すでに検討したように【実施例とそっくり!やばいのかな?】,特許請求の範囲に記載された発明を分説した構成要件と,対象製品等を分説した技術的構成とを対比し,異なる部分が存する場合には,均等論が適用される場合を除き,非侵害となります。
したがって,特許侵害品の部品は,特許発明の構成要件のうち欠けているものがありますから,その製造等の行為自体は,特許侵害とはならないはずです。

他方,特許法には,間接侵害という制度が設けられています。
すなわち,特許侵害品の部品等の製造等であっても,特許法第101条各号に掲げる各行為であれば,特許権の侵害とみなされるのです(なお,平成18年改正で設けられた同条第3号及び第6号は,従来の間接侵害とは異なりますので,以下の検討から除きます。)。

各行為の検討の前に,重要な論点について見てみましょう。
独立説と従属説の対立の論点です。

独立説は,直接侵害の成否にかかわらず,特許法第101条各号に掲げる行為がなされたときに特許権侵害が成立するとする説です。

従属説は,直接侵害の成立が間接侵害の成立の前提であるとする説です。
従属説によれば,直接侵害が成立しない場合は,特許法第101条各号に掲げる行為がなされても特許権侵害が成立しないことになります。

この論点につき,最高裁の判例はなく,知財高裁も以下のように述べ,態度を明らかにしていません。

「一般に,間接侵害は直接侵害の有無にかかわりなく成立することが可能であるとのいわゆる独立説の立場においてはもとより,間接侵害は直接侵害の成立に従属するとのいわゆる従属説の立場においても,控訴人が控訴人製品を製造,譲渡等又は譲渡等の申出をする行為について特許法101条2号所定の間接侵害の成立が否定されるものではない。」(知高判平17・9・30「一太郎事件」)

独立説,従属説のいずれの論者も,一貫して結論を維持することは少なく,類型に応じて修正しています。
また,両説の対立に対し,「結果的終局的に特許発明を実施する中間的過程において,業としてその物の生産にのみ,あるいはその発明の実施にのみ使用する物を製造等しこれによって利益を挙げる行為が直接侵害と法律的に同等の評価を受ける行為に当たるかどうか」によって侵害の成否を判断する説もあります(竹田稔「知的財産権侵害要論〔特許・意匠・商標編〕(第5版)246頁)。この説は,類型ごとに間接侵害の成否を判断することになります。
そこで,以下,いくつかの類型を検討します。

1.直接行為(特許発明の実施に相当する行為)が外国で行われる場合

間接侵害の成立は否定されます(東地判平19・2・27「基板搬送装置事件」)。

2.直接行為についての権原等(実施権,特69条1項の試験又は研究のための実施)がある場合

裁判例は見当たりませんが,学説では間接侵害の成立を否定する説が多いといえます。

3.直接行為が業として行われない場合

間接侵害の成立を認める説が多いといえますが(東地判昭56・2・25「交換レンズ事件」の傍論部分参照。),知財高裁は判断を留保しています(前掲知高判平17・9・30)。

つぎに,特許法第101条各号に掲げる行為について簡単に検討します。

1.特許が物の発明についてされている場合において,業として,その物の生産にのみ用いる物の生産,譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為(1号)

特許が方法の発明についてされている場合において,業として,その方法の使用にのみ用いる物の生産,譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為(4号)

ここでは,「のみ」の解釈が問題となります。平成14年改正前の2号(現4号)についてですが,「特許法101条2号の『その発明の実施にのみ使用する物』とは,その方法の発明に使用する以外の用途を有しない物との意味であり,『その発明の実施にのみ使用する物』との立証を覆すためには,その方法の発明に使用する以外の用途が抽象的にあることをいうだけでは足りず,その用途が社会通念上経済的,商業的ないしは実用的な用途であると認めるに足りるものであることを主張し立証することを要するというべきである。」と解釈されています(東高判平16・2・27「リガンド分子事件」)。

2.特許が物の発明についてされている場合において,その物の生産に用いる物(日本国内において広く一般に流通しているものを除く。)であつてその発明による課題の解決に不可欠なものにつき,その発明が特許発明であること及びその物がその発明の実施に用いられることを知りながら,業として,その生産,譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為(2号)

特許が方法の発明についてされている場合において,その方法の使用に用いる物(日本国内において広く一般に流通しているものを除く。)であつてその発明による課題の解決に不可欠なものにつき,その発明が特許発明であること及びその物がその発明の実施に用いられることを知りながら,業として,その生産,譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為(5号)

ここでは,「日本国内において広く一般に流通しているもの」及び「発明による課題の解決に不可欠なもの」の解釈が問題となります。

2号の「日本国内において広く一般に流通しているもの」について,知財高裁は,「典型的には,ねじ,釘,電球,トランジスター等のような,日本国内において広く普及している一般的な製品,すなわち,特注品ではなく,他の用途にも用いることができ,市場において一般に入手可能な状態にある規格品,普及品を意味する」と解釈しています(前掲知高判平17・9・30)。

2号の「発明による課題の解決に不可欠なもの」については,「『発明による課題の解決に不可欠なもの』とは,特許請求の範囲に記載された発明の構成要素(発明特定事項)とは異なる概念であり,当該発明の構成要素以外の物であっても,物の生産や方法の使用に用いられる道具,原料なども含まれ得るが,他方,特許請求の範囲に記載された発明の構成要素であっても,その発明が解決しようとする課題とは無関係に従来から必要とされていたものは,『発明による課題の解決に不可欠なもの』には当たらない。
すなわち,それを用いることにより初めて『発明の解決しようとする課題』が解決されるような部品,道具,原料等が『発明による課題の解決に不可欠なもの』に該当するものというべきである。
これを言い換えれば,従来技術の問題点を解決するための方法として,当該発明が新たに開示する,従来技術に見られない特徴的技術手段について,当該手段を特徴付けている特有の構成ないし成分を直接もたらす,特徴的な部材,原料,道具等が,これに該当するものと解するのが相当である。
したがって,特許請求の範囲に記載された部材,成分等であっても,課題解決のために当該発明が新たに開示する特徴的技術手段を直接形成するものに当たらないものは,『発明による課題の解決に不可欠なもの』に該当するものではない。」と解する裁判例があります(東地判平16・4・23「プリント基板メッキ用治具事件」)。

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