【平成30年(行ケ)第10136号(知財高裁H31・2・28)】

【判旨】
 本件商標につき商標登録無効審判請求を不成立とした審決の取消訴訟であり、当該訴訟の請求が棄却されたものである。

【キーワード】
メインマーク,商標法第4条第1項第19号,外国における需要者の間に広く認識

手続の概要

 以下,審決取消し訴訟において争点となった,商標法第4条第1項第19号の判断に係る部分のみを検討する。

 被告は,以下の商標(登録第5825232号。以下「本件商標」という。)の商標権者である(甲1,乙6)。
 商 標
 登録出願日 平成27年8月25日
 登録査定日 平成28年1月7日
 設定登録日 平成28年2月12日
 指 定 役 務 第37類「コンクリートスラブ・床・道路・舗装等の建造物の修理工事・リフティング工事・再ならし工事・再支持工事,土木一式工事,コンクリートの工事」
 原告及びメインマーク株式会社(以下「メインマーク社」という。)は,平成29年6月1日,本件商標について商標登録無効審判を請求した(乙6)。
 特許庁は,上記請求を無効2017-890033号事件として審理を行い,平成30年5月17日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月25日,原告及びメインマーク社に送達された。
 原告は,平成30年9月19日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。

 引用商標
 (1) 引用商標1
     メインマーク
 (2) 引用商標2
     mainmark

争点

 争点は,引用商標2に基づく商標法第4条第1項第19号の判断の誤り(国外における需要者の認識に係る部分。)である。

判旨抜粋

 証拠番号等は適宜省略する。
(2)引用商標2のニュージーランドにおける周知性の有無
 原告は,Mainmarkグループは,ニュージーランドにおいて,「mainmark」の欧文字からなる引用商標2を使用して多数の液状化対策工事を施工し,高い売上高及び市場シェアを得ていること,ニュージーランド地震の象徴ともいえる「クライストチャーチ・アート・ギャラリー」の震災復旧工事を施工したこと,建築関係の専門雑誌においても豊富な経験と高い技術を持つ企業として紹介されていること,日本の企業からも業務提携の相手方とされていることなどからすれば,引用商標2は,Mainmarkグループの役務を表示するものとして,本件商標の登録出願時(登録出願日平成27年8月25日)及び登録査定時(登録査定日平成28年1月7日)において,ニュージーランドにおいて,需要者である建設業界の関係者又はその工事の注文者の間で,広く認識されていた旨主張するので,以下において判断する。
ア ニュージーランドにおける引用商標2の使用態様について
 引用商標2が,Mainmarkグループの役務を表示するものとして,ニュージーランドの需要者の間に広く認識されていたというためには,引用商標2が,Mainmarkグループの業務に係る役務に使用された結果,自他役務識別機能ないし自他役務識別力を獲得するに至り,Mainmarkグループの役務であることを表示するものとして,ニュージーランド国内の需要者の間に広く認識されるに至ったことが必要であり,このことは,Mainmarkグループそのものが需要者の間に広く認識されていたかどうかとは別個の問題である。
 しかるところ,本件においては,引用商標2がニュージーランドにおいてMainmarkグループの業務に係る役務について具体的にどのように使用されていたのか,その具体的な使用態様を認めるに足りる証拠はない。
イ ニュージーランドにおける売上高及び市場シェアについて
 原告は,Mainmarkグループのニュージーランドにおける売上高及び市場シェアに照らすと,本件商標の登録出願当時,取引者の間では,引用商標2はMainmarkグループの業務に係る役務を表示するものとして周知であった旨主張する。
 そこで検討するに,原告は,Mainmarkグループのニュージーランドにおける液状化対策事業に係る売上高を記載した書面として,Mainmarkグループのオーストラリア法人のA経理長の作成に係る書面を提出するところ,同書面には,「Mainmarkの売上高」と題する表に,2003年から2017年までの会計年度ごとに,ニュージーランド及びオーストラリアの売上高とされる数字が記載されている。
 しかしながら,上記書面は,作成日付が記載されていない上に,作成経緯も明らかではなく,通常業務として作成された会計の資料とは認められないものであり,作成に際し依拠した原資料も明らかではなく,記載内容を裏付けるに足りる資料も提出されていないから,その信用性は低いといわざるを得ず,同書面がMainmarkグループの売上高を正確に記載したものであるとは認められない。他にMainmarkグループの売上高を認めるに足りる証拠はない。
 また,仮にMainmarkグループの売上高が上記書面記載のとおりであったとしても,Mainmarkグループによる引用商標2のニュージーランドにおける具体的な使用態様を示す証拠はないから,引用商標2がMainmarkグループの役務であることを表示するものとして需要者の間に広く認識されるに至ったことを裏付けることはできない。
 したがって,原告の上記主張は採用することができない。
ウ 工事の施工実績等について
(ア)前記・・・認定事実によれば,Mainmarkグループに属する企業が,2011年(平成23年)2月22日発生したニュージーランド地震で被災した「クライストチャーチ・アート・ギャラリー」の震災復旧工事(水平化工事)を施工したことが認められる。
 しかしながら,上記震災復旧工事の施工に関し,引用商標2が具体的にどのように使用されていたのか具体的な使用態様を示す証拠はないから,上記震災復旧工事の施工の事実によって,引用商標2がMainmarkグループの役務であることを表示するものとして需要者の間に広く認識されるに至ったことを裏付けることはできない。
(イ)前記・・・認定のとおり,平成25年6月10日付けの建設工業新聞,建設産業新聞及び建設通信新聞において,ケミカルグラウトと「ウレテックグループ(X代表)」との液状化対策事業での業務提携に関する記事が掲載されたが,これらの記事の記載内容から,引用商標2がMainmarkグループの業務に係る役務を表示するものとして,ニュージーランドにおいて広く認識されていたことを裏付けることはできない。
(ウ)前記・・・認定のとおり,甲126の1及び甲127の1の英文の雑誌及びウェブサイトの記事には,Mainmarkが地盤の持上げや傾斜の補正修正工事の広範囲にわたる経験を有していること,Mainmarkはニュージーランドなどにおいて何千ものプロジェクトを行うに至ったことなどについての記載があるが,そのことを裏付ける具体的な情報は記載されておらず,これらの記事の記載内容から,引用商標2がMainmarkグループの業務に係る役務を表示するものとして,ニュージーランドにおいて広く認識されていたことを認めることはできない。
 このほか,ニュージーランドの「Geotech Consulting Ltd.」在籍の地盤エンジニア主任B作成の陳述書中には,「mainmark」という名称が地盤工学業界においてよく知られており,この名称は,Mainmarkグループの同義語として認識されている旨の記載部分があるが,上記記載部分を裏付ける客観的な証拠はないことに照らすと,上記記載部分を直ちに措信することはできない。
 他に引用商標2が本件商標の登録出願時及び登録査定時においてMainmarkグループの業務に係る役務を表示するものとしてニュージーランドの需要者の間に広く認識されていたことを認めるに足りる証拠はない。

(3)小括
 以上によれば,引用商標2が本件商標の登録出願時及び登録査定時においてMainmarkグループの業務に係る役務を表示するものとしてニュージーランドの需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできない。
 したがって,その余の点について判断するまでもなく,本件商標が商標法4条1項19号に該当するものと認めることはできない。

解説

 本件は、商標登録無効審判請求1を不成立とした審決に対する取消訴訟である。
 商標法第4条第1項第19号2が問題となった事案である。
 本件では,引用商標2「mainmark」が,外国における需要者の間に広く認識されている商標と言えるか(これが認められた場合に,商標法4条第1項第19号のその他の要件を具備するか例えば,被告に不正の目的があるか等を検討することになる。)が問題となった。裁判所は,「引用商標2が,Mainmarkグループの業務に係る役務に使用された結果,自他役務識別機能ないし自他役務識別力を獲得するに至り,Mainmarkグループの役務であることを表示するものとして,ニュージーランド国内の需要者の間に広く認識されるに至ったことが必要」であるとした上で,引用商標2が本件商標の登録出願時及び登録査定時においてMainmarkグループの業務に係る役務を表示するものとしてニュージーランドの需要者の間に広く認識されていたことを認めるに足りる証拠はないとして,原告の請求を棄却した。
 本件では,原告は,売上高,工事実績等を元に,ニュージーランドの需用者に広く認識されていたことを主張しているが,裁判所には,証拠が不十分であると認定されたり,証拠から主張が裏付けられないとして主張が排斥されている。
 本件は,外国における需用者の間の認識が争点となった事例であり,実務上参考になると思われる。

以上
(文責)弁護士 宅間 仁志


1(商標登録の無効の審判)
第四十六条  商標登録が次の各号のいずれかに該当するときは、その商標登録を無効にすることについて審判を請求することができる。この場合において、商標登録に係る指定商品又は指定役務が二以上のものについては、指定商品又は指定役務ごとに請求することができる。
一  その商標登録が第三条、第四条第一項、第七条の二第一項、第八条第一項、第二項若しくは第五項、第五十一条第二項(第五十二条の二第二項において準用する場合を含む。)、第五十三条第二項又は第七十七条第三項において準用する特許法第二十五条 の規定に違反してされたとき。
(下線は、筆者が付した。)
2(商標登録を受けることができない商標)
第四条  次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。
十九 他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であつて、不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。以下同じ。)をもつて使用をするもの(前各号に掲げるものを除く。)