【平成22年 6月24日(東京地判 平成21年(ワ)第3527号等)】

【概要】
本件は,原告が,被告らによる被告製品の販売行為は,原告の特許権を侵害するものである,又は,特許法第101条第2号により上記液体供給システムの特許権を侵害するものとみなされるものであり,被告らは被告製品を輸入するおそれがあると主張して,被告らに対し,被告製品の輸入,販売等の差止めを求めた事案である。
ここでは,特許法第101条第2号の汎用性要件に焦点を当てて検討する。

【キーワード】
特許法第101条第2号の間接侵害,多機能型間接侵害,汎用品要件

1.本件発明2(特許第3793216号の請求項5)

2A1 複数の液体収納容器が互いに異なる位置に搭載可能であって,
2A2 該液体収納容器に備えられる接点と電気的に結合可能な装置側接点と,
2A3 該液体収納容器からの光を受光することによって前記液体収納容器の搭載位置を検出する液体収納容器位置検出手段と,
2A4 搭載される液体収納容器それぞれの前記接点と結合する前記装置側接点に対して共通に電気的接続し個体情報に係る信号を発生するための配線を有した電気回路とを有する記録装置と,
2B  前記記録装置のキャリッジに対して着脱可能な液体収納容器と,
2C  を備える液体供給システムにおいて,
2D1 前記液体収納容器は,前記装置側接点と電気的に接続可能な前記接点と,
2D2 少なくとも液体収納容器の個体情報を保持する情報保持部と,
2D3 前記位置検出手段に投光するための発光部と,
2D4 前記接点から入力される前記個体情報に係る信号と,前記情報保持部の保持する個体情報とが一致した場合に前記発光部を発光させる制御部と,
2E  を有することを特徴とする液体供給システム。

2.被告製品2の内容

本件発明2の構成要件2B,2D1ないし2D4を充足する液体収納容器

3.汎用品要件に関する判旨

「被告らは,被告製品2は,市場において広く取引され,たやすく入手することができる物であり,本件発明2及び本件訂正発明2の特徴的機能を有しない67機種の原告製造のプリンタにおいても使用することができる一方,同機能を有している原告製プリンタの数は23機種にすぎないから,仮に,同製品が本件発明2及び本件訂正発明2の実施に適しているとしても,それ以外の用途も有する汎用品であるといえ,特許法101条2号所定の『日本国内において広く一般に流通しているもの』に該当すると主張する。
 しかしながら,特許法101条2号所定の『日本国内において広く一般に流通しているもの』とは,より広い用途を有するねじや釘のような普及品を想定して制定されたものである。原告製プリンタにしか使用することができない被告製品2は,発光と受光という本件発明の特徴的機能を有しない機種計67機種の他の原告製プリンタにも使用することができるとしても,汎用品ということは到底できず,『日本国内において広く一般に流通しているもの』とは認められない。上記『日本国内において広く一般に流通しているもの』とは,汎用の部品や材料が,特許発明の侵害する製品の製造に用いられたとしても,間接侵害とならないように設けられた規定であり,被告製インクタンクは,原告製プリンタ専用のインクタンクであるから,到底,汎用の部品とはいえない。
 したがって,被告製品2は,『日本国内において広く一般に流通しているもの』とは認められない。」

4.検討

 特許法第101条第2号の間接侵害の成立には,「日本国内において広く一般に流通しているもの」の要件(汎用品要件)を充足することが必要となる。汎用品要件に関し,知財高判平成17年9月30日〔一太郎事件・控訴審〕は,「『日本国内において広く一般に流通しているもの』とは,典型的には,ねじ,釘,電球,トランジスター等のような,日本国内において広く普及している一般的な製品,すなわち,特注品ではなく,他の用途にも用いることができ,市場において一般に入手可能な状態にある規格品,普及品を意味するものと解するのが相当である。」と判示し,汎用品要件の解釈を示すが,「特注品」の意義が明確でないことや,「他の用途」は「規格品」といわれる程の他の用途がないといけないのか,また,「普及品」といえるための普及の程度はどの程度かが明らかでないことから,汎用品要件の規範は必ずしも明確とはいえない。また,一太郎事件・控訴審では,一太郎は,市場での流通量からすると一般入手可能であったことから,「普及品」に該当するものであるが,判決では,特に,被告製品が「普及品」であるかについては何ら触れられず,「控訴人製品は,本件第1,第2発明の構成を有する物の生産にのみ用いる部分を含むものでるから,同号にいう『日本国内において広く一般に流通しているもの』に当たらないというべきである。」と判示しており,製品自体の性質あるいは構成にのみ着目して,汎用品要件の該当性の判断がされており,判決で述べられた,汎用品要件の解釈とは必ずしも整合するものではない。
 そして,本判決では,「日本国内において広く一般に流通しているもの」の要件に関し,「特許法101条2号所定の『日本国内において広く一般に流通しているもの』とは,より広い用途を有するねじや釘のような普及品を想定して制定されたものである。」,「汎用の部品や材料が,特許発明の侵害する製品の製造に用いられたとしても,間接侵害とならないように設けられた規定」として,用途に着目して判断をすること,また,用途の幅は,「ねじや釘」が想定されていることからすると,相当広い用途でなければ汎用品に該当しないことを前提とする判断を示している。本判決のこのような点は,一太郎事件・控訴審判決よりも,具体的に述べられているものといえる。
 そして,本件は,「原告製プリンタにしか使用することができない被告製品2は,発光と受光という本件発明の特徴的機能を有しない機種計67機種の他の原告製プリンタにも使用することができるとしても,汎用品ということは到底できず」の部分は,67機種ではなく,原告製プリンタにしか使用することができないという部分で用途を評価し,汎用品の該当性を否定している。
 本判決は,被告製品の流通量には着目せず,製品自体の性質あるいは構成にのみ着目して,汎用品要件の該当性の判断を示すものである点で,一太郎事件・控訴審判決と同様の判断枠組みによるものといえる。

以上
(筆者)弁護士・弁理士 杉尾雄一