【大阪地裁平成17年12月8日判決(平成16年(ワ)第12032号】

【ポイント】
 ディスクリプションメタタグに他人の商標を使用することは、役務の広告行為に該当し、商標権侵害であると認められた事案

【キーワード】
商標法2条3項8号、メタタグ、ディスクリプションメタタグ、商標的使用、役務に関する広告

1 事案

 本件は、原告が、商標権を有しているところ、被告K(以下「被告会社」という。)が開設したウェブサイト上の記載が上記商標権に係る登録商標に類似する標章の使用であり、上記商標権の侵害にあたると主張し、被告会社の代表取締役である被告P2は、上記商標権侵害により生じた損害について有限会社法30条の3第1項に基づく責任を負うと主張して、被告らに対し、損害賠償を請求した事案である。

<前提事実>
⑴被告会社は、車両整備全般、板金塗装全般等を業とする有限会社であり、原告は、図に示す登録商標(以下「本件商標1」、「本件商標2」という。)の商標権者である。
⑵被告会社は、インターネット上に自社のウェブサイト(以下「被告サイト」という。)を開設し、少なくとも、平成13年11月ころから平成16年5月ころまでの間、そのサイトのトップページを表示するためのhtmlファイルに、メタタグとして、「<meta name=”description”content=”クルマの110番。輸入、排ガス、登録、車検、部品・アクセサリー販売等、クルマに関する何でも弊社にご相談下さい。”>」と記載していた(以下「本件行為1」という。なお、「クルマの110番」との文字列を、以下「本件標章1」という。)上記記載により、少なくとも上記期間のころ、インターネットの検索サイトの1つであるmsnサーチにおいて、被告サイトのトップページの説明として、「クルマの110番。輸入、排ガス、登録、車検、部品・アクセサリー販売等、クルマに関する何でも弊社にご相談下さい。」との表示がされた。また、被告は、被告サイトのトップページにおいて、少なくとも、平成13年11月9日から平成16年3月末まで、先頭から2行目に、中央に寄せて、ゴシック体で、「自動車の119番」との文字列(以下「本件標章2」といい、本件標章1と合わせて以下「本件各標章」という。)が表示されるようにしていた(以下「本件行為2」といい、本件行為1と合わせて以下「本件各行為」という。)。

<争点>
⑴本件各行為は、それぞれ、本件各商標の商標権を侵害するものといえるか。
⑵本件標章2について、被告会社は先使用による法定の通常使用権を有するか。
⑶本件各商標は、それぞれ登録無効審判によって無効とされるべきものか。
⑷被告会社による本件各商標の侵害によって損害が発生していないといえるか。
⑸損害の額
⑹被告P2に、被告会社による本件各商標の侵害について重過失があったといえるか。

2 大阪地裁の判断

 上記各争点のうち、ここでは、争点⑴についてのみ大阪地裁の判示内容を紹介する。
 まず、大阪地裁は、本件各商標と本件各標章の類否に関して、「本件商標1と本件標章1は、称呼及び観念において同一のものを生じさせるものであって、両者は全体的に考察して、類似するものというべきである。…本件商標2と本件標章2は、観念において同一のものを生じさせるものであって、両者は、全体的に考察して、類似するものというべきである。」と類似性を認定した。
 そして、被告が本件各行為は本件各標章の商標としての使用ではないと主張したのに対し、「一般に、事業者が、その役務に関してインターネット上にウェブサイトを開設した際のページの表示は、その役務に関する広告であるということができるから、インターネットの検索サイトにおいて表示される当該ページの説明についても、同様に、その役務に関する広告であるというべきであり、これが表示されるようにhtmlファイルにメタタグを記載することは、役務に関する広告を内容とする情報を電磁的方法により提供する行為にあたるというべきである。」と述べ、被告による本件行為1の結果、「…インターネットの検索サイトの1つであるmsnサーチにおいて、被告サイトのトップページの説明として、『クルマの110番。輸入、排ガス、登録、車検、部品・アクセサリー販売等、クルマに関する何でも弊社にご相談下さい。』との表示がされたのであるから、被告会社は、その役務に関する広告を内容とする情報に、本件標章を付して、電磁的方法により提供したものと認めることができる。…本件標章2は、被告サイトのトップページにおいて、先頭から2行目に、中央に寄せて表示されていたことに照らせば、本件標章2が、被告会社の役務について、これを表すものとして使用しているものと認めるべきものである。そして、ある事業者が、複数の標章を並行して用いることはしばしばあることであるし、上記のとおりの本件標章2の表示態様に照らしても、同じページに被告会社の商号と「アウトK1」と標章が表示されるからといって、本件標章2が、被告会社の標章として認識されることはないという被告らの主張は、採用することができない。したがって、本件行為2は、被告会社が、本件商標2に類似する標章である本件標章2を、その役務について、商標として使用したものと認めることができる。…以上検討したところに加え、被告会社の業務は、車両整備全般、板金塗装全般等であること、本件各商標の指定役務には、自動車の修理又は整備及び二輪自動車の修理又は整備が含まれ、…、被告会社による本件各行為は、本件各商標の商標権を侵害したものと認められる。」と判断した。

3 検討

 「メタタグ」とは、HTMLファイルに記載するコードであり、検索エンジンに対してウェブページの概要や関連するキーワードを伝達する役割を持つものである。「メタタグ」のうち、「ディスクリプションメタタグ」の場合には、ブラウザの表示により、記述した内容が検索結果ページにサマリーとして表示されるが、「キーワードメタタグ」の場合には、ブラウザの通常の表示では、ウェブサイトが検索結果ページに表示されるだけで、記述した内容は検索結果ページに表示されない。
 本件における被告ウェブサイトの「メタタグ」は、「ディスクリプションメタタグ」であり、記述した内容が検索結果ページに表示されるため、役務の広告行為と見なされ商標権侵害が認定されたものと思われる。インターネット上での悪意ある登録商標の使用を排除する上では妥当な判断であろう。今後も、「ディスクリプションメタタグ」に他人の商標を使用することは商標的使用に該当し商標権侵害となる可能性があるため1、ウェブサイトを構築する際には十分に注意が必要である。
 他方、「キーワードメタタグ」における他人の商標の使用については、記述した内容が検索結果ページに表示されないため、商標権侵害を構成する可能性は低いと思われるが、本件では、この点を判断していないので、今後の裁判例の蓄積2が待たれるところである。

以上
(文責)弁護士・弁理士 高橋正憲


 1 その後の大阪地判平成29年1月19日(平成27年(ワ)547号〔バイクリフター事件〕)もディスクリプションメタタグの使用が商標的使用に該当すると判断している。
2 大阪地判平成29年1月19日(平成27年(ワ)547号〔バイクリフター事件〕)では、キーワードメタタグの使用が商標的使用に該当しないと判断した。