【平成29年(行ケ)第10204号(知財高裁H31・3・26)】

【ポイント】
 有名ブランドPUMAの結合商標に基づく無効判断において、本件商標(結合商標)とPUMAの結合商標を非類似であると判断し、商標法第4条1項11号等に該当しないと判断した裁判例。

【キーワード】
商標法第4条1項7号、同項11号、同項15号
結合商標、混同を生ずるおそれ、PUMA

第1 事案

 本件は、原告が、被告の保有する本件商標(登録5392941号、指定商品:第25類・Tシャツ、帽子)に対し、原告が保有する引用商標(登録第3324304号、指定商品:第25類・被服、運動用特殊衣服等)に基づき、商標法4条1項15号違反等があるとして無効審判を請求し、無効審判で不成立と判断されたため、原告が当該審決に対し提起した審決取消訴訟である。

【本件商標】                【引用商標】

(各商標は、裁判所ウェブサイトから引用)

 

第2 判旨(裁判所の判断)(*下線は筆者)

第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(商標法4条1項11号該当性)について
 (裁判所は、本件商標と引用商標を認定した後に、以下の対比を行っている。)
(3) 対比
ア 外観
(ア) 共通点
 本件商標と引用商標は,アルファベットの文字(「SHI‐SA」と「PUmA」)が横書きで大きく表示されており,最も大きな構成部分である点,その右上方に,四足動物が右側から左上方へ向けて跳び上がるように前足と後足を大きく開いている様子が側面から見た姿でシルエット風に描かれている点で共通する。
 また,本件商標における「SHI‐SA」の文字と引用商標における「PUmA」の文字は,各文字が縦長の長方形の枠内にはめ込まれたかのように太字で表記され,曲線部分を,直線を直角に曲げた形に近づくように表記されている点で,共通している。
 そして,両商標における動物図形は,その向きや基本的姿勢のほか,跳躍の角度,前足・後足の縮め具合・伸ばし具合や角度,胸・背中から足にかけての曲線の描き方について,似通った印象を与える。
(イ) 差異点
 本件商標において大きく表示された文字は「SHI‐SA」であり,引用商標において大きく表示された文字は「PUmA」であって,アルファベットの文字数,末尾の「A」を除き使用されているアルファベットの文字が異なるほか,本件商標においては「SHI」と「SA」の間にハイフン(‐)が表記されている点や,字体の線の太さや太線が直角に曲がった部分の内側の輪郭線が多くは曲線であるか否かにおいて異なっている。
 また,本件商標においては,大きく表示された「SHI‐SA」の文字の下に2段にわたって「OKInAWAn ORIgInAL」及び「gUARDIAn ShIShI-DOg」という文字が,比較的小さく表記されているのに対し,引用商標においては,大きく表示された「PUmA」の文字の下には何も記載されていない。
 そして,両商標における動物図形については,本件商標の動物の方が引用商標の動物に比べて頭部が比較的大きく描かれているほか,本件商標においては,口の辺りに歯のようなものが描かれ,首の部分にギザギザの飾りのような模様が,前足と後足の関節部分にも飾り又は巻き毛のような模様が描かれ,尻尾は全体として丸みを帯びた形状で先端が尖っており,飾り又は巻き毛のような模様が描かれているほか,動物図形の内側に輪郭線が描かれ,また,動物図形の内側部分には,細い白い線で,花柄のような細かい模様が,全体に描かれている。これに対し,引用商標の動物図形には,模様のようなものは描かれず,全体的に黒いシルエットとして塗りつぶされているほか,尻尾は全体に細く,右上方に高くしなるように伸び,その先端だけが若干丸みを帯びた形状となっている。
(ウ) 以上の(ア)及び(イ)に照らすと,本件商標と引用商標とは,「SHISA」又は「PUmA」の文字と動物図形との組合せによる全体的な形状が共通しているものの,両商標において最も大きな構成部分である「SHI‐SA」又は「PUmA」の文字部分の文字数,使用されている文字,ハイフンの有無が異なることや,上記文字部分の下の2段にわたる文字部分の有無が異なること等からすると,両商標の外観は,その違いが明瞭に看て取れるのであって,相紛れるおそれはないものである
イ 観念
 本件商標からは,沖縄の伝統的な獅子像である「シーサー」の観念が生じ引用商標からは,ネコ科のほ乳類である「ピューマ」又は「PUMA」ブランドの観念が生じる
ウ 称呼
 本件商標からは,「シーサオキナワンオリジナルガーディアンシシドッグ」,「シ・サオキナワンオリジナルガーディアンシシドッグ」,「シサオキナワンオリジナルガーディアンシシドッグ」等並びに「シーサー」又は「シーサ」の称呼が生じ引用商標からは,「ピューマ」又は「プーマ」の称呼が生じる
エ 検討
 以上のとおり,本件商標と引用商標とは,外観においても,観念や称呼においても異なるものであり,本件商標及び引用商標が同一又は類似の商品に使用されたとしても,商品の出所につき誤認混同が生ずるおそれがあるとはいえないから,本件商標は引用商標に類似するものではない。

(4) 原告の主張について
ア 原告は,引用商標は,世界中で周知著名となっていたこと,指定商品の需要者である一般消費者は,商品に付された商標の一見した印象によって商品の出所を識別することが多いこと,被服類を購入しようとする需要者は,デザイン性,ファッション性に重きを置いて商品選択する場合が多く,図形及び文字標章の組合せからなる結合商標において,図形部分がデザイン性,ファッション性を有している場合は需要者は,図形に着目して商品識別をすることから,図形において外観類似が認められる以上,文字部分の相違は,本件商標と引用商標との類似性に大きく影響を与えないのであって,需要者等は,本件商標の大きく表された欧文字及び動物図形又はその組合せに着目して,特定の出所を想起し,混同を生じるおそれがある旨主張する
 しかし本件商標において,「SHI‐SA」及び「OKInAWAn ORIgInAL gUARDIAn ShIShI-DOg」という文字部分は,その面積の大きな部分を占めている。需要者が,本件商標につき,全体に占める面積が比較的小さい動物図形部分のみに着目するとは考え難く,引用商標が世界的に周知著名な商標であること等,原告が主張する事情によってこの判断が左右されるということはできないから,原告の上記主張は採用することができない。
 なお,この判断は審査基準の本件規定によって左右されるものではない。
イ 原告は,本件商標及び引用商標は,ワンポイントマーク等として表示されることが多いため,需要者が相違点に気付かず,著名な商標である引用商標を連想する蓋然性は否定できない旨主張する。
 本件商標が,ワンポイントマークとして使用された場合,その全体が縮小されることになるが,そうすると,その面積の大きな部分が文字部分であることから,動物図形部分は非常に小さくなり,むしろ,文字部分,特に「SHI‐SA」の部分が,需要者の印象により強く残る可能性が高いと認められる。本件商標が小さく縮小されて付される可能性があることにより,前記認定が左右されるものではない。
ウ 原告は,本件調査結果から,原告の主張が裏付けられる旨主張する。しかし,調査対象商標は,文字部分を全く含まない動物図形のみの標章である点が,本件商標と大きく異なるから,本件調査結果は,本件商標についての前記認定を左右するものではない。

(5) よって本件商標が商標法4条1項11号に該当すると認めることはできない。
(裁判所は、続けて、本件商標と引用商標は非類似であることを理由に、商標法4条1項15号、7号に該当しないと判断した。)

第3 検討

 本判決は、本件商標と引用商標は非類似であると判断し、それを理由として(又は主な理由として)、本件商標は、商標法4条1項11号、15号又は7号に該当しないと判断した。
 商標の類比は、外観、観念、称呼等により総合的に判断されるところ、本判決が本件商標と引用商標が非類似であると判断した理由は、①外観においては、本件商標と引用商標において、文字部分が大きな割合を占めること(上記動物図形の割合が小さいこと)や文字部分の形態が異なることから、両商標の外観は明瞭に違うこと、②観念においては、本件商標が「シーサー」の観念を生じ、引用商標は「ピューマ」等の観念が生じ、両者は異なること、③称呼については、本件商標は「シーサー」等の称呼が生じ、引用商標は「ピューマ」等の称呼が生じ、両者は異なることとした点である。
 ここで、本判決と同日に同一裁判体で下された別件判決(平成29年(行ケ)第10207号(知財高裁H31・3・26))では、本件商標の動物図形部分と引用商標の動物図形部分のみから構成される両商標(下記各商標)が類似であると判断された。

    【別件判決の本件商標】        【別件判決の引用商標】

 同一裁判体にもかかわらず、本判決と別件判決で判断が分かれたのは、本件においては、両商標において、全体に占める文字部分の面積が大きく、また、文字部分により本件商標の観念(「シーサー」)や称呼(「シーサー」等)が明確になり、引用商標のそれらと異なることが明瞭になった点にあると考えられる(別件判決においては、上記【別件判決の本件商標】の動物図形の商標では、四足動物の観念しか生じず,特定の称呼は生じないと判断され、観念と称呼において引用商標との違いはそれほど明確ではない旨が判断された。)。
 また、本件において、原告は、上記のとおり、「図形及び文字標章の組合せからなる結合商標において,図形部分がデザイン性,ファッション性を有している場合は,需要者は,図形に着目して商品識別をすることから,図形において外観類似が認められる以上,文字部分の相違は,本件商標と引用商標との類似性に大きく影響を与えない」と主張した。
 ここで、平成19年(行ヒ)第223号(最判平成20年9月8日(つつみのおひなっこや事件))において、「複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて,商標の構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,その部分が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などを除き,許されないというべきである」と判断している。つまり、例えば、結合商標の一「部分が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合」には、例外的に、当該部分のみを比較して、商標の類比判断をすることが許されるということであると判断した。原告の上記主張は、この例外に該当するという主張と同趣旨であるといえる。
 しかし、本判決は、「需要者が,本件商標につき,全体に占める面積が比較的小さい動物図形部分のみに着目するとは考え難」いとして、原告の上記主張は採用できないと判断した(上記例外に該当しない旨を判断したといえる)。このことからすれば、本件商標において、動物図形の割合(面積)が半分以上を占めていれば、本判決の判断は異なっていたかもしれない。

以上
(文責)弁護士 山崎臨在