してみるのかを決すべきである。」

 2 引用商標2について
(1)   引用商標2の分離観察の可否
  引用商標2は,茶色の「W」と思しきアルファベット1文字をレタリングしたものに,黄土色の「C」を組み合わせてロゴ化した図形を表し,その下にややデザイン化された「WORLD」の欧文字を茶色で大きく横書きし,さらにその直下に「collezione」の欧文字を茶色で小さく横書きして成るものである。そして,「WORLD」の文字と「collezione」の文字は大小の差はあるものの,同一の色彩からなる丸みを帯びた文字で近接して書されていること引用商標2の上部に配された図形は,「WORLD」の頭文字「W」と「collezione」の頭文字「C」をモノグラム化したものと容易に理解できること「WORLD」の単語は「世界」を意味する日本人にとってなじみが深く,それだけでは商標の印象が薄いのであり,指定商品分野においてイタリア語を使用する頻度が低くないと一般に認められることも合わせると,取引者,需要者は,引用商標2の構成中の「WORLD」の文字と「collezione」の文字を一体のものとして把握することが多いと認めることができる
  そして,「collezione」の語が後記のとおりの意味を持つイタリア語であることは別にしても,本願商標及び引用商標の指定商品の分野に関係する者にとって,その語から「コレツィオーネ」との称呼を連想させ,全体として「ワールドコレツィオーネ」と称呼し,しゃれた語感を持つ商標との印象を与えるものということができる。この全体の称呼は短いものではないが,商標として長すぎるものでもなく,「コレツィオーネ」を切り離して引用商標2を把握することは,「WORLD」の語の前記位置づけからすれば,引用商標2それ自体の態様でみる限り,むしろ引用商標2の自他商品識別力を弱めるものといわなければならない。
  そうすると,引用商標2の少なくとも下部の「WORLD」と「collezione」の文字部分は,一体として把握するのが自然であり,引用商標2の一部である「WORLD」の文字部分だけを抽出しこれを他人の商標と比較して商標の類否を判断するのは相当でない。このように,引用商標2自体の態様において既に引用商標2は一体のものとして対比の対象とすべきであるが,後記(4)に認定の引用商標2の取引の実情にかんがみても,同様の判断となる。
(2)   外観,観念,称呼
ア外観
  本願商標と引用商標2の外観を全体観察をもって視覚に訴えて対比観察した場合,本願商標は「WORLD」の欧文字を青色で書して成るものであるのに対し,引用商標2は,前記のとおり,茶色の「W」と思しき欧文字をレタリングしたものに,黄土色の「C」を組み合わせてロゴ化した図形を表し,その下にややデザイン化された「WORLD」の欧文字を茶色で大きく横書きし,さらにその直下に「collezione」の欧文字を茶色で小さく横書きしてなるものであり,本願商標には引用商標2の図形及び「collezione」に相当する部分がない。したがって,両商標は,「WORLD」の文字部分は共通するものの,外観は全体として相違するということができる。
イ観念
  「WORLD」は「世界」を意味する英語であり,「collezione」は,収集,収集物,コレクションを意味するイタリア語である(甲1)。そうすると,本願商標からは「世界」の観念を看取しうるのに対し,引用商標2からは「世界的な収集物,コレクション」の観念が生じることになり,本願商標と引用商標2とでは異なる観念が生じることが認められる。
ウ 称呼
  本願商標からは「ワールド」の称呼が,引用商標2からは「ワールドコレツィオーネ」の称呼が生ずるものであり,両者の称呼は異なるものである。
(3)    本願商標に関する取引の実情
  証拠(甲5,8~10,20~26)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。
     ①     原告は,昭和34年1月に創業された株式会社であり,婦人用被服,紳士用被服のほか,時計・雑貨等
      のファッション関連商品全般の製造,販売を行っている。
     ②    原告は,昭和34年の創業当時から商標として「ワールド」を使用し,昭和52年ころからは欧文字表記
             の「WORLD」の商標使用を開始した。
     ③    原告は,昭和39年12月28日,第20類の洋服飾り型類等を指定商品として,欧文字の「WORLD」を
             横書きして成る商標の登録出願をし,上記商標は昭和42年3月24日に登録された
            (登録番号736794号)。
     ④    原告が展開するブランド数は100以上に及び,その中の「UNTITLED」,「INDIVI」,「OZOC」,「TAK
            EO KIKUCHI」,「adabat」,「HUSHUSH(ハッシュアッシュ)」等のブランドは,全国のデパートや
            ショッピングセンターで展開されている。また,原告は,東京,神奈川,大阪,京都,兵庫及び福岡の
           百貨店において,身飾品単独のブランド「COCOSHNIK/JEWERLY」の販売店を開設しているほか,
           トータルコーディネートの一環として,前記「UNTITLED」「INDIVI」「TAKEO KIKUCHI」「HUSHUSH」
           等のブランドにおいて身飾品を販売している。原告の通信販売サイト「WORLD DIRECT STYLE」に
           おいては,現在約1978件のアクセサリーが販売されている。
     ⑤    原告の年間売上高は平成19年度(2007年度)に3000億円を超え,国内のアパレルメーカーの中で
             第1位である。
(4)    引用商標2に関する取引の実情
  証拠(甲11,12,18,32)によれば,引用商標2は,株式会社アートゲインが平成16年4月1日に出願した商標であること,真光商事株式会社(資本金1000万円)は婦人装身具(アクセサリー)販売店「ワールドコレツィオーネ」を経営しているが,ウェブサイトにおいてもアクセサリーを販売しており,上記ウェブサイトには引用商標2のほか「世界のアクセサリーワールドコレツィオーネ」との表記がウェブサイトの左上部分に引用商標2よりも目立つようになされていることが認められる。
(5)   小括
  以上によれば,本願商標と引用商標2は,外観,観念及び称呼が異なるから類似しないというべきである。取引の実情についてみても,上記のとおり,引用商標2は片仮名の「ワールドコレツィオーネ」の表記と共に表示されるなど一連一体の商標として使用されていることが認められ,「WORLD」の部分のみが分離されて取引上使用されている事実は見当たらない。また,前記ウの事実及び弁論の全趣旨によれば,本願商標と同様に「WORLD」の表記から成る表示が,アパレルメーカー(被服製造会社)である原告の営業表示として遅くとも昭和57年には全国的に広く認識されていたと認められているところ,本願商標の指定商品である身飾品,時計,貴金属等は,ファッションのトータルコーディネートの観点からすれば,被服ないし服飾と関連する分野の商品である。そうすると,本願商標及び引用商標2に係る商品の取引者,需要者は,取引に当たり,本願商標が付された商品と引用商標2が付された商品の出所を誤認混同することはないと認めるべきである。したがって,本願商標と引用商標2は類似しないというべきである。」

 3 引用商標4について
(1)    引用商標4の分離観察の可否
  引用商標4は,「WORLD」と思しき欧文字(ただし,「O」の文字部分を地球に置き換えて,それが軌道上を回っているような様子の図形が含まれている。)を書し,下線を挟んで,その直下に「O N E」の欧文字をやや小さく書してなるものである。両欧文字は,共にありふれた書体であるが,「WORLD」がいわゆる「ひげ」のあるセリフ系の書体であるのに対し,「ONE」はその「ひげ」のないサンセリフ系の書体である。
そして,引用商標4を構成する「WORLD」と「ONE」の文字部分は,書体の種類を異にし,線を挟んで上下に分かれている上,上段の「WORLD」の方が下段の「ONE」に比べやや大きく書されているものの,「WORLD」の「O」の部分は軌道上を回る地球の図で表されており,上記軌道が下線の上部と下部にまたがってほぼ半円状に表され,その半円の内部に「WORLD」の「RLD」の文字部分と「ONE」の「NE」の文字分が収まるように描かれていること,「WORLD」の語も「ONE」の語も,それぞれ日本人にとってなじみの深い英単語であって,個々の語それ自体では自他商品識別力は強くなく,両者が合わさって「ワールドワン」との語感に加え後記のとおり「世界一」などの観念を与えるものとして,印象が強くなるものであることからすると,引用商標4は全体として1つのまとまりとして看取するものと見るのが自然である。したがって,引用商標4においては,「WORLD ONE」を一体として把握するのが自然である。後記(3)に認定の引用商標4の取引の実情にかんがみても,同様の判断となる。
(2)    外観,観念,称呼
ア 外観
  本願商標と引用商標4の外観を全体観察をもって視覚に訴えて対比観察した場合,本願商標は「WORLD」の欧文字を青色で書して成るものであるのに対し,引用商標4は,前記のとおり,「WORLD」と思しき欧文字(ただし,「O」の文字部分を地球に置き換えて,それが軌道上を回っているような様子の図形が含まれている。)を書し,下線を挟んで,その直下に「ONE」の欧文字をやや小さく,そして各文字間を離して書して成るものであり,「WORLD」の「O」の文字の図形化の有無が異なるのに加え,本願商標には引用商標4の地球の軌道を表す部分及び「ONE」に相当する部分がない。したがって,両商標は,「WORLD」の文字部分は共通するものの,外観は全体としては相違するということができる。
イ 観念
  「WORLD」は「世界」を意味する英語であり,「ONE」は,「一つ,一番」を意味する英語である。そうすると,本願商標からは「世界」の観念を看取しうるのに対し,引用商標2からは「世界一,世界で一番,世界で一つ」などの観念が生じることになり,本願商標と引用商標4とでは異なる観念が生じる。
ウ 称呼
  本願商標からは「ワールド」の称呼が,引用商標4からは「ワールドワン」の称呼が生ずるものであり,両者の称呼は異なる。
(3)    取引の実情
  本願商標に関する取引の実情は前記2(3)のとおりであるところ,証拠(甲19,33)によれば,引用商標4はコスメテックスローランド株式会社が平成18年8月4日に出願した商標であり,商標権者であるステファニー化粧品の通信販売用ウェブサイトにおいて,化粧品「ワールドワンシリーズ」の表記とともに使用されていることが認められる。
(4)   小括
  以上によれば,本願商標と引用商標4は,外観,観念及び称呼が異なるから類似せず,取引の実情を加味しても同様に判断される。」

第3 若干のコメント

 本件は,二段書き商標の審査段階の類否判断において取引の実情も考慮されつつ,全体観察がなされた事案である。
 まず,構成のみからの判断においては,商標全体の統一性,及び指定商品・役務との関係で,単独では識別力が弱いことが考慮されている。
 つぎに,取引の実情の判断においては,引用商標2及び4の権利者のウェブサイトにおける各引用商標の使用態様が考慮されると共に,原告である株式会社ワールドが,アパレルメーカーとして周知であったことも考慮されている。結合商標にかかる審査段階の類否判断においても取引の実情が考慮され得ること,及び当該取引の実情は「指定商品全般についての一般的,恒常的な」ものではなく,問題となっている商標において「現在使用されている商品についてのみの特殊的,限定的事情」であってもよいことが窺える1
 以上の本判決の判断方法は,結合商標の審査段階における類否判断について実務上参考になるといえるだろう。

以上
(文責)弁護士 山本真祐子